12.2024/4/2 卒業式.2
昨日「11.2024/3/27 卒業式.1」を投稿していますので、まだの方はそちらを先にお読み下さい。
2024/4/2
田中理恵
生きて捕らえられた真愛国者党のメンバーは総勢57名。彼らに扇動されて日本各地で暴動を起こした者はその三倍以上。さらに"善意"で彼らの助命を申し出た人達がその倍くらいいた。
今日の主役は、英宏のお父さんでもある右大臣だった。
「さて、今日は日本を愛する皆さんにとって大事な日になるでしょう。あなたの信条か命か両方がかかっているのですから。
あなた方は信じているそうですね。あなた方が失敗する事は無いと。なぜならあなた方には八百万の神々の加護があり、あなた方は正しいからだと。今でもそう信じていますか?いや信じている筈ですよね。今更な自己否定なんて許しませんよ。ただ、証明できたのなら、あなた方の命を助けて差し上げましょう」
およそ750名くらいの参加者は三つのグループに分けられていた。実際のテロに参加した者、扇動された者、そして彼らの助命を嘆願する者。そのほとんどが腕輪をしていなかった。
「先ずは意思確認からですね。助命嘆願に集まられた皆さん。仕儀を開始する前ならまだ、この場からそのまま立ち去る事を許しましょう。どうか、民主主義政治の頃の人権的思想とやらでこの仕儀に参加はしないように。それは全くの命の無駄遣いに終わるだけですから。保証しましょう。全員が失敗すると」
英宏のお父さん、右大臣の言葉で、十数人くらいが競技場から立ち去った。グラウンド部分のゲートが再び閉じられてから、我々が失敗する筈が無いとか、逆に必ず全員が失敗するならそれは死刑の強制と何が違うのか?!と文句を言ってる二種類にだいたい分かれていた。
言わずもがなだけど、さっき退出出来た十数人と一緒に逃れ出ようとしてた処罰対象の人達は容赦なく射殺されていた。
「さて、真愛国者党の皆さんは、日本に不都合な事は起こり得ない。なぜなら神風が万難を排するからだそうです。都合が良いですね。もし本当なら」
「本当だ!」「日本人なのに疑うのか、非国民め!」みたいな野次罵倒が数十組以上グラウンドからスタンドの観客席というか司会席にいる右大臣に飛んだ。
「それくらい元気が無いと張り合いがありませんものね。あなた方にとっては、次期皇太子を爆死させてしまった事も失敗ではないそうですから、張り切っていきましょう。では、空を見上げて下さい」
スタジアムにいた全員が空を見上げると、飛行船が上空に現れていた。
「東京などの空襲も、原爆の投下も、神風で防げませんでしたよね?なのになぜ、あなた方は今更、神風で不都合が吹き飛ばされると信じられるのですか?」
「それは信じる心が足りなかったからだ!」「そうだ、疑う者がいなければ」「非国民のせいだ!」などなど。あらゆる非科学的な戯言が並べられていった。
英宏のお父さんは気分を害された様子は無く、むしろにこにことうれしそうにグラウンドにいる全員に語りかけた。
「B29に竹槍で立ち向かえと、まぁ当時の気構えの問題としてそう言ってただけだという声も聞こえてきそうですが、これから30分後に、あの飛行船がグラウンドに何かを投下し始めます。あなた達の神風を信じる心が十分に強力で疑う余地も無いくらいの事実であるなら、あなた達は何も心配する事はありません。
とはいえ、ただ30分待つのも退屈ですからね。抵抗する手段と機会を与えましょう」
係員がいくつもの縦長のケースをグラウンドに運び込んでまた立ち去ると蓋が開いた。
「竹槍が、50本入ってます。誰か一人でも上空にいる飛行船に槍を届かせられたら、あなた方は無罪放免としましょう。
なあに、B29が爆撃を行っていた高度よりは遙かに低いところからさらに降下させていきます。投げ槍の世界記録は100メートルくらいらしいですから、あなた達愛国者の気合いが乗れば軽い軽い。
ただ、観客席に投げようとした奴は、その周囲にいる者もろとも即座に射殺しますのでご注意を。
それでは皆さんがんばって下さいね!」
一部はすぐにでも竹槍を上空に投げ始めたけど、そもそもが斜め上に投げて落ちてくるまでの距離で100メートルだ。垂直に100メートル上空まで投げられる訳が無い。しかも竹槍だし。
