11.2024/3/27 卒業式.1
2024/3/27
田中理恵
今日は、小学校の卒業式。だった。
式は終わってないのだけど、過去形で表現しておこう。なぜかというと、始まる前に終わらせられたというか、部外者に乱入されて、ハイジャック?飛んでる飛行機の中で起こったんじゃないから単にジャック、乗っ取られてしまったから。
コロナの感染機会を減らす為に、式に参加してたのは卒業生とその親の片方どちらかまでと、教員一同のみが体育館に集まってたんだけど、日の丸鉢巻きをしめた、たぶん旧日本帝国軍兵士のコスプレ姿の団体さん、十二人くらいかな、が乱入してきた。二人が猟銃みたいのを構え、残りが日本刀で武装してる感じ。
体育館の出入り口を半数で固めると、残り半数が、
「国塚英宏はいるか~っ!?」
「正直に名乗りでないと校友を全員殺していくぞーっ!?」
と怒鳴りながら卒業生一人一人の顔を改めていって、いない事を確認すると、数人が集まって相談。
「くそっ、まさか情報が?」
「言うな!我々には真の大和神がついていらっしゃるのだ!」
「こうなったら、この場にいる者達を見せしめに使うしかあるまい!」
生徒も保護者も恐怖に固まって、一部は泣きわめいたりしてたけど、殴られたり蹴られたりして、強制的に黙らされた。
パパが私の隣にいたけど、「とりあえず今はじっとしてるんだ」と囁いてきた。
数人が生徒や保護者や教員の間を回って、スマホとかの類は全員が取り上げられてしまった。
「時間が無い。始めるぞっ!」
リーダー役っぽい五十代半ばくらいの人が壇上に上がり、校長先生からマイクを奪って、口上を述べ始めた。(その真正面にたぶんウエブ中継用のカメラとマイクも別の人によって設置された)
「我々は、真にこの国を愛し、真に天皇家にお仕えしお守り奉らんと立ち上がった真愛国者党の志士である!
聞け!忠臣組と名乗る賊臣どもよ!貴様等は尊いご身分である皇室の皆様方の尊厳を汚し、この国の政体をその邪な思いで汚した。その罪、万死に値するっ!
我々は、皇室の皆様を忠臣組の手からお救いし、真の天皇親政に切り戻す!売国奴の在日どもをその故国に売り渡すなぞ手ぬるい!奴ばらは全員即抹殺すべきである!中国には宣戦布告する!我らには神がついておられる!案ずる事は無い!万敵は神風によって打ち払われるのだから!
忠臣組は男女不平等、女性劣位を謳いながら、男性に著しい不自由を課している!愚劣であり虚慢である!女性は全てが男性の奴隷であり、子供の扶養義務は男性には無いっ!
忠臣組は米国に沖縄を売り渡した!許せる所行ではない!沖縄は即刻取り戻し、日本を裏切った沖縄土民は全員奴隷にするっ!
我々は、皇居と沖縄、そしてここ以外でも同時に蜂起したっ!完全なる日本を一度に取り戻す為であるっ!我々は必ず成功する!なぜか?我々こそが正しいからだっ!我々は天誅を下す!忠臣組に媚びを売り、神聖なる日本を裏切った非国民、売国奴にっ!
小賢しい国塚の孫はいないようだが、上級組員、そして在日の者は前に進み出ろっ!先ずはおまえ等からだ!」
まずいな、と思ったけど、すでにスマホとかを取り上げられた時に腕輪で目を付けられていたらしく、卒業生で唯一の上級組員の渡瀬縁さんと、在日朝鮮人のみっちゃんこと吉永美友記さん、そしてもう一人の確か在日韓国人の男の子が壇上に連れて行かれた。いや渡瀬さんだけは不敵に自分で進み出たけど。
壇上でシャウトし続けている男は、卒業生やその親達に語りかけた。
「特に日本男児たる男性に告ぐっ!卑しくも忠臣を名乗りながら最大の不敬を払い続ける忠臣組を滅してやらんと思った事は無かったのか?!
女性を好きに出来ると思ったのに男性に不平等が課せられている実態に不満は無かったのか?!
在日韓国人や朝鮮人に思うさま暴力を振るい殺してやって当然だとは思わなかったのか?沖縄を米国に取られて悔しくなかったのか?中国の拡大を止めようともしない忠臣組の神国日本という虚像に裏切りを感じなかったのか?!
