第688堀:たのしいおはなし
たのしいおはなし
Side:ユキ
とりあえず、俺たちは無事に? エリスの故郷の村へとやってきた。
そう、俺たちは無事だからいいとしよう。
例え、エリスが村人の男性を殺しかけていたとしても、長老が特に問題にしなかったのだから、何もなかったのと同じだ。
というか、エリスの行為になぜか、村のエルフたち、とくに若い? 男性や女性から歓声が上がっていた。
まあ、事情を聞けば納得の話だったんだが。
どうやら、エリスに首をつかまれて殺されかけていた、村人Bだが、名前はバカスというらしく、村の若者の中では一番頭が冴えているらしく、魔術の腕もそれなりで将来は有望視されているらしいが、若者らしい行動で、村の同じ年代のエルフの女性を喰っては捨てを繰り返していて、かなり反感を買っているらしい。
しかし、これはあくまでも男女の関係であるので、一概にバカスだけが悪いというわけにもいかないし、将来は有望ということで、年長たちは具体的な行動を起こしていなかったそうな。
そんな中、俺がというか、エリスが戻ってきて、昔から俺のエリスに目をつけていたバカスが、次の獲物と言わんばかりに手を伸ばしてきたそうな。
それで、ああなったと。
うん。名は体を表すというが、文字通りのようだ。
「ウィードの王配ユキ様。この度は、村の若者が失礼をいたしました。平にご容赦を」
そういって、長老や年嵩のエルフたちは深々と頭を下げる。
「いえ、別に私に危害を加えられたというわけでもありませんし、妻のエリスが過剰に反撃したようで、こちらこそ申し訳ない」
俺もそういって頭を下げるが、エリスは頭を下げようとはしていない。
普通なら怒るところだが、地元だし、相手が相手だしなー。
どうしたもんかと思っていると、エリスが口を開く。
「ユキさんや長老が謝る必要はありません。あのバカスが悪いだけですから」
いや、そりゃそうだけど。
長老としては、村の管理者として頭を下げたのであって……。
そこで閃いた。エリスにしてはどうも変だなと思っていたら、そういうことにしろってことか。
「旧友の戯れのようでしたし、特に何も気にすることはないみたいですね」
「はい。ただ、少し加減を間違えてしまっただけです」
「……はぁ。ま、そういうことにしてくれるならありがたい」
「で、長老。ここに来た件ですが……」
「ああ、わかっているよ。ハイエルフの国の事だね」
「はい。ウィードで、いや、ロガリ大陸全体で大陸間交流が始まろうと、いえ、もう動き出しています。その関係で、イフ大陸、そして新大陸では、特殊な立場にある獣人やエルフなどの……」
「エリス、いいよ。話は分かっている。混乱を避けるためにも、エルフや獣人などの故郷とされている両国への挨拶と説明がしたいんだよね?」
「はい。そのためのご助力を頂ければと思い。村に戻ってきました」
どうやら、話はしっかり理解しているらしく、バカスの件で時間は取られたりはしたが、案外すんなり話が進みそうだ。
「助力ね。その口ぶりからするとハイエルフの国にはいったようだね」
「はい。しかし、エルフの私に対しても、門を開くことはありませんでした。リテア聖国からの支援は得られますが、訪問するまでに時間がかかる可能性があるのはどうかと思いまして」
「ふむ。話は分かった。エリスの言うように、いくらリテア聖国の頼みだとは言え、ウィードに門を開くまでに時間がかかるという予測は間違っていない。というか、むしろ相手を硬化させかねないね」
「硬化? どういうことでしょうか?」
大国が関わると逆効果? どういうことだ?
