第762堀:各国会議の様子
各国会議の様子
Side:カグラ
『まあ、あんまり無理するなよ』
「ええ。大丈夫よ」
「大丈夫ですよ、ユキ先生」
「はい。あとは陛下たちが話をするだけですから」
『何かあれば、連絡をくれ。こっちは大体の物資配分は決まっているから、実質休みだからな』
「ありがとう。何かあれば連絡するわ」
そう言って、私はユキとの連絡を切る。
時間が許すのであれば、ずっと話していたいのだけれどそうもいかないのよね。
「でも、うらやましいわね。お休みなんて」
「ユキ様も働き詰めです。これぐらいは必要でしょう」
そういうのは、エノラとスタシア殿下だ。
「で、ハイレ教、フィンダール帝国の方は、今日の各国会議はどうなりそう?」
「そうねー。やっぱりというか、ウィードとどれだけの取引ができるかっていうのが焦点になると思うわ」
「ですね。何としてもウィードの、というか地球の製品と技術は引き入れたいからですね。各国との交流も大事でしょうがまずはウィードを第一にと考えるはずです」
やっぱり、第一交渉相手はウィードになるわよね。
私だってまずはウィードだって思うし、ハイデンだってまずはウィードだって昨日聞いた限りでは話していたものね。
「とはいえ、ほかの大陸の国家との交渉がないわけではないのよね」
「それは当然ですね。ウィードだけと交易をしていても仕方がありません。ですが、DPというシステムで手間暇かけず物資を呼び出せる力は各国にとってはものすごく魅力的なものです」
そうなのよね。
ユキは今回の大陸間交流会議で、そういう細かいところまで公表してしまったのだ。
ユキのことだから、おそらく狙いは別にあるのだろうけど、それだけ魅力的なウィードと交渉を優先するのは当然だ。
ああ、DPの話はウィード国民は知っているから、隠すと逆に不信感を抱かせると思ったのもあるんでしょうね。
そしてそれは希望の品が確実に手に入るという意味でもある。今後何か問題があれば、比較的安易に物資の支援もしてもらえるのだ。
まあ、DPに制限はあるのだが、それでもほかの国のように生産するために労働力や資金、時間をつぎ込まなくていいぶん、とても良い交渉相手なのよね。
ということで、そんな魅力的な国と交渉しないなんてありえない。
とはいえ、むろんただで支援してくれという話ではないのだけれど。こちらからもちゃんと対価を支払う必要がある。
こちらの対価は有限だ。そしてほかの国とも交易がある。それを考えるとなると、色々頭の痛いところだ。
「ひとまずは、状況をまとめることになるけど、ハイレ教としては、早くなら今日の午後、遅くても明日の朝からは、我が大陸の国家で会議をしたいと思っているわ」
「フィンダール帝国も同じくです。このあとは、いかに各大陸内で団結して、他の大陸やウィードと交渉をしていくかという話ですからね」
「ウィードは特別枠として、ロガリ、イフ、そして私たちの大陸ごとで分かれて交渉、交易に当たった方がお互いつぶし合わなくていいモノね。それを考えると、今回参加国の少ない私たちは有利よね」
この大陸間交流会議の意味合いはこれからだ。
各大陸の状況把握をこれまでの4日間ですませ、これから各々の手札で、ほかの大陸を相手にどう交渉を行っていくかが大事になる。
そう、各大陸である、国ではない。
無論、各国の要望などを無視するつもりはないが、あくまでも大陸間交流であるので、交渉相手は私たちの場合、ロガリ、イフ大陸が相手ということになるのだ。
ここは各大陸毎で一致団結が必要となるわけ。
同じ大陸で全員が小麦を供出しても意味がないし、同じものを要求するのも意味がない。
