第699堀:報告と次の目的地
報告と次の目的地
Side:セラリア
昨日の夕方、ハイエルフの国、獣神の国へと訪問していた夫たちが戻ってきた。
まあ、いつも夜には戻ってきていたから、寂しくはなかったのだけれど、表向きには昨日戻ってきたということで、お迎えをしないといけない。
夫が公務から無事に戻ってきたのだから、妻である私が迎えないと、周りが仲を怪しむかもしれないというわけ。
「とはいえ、お迎えの度にお祭り騒ぎはどうなんだろうな」
「仕方ないでしょう。国民が自主的にやっているんだから」
「まあなー。しかし、胃が重い」
「それは私も同じよ」
問題だったのは、そのお迎えに際して、国民の一部がお祝いとして小規模お祭り騒ぎとなったのだ。
しかし、別に違法性や問題があったわけでなく、ちゃんと申請して、許可が下り、商業地区での一部のお店と屋台で安売りが行われた程度だ。
まあ、勝手にやったからと言って、無視するのはアレだし、顔をだしたのだが、おかげで貢物を沢山もらったというわけ。
そして一番厄介だったのは、ユキが屋台の食べ物に大いに関わっていたことで、食べ物関連の貢物というか、味見を沢山せがまれたこと。
「太るわ」
「だな」
お陰で朝になっても胃が重い。
ドッペルで食べればよかったと深く後悔。
あのお祭りに参加した他のみんなも激しく顔を縦に振る。
私たちはともかく、トーリたちは妊娠中に増えた体重をやっと元に戻したばかりで、悲壮感が溢れている。
太るというのは女性にとっては死活問題なのだから。
「ま、そこは鍛錬を増やしてダイエットをするとして。改めて報告を聞きましょう」
そう、本題は屋台で食べすぎたことではない。ハイエルフの国、獣神の国での話し合いの報告を聞かなくてはいけない。
大陸間交流に対する大事な事だから。
「わかった。今回の訪問はほぼ成功と言っていい。細かい報告書は後日提出するが、毎日日報は上げていたからわかるだろう?」
「ええ。両国とも、意外と大陸間交流に前向きなのには驚いたわ」
正直な話、ユキが赴いたところで、何か変わるとは思っていなかった。
下手すると今までの経歴から門前払いも予測していた。
私たちとしては、一度赴いたという実績が必要なだけで、そこまでの進展があるとは思わなかったのだ。
「とはいえ、ルルアから聞いた伝説の勇者の名前を聞くことになるとは思いもよらなかったけどな」
「そうね。かつて勇者様が魔王を大陸中央の山脈の窪地に追い込んだっておとぎ話は聞いたことあるけど。まさか、当事者がまだ生きてたとは思わなかったわ」
しかも、その当事者がハイエルフの国の女王。
ミヤビ女王の話をユキから聞いたときは驚いたし、その深い愛に敬意を持ったわ。
夫と共に作った国を、必死に今まで守ってきた誇り高き女王。いつかあって話してみたいわ。
「まあ、その勇者関連で、あの時は日本人の血を引くカグラが非常に役にたった」
「あう……。浅慮で申し訳ありませんでした」
「いやいや、別に責めてるわけじゃない。あれは仕方なかった」
「ええ。話を聞く限り、どうしようもないし、結果としてはカグラがいたからこそ、いい方向に向かったのだから、カグラを連れて行って正解よね。しっかりと、ハイデンにはお礼の手紙を認めるわ」
「はっ。感謝いたします」
これで、カグラは新大陸の外交官以外での価値がでてきた。
ハイエルフの国がカグラ個人を認めてくれたのだが、今後の立ち回りで非常に有効でしょう。
特に新大陸では、エルフや獣人が精霊の巫女と呼ばれているし、その中で、エルフの中のエルフであるハイエルフの女王と親交ができたのは、国として諸手を挙げて喜ぶべきことよね。
特に、カグラをウィードへの外交官へ押し込んだ、キャリー姫の立場は確固たるものになるでしょう。
……ソウタとエノルをこっちに引っ張ってきたお詫びって意味もあるけどね。
「ま、そういうことで、ハイエルフの国は今回の大陸間交流に関してのロガリ大陸連合への参加には前向きだ。まあ、今後の会議でどうなるかはわからないけどな」
「前途が明るいってだけでもいいわよ。で、次は獣神の国ね」
「ああ、あっちも、上の方は問題がなかった。獣神と国王どちらもな」
