第678堀:めでたしではなかった
めでたしではなかった
Side:ユキ
アグウストを訪問して事件が起こったが、予測出来ていたおかげもあって、その日1日の超速解決となった。
いや、予測は出来ていたけど、あそこまでドストレートで来るとは全く思っていなかったけどな。
その馬鹿のおかげで、アグウスト王都内の主権は王家に戻り、反政権の首魁である公爵の家は即時差し押さえられた。
無論、その公爵も俺たちとイニス姫の死闘の末、捕縛されている。(大嘘)
とまあ、色々騒ぎがあったので、当然というか、俺たちが訪問した目的、外務省設立の相談の件は、公式の書類にサインはもらいはしたが、まだ正式に話が出来ていないのだ。
交渉相手の公爵が襲ってきたのだから当然ではある。
普通なら、一度出直しとなるのが当然だが、外務省設立の件は早急に話を進めなければいけないし、問題があるのはアグウストだけでなく、ジルバやエナーリアもである。
その説明もまだしていないので、残る必要があったのだ。
しかし、起こったことは、有体に言って謀反に近い物であり、直ぐに外務省設立の話をできるわけがない。
おかげで数日、アグウストの客間で待機することになった。
だが、そこは我がウィードの転移技術により、必要最低限の待機人員を置いて、他はウィードなどに戻って各自の仕事などをやっている。
因みに、クリーナの娘である秋天と祖父に当たるファイゲルの顔合わせは未だ実現していない。
こっちに秋天を連れてくるわけにもいかんし、ファイゲル爺さんをウィードに連れていくわけにもいかんからな。
あ、因みに、アグウスト内の問題解決の件は、一応各国に即日連絡済みで、経過報告もちゃんと送っている。
そんな感じで、アグウストで待機とはいうものの、忙しく過ごす事5日ほどで、再びアグウスト王との面会することになった。
「お待たせした」
そう言って、俺たちを応接室で迎えるアグウスト王は、この前会った時よりも、げっそりとしていた。
いや、アグウスト王だけじゃなく、宰相さんも、イニス姫も、ファイゲル爺さんも同じようにげっそりしている。
まあ、あんなことがあったんだから、この5日は休みなしの仕事しっぱなしだったろうから、あんな顔になるのは当たり前だろう。
「どうですか? その後は?」
「ああ、とりあえず。王都内での優位は確立した。あとは、公爵領に残っている者たちへの勧告と、領地の差し押さえなどだな。まあ、これは兵の編成や出陣して現地での判断になるので、今すぐに終わる話ではないな。一応、状況を知らせるために早馬が各地に飛んでいるので、抵抗するものはそう多くないとみている。公爵派のトップであるフール公爵に嫡男のヒッキーは既にこちらで押さえているしな。旗を掲げようもないだろう」
ふむふむ。どうやら、問題なく王家の方は事態を収束させているようだ。
まあ、トップの公爵が捕まったのだから、どうしようもないよな。
「では、私たちから、外務省設立の件やその他のことについてご説明しても大丈夫ですか?」
大丈夫だから面会が叶ったんだろうが、一応確認しておく。
「ああ。詳しい話を聞かせてもらいたい」
「分かりました。では、こちらの資料をご覧になってください。まずは1ページ目の……」
そういうことで、俺は他の国でもやってきたプレゼンをアグウストの面々の前でも行う。
「……ということで、外務省を各国に設立し、交流、交易に関しての、統一ルールの制定することで、簡略化、円滑化を目指すことが、この外務省設立の目的となります。何か質問などはございませんか?」
とまあ、1時間半ほどかけて、ようやく説明し終えた。
「……なるほど。これは設立に反対する理由がないな」
「そうですな。陛下。細かい問題点については、これからの会議で決定するとのことですし、今から煮詰めていけばいいのでしょう」
アグウスト王と宰相は特に質問はないようで、外務省設立に関して賛成のようだ。
「こういうことだから、無条件に提案を受け入れると言うだけではメリットにならなかったわけか」
「実に理に適った、組織ですな。今まで仕事に就けないでいる者に対しても新たなる雇用枠となるでしょう。問題があるとすれば、今現在外交官として働いている連中が、どう反応を示すかですな」