それなら、役割分担を決めて、それを手に入れて分けた方が、各国にとっても有益だ。
まあ、大陸としての利益だけを考えるならね。
「そうね。ロガリ、イフ大陸は国ごとに欲しいモノはあるでしょうし、今後の発言力にもかかわるから、歩調を合わせるというのはなかなか難しいはずよ」
「その分ミコスちゃんたちは楽だよね。元々友好国だし、物資についても話し合いは楽だからね」
「はい。国は3か国ですから」
「厳密にいえば1つはハイレ教なので、国ではありませんが」
そう。エノラたちが言うように、私たちの大陸からの参加国はわずか2国と1教だけ。
なので、会議もまとめやすいのよね。
しかし、イフ大陸は6か国、ロガリは5か国と参加国も多い。
その分、私たちは素早い動きができる。
代わりに、財力や産品に差が出てくるのだけれど。
「と、ハイレ教で思い出したけど、ハイレ教は何を取引材料にするつもり? ウィードとは今後の魔力枯渇現象の調査協力で済むと思うけど、ほかの大陸の国が相手となると……」
「そういえば輸出できるようなものは何もないよね?」
「何を交渉で出すんですか?」
ハイレ教はあくまで宗教であり、国土と言う物がほぼない。
保有している土地といえば総本山ぐらいのもので、交渉ごとに差し出せるものがあるのだろうかと、今更ながら思ってしまう。
「……あんたたちねぇ。それでも敬虔なハイレ教徒なの? まあ、いいわ。教えてあげる。私たちハイレ教からは……」
「主に、お酒でしょうか?」
「「「あ」」」
スタシア殿下がそう言うのを聞いてやっと思い出した。
ハイレ教は確かにお酒を造っている。
それは、ハイレ教の回復魔術師の関係もあって、回復薬でもあり、上等な飲み物として親しまれている。
「……スタシア殿下。そういうのは私に言わせていただきたいのですが」
「あ、すいません。つい」
「まあ、スタシア殿下の言う通り、お酒ね。ポーションでもあるから、その輸出ね。おそらく、というかほぼ確実にお酒の製造にはどの大陸も制限をかけているはずだから、私たちハイレ教のお酒というブランドで売れるはずだわ」
「なるほどね。でも、それなら私たちの国やフィンダール帝国にもそれぞれのお酒があるから交易品目に入れるべきかしら?」
「いいんじゃないかしら? でも、お酒は私たちの唯一とは言わないけど、押している交易品だから、それを圧迫するような数は入れないでほしいわね」
「そんなことはしないと思うけど……」
「お酒は、作り方で味が違いますからね。一応フィンダールの交易品目にはいっていますよ。まあ、ハイレ教のお酒はポーションも兼ねておりますので、我々とは意味合いは違うかと思いますが」
ああ、そういえばポーションって意味合いもあるから純粋にお酒ってわけでもないのか。
まあ、ウィードのお酒と比べるとどこの国のお酒もあれなんだけど。
日本酒とかお水みたいにすーっと入ってくるのがいいわよね。
そんなことを考えていると、エノラが私を見て頷く。
「そうね。その可能性に気が付いたのは、カグラのおかげね」
「私の?」
「ほら、私たちがルナ様のお化け屋敷騒動でもらったお神酒があったでしょう? 私の方も二本ばかり頂いたのだけれど、すごいモノだったわね。おかげで、こういうお酒とポーションを兼ねている物が交易品として喜ばれるのではないかと思ったわけよ」
「ああ、そういうこと。とはいえ、あの時はね……」
「怖かったよね」
「先輩、頭から血を流していましたし」
トラウマモノよね。
あの事件の時には姫様から最悪、解雇の可能性も示されたし。
でも、ユキがお神酒をもらってくれて事なきを得たんだっけ?