しかし、そういったユキが困ったような表情をしている。
理由は既にわかっている。
「……でも、国民感情が不味いかもしれないと」
「ああ、俺たちの案内というか、ワイルド国王の護衛である近衛兵の1人が、トーリやリエルのチョーカーを見て奴隷と見間違って、えらく錯乱していた」
「近衛兵がそんな態度。ありえるとは思えないんだけど、ユキたちがそういうのなら、事実なのでしょうね。うちでそんなことすれば……」
私がそういって、クアルに視線を向けると……。
「間違いなく、極刑です。主やお客人を侮辱するようなことをすれば、近衛の名折れ所か諸外国へ恥をさらすようなものですから。まあ、ワイルド国王が不審に思い審問をするというのも理解できます。近衛兵に選ばれるものが、そのようなトラウマで暴れる方がおかしいのです。普通であればその前に近衛から外されるでしょう」
「そうよね。何か裏があると思うわ。まあ、私たちが口を出すことではないけれど」
「まあな。無礼を働いたとは言え、言葉だけだし、国王からちゃんと謝罪と詳しい調査をすると言っているからな。大陸間交流にも前向きだし、俺たちが無理に首を突っ込む必要性はないと思った」
「ええ。その判断で間違いはないと思うわ。だけど、町の訪問でのこと……」
大陸間交流はいいとしましょう。
だが、それとは別に大問題があった。
「トーリの父親の件は、トーリがもういいと言ったから、何もしなかった」
そう、トーリの父親と町の視察中に出くわして、トーリとリエルに危害を加えようとしたのだ。
内容も聞くに堪えないもので、トーリを獣神の国の貴族の妾にして、リエルは私刑ときたものだ。
よく、我慢できたとおもう。
私がその場にいたら、スパッと首を落としていたに違いない。
親として人としてクズだ。同じ人として認められない。
「……トーリ、リエル、それでよかったの?」
「はい。あの人たちは家族でも何でもありません。私たちが手を下すのももったいないです。勝手に自滅します」
「あ、あの、そ、その……」
トーリは全身から怒りを滲ませて発言をして、リエルは可哀想なぐらいおびえて言葉を発することさえできないでいる。
ははっ、リエルをここまでおびえさせるクソは、やっぱり殺した方が世のためだと思うわ。
とはいえ、トーリの言うことも尤もね。
「わかったわ。トーリの言う通りに放って置きましょう。だけど、ウィードにきてトーリとリエルをいじめるのなら、法にのっとって処刑するわ。それはいいわね?」
「はい」
「……うん」
よし、言質はとれた。
バカがウィードに来たらそっこーで始末しましょう。
「ま、トーリの父親だけって考えるとそれでいいんだが、その過程で出てきた男爵とか貴族の件だ」
「そうね。近衛兵が騒いで、貢物を求める貴族がいる。何かトラブルの気配はするわね。だけど、これについては私たちの仕事じゃないわね」
「ああ、後日、ワイルド国王からの話を聞いて、対策するぐらいだな。今は会議や調査の連絡待ちってところだ」
これで二国の報告は終わり、一旦お茶を飲んで一息つく。
「ふぅ。全体には、細かい問題はあれど、スムーズにいっているわね」
「そうだな。そういえば、スティーブ達の方はどうなった?」
「スティーブたちの方はこの一週間ほどでジルバ軍と合流して、散歩がてら、敵が籠る王都に侵入して、散々に暴れたらしいわ」
「……早かったな」
「あなたの予定通りでしょうに」
「いや、もうちょっと、てこずるかと思ってたんだが。R魔剣を装備した1000人近くの兵士だろう?」
夫の気持ちもわからないでもないが、その面倒でてこずりそうな相手に、正面から挑むような真似をしないのが、貴方の鍛えたスティーブ達でしょうに。
「夜の間にステルスで忍び込んで、井戸に遅効性の毒を仕込んで無力化してから、R魔剣を含んだ物資を奪い、門を開けて軍を招き入れて終わりよ」
「セオリー通りだな」
「ええ。ジルバ軍の方は大喜びだそうよ」
「そりゃな」
井戸の遅効性の毒のおかげで、小国連合軍は機能不全を起こして、戦闘できる者はほぼいなくなって、あっという間に制圧された。
これを喜ばない国はないでしょう。
無血開城と言っていいのだから。