今こそが、裏切り者の卑劣な忠臣組に報復する最初で最大の機会である!我々に続けっ!その腕輪を踏みにじって破壊しろ!この壇上でこの者等にその思いの丈をぶつけろっ!さあっ、何をためらう事がある?」
壇上へも暗い視線が数え切れないくらい向けられてたけど、自分にも似たような視線があちこちから向けられているのを感じた。特に、準組員の腕輪か、腕輪をしてない生徒やその親からだ。
それでもこのクーデターがうまくいくかどうかなんてわからないのに、本当に行動を起こしてしまってよいのか、そういった連中も迷ってたけど、入り口を固めてた一人が猟銃を天井に向けて撃って、
「このまま忠臣組に操を立てるような奴らは、この場で全員殺すっ!」
と警告してきて、それで状況が動いてしまった。
自分にも五人くらい向かってきてたし、その内一人は五年生の時自分がやりこめた?中級組員の片方だった。目つきがやばい。口もとはグヘヘヘ!とか言ってそう!
パパが私を庇おうとしてくれたけど、さすがに五人は無理。パパの後ろに回り込んできたのは二人。両方とも私の顔とか胸とかしか見てなかったから、片方の足を払って倒してもう片方に向き直って、突き出されてきた両腕を内側から掴んで、膝で股間を蹴り上げた。うん、もろに入った感触があったけど、あまり何度も経験したいとも思えなかった。うずくまった相手をさっき倒れた方にうっちゃって、二人が絡まってすぐには起きあがれない感じになった。
パパも子供相手三人には遅れを取らなかったようで、柔道技?で転ばせたり投げ倒したりして無難に退けていた。
けれど、下手に上手く寄せ手を退けてしまったせいか、注目と関心を集めてしまったらしい。日本刀を持った二人組がこちらに向かってきていた。
「あれは、さすがに無理よね?」
「うん、無理だ、けど、逃げて時間は稼ごう」
「賛成!」
壇上の方をちらりと見ると、そちらには併せて十数人の生徒やその親が群がってたけど、渡瀬さんと在日韓国人の男子が、みっちゃんを守ってた。楠元先生とか教員の数人も手助けしてくれてた。渡瀬さんは英宏の稽古にも付き合ってただけの事はあり、大人の男性が相手でも余裕を持って退けていた。合気道っていうのかなあれは。力学的におかしなくらい人の体がぽんぽんと投げ飛ばされてて、囲もうとしてる連中の動きを邪魔していた。
卒業生の数がおよそ六十人。その片親が同数で合計百二十人ほど。扇動されて行動を起こしたのが1/3以下くらい。半分くらい、特に女子とその親はその場にうずくまってるのが大半で、のしかかられてたり、それを止めようとする母親を乱暴してるのしかかってる方の父親とか、有り体に言ってR18なんかじゃ済まない絵図が展開されようとしていた。
まあでも、この場に英宏がそもそもいなかった時点で勝負は決まってたから、私とパパは座ってたパイプ椅子を武器にしながら、時にはのしかかってる男子生徒や暴力親を蹴り飛ばしたり叩いたりしつつ逃げ回り、体育館の片隅の一つで、日本刀を持った四人組に囲まれて逃げ場を失った。
「いいかげん、もったい付けすぎなんじゃないかな?」
「ああ?何言ってやがんだおまえは?」
「それ、中級組員だけど上級組員並の扱いをされる奴だろ?しかもその赤い縦線、国塚英宏につながりがある女とみた。殺しはしないが、人質にはなってもらう」
「その前に楽しませてはもらうがなぁ!」
「父親も、死にたくなければどくんだな。抵抗しても無駄だ」
「いいや、ちっとも無駄だとは思えないね。あなた達はとっくに詰んでいるんだし」
「ほざけ!じゃあお前から死になっ!」
パパは一人の刀をパイプ椅子で打ち払ったけど、もう一人の刀はすり抜けて・・・
「英宏っ!」
「なに?」
目の前に英宏が降ってきた。
たぶん体育館の二階席から飛び降りてきたんだろう。英宏に両腕を蹴られて、パパを刺し殺しかけてた一人は刀を取り落とした。英宏は流れるような動作で背中から取り回した短銃身の自動小銃でパパの前にいた二人を射殺した。
「遅いのよっ!どうせ全部知ってて見逃してかっこつけようとしてたんでしょ?!」
「ひどい言いがかりだなぁ」
「嘘ね」
私は断じたけど、英宏一人をその場で問いつめてなじっていられるような状況では、まだ、無かった。
「国塚英宏だっ!最優先ターゲットが現れたぞ!」
「確保、確保だ!先ず本部に連絡して・・・!」
もう二人が大声を上げてたけど、壇上の方でも体育館のあちこちでも、すごい衝撃音がいくつも続いて、あれは映画とかでは良く出てくるスタン・グレネードって奴かな。
