10.2023/12/6 アメリカ国内の情勢
2023.12.6
アレキサンドル・ガイザー
米バージニア州。アメリカ国防総省本庁舎。いわゆるペンタゴンの一角に設けられたDMZ(DeMilitalized Zone)。その半分を民主党系の自由アメリカ民主主義同盟、The United States of America, Free Democratic Allianceが使っていた。略称FDA。東海岸のニューヨークと諸州、西海岸のカリフォルニアと諸州、中西部のミシガンなどを中心としてまとまっている。
もう半分を使っているのが、共和党系の"偉大なるアメリカ共和国"、Greater American Republicだが、その本性の白人至上主義共和国、White Spremacy Republic、通称WSRの方が定着している。
今年41歳になる自分、アレキサンドル・ガイザーが所属しているのは、もちろんWSR。白人至上主義連盟、White Spremacy Axisの配下にある様々な団体や部隊、ネオKKK、アジア人排斥、反共、アポカリプスの日といった、総じて74Millions(略称74M)とも呼ばれる、反平等主義運動(Anti-Equalism Movement)のまとめ役として、共和党系組織内部でものしあがり、ソランプ元大統領にも気に入られ、民主党系のFDAやアメリカ軍との折衝役も任されるようになった。
FDAの交渉役は、ドロシー・ペロス大統領代行の筆頭補佐官のウェイン・リー。アジア系の男性だ。中華系三世のアメリカ人だが、外見ははっきりとアジア系で、民主党系支持者の間でも波紋を呼んでいる人事だが、逆に中国からは評価されてもいるので、代えるに代えられないという憶測も呼んでいた。ただ、有能な相手であるのは間違い無かった。
「やあ、ウェイン。君がまた無事で顔を出してくれてうれしいよ」
握手を求めると、おざなりと律儀の絶妙なバランスの力具合の握手を返された。アジア系の彼と握手をする事に、彼はいつでも微妙な反応を返してくれるので、止められなくなっている。
「それはどうも。ぼくは、君でなくても構わないと思っている。アジア系排斥や有色人種への迫害を止められる誰かなら、その方が望ましいに決まってる」
鉄板の挨拶だ。
「やれやれ。ぼくだからまだ今の程度で済んでいるのに?」
「その程度というのがずっと悪化し続けているんだが?今年8月15日にカリフォルニア州境付近で起きた、74Mの過激派合同部隊が、BLMとALM(Asian Lives Matter)の合同武闘派Colored Armyの拠点を襲撃した件、あれは君の主導だったんだろ?」
「双方に多数の犠牲者が出たが、あれがあの程度で済んだのは、ばらばらに無差別に最も弱い相手を狙おうとしてたのを、組織的に抵抗できる相手にぶつけたからだよ」
「それで言い訳のつもりか?」
「最終的にはカリフォルニア州軍が動いて痛み分けにさせられたろ?州軍の中にだって74M賛同者は少なからずいる。アジア系を迫害したいって思ってる人数は、少なからずなんて範囲じゃ済んでない。彼らに、軍組織として分裂せず、きちんと任務を果たすように説得しているのは誰だと思っているんだい?」
「本当に君は、毎回恩を着せようとしかしてこないな?」
「だって、それが事実だもの。アジア系で中国とつながってると思われてる君が無事でいられるのも」
「その与太話は聞き飽きた。万が一事実だとしてもな」
「事実なのに。ペロスも酷いね。中国へのリップサービスに君を起用し続けるなんて、人命軽視も甚だしい。きっと君の葬式では涙を盛大に流して悼んでくれるだろうさ」
本人にも自覚が少しはあるのか、言い返してこなかった。
そこにちょうど、国防長官のフロイド・ホースティン氏が姿を現した。
「二人とも、じゃれるのはそれくらいにしておけ。今日は、重要な話がある」
「イエッサー、フロイド」
