第675堀:意外にも……
意外にも……
Side:ラビリス
私たちは今、アグウストの兵舎へと降りたったところだ。
前回来た時と同じ場所だ。
予定より1日早くきたおかげ……じゃなくて、行程が早く進み到着してしまったので、アグウストの公爵派の連中は私たちの出迎えの準備をしていなかった。
いえ、当然なんだけどね。
私たちを視認した、えーと、騎士のビクセンだったかしら? その人が慌てて指示をだして、兵士たちが慌てて王城に連絡に行ったのだ。
ちなみに、ビクセンは現王家派に所属してなぜ無事なのかというと、王都の本隊の指揮まで口を出すと、本格的な内戦に発展するので、流石にそこまではしていないらしい。
あくまでも穏便に、現王家の力を削いで、公爵家が次の王権を担うという形がいいみたいって、ビクセンがユキに説明していたわ。
「じゃあ、捕まっているファイゲルさんは無事なんだな?」
「ええ。ファイゲル老師を拘束したのも、ほぼ言いがかりです。あんな罪でファイゲル老師を拘束するのであれば、まずは国の役人どころか、貴族のほとんどを拘束しないといけないですからね。ただの部下へのねぎらいの飲み代を私的流用なんてよくあることです。それでファイゲル老師が罰せられることになれば、他の貴族たちは公爵派に反旗を翻しますよ。今回、このような拘束が出来たのは、現王家が色々失態というか、周りを説得できなかったことが大きいでしょう。それを公爵派が政権、王権を握るために利用した。ユキ様たちとの交渉で結果を得られれば、さらに立場を強くできますからな」
ふーん。あのおじいちゃんは無事のようね。
先行している霧華たちは、既に場所も特定しているみたいだし、あとは私たち次第ね。
まあ、そんな感じで、ビクセンからアグウスト王宮内の勢力関係を聞いていると、ようやく公爵派の連中が兵舎の方へやってきた。
「ビクセン!! 予定通りに着くことすらできない、ウィードからのお客人はどこだ!!」
「はっ、こちらにおられます」
「はぁ? ここにいるのは、女子供ばかりではないか?」
なんともまあ、とんでもない対応があったものだ。
これが訪問した要人に対してとる態度なのかしら?
でも、これを狙った私たちとしてはありがたいけど。
すると、迎えにきた偉そうな男は、クリーナを視界にとらえて近づいていく。
「おやおや。みすぼらしい恰好で、今の今まで気が付きませんでしたが、よく見れば、我が国の姫ではないですか。確か王の養子に強引に入ったクリーナ嬢でしたかな? まったく、このアグウストという大国を相手に、ウィードでしたかな? そんな小国が我らアグウストの手を煩わせることなどあってはいけないのですよ? まったく、そんなことも分からない娘が養子とは言え王族の一員とは、まったく嘆かわしい」
「黙れ。その女子供の中には、ローデイ、ジルバ、エナーリアの外交官に、ランサー魔術学府の学長であるポープリ様もいる。何も知らないで、さえずるな。小物が」
「なっ!?」
「上に報告するぞ? 他の大国の外交官や学長に失礼な態度をとった馬鹿がいると」
「そ、そんな、小娘たちが外交官なわけないだろう!!」
「あら、ご挨拶ですわね。わたくし、ローデイ国はヒュージ公爵家、次女のサマンサと申します。今回、アグウストの様子を見てくることを拝命していますのよ? 証明をというのであれば、こちらの外交官証明書をどうぞ」
「同じく、こんななりだけど、エナーリア聖国の魔剣使いで将軍職をやっているエージル・トムソンだ。まあ、私の場合はよく誤解されるけどさ。その態度はいただけないな。ほら、証拠の魔剣に外交官証明書。それに、そもそも予定よりも早く到着することは悪いことじゃないだろう?」
「だね。クリーナ。君の先生としては、教え子にこんなことは言いたくないけど、こういう使者はどうかとおもうよ?」
「ん。私から見ても恥。公爵派というのはこういうアホばかり?」
「ぐぬぬぬ……」
「唸る暇があれば案内しろ。お前はただの案内役」
クリーナは随分お怒りのようね。
ここまで辛辣に命令を下すところなんて初めて見た。
まあ、それも当然。
私たちのユキの邪魔をするんだもの。
クリーナのように、約束を破ったことに対しては、イニス姫に怒りを向けることはないが、イニス姫の周囲、現王家派が配下をここまで抑えられないことに怒りを感じている。
そして、アグウストに着いてやって来たのがこの公爵派の馬鹿ときたものだ。