「まあ、それはハイエルフの国で確認してくるといい。私からはなんとも言えない。そして、その理由を知らなくても、挨拶と説明程度なら私からの紹介でさせてもらえるだろう」
なんか妙な言い回しだな。
「何か、問題でもあるのでしょうか?」
俺が質問してみると、長老はこちらを見て笑い……。
「そりゃ、人様をほとんど招かないハイエルフの国だ、問題の一つや二つはあるだろうさ。それを、他国の者に話して聞かせるというのはなかなかあるもんじゃないだろう?」
「確かに……」
当たり前の答えを返された。
自国の問題を他国の者に相談するなんてことは、基本的にありえない。
自国の事は自国で解決するのが当たり前だし、他国の手を借りるというのは後々色々問題が出てくるのだ。
それは、イフ大陸でのことでもよくわかる。
俺がそう納得していると、エリスが俺の為なのか、詳しく話を聞いてくれる。
「あの、長老はその問題というか、理由をご存じで?」
「知っている。が、私が話すべきことではないし、私はそのためにこの村を構えたと言ってもいい」
「え? この村は、ハイエルフの国の指示で作られたということでしょうか?」
「これ以上はなにも言えない。それはエリスやユキ様がハイエルフの国に行って教えてもらうといい。その資格があるのならば、きっと教えてもらえるだろう」
「この話の最後に一つだけ。その理由は私たちが危険になることもあるのでしょうか?」
「人の秘密を暴くことは褒められたことではない。国の秘することならば、そういう対応もあって当然だろう」
どっかのRPGの思わせぶりな会話になってきたな。
だが、これ以上無理やり聞いても口を割るとも思えないし、あえて村との関係を険悪にする理由もないので、俺は長老の言葉に嫌な予感が湧きつつもこれ以上、この件についての言及はしなかった。
しかし、エリスが長老と敬意を払うだけあって、物凄く口が上手い。
いや、当たり前のことを言っているのだが、相手を納得させる上手い言い回しだ。
村の長をやっているだけはあるということだな。
「ご協力に感謝いたします。お礼というのはアレですが、何か村などでほしい支援などはありませんか? 妻のエリスには世話になっていますし。あ、こちらはうちで作っているお酒です。長老個人への贈り物として持って来たので、遠慮なさらず」
「ありがとう。お酒はありがたくもらうよ。しかし、村への支援ね。というか、エリスはそんなに役に立っているのかい?」
「ええ。ウィード、そして俺には欠かせない存在ですよ」
もう、本当に嘘偽りなく。
ウィードの財政を握る女傑。代表は譲ったとはいえ、未だにウィードどころか、各国での知名度はテファよりも上だ。
更に、俺たちの本来の仕事である、魔力枯渇関連の財政管理もエリスを中心にやってもらっている。
新大陸でのDP散財はかなりきつかったからな。その補填をやってもらっているところだ。
「ふぅむ。本当みたいだね。エリスの胸が気に入っただけって顔じゃないね」
「もう、長老!! ユキさんはそういうエッチな人じゃありませんよ!!」
エリスがそういうと、なぜかカグラたちやエオイドたちも含めて全員が頷く。
いや、普通にエリスのおっぱいは好きだけどな。
紳士と思われていることに喜べばいいのか、ここは?
「はは、すまないね。エリスが聡明なのは知っているが、その胸に普通は目が行くものだろう? 私だってそうなんだ。男なら当然だろう? あのバカスだってあれだけ迫っていたんだからね」
「長老の言う通り、初めて会ったときは胸に目が行きましたよ」
「えっ!? そうなんですか!?」
なぜか、エリスが意外そうに声を上げて、他の皆も、特にトーリたちは意外そうに首を傾げている。
「んー? なんか不思議な反応だね。ユキ様以外が驚いている。一体どういう馴れ初めだったのか聞いても?」
「別に構いませんよ。エリスたちと初めてあったのは……」
ということで、懐かしのエリスたちとの出会いを話すことになった。
いや、本当に懐かしいね。今ではこうして普通に横にいるけど、最初、エリスはダンジョンから出て行くかもとか思ってたしな。
「ははぁ、なるほどねー。エルジュ様の指示の下、ダンジョンの中に村を建設ね。しかも女性を中心に、戦火で家や家族を失った者の為にと、最初に選ばれたのが、エリスや後ろのお嬢ちゃんたちだったというわけだね」
「ええ。ということで、最初はあまり感情を顔や口に出すということはなかったかもしれませんね」
「確かに、ニコニコはして優しかったですけど、得体がしれませんでした」
エリスの言葉にまたも全員頷く。
まあ、危険地域であるダンジョンにいる男だしな。
警戒して当然だ。
ま、それは俺にも言えることなんだが。
「それは確かに、色恋とはいかないね。しかし、奴隷になってたとはね。よく無事でいられたものだ」
「運命です。私は、私たちはユキさんと出会うべくして出会ったんです」
「……なるほど。エリスが本気でユキ様を好いているのはよくわかった。だが、あのエリスがここまで色ボケになるとはね」
