第763堀:各国の昼食
各国の昼食
Side:エージル
ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
大過熱していた会議にそんな大きな鐘の音が響き、周りは静まり返る。
そこを見計らって僕は声を出す。
「皆様方、会議に集中するのはいいことですが、既に時間は12時を回っております。一度休憩を挟んでから、また続けるというのではどうでしょうか? ウィードからの昼食も用意されております」
僕がそう言うと、ピタッと会議が止み、エナーリア聖王に視線が集まる。
「諸君。エージル将軍の言う通り、今から昼食休憩を取ろうかと思うが、異論はないか?」
「「「ありません!!」」」
陛下の言葉に直ぐに賛同する馬鹿共。
お前等は、餌付けされた犬か。
いや、犬の方が可愛げがある分マシだね。
そんなことを内心思いつつ、会議室をでて、昼食の手配をしに廊下を歩いていると……。
「よお。エージルじゃないか」
「うげ、マーリィ」
面倒な奴と廊下で出会ってしまった。
「なんだその反応は。私とエージルの仲じゃないか」
「だれが、僕と君の仲だよ。今まで散々やりあってきたじゃないか」
「だからだろう? お互いのことを知るにはこれ以上のことはない」
「それを言うなら、プリズムの方が君とはやりあっているはずなんだけどね。僕はもっぱら見学だったはずだけど」
「お互いの魔剣使いとしての戦いは楽しかったな。いつか戦場でとは思っていたが……」
「式典の時の手合わせはともかく、戦場でやりあえばどっちかが死んでいるよ。僕たちはお互いに将軍の身。それが単騎で敵とやりあうなんて、戦線が崩壊している状況じゃないか」
そうなる前に撤退しているよ。
これだから戦闘バカと話すのは嫌なんだ。
「というか、なんで君はこんな所を歩いているんだい? まだ会議の時間だろう?」
「暇だから、散歩だな」
なんだ、このバカは。
そう思っていると、マーリィの後方から、ジェシカが走って現れる。
「姫様。勝手に出歩かないでください!! 諜報行為と取られますから!!」
「別に、あとで開かれるイフ大陸合同会議で話すんだから問題ないだろう。というか、ジェシカは昼食の手配に行ったんじゃないか? 今日のお昼は何だ? 楽しみなんだが」
「はぁー……」
だめだ。ジェシカでも抑えにならない。
このバカは我が道を行くタイプだね。本当に。
それでいて、僕よりも女性らしいスタイルと服装をしているんだから、意味がわからない。
そんなことを考えていると、別の方向からまた人がやってくる。
「あら? どうされましたか、皆さんこんな所におそろいで」
「私たちと同様、魔剣使いと外交官の組み合わせですから、昼食の手配では?」
「ああ、確かに。クリーナさんたちもそうでしたわよね」
「ん。おなか減った」
「はい。クリーナ姫の一応護衛、そしてお手伝いでこの私ラライナも同行させてもらいました。が、正直な話、ここの料理のレシピを持ち帰れば父も喜ぶだろうし」
そう言ってやってきたのは、ローデイの外交官のサマンサ姫と魔剣使いのドージュ。
そして、アグウストの外交官クリーナ姫と魔剣使いのラライナ。
どうやら、僕たちと同じように昼食の手配に来たようだ。
「ん。それは間違いない。でも、ほかでレシピ屋は紹介するから、そこまで気にしなくていい」
「それは聞いたけど、レシピを販売ってそれいいわけ?」
「レシピを真似るだけなら、凡人、家庭料理。それを昇華させて売り物にするのが、料理人の腕の見せ所」
「確かに」
まあ、レシピ通りに作ればいいってわけじゃないからね。
それをアレンジ、応用してこそ、一流ってものだよ。
とはいえ、僕は食べる方でいいけどね。
そんなことを考えていると、隣のバカが口を開く。
「いやー、魔剣使いが揃うといいな。壮観だ。このまま、外に食べに行くか?」
「行きませんよ。陛下がおまちですので、さっさと昼食を手配して戻ります」
ジェシカの苦労が手に取るようにわかる。
こんな馬鹿の相手をしていては体がもたないよね。
「というか、エージルはなんで1人なんだ?」
「僕は魔剣使いでもあり、将軍だからね。特にお供を必要としてないだけだよ。そっちはお姫様が多いからね」
サマンサもクリーナも養子になって姫という立場だし。
「ん? それなら私も将軍で魔剣使いだが」
お前を1人で行かせるような奴はいねーよ。
というか、お前がジェシカを護衛するんだよ。と言わなかった僕は偉いと思う。