イニス姫はともかく、ファイゲル爺さんは、他の国でも懸念になっていることを心配している。
どこでも考えることは同じってことだよな。
「ご理解いただけたのなら、6大国で会議を開いてもらって、外務省に関する諸々を相談して決めていただきたい。ロガリ大陸の方でも会議を開いてまとめる予定ではあります。一応、第一回外務省設立会議についての、議題内容については、こちらの方に抜粋してありますので、会議内容については困らないと思います。まずは、用意した議題を解決して、次の会議へと向かうということでお願いします」
そういって、渡したのは第一回外務省設立会議の議題内容だ。
主な議題内容は、基本的なことを決めようという話だ。
建物はどうするかとか、費用はどれぐらいにするのかとか、そういった感じだ。
細かいのは次回の会議や次々回会議に持ち越しとなる。
「趣旨は理解した。して、この外務省設立会議はいつ行われるのか?」
「それは各国で予定をすり合わせてと言いたいところですが、アグウストと同様に、残念ながら、今現在問題を抱えているところもあります。なので、その話を聞いて、解決の目処が立ってから、予定を組み立てる必要があります」
「ほかの国も? 内紛でも起こっているのか?」
「まあ、色々です。その情報を伝えることも、私たちがアグウストに訪れた理由でもあります」
「なるほど。話していただけますかな?」
ということで、次の資料へと話は進んでいく。
主に……。
・ジルバ帝国の問題。領近くの小国群で大量の量産型魔剣を使った侵略があり、その対処にジルバ帝国が全力に近い形で出陣したいとのこと。そのために5大国が攻めないという約定が欲しい。あわよくば、今後のイフ大陸連合の結束の為に、他国の参戦もありかもしれない。
・エナーリアの問題。聖王家とスィーア教会の亀裂問題。聖剣の所持者が偽物ではないのか? という疑惑の解決に協力してほしいとのこと。こちらは第一回外務省設立会議の時にでもお披露目をすれば大人しくなるのではと、関係者は見ている。
・ローデイ、エクスは特に問題なし。僅かながら、いきなりのイフ大陸連合の結成に驚きと不満がでているが、差し当っての問題は無し。他国の問題解決には、出来うる限り手を貸してもいいとのこと。
・ホワイトフォレストの問題。ここは昔からある亜人への排他的な感情の是正協力。他大陸との交流のためにもイフ大陸連合で、この問題解決はなるべく早くする方が望ましい。大陸間交流でロガリ大陸には普通に亜人が生活しているし、亜人が王族の国も多々ある。そして、新大陸では亜人は精霊の巫女としてあがめられている特殊な立場であり、どちらにとっても、迂闊に差別などをすれば、不評を買うこと間違いなし。だが、早期解決と言っても明日明後日には無理な話ではあるので、第一回外務省設立会議から、これまでより交流を増やしていきたいと提案が来ている。
とまあ、簡単に説明したが、それでも結構多い。
他の国も色々抱えているのだ。
まあ、アグウストみたいに明日にでも自壊して、内戦が勃発するような状況ではないが……。
「ローデイとエクスは……、いや、ローデイだけか。エクスも犯罪組織をのさばらせた件がある。そして、ジルバ、エナーリアはこちらの協力は喉から手が出るほど欲しいはずだ。ホワイトフォレストは……まあ、私たちが協力してやらねばなるまいて」
「陛下の仰る通り。その方向で、今回の問題で迷惑をかけたことの代償にできるでしょう。ローデイの方は、別で色々交渉して、協力に対するお礼をという感じになると思います」
「しかし、ジルバが攻めきれないというのが意外だ。あの量産型の魔剣が大量にあるのはそれだけ脅威ということだな。管理はしっかりしておけ」
「はっ。今回、公爵派が王宮で好き勝手にやっていましたので、改めて、色々確認しております。量産型魔剣の方も、しっかりと調べるよう伝えておきます」
「うむ。そこはしっかり頼むぞ。ジルバのように隣国がというのは、今のアグウストにとっては大きな痛手となる」
そらー、これ以上、荒れるようなことがあれば、アグウスト国内がズタズタになりかねないからな。