クリーナの怒りはすでに沸点突破しているからこその言葉なんでしょうね。
でも……。
「……ユキ。あんな風に煽ってもいいの? やりすぎじゃないかしら? こちらの落ち度を指摘されるんじゃない? というかクリーナが結構を通り越して怒ってないかしら?」
「……それはない。外交官たちを外見で判断して馬鹿にしたのは向こうだからな。あれを煽っていると見えるのは俺たちが、作戦を知っているからだ。普通に見れば誤り、勘違いを訂正しているだけにしか見えないし、クリーナが怒っているのは俺たちにはわかるが、傍から見れば仕事のできない部下を叱責しているだけでしかない」
「なるほど。そういわれるとそうね」
「ま、クリーナがブチ切れているって言うのは同意だ。あそこまできっぱりと知らない、初対面の相手に嫌悪を口にするのは珍しい」
うん。クリーナは基本的に人見知りで、知っている人でも、なかなか感情を読み取るのに苦労をする。
その人見知りが、ここに来てからは、これだ。
どれだけ嫌われているのかしら、アグウストの連中……。
「ともかく、あっちの態度を見るに、こちらにとっては都合のよさそうな態度だから、みんな、今は我慢だ。クリーナも、我慢できるな?」
「「「はい」」」
「……ん。わかっている」
どうかしら?
んー、でも本気で怒っているなら、既に消し炭よねー。
私たちのスペックなら、本当に王都ぐらいなら軽く吹き飛ばせるんだから。
未だに1人もけが人が出ていないからには、クリーナは我慢しているんでしょう。
と、そんなことを話している間に、馬鹿の案内役が連れてきた迎えの馬車に乗って、私たちは王城の方へと向かっている。
「でも、色々問題があるとか言ってますけど、城下町は特に変わりはありませんねー」
そんな中、アグウスト王都の城下町を眺めていたリーアがそんなことをつぶやく。
「ん? ああ、今のところは上だけの揉め事だからな。内戦までにはなっていないんだよ。内部で紛糾するぐらいのレベルなんだろうさ。というか、内戦になるのはアグウストの国力が大幅に低下するからな。どっちもやらないだろうな」
「しかし、それぐらいの理性が残っているのに、あの出迎えはありなのかねー」
エージルは前の馬車に乗っているアホな出迎えをした馬鹿に疑問を呈する。
「まあ、作戦が上手く行っているっていうやつだろう? 学生や幼児体型のメンバーで固めた甲斐があったわけだ。学生、子供相手だからって侮って強気にでて来るっていういい証拠だ」
「……子供ね。はぁー。ユキの無神経さに私の乙女心はズタズタだよ」
「いや、そこは子ども扱いした、公爵派の問題だしな。苦情はあちらに」
「わかってるよ。はぁ、現王家には色々融通してもらわないとねー」
「それを今まで嫌がってきた結果、こうなったんだけどな。というか、他国に助けを求めるって余程だからな」
そうね。他国に助けを求めるなんて、本当に余程なこと。
ただ助けてもらって終わりではすまない。
それを覚悟して、イニス姫は私たちに支援要請をしたのだから、そういう意味ではイニス姫というか現王家は苦渋の決断をしたことになる。
まあ、そういうのがわかっているからこそ、ユキやセラリアからはあまりイニス姫への風当たりは強くないのでしょうね。
そんな話をしているうちに、王城の方へとたどり着き応接室の方へと通されたのだが……。
「なんだ。ウィードからの使者と聞けば、若い男が1人に、あとは子供ばかりではないか。ふざけているのか?」
入ってきた、偉そうな男は私たちを見るなりそう口にする。
しかし、ユキはその言葉に反応することなく、席を立ち挨拶をする。
「初めまして。私、ウィードから来ました、セラリア女王陛下の王配であるユキと申します」
「は? オマエのような若造が……王配? 冗談か?」
「事実です。この度はアグウストへお願いがあって訪問いたしました」
「……外務省とやらの設立の件か?」
「ええ。その通りです」
「そちらはどのような条件を提示してくれるのだ?」
「はて? この外務省を作ること自体が、イフ大陸連合の利益になるとのことで、ほかの5大国は条件などは提示せずに同意してくれましたが? アグウストはそれは嫌だと?」
「当然だ。他の5大国は何を考えている。このような小僧の言う事を鵜呑みにして、大国としての誇りはないのか。ただの傭兵だったお前には過ぎた要望だったな」
その偉そうな男はそういうと、指を鳴らし、応接室へと兵士たちが入ってくる。
あら? なんのつもりかしら?