「まあ、昼食を待っている人もいますから、ここで立ち話はやめておきましょう」
「ん。歩きながらでも話せる」
サマンサとクリーナに言われて、僕たちは歩き出す。
「そういえば、ジェシカ。今日の昼食は何なんだ?」
「別に豪勢なモノではないですが……」
「はぁ、ジェシカもユキ様にそまったものだ。ここでの食事が豪勢でないとか、バカなことを言う。なあ皆?」
そう言って同意を求めるマーリィに流石に僕たちも頷く。
ウィードの食事はとにかく美味しい、バラエティー豊富。
苦手な料理があるのであれば選ばず、口に合う美味しい料理を探せばいいという贅沢ここに極まれりだ。
ここ数日、ウィードから提供される料理のおかげで、会議で興奮している上層部の連中でさえ食事といえばすぐに大人しくなるから、そういう意味でも助かっている。
今更思うが、こういうことを想定して僕の為に準備してくれたとか勘繰りたくなる。
いかんいかん、自意識過剰だな。
普通に考えるなら、美味しい料理をだして、ウィードの評判を上げようという話だ。
「ま、気持ちはわかりますが、豪勢というのは、単に美味しい食事だけではないんですよ。家族と一緒に食べるのが一番の贅沢です」
「そうですわね」
「ん。ジェシカの言う通り」
「「「……」」」
3人の旦那持ちのセリフに、独り者が当たり前の魔剣使いたちは沈黙する。
いや、家族って言ってるから、彼氏や旦那のことではないのだが、どうも悪意があるようにとらえてしまう。
「……ちっ、のろけるのはよそでやれ。ヒヴィーアもめんどくさそうにしていたからな。と、ここが食事を手配する場所だな」
のろけを聞いて砂糖を吐き出しそうになる前に、僕たちは手配する場所までたどり着いた。
まあ、簡単に言えば会議場の受付だね。
「これは皆さまおそろいで、何かお困りごとでしょうか?」
そう言って、メイドさんが挨拶をする。
今回は各国毎の会議ということで、情報封鎖のためにウィードのメイド、使用人はこうして会議場の受付で待機してもらっている。
多少のことは、ついてきた使用人たちで何とかなるが、こうした大規模の昼食などは、僕たち外交官からの指示がないとできないようになっている。そうでもしないと毒殺とか怖いからね。
何かあれば、大陸間交流会議から大陸間宣戦布告に切り替わってしまう。
そんなのは誰も望んでいないから、このウィードが食事を用意することに文句を言う者は1人もいなかった。
まあ、国を潰すようなことになるからね。
ウィードを信じていなかった、エナーリアの頭の固い連中も、流石に開会式と連日見せられる根本的な技術力の差などを実感して何も行動できない。
というか、文句が出なかったのはご飯が美味しかったからだけどね。
嫌いな料理は食べなくてもいい戦法は今後使えそうだよね。
そんなことを考えているうちに各国が昼食の手配を始める。
「ジルバは肉だ。昨日食べたステーキがいい!! それと、カップラーメンの味噌だ!!」
「マーリィ様……。ステーキは胃に重たく、カップラーメンは豪華からかけ離れていますので、今日の昼食には適さないですよ。というか、無いですよ。ステーキはあるかもしれませんが」
「じゃ、ステーキで」
「はい。かしこまりました。ステーキとなると、洋食系を中心でよろしいでしょうか?」
「はい。そちらで頼みます」
そんなバカのせいでジルバは洋食。
まあ、洋食というのはユキがいた地球というところでの食事の種類の分け方で、どちらかというと、僕たちがよく食べる物に似ている。
しかしながら、味付けは段違いだけどね。
「クリーナ姫としては何がおすすめですか?」
「んー。難しいところ。しかし、ラライナ的にいろんなレシピを学びたいというのであれば、調理が難しい中華がいいかもしれない」
「そうですか。では、中華をメインにほかの物も混ぜてください」
「かしこまりました」
アグウストは中華と。
あれはあれで美味しいんだよねー。
「ドージュ様は何がよろしいですか?」
「そうですね。私というより、陛下は日本食を好んでおられましたね。天ぷらに揚げ物、それらを中心で頼めればと思っています。サマンサ姫」
「なら、日本食を中心ですわね。そちらでお願いいたしますわ」
「はい。かしこまりました。日本食のてんぷらを中心に用意いたします」
ローデイは日本食と、これで地球の主なジャンルの料理はそろったわけだ。
