12
「久しぶりだな、ホーエンハイム」
「本当に久しぶりだよ、サンジェルマン」
こいつがぼくの唯一の友人であるサンジェルマン。ぼくは自分を着飾ることを嫌うが、こいつは魔術師の癖におしゃれに気を使っている。どこぞの貴族と言った方が正しく思えるくらいに身だしなみを整えているのだ。
「研究はどうだ? 俺の方はぼちぼちといったところだが」
「こっちも同じようなものだよ。もっとも、ぼくの専門は生命でお前の専門とは違うから一概に同じにできないけど」
アレイスターを助手に加え、リリスが研究内容を整理してくれているが、最近はあまり成果が出ていない。まあ、こいつがぼくの隠れ家とも言える研究所に訪ねてくるのはたいていあいつ自身も研究がうまくいっていないときだから、お互い様なのだが。
「その割にお前の機嫌はそこまで悪くないな」
「そう?」
「いや本当に。ガチでぶちギレたときとかひどかったぞ。飲めない癖に強い酒を浴びるように飲んで愚痴をだらだら言って泣くと思えば、いきなり山一つ消し飛ばす広範囲殲滅術式でもって地震を引き起こして狂ったように笑うし」
「そんなにひどかったっけ?」
確かにぼくはうまくいかないと物にあたることもあるけど、そこまでひどかっただろうか。
「おかげで慣れない魔術でお前の後始末する羽目になった。崩れた山を直したり歪んだ川をもとの流れに戻したりするとか専門外だって」
悪いとは思っている。もっとも、ぼくもこいつに振り回されることだってしょちゅうあるからおあいこだ。
「まあそれはいい。だが、そんなホーエンハイムくんがここまで落ち着くようになった秘訣をこのサンジェルマンにも教えてくれ」
随分意地の悪い質問をする。魔術師から知識を求めようとするとは商人から金庫の鍵をせしめようとするようなものだ。
だがまあ、ぼくとこいつの仲だからな。答えてやってもいい。
「子供ができたんだ」
「子供? お前がガキを? 馬鹿言うんじゃねえよ。前に言っていただろ、『自分の愚かしさに気づくことすらできない愚か者ほど醜いものはない』って。お前のことだから、蛆をすすってゴキブリを食う方がましとか言いそうだ」
「いや、ぼくも愚かな子供は嫌いだけど……」
「じゃあ何か? ホムンクルスをまた生み出したのか? いや、それもありえねえな。素材はまだしも、お前と俺とあの教授の三人がいて初めてできることだ。いくらお前でも一人でできるほど簡単じゃねえ」
「実は、ドラゴンの子を育てているんだ」
サンジェルマンの動きが止まる。まるで時が止まったかのように。
「ドラゴンだと?」
「そうさ」
今もこちらの話に耳をすましている。魔術で音を立てないようにしているが、それでもぼくにはわかる。
「おいで、アレイスター」
アレイスターが緊張しながらもこちらへと歩いてくる。
「それでサンジェルマン、今日来てもらったのは他でもない」
「なんだよ改まって」
「アレイスターを、外へ連れていってやってほしい」
ぼくは研究者だ。全てが自分の世界の中で完結している。ぼくやリリスだけならそれでよかった。だが、アレイスターにはもっと広い世界を知ってほしい。
その点、サンジェルマンならぼくとは違う。サンジェルマンは魔術師でありながら外の世界との交流がある。
「俺は構わないが、本人はどうなんだ?」
子供はいつか親から離れるものだ。アレイスターも同じ。アレイスターならうまくやっていけるだろう。




