第687堀:たのしいさとがえり
たのしいさとがえり
Side:エリス ユキの奥さん それ以外の役職は基本的にオマケ
久しぶりの帰郷、里帰り。
理由は、ハイエルフの国との繋ぎの為とはいえ、ユキさんを故郷に連れていけること、そして、久しぶりに村の皆の顔を見れるということが楽しみだった。
道中、ユキさんは好意のつもりなんだろうけど、カグラたちにとってはキツイ魔物退治なんかをしたり、車から見る懐かしい風景はやっぱり変わりないと思ったりしていた。
「そういえば、エリスは村を出てからどれぐらい経つんだ?」
不意に運転しているユキさんからそんな質問が飛んでくる。
「えーっと、既にウィードで5年近く経ちますし、大体8、9年ぐらいでしょうか」
「3、4年は旅していたわけか。そして戦争に巻き込まれたか」
「はい。滞在していた村が襲われて。まあ、今の私があるのはあの事件のおかげですから、襲われた村の人たちには悪いですが、よかったと思っています」
「そりゃ、村の人たちにとっては良い出来事じゃないからな。でも、エリスとの出会いの切っ掛けだ。悪い出来事だけじゃなくて、こうして幸せなことがあったのも事実だな」
「はい」
そう、確かに村の人たちは不幸に見舞われたし、あの時の私もこれで終わりかと思った。
だけど、それからの私の人生が一変したのは、ウィードの人ならだれでも知っている。
街を、国を興した聖女エルジュ、そして戦姫セラリアに見いだされた才女たち。
それが、私たち最初の9名。
エリス、ラッツ、ミリー、トーリ、リエル、カヤ、ラビリス、アスリン、フィーリア。
その真実は、ユキさんが裏で手を引いていたんですけどね。
奴隷になってこのまま適当に弄ばれて死ぬと思っていた。
だけど、そんな時あらわれたのは、モーブさんたちだった。
一流の冒険者に連れられて、あわよくば村に戻してもらえるかもと思っていたら、連れていかれたのは、誰も知らないひっそりとしたダンジョン。
そして、そこで私は、私たちは運命の人と出会った。
最初の印象はただの人、戦えるかも怪しい線の細い人だと思った。
ところが、実はダンジョンマスターだということ知り、恐怖したこと。
だけど、事情を聞いて、ただの人がダンジョンマスターになったのだということと、その現実的な理想に協力しようと思ったこと。
そして苦労の末、ユキさんの奥さんになって子供もできた。
未だに色々問題はあるが、今の私は幸せの絶頂にあると言っていいだろう。
これからも、ユキさんを支えて、どこまでも歩いてく。
と、そんなユキさんとのラブラブな会話や魔物との戦いで憔悴したカグラたちと話していると、気が付けば、懐かしい村の門が見えてきた。
徒歩や馬だと、3日から一週間はかかるのにね。
もうちょっと、ゆっくりしていたかったな……。
と、いけない。私が動かないと始まらないわね。
「じゃ、ユキさん。私は先に行って話をしてきます」
「ああ。俺たちは、この車で待機してるよ」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
私は車を降りて、門へと近づくと、弓を構えたエルフの戦士たちがこちらを油断なく見つめていた。
「久しぶり、みんな!!」
私が声を掛けると、エルフの戦士たちが私の姿をはっきり確認したのか、敵意が消えていき……。
「ん? んん!? エリスか!?」
「そうよ。手紙は送ったでしょう? 門番のおじさんたちも元気そうね」
「いやー、思ったよりも早かったな。長老から話を聞いたのはつい2日前だぞ。しかも、旅に出て10年と経っていないだろう?」
「そうだな。てっきりあと30年は戻ってこないかと思っていたぞ」
「というか、再会を祝う前に、あの変な乗り物はなんなのか教えてくれないか? 馬もないのに動いている。しかもあれは鉄の塊に見えるぞ」
「「ああ、そうだった」」
やはりというか、車の存在には皆驚いているようだ。
まあ、生き物が牽かない乗り物なんて想像もつかないでしょうからね。
「えーと、あの乗り物自体に危険はないわ。でも、詳しい説明する前に、長老に会わせてもらえる? 一緒に来ている人は、ウィードの王配なの、一度ちゃんとご挨拶しないと」