さて、何にしようかなーと思っていると、また人が来たようで。
「あら、各国の外交官に魔剣使いが勢ぞろいね」
「だな。みんなお昼の用意か?」
そう言いながら現れたのは、ホワイトフォレストの魔剣使いカーヤとエクス王国の魔剣使いキシュアだ。
「そうだよ。二人とも。でも外交官殿はいないようだね」
「まあ、お昼の手配だからな。それよりも会議に集中しているさ」
「そうね。ホワイトフォレストも同じようなものね」
どうやら、この二つの国は食い気よりは会議といった真面目な国のようだね。
「軽い物がいいわ。サンドイッチとおにぎりぐらいで」
「こっちは手軽に食べられるハンバーガー系かな」
「かしこまりました」
意外と豪華ではないものを選ぶ二人。
ちょっと、簡単に決めてしまったので、心配して声をかける。
「それって、結構質素だけどいいのかい?」
「質素って、十分豪華よ。これ?」
「まて、カーヤ。あれだろう? 今までのウィードから提供されたご飯に比べてってことだろう?」
「ああ、なるほど」
「そうそう。で、会議に参加している陛下を筆頭に臣下たちは納得するのかい?」
下手な昼食を手配して不評を買えば、文句が続出する。
それは、今後の出世とか立場に関わってくるだろう。
だからこそ、こういうウィードの選べる豪華な食事というのはありがたいわけ。
ハズレなしだからね。
ということで、微妙な食事を選んだ二人を心配したわけだ。
「というか、軽い食べ物って言われて来たわ」
「私の所もだな。美味すぎると、たらふく食べて眠たくなるんだよ。この後に他の大陸と会議をすることを考えると、あまり食べ過ぎない方がいいだろうって、ノーブル陛下は言っていたな」
なるほど。納得の理由だ。
ホワイトフォレスト、エクスの王は賢明な方らしい。
「なるほど。では、私たちも変更しますか?」
「いや、それはない。もう手配を頼んだんだ。メイドたちの手間にもなるし、私がステーキを食べたい」
「……」
このバカはどうでもいいや。
ジェシカ頑張れ。
「ま、まあ、マーリィ将軍の言うように、わざわざ頼んだ美味しい物を変更するよりは、食べる量を控えるということで押さえた方がよろしいですわね」
「そうですね。会議に支障が出てもいけませんし」
「ん。美味しい物を食べ過ぎると、それだけで幸せになって、何も考えられなくなる」
「美味しい料理とはそういうものです。まあ、何事にも言えることですが、適量が大事であり、過ぎれば毒となるというやつですね」
サマンサが苦しいフォローをして、ドージュ殿、クリーナ、ラライナが後押しをする。
まあ、間違いではないので、僕たちも納得しよう。
マーリィの後押しなどをするつもりはないけど、サマンサとクリーナの好感は欲しいからね。
言うことは理に適っているし、問題無し。
「そうだね。お互い適量ですませて、ちゃんと会議を終わらせて、明日無事にイフ大陸会議を行えるように頑張ろう」
僕がそう言うと、皆頷く。
どうやら、他の国も早いうちに大陸会議は開きたいようだ。
期間は2日しかないからね。ここでまとまらなければ、また別の所で集まって会議となる。
その場合、会議開催国の手腕が試されることになり、ウィードと比較されることになる。
それは今の所、避けたいのが皆の本音だろうからね。差は明らかだし、わざわざ自国の評判を落とす理由はない。
やるなら、ウィードの技術を取り入れて、色々向上させた後がいいに決まっている。
「じゃ、またあとで、明日の会議の打ち合わせをしよう」
そんな約束をして、エナーリアの会議に戻ったのだが……。
「本当に美味しわよね。ほら、これも食べてみなさい」
「いや、プリズム。量は控えないと、明日のイフ大陸会議の方がね」
「エージルはそれでいいんだろうけど、私やライトは当分食べられないのよ」
「はい。この機に沢山いただきます!!」
と、こんな感じで、皆が沢山食べた結果、頭に血が回らず、眠たい中で午後の会議を始めることになったのは言うまでもない。
まあ、お腹が減り始めてからは一気に進んだんだけどね。
晩御飯が待っているというのも、会議が加速した理由の1つだろう。
人って現金だよねー。
いや、中華麺は美味しいんだけどさ。
腹一杯になるか、会議のために自粛するか。
それは人によって違うだろう。
みんなは、沢山食べる派? 軽く済ませるタイプかな?
種類は軽食? それとも日本食? 洋食? 中華? なにかな?
みんなの今日のお昼はなんだったかな?