否定しようがないな。エリスは夜になると肉食獣になるから。
「ま、悪いことではないさ。子供もできたようだし、エルフはウィードという新しい場所で多くの種族と共に繁栄していくだろうさ。と、そうだ、話がだいぶそれたが、支援をしてくれるというのならば、一つ思いついたことがある。言ってみてもよろしいか?」
「構いませんよ。でも実現できるかは聞いてみないとわかりませんが」
「それは当然だね。まあ、そこまで難しい話ではないと私は思う。お願いしたいことは、村で望む者をウィードに連れて行ってほしいんだよ」
そのお願いが意味することが分からず、俺は首を傾げる。
「長老。お願いの意図するところがわかりません。ウィードは正規の手続きを踏むのであれば、誰だって来訪できるようになっています。別に厳しい審査があるわけでもありませんし、ウィードからこの村まではそれなりに距離があるとはいえ、道中に死を覚悟するような場所はなかったと思いますが?」
そう、俺たちでウィードに連れて行かなくても、別に勝手に来ればいいという話だ。
望む者ということはウィードに行ってみたいという希望を持つ者たちだ。
そういうのは勝手に来るだろう。
俺の言うことを理解しているのだろう、長老や他の歳を重ねたエルフたちは顔をゆがめるというか、微妙な顔つきになる。
何か、裏があるのか? と思っていると、エリスも苦笑いをしながら俺たちに説明をしてくれる。
「えーっと、何といいますか。私のような性分のエルフは珍しいんです。もちろんウィードには多くのエルフが住んでいますが、それでもおそらくロガリ大陸に住むエルフたちの総数からすれば一割にも満たないと思います。残りのほとんどはこの村のように一族で集まって過ごしているのが多いですね」
あー、言いたいことがわかってきた。
「お恥ずかしながら、エリスの言う通り、出不精と言いますか、知識だけはそれなりにあるので、奴隷となる可能性もありますし、盗賊や魔物などを怖がって、危険を冒してまで村から離れて旅をしようという者はなかなかいないのです」
少し皺が滲んできたエルフの男性がそう気まずそうに言う。
やっぱり、……エルフは引きこもりだったのか。
いや、種族柄仕方のないような気もするけどな。
「この村を作ったのはハイエルフの国からの秘密の指示があったとはいえ、エルフとしての種を繁栄させることも目的の一つではあるんだよ。子供が生まれないと、村はいずれ無人となるからね。でも、今では子供がなかなか生まれなくなり、余所からエルフや他の種族を迎え入れようという話をしていたところなんだけど、まあ、辺鄙な村に種馬として来てくれる男はそうそういないし、エルフということで奴隷の関係も疑わなくてはいけないから、なかなかうまくはいかないんだよ。他にも色々問題があるしね……」
そりゃそうだろう。
種馬でエルフハーレム。
男なら喜びそうだが、それを大々的に募集するわけにもいかないし、信頼できる相手なんてそうそういないだろう。
しかも男女の関係だ、上手くいくなんて保証はないし、元々村にいたエルフの男性との確執も出てくるだろう。
「だから、安全を保障できる俺たちと一緒にウィードへということですか?」
「そうだ。運が良ければ、エリスみたいに、ウィードでいい相手を見つけて連れて戻ってくれれば言うことはない。ま、ウィードでエルフを増やしてもらっても何も問題はないんだけどね。色々な種族と出会い、共に生きていくことで学ぶことも多いだろう。こんな村にいるよりずっとね。まったく、私もこんなにエルフが外に出たがらない生き物だとは思わなかったよ」
長老がそういうと、同席している年嵩のエルフたちが苦笑いをする。
どこも色々問題を抱えているんだなーと、なんか悲しくなった。
地球ではエルフは人気の幻想の種族なんだけど、ロガリ大陸では社会進出につまずいている、限界集落って感じだ……。
まあ、そんな感じで、目的は達成して、夜は更けていった。
あ、ちなみに、ウィードへの訪問というか、観光旅行はその後、敏腕エリスやラッツによって瞬く間にまとめられ、観光事業の一つとして確立することになるのは、また別の話。
その際、多くのエルフの村が観光旅行プランに喜んで申し込みをしているのを見たエリスは微妙な顔をしていたという。
「頭でっかちなだけの、ヘタレエルフなんて滅びてしまえばいいんですよ!!」
「はいはーい。エリス。落ち着いて、落ち着いて」
「ラッツもそうおもうでしょー? うんめーの人を、観光旅行で見つけようとかいう、軟弱なかんがえではなくてですね、こう押し倒すいきおいで……」
「まあ、エリスや私たちとお兄さんの関係は特別ですしねー……」
「でしょー? うんめいはー、自分でみつけるのが……」
とまあ、こんな感じで飲んで愚痴を吐いているエリスが度々目撃されたとかなんとか。
ハイエルフの国の秘密とは?
そして、エルフたちは基本的に出不精でした。