続いて普段英宏を護衛してる二人と同じ様な装備をした人達が二十人以上、出入り口や二階の窓や壇上の上のスペースとかから現れてきて、あっという間に体育館内を制圧してしまった。
いろいろ言いたい事はあったのだが、先ずは一応、
「ありがと」
とは言っておいた。心底言いたくはなかった一言なのだけど。
「どういたしましてってよりは、ごめんね。こちらの都合に付き合わせてしまって」
やっぱりね、という視線に、英宏は拝むようなポーズで頭を下げてきたけど、心の中では許さない事に決めた。
卒業式に乱入してきたテロリスト?は十二人。体育館の外にも数名いたようだけど、半数くらいがすでに殺されてて、残りは八人。
後ろ手に拘束され、ステージに膝を突いた状態で並べられて、その前に英宏が偉そうに椅子に座っていた。ステージの手前の床には、扇動されて行動を起こしてしまった生徒やその親達が、やっぱり拘束されて跪かされていた。その数、三十人近く。
えーと、連中の名前なんだっけ?みんな真とか新とか使いたがるから、わけわからなくって覚える気も起きないのよね。
「で、真愛国者党の皆さんは必ず成功するんじゃなかったでしたっけ?」
初手、煽り。英宏は、壇上で演説してた一人を挑発した。
「ここで一敗しようと、他の同士達が成功すれば、我々の勝利よ!つけあがるな!愛国者の偽物ごときがっ!」
「他の同士って、皇居とか沖縄とかで同時テロに参加したお仲間ですよね?もう全員鎮圧されてますけど?」
「う、嘘だ!真の愛国者たる我々が失敗する筈が無いっ!」
そんな言葉にまだ僅かな望みを抱いてる人が、ステージの上や下に並べられてる人の間にまだ少なからずいそうだった。
なんでわかるのかって?
私も壇上の特等席に座らされていたから。隣にはもちろん、渡瀬さんがいた。
「蒙昧なあなた方が信じるかどうかは知りませんが、証拠映像はご覧頂きましょうか」
元沖縄県庁舎に突入しようとした一団は、在日米軍海兵隊員達に残らず取り押さえられて、知事までたどり着けた者はいなかった。全員、神国日本に引き渡されるという。
皇居の方の映像は、衝撃的だった。ある意味、最大の見せしめ、だったのだろう。
たぶん内通者の手引きで、皇室の住居にまでたどり着いた彼らは、説得しようとした。自分達と一緒に、先ずはこの囚われの地から脱出するようにと。
だけど当然、上皇からも現天皇からも、そして唯一の実際の後継者と見られてる男子からは一番激しく、確認を求められた。
「ここから逃げ出して、本当にだいじょうぶなのかね?」
「我々には八百万の神々がついております!」
「神々の血裔たる皇室の皆様方に何の不幸なぞ起こり得ますか?いや起こる筈なぞありません!」
「なぜあなた方こそが、日本を数千年に渡り護られてきた神の加護を信じないのですかっ!?」
全てがこんな感じで、
「いやだから、ここから逃げ出せば爆発すると」
「連中がそう言いくるめているだけです!」
「忠臣組とて皇室の皆様のお命は手に掛けられない筈!ただの脅しですとも!」
「そうじゃなかったらどうなるのだ?取り返しなぞつかないのだぞ?!」
「もしそうなったら、切腹して詫びましょうぞ!」
「いや君の命がどうなろうとどうでもいい。将来の皇太子の、男系天皇の皇統継続がかかっているのだぞ?!」
「なんとっ!あなた方をお助けせんと命をかけてここまでたどり着いた我々忠義の志士の命がどうでも良いと?」
まぁ、そんな感じの問答が十数分続いた。これもう絶対、わかってて見逃してやらせてるよね、と普通にわかった。
そんでもって、英仁が切れた。というか当然、相手にしないと決めた。
「かかっているのはぼくの命だ。お前らにはこの命を預けられない。助けるというのなら、せめてぼくの体に取り付けられた爆発物を安全に取り外してみせろ!話はそれからだ!」
数人が装身具のベルト部分をナイフとかで切ろうとしたけど切れなくて、がちゃがちゃずらしたり何だり足掻いて無理矢理外そうとしても外せなくて、
「やはりここでは難しいと思われます。いったん皇居の外に出て、然るべき施設にてお調べし、必ずやこの呪われた不敬の装具から解放してご覧に入れます!」
「だからっ、この装具が外れない限りはついていかないって言ってるだろうが!日本語通じないのかおまえ等には!?」
「御無礼御免仕ります!」
自称忠義の志士が、大きな袋を取り出して英仁に被せた。