戦えないわけじゃないけど、今現在、アホな公爵派との一件で権威、求心力の低下をまねいているから、下手をすれば敵側に寝返ってアグウストの王権をとか思う奴もいるかもしれない。それは致命傷になりかねないから、警戒して当然だな。
「意外なのは、エナーリアの王家と教会側の亀裂だな。どちらにとってもメリットのあることのようには思えないのだが、どこでも部下が勝手にというのはあることなのだな」
「ええ。私たちにとっては耳の痛い話です。まあ、エナーリアの方は、聖剣のお披露目会に参加するということで、決着がつくという目途が立っているぶんありがたいです」
どうやら、エナーリアの件はアグウストのお歴々はあまり重く見ていないようだ。
まあ、お隣どころか反対側の御国の話だし、迂闊に口を挟めることでもないから、こういう反応が普通だろうな。
しかも、アグウストの隣にはヒフィー神聖国もあるし、そう言った意味でも、あまり気にならないのだろう。
「エナーリアの教会で思い出したが、ヒフィー神聖国のことはどうなっている? 公爵派から無茶な要求を突き付けられたという話は届いているが?」
「陛下。まだ、公爵派を押さえて5日しかたっていませんので、ヒフィー神聖国の方へはまだ使者を送ってはいません。内部をしっかり固めたあとに訪問という形になりますね。幸い、公爵派はヒフィー神聖国に武力行使をしておらず、まずは私たちを押さえる算段だったようなので、ヒフィー神聖国に対して、脅し以外の問題は起こってはいません」
「……脅しか、確か、前に起こったことに対しての謝罪として服従せよだったか」
「はい。確かそのようなことだったかと」
「はぁ、ただ謝っただけではすまぬな。以前預かった、ヒフィー殿の杖をお返しするということで足りると思うか?」
「表面的にはいいでしょう。というより、杖はこの際、しっかりとお返ししたほうがよいでしょう。公爵派はそれを見て、ヒフィー神聖国は格下だと、こちらの意志を押し通せると見た可能性がございます」
ああ、そういえば、ヒフィーが暗躍した件をごまかす過程で、アグウストにヒフィーという神聖女が使っていた、お値打ち物の杖をアグウスト王に預けたのだ。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。という意味と、助けていただいてありがとうございますという意味で。
まあ、その実、スペック的には、ナールジアさんシリーズの方が10倍~100倍は性能が上なので、文字通りお値打ち物なだけという、悲しい杖。しかし、回復魔術の効果が上がるのは重宝するので、イフ大陸では貴重な物であることには間違いない。
「なるほどな。あれも今となっては失態の内の一つか。杖をお返しするのと、寄付金を上乗せするか」
「それがよろしいでしょう。幸い財源は公爵派の方から回収できそうですし。迷惑をかけたのは公爵派ですので、責任を取ってもらうのは当たり前かと」
「うむ。そのように取り計らえ」
妥当ですな。
これで、ヒフィーの所の問題は一応解決か。
あとは、エナーリアのスィーア教会の連中と顔を合わせた際どうなるかだよな。
さて、これ以上話を聞くのはやめておいた方がいいだろう。
また、余計な相談されたら長引くだけだしな。
そう思って、席を立とうとすると、兵士が慌てて部屋に入ってくる。
「何事だ!! 今は客人と面会中だ!!」
「申し訳ございません!! ですが、緊急の案件です!!」
イニス姫が兵士たちよりも早くそう反応する。
本当に、あんた女なのが惜しいよな。
と、そこはいいとして、兵士が面会中の王たちの中に割って入るのはただ事じゃない。
一体何があった?
「イニス。よい。して、何があった?」
「はっ!! 申し上げます!! 量産型魔剣を保管していた倉庫ですが、確認したところただの剣とすり替わっていました!!」
「「「何!?」」」
わーお、そう来るか。
まさか、ジルバの所の小国と繋がっているとか言わないだろうな……。
あ、やめとこ。こんなこと考えると事実になりそうだし。
俺は何も聞かなかった。
……ダメですよね? はい、事情を聴きますよ。ちくしょー!!
さあ、消えた量産型魔剣。
それは、ジルバ帝国の小競り合いに繋がっているのか!?
そして、忘れていることはないか!!
イフ大陸で起こったことを思い出すときだ!!