「いったいどういう事でしょうか?」
ユキは特に動じることもなくそう尋ねると、偉そうな男は嫌らしい笑みを浮かべて……。
「簡単だ。お前たちはこれから、私たちに服従を誓い手足となって働くのならば、無事に帰してやってもよい。ああ、もちろん人質として、娘たちの半数は置いていってもらうが」
「つまり、交渉は決裂ということでしょうか?」
「交渉も何も、そのようなことで王や姫を騙した罪は重いぞ!! 加担したランサー魔術学府も、バツとして竜を我が国の戦力として接収する!! よろしいかな? ポープリ学長だったか? まさか、こんな子供とは」
あー、駄目だ、この馬鹿。
「同席している私たちの前で、失礼ですわね。このことはローデイの方へ報告させていただきます」
「同じく、ジルバに伝えておきましょう」
「私も貴国の横暴はしっかりと伝えよう」
そういって、一緒に来ていたという建前の、サマンサ、ジェシカ、エージルがそういって立ち上がるが……。
「はっ。お前たちは己の心配をしろ。各国にはアグウストがイフ大陸連合の主だと伝えると言え。そうでなければ、無事で出られると思うな? まったく、学生が2人に女騎士が1人で我が国への使者とは舐められたものだ」
あーあー、サマンサはともかく、エージルはプルプルしてきたわね。
「しかし、ユキとかいったな? 傭兵団をこのような女子供ばかりでよくやってきたものだ。ああ、そうか、口が回るのか。その点だけは褒めてやろう。だが、世の中はそれだけではいかんのだ。力もないとな。せめて、屈強な戦士でもいれば多少は交渉ができたかもしれないが、おかげで助かった。それとも、この娘たちを献上して要職を得ようとしたのかな? だが、こんな子供ばかりではな」
勝手にペラペラしゃべって、挙句、ユキを馬鹿にして、私たちをただの子供扱い……。
よし、ヤロウ。やってしまおう。慈悲などいらない。
既に、暴言の記録は取れているし、何もためらうことはない。
私が狼煙を上げてやろうと思ったそのとき……。
ドゴンッ!!
と音がして、偉そうな男は、壁に突っ込んでいた。
私も含めて、一瞬動きがとまった。
だって、それをしたのが……。
「ま、俺の悪口はどうでもいいんだけど、やっぱり、嫁さんたちを悪く言われるのはアレだし、誰がお前のようなアホに嫁さんたちを引き渡すか。寝言は寝ていえ。他国の使者に剣を向けて脅したんだし、もう我慢する必要もないだろう」
そういって、ユキが立ち上がっていたのだ。
つまり、偉そうな男を殴り飛ばしたのはおそらくユキ。
あまりの速さに、私たちもその行動が見えなかったのだ。
「さ、みんな。正当防衛を開始する」
唖然としている私たちにユキがそういって、私たちはすぐに、自分の身を守るために、危害を加えそうな連中へ向かって行く。
こうして、アグウスト王城での戦い?は始まるのであった。
でも、正直嬉しかったわ。ユキはやっぱり私たちが大好きで大事なのよね。
「ふふふ……」
そして私はにやけながら、処刑……じゃなかった、正当防衛を開始するのであった。
変態に未来無し。
パンツを食べた魔王然り。
まあ、妄想とか、周りに迷惑がかからない程度での変態行為はいいとしても、実際やるのはNG。
大人なら誰だってわかるよね?
だから、仕方ない。