案の定、右大臣とか観客とかに竹槍投げつけようとしてその周囲ごと撃ち殺されたのも何組か発生した。スタンドは高い透明なフェンスやネットで覆われてて、竹槍が貫ける余地はそもそも無さそうだった。
私は貴賓室みたいなシールドされた部屋で、英宏や渡瀬さん達と観戦?していた。
「飛行船の高度は、200メートルくらい?」
「彼らの言う神風が吹いてくれるなら軽いでしょ」
「ほんと、性格悪いよね、あんたら」
「いやー、改心する機会というか、助かる機会を公開で与えてるだけ良心的だと思うな~」
「そうですわ、理恵さん。あなたも私も、あの者達がもう少しでも理知的であるなら、当然殺されるか、殺される以上の酷い目にあっていたのは確かなのですから」
「そこは否定しないけどさ。公開処刑が野蛮じゃないとは言えないよ」
「あはは。野蛮人に理性なんて無いし、理知は憎まれてさえいるからね」
観客席(というかそこを覆うネット)に竹槍を投げ込んだり、ゲートにいる警備役に竹槍で特攻していった連中は即座に射殺されていき、残りは必死に奪い合うように上空に竹槍を投げ上げていたけど、いいとこ20から30メートルくらいしか届いていなかった。
「あーあ、神風、吹かないですね?」
右大臣はご機嫌に煽り続けていた。
「神風なんか吹かない。天皇は神ではない。認めちゃったらどうですか?」
「ふざけるな!」「我らが死すとも、愛国の志士は途切れる事は無い!」「そうだ、この槍、きっと届かせてみせる、うぉおおおおっりゃああ!」
とかいうやり取りとも言えない何かが続いてる間に、飛行船の高度がだいぶ下がってきた。
まだ全然届きそうも無いのに、その気配すらないのに、
「あともう少し!」「今のは惜しかった!」「みんなの信じる力、俺に分けてくれ!」「よし、いくぞ、うぉおおー!」てなんか違う世界に入ってるのも何人も、いや何十人もまだいた。
上に竹槍を何十本も投げまくっていれば落ちてきた竹槍で怪我する人達もそれなりの数居たのだけど、総体としてはまだまだあきらめていなかった。何が空から降ってくるにしても、まさか焼夷弾ではあるまい、くらいにタカをくくっていたのだろう。
「さて、もうそろそろ30分過ぎますよ。そろそろ本気出さないと死んじゃいますよ?まだ天皇を信じる心を捨てないんですか?天皇があなた方を護ってくれた事なんてあったんですか?たった今、あなた達を守ってくれてるんですか?」
「我々が、今、日本人として生きている!それが、何よりの証拠だ!」「そうだ!天皇陛下万歳!」「日本人として生まれてきたのが、我々の最大の誇りだ!その誇りとともに我らは死ぬ!そして護国の英霊として・・・」
「そういうの要らないから。日本人としての誇り?天皇陛下?護国の英霊?幻想と共に死ね」
飛行船が吊り下げてるカーゴ部分の底が開き、尖った細長い何かが投下された。竹槍みたいに見えなくもないけど、その先端部に重りみたいな何かが付けられてるような・・・。
その何かは、グラウンド部分に突き刺さると爆発した。少なくともその周囲3メートルくらいは抉られるくらいに。人体に突き刺さっても爆発した。
「ちょ、ちょっと、あんなの、観客席に飛び込んできたら」
「大丈夫だよ。ちゃんと安全装置がついてて、グラウンド部分に着地した場合のみ爆発するようになってるし、推力も付けてるから、彼らが超能力者でもない限り、または彼らのいう神風が吹かない限り、彼らに都合が良い何かは起きないよ」
「だんだん高度を下げ続けてますし、問題無いでしょう」
渡瀬さんの英宏への信頼っぷりがすごい。全く揺らがない。グラウンド上で数百人が爆殺される惨劇が展開されていても、全く動揺していなかった。
「ほらほら、早く神風吹かせてみて下さいよ。あなた方には不都合は起きないし、絶対に失敗しないんでしょう?」
さすがにこの段階まで来れば、改心したような命乞いの叫びを上げてる連中もいたけど、爆音もあってか右大臣の耳には入らないようだった。
やがてグラウンドの中心部分に生き残ってる人は誰もいなくなった。観客席の壁部分に張り付くように100人近くが生き残ってた。