「そういえば、ハイレン様は今回の会議には?」
「いえ、不参加よ」
「あははー。ハイレン様を参加させたら戦略とか何もかもないからねー」
「あはは……」
「ハイレン様はこういう俗物的なお考えはなさらないのです。天真爛漫であるからこそ、女神様なのでしょう」
「ま、仕方ないわね。大司教様もハイレン様のことは口に出さなかったから」
スタシア殿下は上手くいうが、ミコスの言う通り、真実は会議が会議でなくなるので不参加だ。
これは、陛下も認めている。
そもそも、神様なんて会議に参加させるとしたら、ルナ様も出てくるわけで、さらに無茶苦茶になるのは目に見えている。
なので、ソウタ様たちにハイレン様の身柄を確保してもらっている。
万が一にも会議に乱入されたら面倒極まりないからね。
と、そんなことを話しているうちにもうすぐ時計は9時を指し示そうとしている。
「そろそろ時間ね。じゃ、私はハイレ教の会議へ行くわ。そちらの会議が終わったのなら、連絡頂戴。カグラ、スタシア殿下」
「わかったわ。そっちも先に終れば連絡頂戴」
「はい。お互い早く終わらせて、ケーキでも食べにいきましょう」
そう笑いあって、私たちはハイデンに用意された会議室へと足を踏み入れる。
そこにはいつでも会議を開始できるといわんばかりに、既にハイデンの要人たちは席についていた。
「遅かったですね。カグラ」
「姫様」
私たちが入ってきたことに気が付いて、こちらに近寄ってくる姫様。
「すみません。我が大陸の他の外交官たちと今後のことを話し合っておりました」
「フィンダールとハイレですね。彼らはなんと?」
「なるべく早く各国会議は終わらせて、我が大陸として話し合いたいそうです」
「当然ですね。今は同じ大陸の者同士で足を引っ張り合うときではありません。そういう意味でも、ユキ殿は大陸の平和に貢献していると考えると恐ろしい物がありますわね」
「確かに」
ユキはこうして、争い合わせない理由を合理的に用意してくる。
感情論ではなく、利益などを織り交ぜてだ。
元々、大陸間交流に参加しなければ、孤立するというのもあったし、こういうところは先を見据えている。
流石、私のユキだ。
「では、その希望に沿うためにも、なるべく早く行動して、結果を出すべきです。さあ、カグラたちも席についてください。貴女たちが一番、各国と接してきているのです。貴女たちの意見は非常に役に立ちます」
「わかりました」
「任せてください」
「がんばります」
ということで、大陸間交流ハイデン会議が始まった。
「さて、会議の前に、まず確認しておきたいことがある」
会議を始めるにあたって、司会の貴族より、陛下にお言葉をということになったのだ。
まあ、お約束の挨拶よねと思っていたのだが、少し雰囲気が違うわね。
何を言おうとしているのかしら?
「今までウィードの存在に懐疑的な者がいたのは私も承知している。その疑念を晴らすためにこちらへ連れてきたということもある。さて、今更、ウィードや各大陸の存在を疑うようなものはおらぬか? 信じられぬといまだにいうのであれば、この会議に無理に参加する必要はないぞ?」
そう言って、辺りを見回す。
視線を向けられた貴族たちの中には、視線を逸らしたり、顔がこわばっていたりする者もいる。
だが、陛下のその言葉に誰も反応するものはいない。
仕方ないわよね。ここでいまだにウィードのこととか他の大陸の存在を信用できないなんていえば、今後は干されるしかないんだから。
いや、干されること確定よね。
そして、意見が出ないことを確認した陛下は頷いて……。
「では、これより、大陸間交流でのハイデンの方針を決めようと思う。細かい話はまたあとで詰めるが、大まかなことはこの場で決めて、早急にフィンダール、ハイレ教と協議して、我が大陸の結束力を示すのだ」
「「「はっ!!」」」
こうして、ハイデンの会議が始まるのだったが……。
「では、まず、ウィードから仕入れる物は酒類で異論はないな?」
「「「ありません」」」
私たちはズッコケるのであった……。
「落ち着きなさい。お神酒のことがあって、ウィードのお酒に注目が集まっているのです」
「「「ああ、なるほど」」」
こうして、ハイデンはウィード産のお酒を優先して輸入する方針で始まったのであった……。
ここで、あの時のお化け屋敷大作戦の影響が出る。
お酒を多めに。
ウィードの酒造はどうなるのか? まあ、DPで取り寄せることになるからそこまで問題はないんだろうが、あのお酒は駄目神だから手に入れられたんだよねー。
と、そこはいいとして、無事に結婚終わっての投稿でございます。
遅延なくやれております。
コメントで多くのお祝いの言葉、本当にありがとうございます。
これからも「必勝ダンジョン」をよろしくお願い申し上げます。