自分のおどけた態度に、フロイドもウェインもきろりとにらんできたが、いいじゃないか。白人至上主義の過激派をとりまとめてる俺が、黒人の国防長官とアジア系の民主党系FDA交渉役を前にしてるんだぞ?俺がもっと頭の悪い連中の一人なら、この場で銃でもぶっぱなしてるだろうさ。もっとも、その後で殺されるだろうがな。
「それで、大切なお話とは?フロイド長官?」
ウェインの問いかけに長官は答えた。
「西太平洋地域での米軍勢力範囲が危機に瀕している。これ以上手をこまねいていたら、取り返しのつかない事になる。そうなる前に、一度でもいいから、何らかの行動は起こしておきたい」
「中国が、また新たな拠点を確保する前に、ですね?」
「その通りだよ、ウェイン。具体的な期限としては、あと一年以内だろうな」
「それが、全面的な戦争の引き金になりはしませんか?」
「もちろん、そうならないよう出来るだけ多くのEU諸国の軍も動員する事が望ましい。今の我々は、ナチスを看過し続けたチェンバレンの様な存在だからな」
「国を二つに分けたままで、中国と戦争できるとも思えないんですけどねぇ?」
「おや、中国に核ミサイルをぶっ放せと意気込んでいるのは、君の支持者達じゃなかったかね、アレックス?」
「否定はしませんよ。でも、彼らを全滅できるくらいの核ミサイルを撃てば、自分達を全員殺すのに必要な2~3倍以上の核ミサイルが報復で飛んできて、今の内輪争いは核爆発と放射能の下で終わりを告げるでしょうね。みんな殺されて」
「わかってるなら、どうして連中を諫めない?」
「そんな頭がある連中なら、そもそもそんな事を言わない事くらい、君にもわかってるだろ、ウェイン?」
そう言われて黙ってしまうのが君のかわいいところだよ、ウェイン。ぼくはバイではないけど、そういう君はとてもそそるんだ。
「話を戻すぞ。アメリカ軍としては多国籍軍として、中国の海洋進出に歯止めをかけたい。これは他人任せには出来ない。そして何もしないままでいるという選択肢は無い。その場合、準州にしたばかりの沖縄を含め、グアムも失い、我々は西太平洋と、そこにあるアメリカに友好的な国々との同盟関係を失う事にもなる。
アジアの国々を戦わず失ったとしたら、世界の他のどこででも、中国と戦う時に支援は受けられなくなる。その後は、第三次世界大戦が避けられたとしても、最悪な世界になりかねない」
「NZやオーストラリアの喪失は、イギリスとの同盟関係に重大な罅を入れてしまう。カナダも、単独で中国との講話に応じてしまうかも知れない」
「その通りだな、アレックス。WSRは反対しないという理解で良いか?」
「核戦争にならず、負けないのなら」
「絶対に勝てる保証なぞ戦争にあるものか。とはいえ、今の中国海軍の装備と実力なら、アメリカ海軍に及ぶはずも無い。十年以上先ならともかく今はまだ、な」
「そうやって日本を侮っていて、パールハーバーでは想定してた以上のダメージを受けたんじゃなかったでしたっけ?」
「彼らの核ミサイル技術などは、すでに既存の防空手段では防げない域に達してしまっている。その優位性を彼らはおそらく手放す筈も無く、今後もその差は開いていってしまうだろう。ならば、いったん歯止めをかけられるとしたら、可能な限り早く実現する事が望ましい」
「うーん、そううまく行きますかねぇ?」
「やけに慎重だな。君なら真っ先に賛成してくれると思ったんだが」
「うちらの大将、ソランプならそうだったかも知れませんけどね。彼だって、全面核戦争の引き金を引きたいかと言われれば二の足を踏んでもおかしくありません。彼も死にたくはないし、今の優雅な生活を失いたくもありませんからね」
「ウェイン。FDAの方はどうなんだ?」
「軍がやむなしと判断したのなら、必要な行為なのでしょう。けれど私も第三次世界大戦の扉を開いてしまう事には慎重であるべきだと思います」
「今の中国海軍の規模で、アメリカとの全面戦争に踏み切る事は出来ない。彼らがあそこまで調子づいて傍若無人に拡大路線をひた走れているのは、米国の政治の混乱のせいなのだがね」
またフロイド氏がにらんできたので、肩をすくめてみせた。