「これで、ジルバの地方の懸念事項はなくなったと言っていいわね。あとは魔剣の数の確認だけど、スティーブの独自調査では、イフ大陸での紛失分は全部あるようね。ま、ジルバの報告からどうなるかわからないけど」
「じゃ、小国の連合軍はなんで籠城していたのかってことになるな。援軍もなしでどうやって勝つつもりだったんだか」
「さあね。そういう詳しいところは後日報告があるでしょう」
こういう小国の思考は物凄い方向に向いていることが多いし、想像するだけ無駄よね。
「となると、俺たちは引き続き大陸間交流の方に専念できるわけだが、何か優先するべきことはあるか?」
「今のところはないわね。外務省の設立会議の根回しは終わっているし、あとは開催を待つばかりね。細かい取り決めなんかは、ロガリ、イフ各国で集まって会議しているみたいだし」
「最後に顔出して、取り決めの内容を聞いて、事前告知して答弁を決めておくぐらいか」
「そうね。それぐらいね」
「じゃあ、あとはのんびり外務省設立の為に書類仕事に邁進しますかね」
私がそういうと、カグラたちの顔色が一気に悪くなる。
わかりやすいわね。
「そういえば、ヴィリアたちはどうだ?」
「問題ありませんよー。ねえ?」
「はい。毎日きちんと仕事は終わらせています」
「……ま、良くも悪くも慣れてきたわ」
「お兄、褒めて」
ラッツから駄目だしがでないってことは、ちゃんとやることはやっているようね。
あとで具体的なご褒美は渡すとして、今は夫が頭をなでているのでいいでしょう。
わしゃわしゃ。
「お兄様。もうちょっと丁寧に」
「髪が乱れるわよ」
「んー。これぐらいがちょうどいい」
2人は文句を言いつつも大人しくわしゃわしゃされているんだけど、もうちょっと素直になればねー。
ヒイロは言わずもがな、犬耳には私も触れたい。
「そういえば、カグラたちを見て思い出したけど、一応、大陸間交流の件、ハイデンやフィンダール、ハイレ教の方に伝えなくていいのかしら?」
「うーん。正直微妙なんだよな。かれこれ、ハイレ教会の事件から一ヶ月は経っているが、まだ、一ヶ月なんだよな」
そう、色々濃い日々を送って時間の感覚がおかしくなるが、未だに一ヶ月しか経っていないよね。
カグラたちの故郷である新大陸では、ハイデンVSフィンダール、そしてハイレ教での事件があったばかり。
というか、下手をすると、未だにハイレ教の裏に隠れていた狂王、狂神の崩壊をしらない信者連中も多くいるだろう。
なにせ、電話、コール一本で連絡できる場所じゃないのは私もわかっている。
「でも、向こうの状況は聞いた方がいいでしょう? こっちの状況を伝えるのも必要でしょうし。今はカグラたちを経由してだけよね?」
「まあな。下手に向こうに顔出したら面倒に巻き込まれそうな気がするしな」
夫の言うこともわからないでもない。
未だに落ち着いていない新大陸の情勢。
そこにまた顔をだせば、何かしらトラブルになる可能性は否定できない。
「でも、大陸間交流に噛ませる話もあるし、無視ってわけにもいかないでしょう?」
「そうなんだよなー。はぁ、仕方がない。バイデ、キャサリンの様子を見に行くってことにしておくか」
「では、キャサリンさんに連絡とってきますね」
そういって、バイデ領主補佐のシェーラが素早く動き出す。
新大陸では、シェーラの精霊の巫女って言う立場は絶大なのよね。
「あとは、ロガリ、イフの大陸間交流、外務省設立会議の日程を決めてしまおう。それを向こうに宣言しておけば、無理なことは言われないだろう」
「そうね。それは賛成」
期限を設けておかないと面倒なことになりそうなのは私も同感。
「じゃ、カグラたちは、ハイデンの方に連絡をお願いするわ」
「わかりました」
そういうわけで、夫たちは再び新大陸へと向かうのであった。
「で、私は結局ウィードで書類仕事か……」
「陛下、我慢してください」
私もそろそろ夫とまた冒険にいきたいのよねー……。
ということで、トーリの親父のことはウィードに来たら処刑ということで、あとはワイルド王の手腕に期待。
そして、ユキたちは再び新大陸へ。
キャリー姫たちはどうなっているのか?




