第701堀:やっぱり腹黒姫
やっぱり腹黒姫
Side:ユキ
久々というわけでもないのか? それとも一か月以上開けていれば久々と言うべきなのか、なかなか感想に困る、ハイデン王都、お城に来た、ウィードご一行。
「ねえ、姫様に会ってくれるのは嬉しいのだけれど、獣神様にお預かりした、お手紙の方は大丈夫なの?」
俺たちの案内をしながら、カグラが心配したように聞いてくる。
「ああ、あれな。保留中」
「え? 保留って……いいの?」
「いいんだよ。すぐ渡せとも言われてないし、返事の期限を言われたわけでもないからな。いずれ渡せば問題ないわけだ」
「……いいのかなー?」
「疑問に思うのは尤もだが、離婚した夫婦へのモノだから。どう取り扱うべきか、俺たちも困っているんだよ。気になるなら、そっちから働きかけていいぞ。ハイレンを使うとかな」
「「いや、それはダメでしょう」」
カグラどころか、ミコスも一緒に駄目だしされる女神見習いハイレン。
俺も、駄目だと思うけどな。事態悪化しか予想できない。
「時期も悪い。今は大陸間交流の基盤となる外務省設立会議に向けての活動中だ。不用意に手紙を渡して、リリーシュとファイデがへそ曲げて見ろ。ハイエルフの国と獣神の国、最悪はリテア聖国も揺れるぞ」
幸か不幸か、リテアの聖女であるアルシュテールもリリーシュとファイデの存在は知っていて、依存度も高いときたもんだ。
リリーシュが手紙を見て機嫌を損ねないとも限らない。その結果、リテア聖国が大陸間交流不参加なんてなってみろ、今までの苦労が水の泡だ。
こんな爆弾を簡単に渡せるものか。
獣神トラには悪いが、国優先だ。仕方のないことなのだ。
カグラやミコスも俺が言ったことを理解できたのか、文句をこれ以上言うことはなかったが、人として心配をしているのだから、今後の対応を言っておくとしよう。
「そこまで心配するな。一応、手紙の件はルルア経由で、アルシュテールの方にも伝えてある。手紙を渡すタイミングは俺たちだけで判断していいことでもないからな」
そう、リリーシュとファイデのことはどちらかと言うと、ウィードよりも、リテアの問題に近い。
俺が手紙を託されたとはいえ、先の問題も含めて勝手にやっていいことではないのだ。
これは高度な政治問題を含んだ手紙であるということだ。
なので、俺がすぐに渡さなかったのは、夫婦喧嘩が怖かったとかいう話でないのだ。
そんなことを考えていると、目的地に着いたのか、カグラが立ち止まる。
「と、着いたわ。ちょっと待ってね。すみません。ウィード外交官のカグ……」
ドアの前に立つ衛兵に訪問を伝えようとすると……。
「お待ちしておりました。キャリー姫殿下がお待ちです。どうぞこちらへ」
キャリー姫さんの専属メイドさんがドアを開けて迎えてくれる。
このメイドさんも忠誠心高いよなー。
バイデの最前線から、果てはハイレ教会の総本山への殴り込みまで着いてきたからな。
そんな感想を抱きつつ、部屋の中に入ると会議室ではなく、キャリー姫さんの執務室のようで、執務用の机が置いてあり、その机の上には膨大な書類が積み重ねられている。
どの世界、どの時代でも書類無しでは動けないんだなーと実感できて、悲しい限りだ。
「ようこそ。お待ちしておりました。ユキ様」
で、その部屋の主である、キャリー姫はなんでもないように微笑んでこちらを迎えてくれた。
「どうも、キャリー姫。ご壮健そうで何よりです」
「壮健とはいいがたいですけどね。バイデでのフィンダールとの戦闘からハイレ教の裏に巣食う、狂神信者の暗躍まで、その後のハイデンの立て直しには苦労しますわ。おかげで、朝から晩まで書類仕事ですわ」
おや、珍しい。このお姫様が仕事の愚痴とは。
いや、これは疲れているのかね?