「アマラ・サリス大統領襲撃暗殺犯の引き渡しを拒否し続ける限り、我々が妥協する余地は生まれないぞ、アレックス」
「彼らはぼく達の間で裁判を受けて、刑務所に入ったじゃないか。何の問題がまだ残ってると言うんだ?」
「刑が軽すぎる。襲撃に加わってSP達を殺した者でも五年、大統領を殺した者でもたった十年の量刑に賛同できる筈もあるか!議会占拠事件の時とは凶悪さが全然違うんだぞ?国家反逆罪を適用されるべき犯罪者達が、君たちのおざなりな裁判で形だけ処罰され、刑期も情状酌量でさらに半分に縮められて、そうでどう納得しろと言うんだ?!」
「出来なくともいいさ。そうするしかないんだから」
「また、君は!」
「話が逸れてるぞ。その話は政治的に解決してくれ。軍を巻き込むな。巻き込んだが最後、アメリカの民主主義は完全に死ぬ」
「わかってますよ。フロイド閣下」
「おふざけは無しだ、アレックス。君はあと一年、君のボスや同僚や配下を抑えておけるのか?」
「何とかしてみましょう。けれど、もし万が一負けたりしたら、もう誰の制御も効かなくなるかも知れませんよ?」
「そうならないよう最善は尽くすさ。ウェイン、君の方も大丈夫だろうな?」
「ペロス大統領代行も理解はされる筈です。強硬に反対はしないでしょう」
「本当かい?民主党系は、それでなくとも中国と裏でつながってるって噂されてるのに」
「離間の計だろ。我々だってどこかで実力の差を見せつけなければいけない事くらい理解している」
「そうならないといいね」
「どういう意味だ、アレックス?」
「ぼく達が、彼らの実力を見せつけられる機会にならなければいいなって事ですよ。それこそ、本当に核ミサイルを中国にぶちこめって連中が大挙して出てくるでしょうから」
ウェインは判断はプロに任せるとフロイド長官を見つめ、フロイド長官はじっと考え込んだ後に言った。
「まだ、今のところは大丈夫な筈だ。あと数年は確実にな。ただそれも、最低限、アメリカ国内が今くらいの分裂でいればの話だ。軍内部まで割れてしまったら、それこそもう歯止めは効かない。また一つの鞘に戻るまでに十年や二十年では効かないかも知れない。その時、圧倒的強者の地位に立っているのは、我々ではなく、彼らになっているだろう」
「私も私に出来る事を協力しましょう。長官、あなたは軍内部のとりまとめと、勝利を確実にする事に注力して下さい」
「長官を白人にすげ替えろとはもう言わないのかい?」
「アメリカ軍内から有色人種を追い出そうとしたら、その瞬間にでもアメリカは崩壊しますからね。そうなって一番喜ぶのは敵ですから」
「アレックス、ぼくが君に言える立場ではないかも知れないが、君も気を付けてくれ」
「まぁ、お互いにね。君の方がだいぶ危うい立場になってるのは自覚しててくれよ?」
「わかっている。中国がせめて台湾の併合までで満足してくれてれば良かったんだがね・・・」
「それはインディアン達が、東部諸州までの入植までで済んでくれてればと回顧するようなもので、意味は無いよ」
「君がそれを言うかい、アレックス」
「今、ぼくらは、西太平洋を失うかどうかで話していた。それが太平洋全域になるまで、何年かかるでしょうね?」
「アメリカが分裂したままなら、早まる一方だろうな」
「そうですね、長官」
「だったら、君が何とかしたらどうなんだ?」
「どうって、ウェインはぼくに何をさせたいんだい?まさか、非民主政治的な暴力でも唆しているのか?」
「そんな訳無いだろ。説得とかで」
「どうにかなるような代物なら、今みたいな状況にはなってないさ。さて、お二人ともお達者で」
一年後。成功すればしたでいい。五年か十年くらいの状況の引き延ばしは出来るかも知れない。ただ、時間は基本的に彼らの味方だ。世界的な影響力は一時的に減らせても、さらに強大に増強されていくだろう。その速度と内容におそらくアメリカはついていけない。
まして、一年後の戦いで敗れるような事があったら?
政治家なら、どちらに転んでも良いように準備はしておかないとか。
先ずは自分のボスとその周辺を抑えておく為に、フロリダへと自家用ジェット機で向かった。