「さて、生き残ったあなた方に問いましょう。神風は吹きましたか?」
「こ、今回は吹かなかっただけ」
とか言い返した奴は即射殺された。
「あなた達は天皇を神と信じているかも知れない。その神はあなた達を助けてくれましたか?」
「愚問を繰り返すな!」とか言い返した奴も射殺された。
「あなた達は、失敗しましたか?」
また一部が言い返したけど以下略された。
「さて、重ねて問いましょう。天皇は、あなた方の神は、あなた達を助けてくれましたか?」
まだ2、3人は言い返して殺された。他の半分近くは、助けてくれなかった、とたぶんつぶやいていた。
「あなた達を助けてくれなかった神もどきを、あなた達はまだ必要とするのですか?」
「神もどきではない!」「例え人間だとしても、天皇陛下は天皇陛下だ!命を捧げるに値する!」とかまだ数人が言い返して、以下略。
英宏のお父さんは、おちゃらけた煽るような雰囲気を消して、真剣に問いかけた。
「ここまでされても尚、あなた達はまだ天皇制を必要とするのですか?」
口を開いたのは数人いたけど、その声は発せられなかった。
ここでスタジアムの正面カメラに右大臣は向き合い、告げた。
「あなた方の敬愛する上皇陛下からの伝言です。日本人が天皇制から卒業する機会を与えて欲しいと。一年後、国民投票を行います。そこで過半数の国民が下した判断を採用しましょう。ただし、存続させる方針が下された場合でも、次期天皇は女性天皇となります。そこからはおそらく女系天皇が続いていく事になるでしょうね。こちらに関しては国民の声は問いません。我々忠臣組の幹部の間だけで決めます。
ここにいなかった全ての日本国民に問います。本当に、真剣に、考えて下さい。天皇が、実際に、あなた方を守り、救った事が一度でもあったのかを。
もし天皇家が本当に神の末裔であり、神風で全ての不都合と災厄を吹き飛ばせるのなら、なぜ日本中が焼け野原になり、広島や長崎に原爆は落ちたのです?2011年の東日本大震災と原発事故は?今この場で最後まで天皇を奉じ信じ続けた者達はなぜ報われなかったのでしょう?ここで彼らがやったのと同じ仕儀を受けたいという方がいらっしゃるのなら、何度でも繰り返しましょう。そうですね、一人でも成功者が出たら、その一人につき皇室の誰か一人を解放してあげるかも知れませんよ?約束は出来ませんが。
ああ、最後に。今回の同時多発テロの実行犯と扇動された人は全員、死刑です。扇動された未成年で改心した誰かがいれば、奴隷落ち処分で延命されます。死ぬまで強制労働に従事させられますが、死ぬよりはマシでしょう。助命嘆願で参加していた人達は、降格処分です」
すると、同時多発テロを起こした者達を助ける為に参加した筈の人達も、扇動された人達も、競い合うように、生き残っていたテロ実行犯達を撲殺していき、続いて、除名嘆願に集まった筈の人達が扇動された人達を取り囲んで撲殺していった。
その中から、「改心したっ!改心したから助けてくれ!」とか「俺は、俺は中級組員だったんだぞ!それに未成年なんだ!だから、助け・・・・!」とかいう声も聞こえてきたりした。
まぁ最後のだけは何とか警備員が介入して助けられたぽいけど、それ以外は軒並み動かなくなって、嘆願助命に集まっていた人たちはそれぞれの身分の降格に応じた新たな腕輪なり首輪を付けられて退場させられて、テロ実行犯と賛同者達は頭部に念押しの銃撃を受けて始末されていった。
その後、未成年で元中級組員だったって誰かは奴隷の証の首輪を付けられてどこかへ引きずられていった。どこか見覚えのあるような顔かも知れなかったけど、ぼこぼこにされてたから違ったかも知れない。どっちでもいいや。もう私の人生には関わらない存在だろうし。
帰り道。英宏の家の車で送ってもらったのだけど、いくつか大切な事を訊いておいた。
「良かったの?天皇制を卒業だなんて?」
「避けられない道だよ。全ての日本人にとって」
「でも、投票なんて、民主主義は捨てたんじゃなかったの?」
「捨てたさ。単に日本人としての意思表示の場を作っただけ。天皇家と日本人の両方を納得させる為にね」