「こちらも似たようなものですよ。大陸間交流の仕事は膨大ですから。ああ、でも、こちらはケーキとかはいつでも食べられますので、精神的には楽かもしれませんね。さて、仕事の話の前に、ケーキをお土産に持ってきたので食べてゆっくりしましょうか。日持ちするものでもありませんので」
「……これは、お気遣いありがとうございます。クーノ、お茶の用意と共にケーキの準備もお願い」
「はい。かしこまりました」
ああ、メイドさんの名前はクーノだったな。
そんなことを考えながら、お土産のケーキを渡し、クーノは部屋を出て行く。
しかし、姫さんは疲れているんだろうな。皮肉として俺は姫さん以上に大変だよって返したのに、反応なかったから、自分が愚痴を言っていることに気がついてないのか。
それとも、いちいち返すのが面倒なのか。
「カグラはちゃんとやれているでしょうか?」
「ええ。つい先日も、ハイエルフの国や獣神の国へ挨拶を無事に終えてきたところです。どちらともカグラには興味を示していましたし、悪い感情はありませんでしたから、いい方向へとつながるのでは思います」
「そうですか。それはよかった」
「まあ、問題がないわけでもありませんので、まだまだ会議、話し合いの必要性はありますが」
「当然ですね」
ハイエルフの国の交渉権はおそらく日本人の血を引くカグラが一番有力というのはウィードにとっては問題だし、獣神の国の人嫌いの実態はまだわかっていないからな。
そこらへんがどう動くかわからん。
まあ、ハイデンと両国の関係は、ハイデンと両国が頑張るべきで、俺たちが口を出すのは必要最低限になるだろうが。
「お待たせいたしました」
ちょっとした雑談をしている間に、クーノがお茶の用意を整えて戻ってきたので、のんびりとケーキを食べる。
「はぁ、美味しいですね。ずっと食べていたいです。まったく、ウルサイのばかりで……」
「あ、あの、姫様。やっぱりまだ王宮の方は?」
「ええ。空いたポストに入り込もうと、必死よ。実力がなければ務められるものではないというのに。ついでに、お母さまの幽閉解除にも反対する輩がいる始末よ」
「王妃様が戻るのを嫌がるのですか?」
「今では前王妃だけどね。私も本来であれば、姫ではなく、前国王の娘なんだけど、叔父様はどうしても舞台から降りることを許してくれないのよ。まあ、表向き、私やお母さまは旧王家派のまとめ役。叔父様は現王家派という立場でお互い管理しているのだから、当然よね。私を降ろそうとするなら、権力の独占を恐れて旧王家派が、逆にお母さまの幽閉を解くということは、現王家派の失態を認めることになりかねないですから……」
ああ、ポストの空き争いは、その勢力図のわかりやすい縮図ってわけだ。
こりゃ、長引くな……。
「とはいえ、このままずっとお互い喧嘩をしているわけにもいかないので、そろそろお母さまの幽閉を解いて、狂神信者による暴走を恐れて匿っていたことと、叔父様や私たちが手を組んでいたことを話そうかと思っています」
「混乱が起こらないか?」
「ええ。混乱の被害を最小限に止めるためにも、ユキ様たちにご協力いただきたいのです」
ケーキを喋りながら、あっという間に3ピース食べて、真剣にこちらを見つめてくるキャリー姫。
普通に食べてたように見えるが、女性って言うのは甘いものに対しては超能力を発揮するな……。
俺の言葉遣いを指摘することなくお願いに入ってきたから、これは内々にってことか。
「しかし、迂闊にこれ以上俺たちウィードがハイデンの国政に口を出せば、それこそ問題にならないか?」
「いえ。ユキ様たちには会議に出席してもらうだけでいいのです。今後のハイデンにとって、他の大陸への伝手があるユキ様、ウィードの皆様方との協力は必要不可欠です。その会議に参加するかがまず第一の選別で、その会議の中でユキ様たちとどう話し合うかが第二、そして、その会議からどのように我が国の発展に寄与するかを聞いて見定めるのが、最終と言ったところでしょうか。国の重役に就きたいというモノたちがこの程度のことを判断できないのでは、重要なポストに就けるわけにはいきませんからね」
やっぱり、俺たちを出汁にして敵味方をはっきりさせる予定だったか。
というか、ついでに、ポストの穴埋めも決めるつもりか。
怖いわー、この姫さん。俺の予想以上に締めてくるな。
「条件はどうする? 無料で協力していますってのは、問題があるだろう?」
とはいえ、タダで協力するわけにもいかない。
ウィードはお願いすればタダで協力してくれるなどと思われてはいけない。
今後の大陸間交流で舐められるからな。
ハイデンへの協力も、今までは中級神の残党というのがあったから、低価格で協力していたわけで、今後もずっとというわけにはいかない。
それは、キャリー姫さんもわかっているのか、俺の要求に文句を言うことはなかったのだが……。
「正直、私たちとしては、ウィードに何をどうすれば、ウィードの協力を得られるのかというのは測りかねています。いままで、さんざん手伝ってもらって、報酬はお渡しできる限り渡しましたし。まあ、公にしていいのであれば、色々利権などはありますが……」
「そんなの貰っても、ハイデンの貴族から恨みを買うだけだろう? 王家の立場も悪くなる」
「ええ。内々に協力していただく意味がなくなりますので、ばれない程度、つまり、私や叔父様の個人的な報酬でというと……」
うーん。と考え込んでしまう姫さん。
ここは助け舟を出すか。
「別に今の所早急に支援してほしいことはないから、後日何かあったときの為に貸し一つってことでいいだろう。ハイデンが安定しないと、協力した意味もないからな。負債をきっちり返してもらうためにもな」
「そういっていただけるとありがたいですわ。しかし、気が付いたら負債が膨大になっていそうですわね」
「そこらへんは、過剰になりそうなら注意はするが、そんなにウィードに頼り切りにする予定はないだろう?」
「ええ。といいたいですが、現状は頼りきりで、何をいっても説得力はありませんわね」
「一応、交易都市のバイデ譲渡は正式に文章にしたためたみたいだし、そこまで気負わなくてもいいと思うぞ」
今の所、報酬を保留にしていて、借金にはしていないのだ。
払うべきものはちゃんと支払っているので、ウィードとしてキャリー姫さんに貸しをつくることに対してはそこまで心配していない。
ちゃんと返済してくれるという信頼があるからな。
「では、その信頼にこたえるためにも、今日の会議でしっかり選別させていただきましょう」
「おう。頑張ってくれ」
「ええ。愚物はさっさと処分してしまうにかぎりますわ。足を引っ張ってばかりですから」
そうにっこりと告げるキャリー姫さんに、カグラたちは絶句する。
いやー、微笑みなのにマイナスに傾くってのはなかなかないよな。
「では、もうすぐ会議ですので、もう少々お待ちください」
こうして、キャリー姫の選別会議が始めるのだった。
キャリー姫の策謀健在。
そして、ふるいにかけられる家臣たち。
彼女の目に留まる者たちはでてくるのか!!
新番組「一人ぼっちのお姫様」が始まります。
いや、嘘です。




