「決意」 だけど、俺はやり遂げる。望みは叶えてみせる。いくら邪魔されようと、何度失敗しようと、いつかきっと必ずね。
処刑の舞台はすでに整っていた。
処刑台のうえには、すでに全員そろっている。罪人、死刑執行人、国の役人、司祭など処刑に必要な役柄の人間が。
まもなく、遠くで鐘が鳴りはじめだした。
その音を契機にはじめる。国の役人によって、いまより処刑を執りおこなう宣告が。
弟子二人は処刑される罪人の背後で左右に並んで佇んでいる。
いざ罪人が処刑されるとなればその躰を背後から抑え込み、すぐに首が斬れる態勢を整えるために。
二人の弟子の手によって、罪人への目隠しはすでに終わっていた。
ルートヴィヒは罪人に近づき、その横に立つ。その首を斬り、処刑を終わらせるために。
師が俺にその役を与えた意図については、説明を受けている。
国の役人が罪人の罪状を読み上げるのを聞きながら、ルートヴィヒは考え込んでいた。
こうしてこちらに裏切りの直後の処刑をさせる師の意図は、俺にわからせるためらしい。なにをしても、俺は師には敵わないと。そのもとから離れられないと。
俺が自らの骨の髄にまで師に恐怖するように仕向けているというわけだ。
師は今回の処刑をさせることで、あわよくば支配しようとしているようだ。俺を打ちのめし、屈服させて完全に。人を支配するときに使う、師のいつもの使い古された手をこの俺に対してまた用いようとしている。こちらを昔から服従させようとして、その手を日頃から俺に使っているように。
それはわかってはいても、その手口を拒否することは今回も残念ながらできはしない。
俺は裏切りを図り、敗れたのだから。
師から逃れようとして、また舞い戻ったのだから。師に使役される、その弟子という立場に。
師の目論見はわかっていても、いまは命じられれば従うしかない。
この処刑にしてもやり遂げざるを得ない。
もしも師に逆らえば、ひどい目にあわされるのが常なのだ。身の安全を図るには、師になにをされようとも昔から黙って受け入れるしかない。逆らって、あとで痛い目になんて遭いたくないから。
ルートヴィヒは役人の宣告を聞き流しながら、もの思いになおも耽った。
裏切りが失敗に終わらなければ、こんなことには。
師の好きなようにされるなんてことはなかったのに。
失敗した以上、いまさら云ってみたところで仕方がないけれど。
ルートヴィヒはため息をつく。
もっともこちらには、さらさらないんだけどさ。師の思惑どおりに打ちのめされて屈服し、恐怖によって完全に支配されるなんて気は。
とはいえ些少ながら、すでに俺が師への恐怖で縛られているのは否めない。それは認めるよ。いまだって俺は、痛めつけられたくないという師への恐怖から動かされているわけだしね。
覆面の内側でルートヴィヒは、ふふふと薄く嗤う。
しかしいまは、師の命令を拒むことはできないからね。とりあえず甘受するよ。大人しく従うしかないこの境遇は。すくなくとも、いまのところはね。
ただ今後ともそうであるとは限らないけれど。
ルートヴィヒは将来に思いを馳せる。
どうする?
今回、俺は全力を尽くしたが見事に敗れた。
それだけじゃない。いまの俺はまるで持ってさえいない。
今後、自らの望みを叶えられそうな手立てなど一つとして。
なら、ここであきらめるのか? 自分の望みを叶えることを、おまえは。
ルートヴィヒは自らに問いかけた。
いや。ルートヴィヒは覆面のなかで、その口元を不敵に歪ませる。
ルートヴィヒには脆さもあったが、かといって弱くもない。
憂愁を帯びる黒い瞳の奥底に、鉄の意志ものぞかせる。師がゴーマとの会話の折に、そうした意志が彼にあると評したように。
敗れたのなら、ふたたび挑めばいいだけのこと。望みが叶うまで何度でもね。
ルートヴィヒは天をちらりと見上げる。
神よ、おまえとしては叶えて欲しくないだろう。俺に自らの望みを。
もしおまえが慈悲深いなら、ひどく悲しむことになるだろうから。俺が復讐をやり遂げれば。
かりに慈悲深くなくとも俺によっておまえは貶められてしまい、不都合なことになるのだから。
今度は周囲をルートヴィヒは見渡す。
師や弟子たち、世間の奴らもだ。連中にしたって殺されたり、ひどいめにあいたくもないだろう。俺が望みを叶えることなんて許しはしないだろう。
だから俺が望みを叶えようと推し進めれば、どこかで邪魔に入るはず。人も、そして神も。
事実、それで今回の一件もうまくいかなかった。裏切りを許さぬ師や、殺されたくない弟子たちによって阻まれた。それどころか失敗したということは、あるいは神が成功を許さず阻んできたせいであるかもしれない。
ありはしないけどね。今回の一件に神が介入したなんてそんな証拠など。隊長との戦いの際に、俺の剣が折れたのと同様に。でもそう見なすことだってできる。事が成功せず、失敗に終わったからには。
もっとも俺の力さえ足りていたら、こんなことにはならなかったろう。神であろうと誰であろうと、邪魔をされたところで成功していたはずだ。だから失敗は、まず俺のせいなんだろうけど。
悔しさを覚え、ルートヴィヒは覆面の内側で唇を噛む。拳にも力を入れて固めると、彼はあらためて天を睨みつけて決意する。
だけど、俺は必ずやり遂げる。望みは叶えてみせる。いくら邪魔されようと、何度失敗しようと、いつかきっとね。
国の役人による、今回処刑される罪人の罪状の読み上げが済んだ。目のまえでは、罪人の若い男がうつむいている。これから斬られることになる、首のうしろをさらして。
なぜ、この罪人が殺されるのかはわからない。考えに耽っていて、国の役人が読み上げるその罪状をしっかり聞いていなかったので。
だが、まあいい。この罪人が殺される理由なんて知ったことじゃない。俺は処刑をこなせばいいだけだしね。
ルートヴィヒがそう思ったとき、役人の声が聞こえた。
「処刑まえに、罪人のために神へ祈りを」
あと一章で、この話は終わりです。一旦のところは、ですけど。