「あ、そうだったな。今話題のウィードの女王陛下の伴侶が乗っているのだな」
「なるほど。あの鉄の塊の中ならそうそう傷つけられることはないだろう」
車に傷というか、ユキさんにおじさんたちが束になってかかっても傷一つ負わせられないと思うけど……。
まあ、その前に私たちが絞めるし。
「話は分かった。長老に話を通してくると良い。案内はいるか?」
「いえ。いいわ。あ、一つ言っておくけど、あの人たちに危害を加えないようにね?」
「誰が国際問題なんぞにするか。心配なら、早く長老を連れてきてくれ」
「わかったわ」
私はそう話をつけた後、一度ユキさんに手を振り、長老を呼んでくると言って村の中に入って行く。
「うわー……、変わってないわね」
それが村に入ってからの第一声だった。
良くも悪くも変わっていない我が故郷。
年季の入った木造の家が立ち並び、村の中央にある井戸で水浴びをしている女性たちがいる。
「そっか、お昼は女性の時間よね」
ウィードでの生活のおかげで、すっかりお風呂という文化が定着した私にとって、何の仕切りもない場所で、男性たちがちらちら見る中で、ただの水浴びをする我が友たちを見ると、非常に可哀想やら、恥ずかしいやら、怒りがこみ上げてきたりする。
そんな感想を持ちつつ井戸に近づくと……。
「ん? あなた誰? どこかで見覚えが……」
「なによ? 10年もしないうちにボケたの?」
「あ、エリス!?」
「そうよ。キーエ」
私が一番仲の良かったキーエがそういうと、他の皆も私のことを思い出したらしく裸のまま話しかけてくる。
「うわー。エリス。久しぶり!! でもないのかな? でも10年ぶりだよね!!」
「戦争があったって聞いたから、心配してたのよ」
「相変わらず、胸は信じられないほど大きいわね。というか、私は胸を見た瞬間エリスだってわかったわ」
「「「うんうん」」」
なぜか、感動の再会から、胸の大きさで私だとわかったとか失礼な話になるが、まあ仕方のないことよね。
他の皆はペッタンコだし。
ユキさんに喜んでもらえて、子供におっぱいを上げること以外は、肩が凝ったり、足元が見にくいだけで苦労だけなんだけどね。
ま、そこはいいとして……。
「皆、悪いけど、水浴びはやめて服を着てもらえるかしら。今から、ウィードの王配を連れてくるのよ。水浴びが悪いって話じゃないけど、流石に裸をさらしたままなのはちょっとね」
礼儀の問題だ。
まあ、ユキさんはどう考えてもスルーするだろうけど、エオイドがおそらくアマンダに殴られるでしょうね。
皆も、私の言っていることはわかっているのか、いそいそと服を着てくれるが、濡れた状態で服を着るから、服が濡れて体に張り付く。下着もないから、体のラインがしっかりと出てしまう。
……これじゃ、逆にエッチィわね。
魔術で乾かしてしまうべきかしら、と考えていると、不意にキーエから質問が飛んできた。
「ねえ。ウィードの王配っていうとさ、風の噂に聞いたんだけど、エリスもその人と結婚したって、本当?」
「え? 本当よ。もう子供もいるわ」
「「「ええーー!?」」」
意外と全員に驚かれた。
「ちょ、エリス、今56歳でしょ!? 子供って大体100歳からって……ふがっ!?」
いけない、いけない。
尤も大事なことを言うのを忘れていた。
私はキーエの顔をつかむ手に力を籠めつつ……。
「いい。キーエ、皆。私は24歳。ユキさんと結婚した時は同じ18歳。いいわね?」
私がそう笑顔でいうと、全員がコクコクと頷く。
それと同時にキーエも離してあげる。
「……あー、旦那さんと同じ年ってことね。わかったわよ。でも、よく子供が出来たわね。エルフとの子供は出来にくいっていうけど」
「愛の力ね」
主に、一日中跨るぐらいの愛の力ね。
「というか、同族でもできにくいわよね。あれから、子供の1人でも増えたかしら?」
「いいや。全然」
「そう」
10年で子供無しか、ウィードなら深刻な問題よね。
でも、エルフは寿命が長いから、あまり深刻にとらえないのよね。
というか、村全体で家族のような感じが強いし、近親婚が多いというか、村だけで完結しているから近親婚だけになる。
そういうところも、関係しているんじゃないかしら?