「これは、電波の類の一切を遮断する素材で作られております!いったんこの状態でこの場から脱出を・・・」
英仁の体が担ぎ上げられ、その足下の袋が閉じられた瞬間、袋の中の存在が弾け飛んだ。
・・・・・・いやー、これ、グロいわ。マジで引くわ。この体育館でも何人も卒倒したり吐いてる人が続出してるぽかった。
英仁を担ぎ上げてた志士も袋の口を閉じた志士も、体の大半を失って即死していた。皇室の、特に女性陣はほとんどが失神していたし、父親は半狂乱に陥っていた。
まだ生き残っていた自称忠義の志士達も、愕然としていた。
「ま、まさか・・・・、本当に、本当の・・・・・だったと?!」
「何が本当にだ!?お前等が殺したんだぞ!わかってないのか?」
父親が一人を殴り倒し、もう一人に殴りかかったところで、撃たれた。
「ご、ごふっ・・・」
「お、お前、なぜ撃ったんだ!?」
仲間割れまで始まった。
「だって、天皇家は神の末裔なんだろ?神様なら、爆弾とか銃弾で死ぬ筈が無いじゃないか・・・?」
胸を撃たれた父親は声にならぬ声を漏らしながら、やがて動かなくなった。
上皇は、現天皇が自分の妻や娘達を庇っている姿を横目に見ながら進み出て、自称忠義の志士達に問いかけた。
「天皇も人間なのですよ。知らなかったのですか?」
問われた側は、横に首を振っていた。
「私の父、昭和天皇も告げていたのですけどね」
「・・・知りませんでした」
「しかしっ、天皇家の方々が他の人間と同じである筈は無いのではっ!?」
「いいえ、同じなのです」
「そんなバカな・・・」
「信じられない・・・」
「信じて頂かなくて結構です。あなた達は、あなた達の心の中だけにいる妄想の対象に忠義を捧げているのでしょう。私達には不要なものです。害しかありません。
そして忠臣組の皆さん、いつまでこの茶番を続けるつもりですか?」
画面外からいくつかの銃撃音が響いて、皇室の方々の前にいた自称忠義の志士達は、もっと凶悪で周到なテロリストによって制圧された。
上皇は、傍目から見てもわかるくらい、怒りに震えていた。その前に進み出たのは、英宏のおじいちゃん、摂政だった。
「英仁を見殺しにしたのですね」
「殺したのは、あなた達を助けようとした忠義の志士達ですよ」
「いいや、あなた達は、助けられたのに私の孫を助けようとはしなかった!何が忠臣組だ!?」
「いいえ。警告は何度もしていましたよ。あなた方を助けようとはするなと。日本語が理解できているのなら、そうしようとはしなかった筈ですね」
「詭弁だ!」
「いいえ。元はと言えば、あなた達が中途半端な態度を取り続けたのが一番の原因です。自分達は神の末裔などではない。ただの人間に過ぎない。頼むから、普通の人間として扱ってくれと、そう数百年か数千年訴えてきていれば、また違ったのでは?」
「それを、神国日本の摂政を自認する君が言うのかね?!」
「まだ遅くは無いかも知れませんよ?さあ、どうぞ訴えてみればいかがですか?」
二人の様子を撮影していたテレビカメラがずいっと上皇の前に進み出ると、上皇は語った。
「我々は、確かに、千数百年以上は続いている血統の末裔かも知れません。しかし、神ではありません。あなた方と同じ、人間に過ぎないのです。
そうは言っても、勝手な思いを私達に押し被せてくる人々は絶えないでしょう。だからせめて放っておいて下さい。そうすれば、今この場で殺された我が子や孫の様な犠牲が増える事だけは、無くなるでしょうから。どうか、この通り、お願いします・・・」
上皇が深く上体を折り曲げて頭を下げて、下げたままでいると、たぶん摂政が合図をして、皇室一家を別室へと退出させた。
摂政は、一連の同時多発テロを起こした真愛国者党について、捕らえた者達を公開処刑にする事、彼らを助けたいという彼らと意志を同じくする者はその場で彼らを助命嘆願する機会が与えられる事などが告げられて、その映像は終わった。
12.7を何とか見届けた自分でも、あれ以上のショッキング映像をまた見る事になるとは思わなかった。
「この場にいる真愛国者党のメンバーも、彼らに扇動されて組員や在日の人に暴力を振るおうとした皆さんも、等しく、処罰の対象になります。皆さん揃って公開処刑の場に参加する事になりますから、がんばって下さいね」
処刑の場で何を頑張るのだろうかと疑問に思ったけど、数日後、新国立競技場でその理由は判明した。
長くなったので二話に分けました。(連日投稿予定です)