「でも、天皇家が天皇家じゃなくなったら、解放するんじゃないの?そしたら、神国日本が拠り所にしてた楔が無くなっちゃうんじゃないの?」
「日本人は、根本的に、権力者には逆らえないんだ。逆らえたら、本当の意味で、民主的な日本が初めて生まれるかもね。それに、天皇制は廃止するかも知れないけど、解放するとは一言も約束してないし」
「・・・嘘吐き」
「嘘は吐いてないよ。今日みたいな連中は全国にまだまだ腐るほどいるだろうから、保護する意味合いでも、解放すべきじゃない。都落ちした天皇がどんだけ落ちぶれたとか歴史の授業で少しは習わなかった?」
「利用しようとするクソ野郎どもが根絶されるまでか」
「百年もかからないと思うけどね」
「そんなに?」
「少なくとも何世代かは先になると思うよ。天皇がいない社会が当たり前な世代が続いてみて、初めて気付ける人達もいるだろうからさ」
「・・・今更なんだけどさ」
「何?」
「どうして神国日本なんて立ち上げたの?あなた達だったら」
「それは言わないでおこうよ。違う選択肢はあったかも知れない。けれど、ぼくやお父さんやおじいちゃん達が選んだのは今の選択肢だった。前にも言った通り、民主主義的な移行を行うような余裕も無かったからね。理恵も見ただろ?あれだけ殺されまくって死を突きつけられてさえ、考えを改めない連中なんて、珍しくもなんとも無いんだから」
「あれはあれで、確固たる個人じゃないの」
「いろんな宗教の原理主義過激派とか、アメリカの74Mの有色人種排斥を実施してる連中とか、自分自身の絶対的な善を疑いやしないだろうね。理恵に言ったろ。自分だけじゃなくて他人にその信条を強要するようなのは違うって」
「でもさ、神様を信じたりとか、いない事を信じさせようとするのも、同じじゃ、ないの?」
「中国が宗教を弾圧する理由と近しいと言えばそうなのかもね。でも思い出してね。今日あそこで殺された連中がなんで殺されたのか。彼らが個人としてその思いを内側でだけ保ててたら、少なくともあそこで殺される事にはなってなかった筈だよ」
「でもさ、人間は皆平等だとか、そう信じてなかった人達に、そう信じて働きかけた人達がいて、ずっとあきらめないでいたから、そうなったんじゃないの?」
「そういう事さ。人間は平等ではないとしたら何が起きるのか。自分も他人と平等とされなくなったら、何が自分の身に起こるのか。ちゃんと考えない人が増えると、今のアメリカみたいな状態になるのさ。あそこはまぁずっとあんな感じであったとも言えるけど」
「前にも訊いたけれど、もう一度訊くね。神国日本は、何を目的にしているの?て違うか。英宏。あなたは、何を目指しているの?」
「決まってる。ぼくと君とが幸せに暮らしていける未来だよ」
「嘘吐き。この間だってぎりぎりまで助けてくれなかったくせに」
「嘘は吐いてないよ。確かにぎりぎりになっちゃった事は認めるけどさ」
「パパが傷つけられてたりしたら、絶対に許さなかったんだから」
「結果的に無事で済んだから、許してくれる?」
「二度目は無いわよ?英仁みたいな事が起こるのも絶対にイヤ」
「じゃあ、ぼくから離れる?」
「今更よね。だから、付き合って」
「それは、恋人として?」
「普通の、彼氏彼女としてというか、許嫁未満くらいで」
「ぼくら13歳になろうとしてるとこだしね。うん、いいよ。とってもうれしい」
「そういう事があなたと出来るかどうか、まだわからないけど」
「それでいいよ。そういうのが普通だったしね。形から入る事になるよりは、ずっとうれしいよ」
「そ、そう?」
「そうだよ。キスでもする?」
「しない」
まあそれでも、車が家に着くまでの間、私から英宏の手に自分の手を重ねたりしてみたのだけど。やるんじゃなかった。胸の動悸で自分がどうにかなりそうだった。
落ち着け、自分。とんでもない事が起こりすぎて、テロリストに襲われてる時に別のテロリストに助けられて舞い上がってたりする吊り橋効果とかなんとかで説明できるだけの現象かも知れないのだから。
でも、家について別れて部屋に駆け込んでベッドに倒れ込んでもまだ、胸のどきどきは収まりそうになかった。
やばい、熱でもあるのかな、私・・・?