子作り自体はよくやっているって話は村を出る前から聞いているし、やっぱりそういうところが問題なのかも。
あとで、ユキさんに話してみよう。
そんなことを話していると、キーエが思い出したように口を開く。
「あ、そうそう。エリスが結婚して子供ができたのはいいけどさ。あっちの方はどうするのよ?」
「あっち?」
真剣に何を言っているかわからないといった感じで首を傾げると、キーエはあちゃーといった感じで顔に手を当てながら言う。
「エリスは元から興味なかったよね。というか、元から興味なかったのに、なんで結婚したのか不思議なんだけど。まあ、いいか。ほら、村にいた時のエリスの旦那候補」
「……ああ。アレか」
「そうそう、アレ。エリスの胸は俺のものだーとかいってた。バカ」
私も村にいたころは、村を存続させるために、結婚をという話があった。
まあ、まだ小娘だったし、エルフの出産年齢は100歳以降って暗黙の了解もあったし、旅から戻ってからという話だったが、その時から、私の大きい胸は自分の物だと村で声高々に言うバカがいた。
そもそも、そいつが嫌だから、旅に出るのを早めたって言うのもある。
「別に、放って置いていいんじゃない? 私はもう人妻だし、子供もできた。村に定住することはないだろうし、村の中で別の人を探すことになるんじゃない?」
「あれ? エリスは戻ってこないの?」
「いや、そう簡単に国から離れられないわよ。私は重要な仕事をしているし。あと、ユキさんと離れ離れとかいやよ」
「そっかー。なら、問題ないのかな。ほら、あいつ頭だけはいいでしょう? それで、食い物にされているのが多いんだ」
あのバカは10年の間にクズになっているらしい。
「……長老はなんて言ってるの?」
「うーん。男女の事だし、あのバカの誘いに乗ったってのもあるから、直接的に罰とかはないみたい。まあ、そんなことを言ったら、相性が悪くて離婚して再婚も駄目って話になるからね。ついでに、一応頭がいいことは買われてるから」
はっ、あの程度で頭がいいとか、今となっては笑い種だ。
ユキさんの、地球の人々の研鑽と積み重ねの前にはただの塵芥のような知識のくせに。
と、そこはいいとして、あのバカがいいと思う女性がいて一時的にでも体を預けるのか。
……世の中は広いわね。私にはまったく理解できないし、理解したくない世界だ。
まあ、バカのことはもう私には関係のないことだ。このまま、キーエに別れを告げて、長老の所に向かおうとしていると……。
「おおっ!! その胸は間違いなく、私のエリスだ!! 戻ってきたんだな!!」
……バカがやってきた。
しかも、未だに私が自分の物とか言っているバカだ。
このまま向かってきて、私に触りかねないので、とりあえず事実を言っておこう。
「近寄らないで。私はもう結婚しているの。子供もいるから、バカスとは何も関係ないわ」
私がそう告げると、驚いたような顔をしたが、すぐにまた近寄ってくる。
「ははっ。噂には聞いたぞ。ウィードとかいう小国の王配に無理やり妾にされて孕まされたと。だが、心配はいらない。私がエリスを守ってやる」
……あー、話を聞かないバカだったわね。
話を聞くぐらいなら、今問題になっているわけないか。
さて、どうしたものかと考えていると……。
「その王配は今来ているのだろう。それを私が叩きのめしてやろう。君が旅立った10年で編み出した究極の魔術でだ!! 無理やり作らされた子供の事も気にするな。私が処分してやろう!!」
その言葉に、何かを考える前に体が動いた。
奴の足元に爆発の魔術をぶち込み、奴だけにダメージが通るようにして、浮いたところを首に片手を差し込み掴んで持ち上げる。
「……で、お前は死にたいわけね?」
「ち、ちがっ……」
何が違うの?
私のユキさんとエリアを殺すと言った。
それは、殺してくれってことでしょう?
私の幸せを奪う奴は、神様であろうが殺す!!
私はためらうことなく手に力を……。
「待った、待った。エリス。一体どうしたの?」
「おちついて、エリス」
「何があった?」
気が付くと、リエルたちやユキさんがこちらに走ってきていた。
ユキさんの姿を見て、多少心が落ち着いてくるが、先ほどの言葉が無くなったわけではない。
「それはこいつが……」
だが、同時に冷静になる。
リエルたちやユキさんの前で理由も言わずに勝手に殺しては、私がただの殺人者になってしまう。
こいつが悪だと教えてから処分しないと、と思っていると……。
「あ、あれか、あんな、男のどこがいい……。私の、ほうが、おまえに……」
好都合なことに、このバカがユキさんを見て、貶してくれた。
それを聞いたリエルやカグラたちはすぐに納得してくれて。
「「「殺してよし!!」」」
と言ってれた。
これで心置きなく、正当防衛?でこのバカを始末できると思ったら、ユキさんが私たちを止めに入って……。
「エリスがいつまでもやってこないと思えば、一体何をやっているんだね。また、魔術の暴発でもあった……ってレベルじゃないね。これは、綺麗な魔術跡だね」
「あ、長老」
「「「長老!?」」」
「ん? おや、お客人もいたのか。初めまして、私がこの村の長老を務める。エーデルだよ」
よし、長老も一緒ならこのバカを処分するのにも問題ないだろう。
「長老。何が起こったかは話し合いの席で。それまでこのバカは簀巻きにしますがいいですね?」
「あ、ああ……。まあ、状況から見て何があったかはわかるからね」
「へぇ? そんな問題を起こすとわかっていながら野放しにしたと? 婆、ボケたか?」
「落ち着かんかい。何をどうしたら、たった10年でそんな凄味をだせるようになったのか……」
「ああ、それはもちろん。愛の力です」
そう、愛の力。
それ以外にあり得ない。
「そうかい。噂には聞いていたが、良い相手と巡り会えたようだね」
「ええ」
私ははっきりといい笑顔で答える。
「じゃ、ゆっくりと話を聞こうかね。こっちだよ」
私たちはこうして、長老との面会を果たしたのでした。
里帰りは楽しいこともあれば、嫌なこともある。
まあ、人それぞれだろうけど、良いも悪しというやつ。
皆あるよね?




