第674堀:ね? 簡単でしょう?
ね? 簡単でしょう?
Side:クリーナ ユキの妻 邪魔する奴はぶち○す
「いやー、いつも見ても空の景色はいいもんだな」
「……ん」
私たちは今、アマンダの駆るワイちゃんの篭に乗ってアグウストを目指していて、その道中で朝焼けをみんなで見て楽しんでいるのだ。
何度見ても凄い光景だ。朝と夜が入り混じる大自然の絶景。
ユキが私に見せてくれた本以外の世界の凄さ。
絵心がない私でも、この光景は心を揺さぶられるものがある。
そして、私がユキに出会えたのは人生で最良の出来事だと何度も思う。
……人生いいこともあれば、悪いこともある。
空を見ながらそんなことが書かれた本を思い出す。
私にとって、人生でのいいことといえば、もちろん、ユキと出会えたことが一番だ。
ユキと出会ってから、本だけの世界は崩れ去り、大きい世界が見えるようになった。
そしてなにより、私にとってユキという世界で最高の夫ができた。
友人も沢山できた。うるさいと思っていた学友のサマンサのおっぱいは実にいいものだし、ぺちゃぱいの自分としては少々気になっていたが、ルルアといい勝負の爆乳おっぱいは冷静に見ると、かえって邪魔に思えた。動くたびにバインバインはずむのは戦闘には非常に邪魔だろう。
まあ、それでもリエルをリーダーとするぺちゃぱい同盟には参加しているのだが。
これはただの一端、子供もできたし、いろいろな困難をユキたちと一緒に乗り越えてきた。
しかし、やはりというか、人生楽しいことだけではない。
今がまさにそうだ、私の祖国が、ユキや友人を巻き込んで、問題解決をしようとしている。
私を出汁にしてだ。しかも、前に私を出汁に使うようなことはないと約束しておいてこの様。
ふざけるなといいたい。
私はユキの足を引っ張るために結婚したわけではない。私は、ユキと一緒に生きていくために、友人たちとどこまでも行くために、未だ見ぬものを見るために!!
なのに……。不快感が胸を占め……私は昨日の夜に起こった出来事を思い出す。
『わかりました。どうかよろしくお願いいたします』
「ああ。そっちには、こっちの密偵を向かわせるから、ファイゲル爺さんなどの要人の居場所を伝えてくれ、それで安全は確保できるだろう」
イニス姫との話し合いが素直に終わればよかったんだけど……。
『なにから、なにまで、本当にありがとうございます。こうして助けてもらえるのも、クリーナのおかげだな。彼女はいい夫を見つけてくれた』
そうイニス姫が言ったことで、私の中の何かが切れて、ユキを押しのけて水晶玉に吼えていた。
「ふざけるな!! 私やユキたちを巻き込んで!! この落とし前は必ずつけさせる!! 私は、私は、アグウストの駒じゃない!! そうならないように約束したのは貴女だ!! この嘘つき!! 絶対ぶっ……」
○すとと言いかけた所で、サマンサから口を塞がれ、引き離される。
「クリーナさん。落ち着きなさい。それ以上はいけませんわ。イニス姫は私たちの味方です。それを貶してもいいことはありませんわ。ファイゲルお爺様の事もあります。どうか冷静に」
ぐっ……。
『……クリーナもそこにいるのですか?』
「ああ。アグウストに向かうのに、そちらの国の外交官がいないのはおかしいだろう?」
『当然ですね。……クリーナ。君が怒るのは尤もなことだと思う。私たち王家の不徳の致すところだ。すまない』
そう素直にイニス姫は謝る。
『だが、クリーナに大切で守りたいものがあるように、私にも大切で守りたいものがある。この国だ』
「……それで、私との約束よりも国を取っただけというつもり? こんなルール破りをすれば信用を失うだけ。というか、私にとって、祖国としてアグウストはもう敬愛できなくなっている。私を出汁にして、ユキやみんなを都合の良いように使うことしか考えていない」
『……それも覚悟の上だ。どのみち信用を失っている。そして、今、手をこまねていていれば状況は悪化するだけ。クリーナに卑怯者とののしられようとも、私はクリーナとの縁を使いユキ様に助けを求める』
私の糾弾に毅然と答えるイニス姫。
そうだ、そうするしかない。
それは頭では理解できていた。だけど、我慢が出来なかった……。
「まあ、そちらの状況は理解しているが、嫁さんはこのように怒り心頭だ。ちゃんとお詫びを考えておくように」
『……わかりました。では、当日お願いいたします』
そういう感じで、学府での会談は終わった。
自分の不甲斐なさが辛い。
はぁ、私だっていつまでも政治を知らないおバカではない。なのに、我慢ができなかった。
今回のことは仕方のないことだし、今更ユキがこの程度で私を見限ることはないと確信はある。
まあ、だからこそ、許せないというのもあるのだが、問題は世間を知らない公爵派の連中であって、イニス姫だけが悪いわけではない。
「おーい。クリーナ。あまり風に当たりすぎていると体力無くすぞ」
「ん。戻る」
ユキに声を掛けられて気がついたが、既に朝日は登り切っており、朝と夜がまじりあう時間は終わっていた。
体はすっかり冷え切ってしまったので、ユキに抱き着いて暖を取りながら、籠の中へと戻る。
「お、戻ってきたわね。ほら早く炬燵に入りなさい」
そういって、アマンダが炬燵へと手招きしてくる。
特に断る理由もないので、ユキと一緒に空けてくれた位置に入る。
ラビリスたちおちびがよくやっている、ユキ椅子という奥さんたち垂涎の座椅子である。
「ほっ……」
そして、じんわりと足先から暖まる炬燵という楽園。
おそらく私は今、最大の贅沢をしていると思う。
この一時だけは、アグウストのことを考えずに済む。
そんな感じで、どこかのパンダのようにたれていると、ユキが口を開く。
「さてさて、この前寄った村は通り過ぎたし、予定よりかなり早い速度で移動中だ。今日の昼前には、アグウスト王都につくだろう」
そう。私たちはまだ暗い間に出て、ワイちゃんの全速力とまでは言わないけどかなりの速度で今回は航行中だ。
その中で、不安顔なのは、ワイちゃんのお供、いや、主人であるアマンダだ。
「あのー、学長。こんな速度でアグウストに向かっていいんですか? 向こうには早く着くとか知らせてるんですか? 大慌てですよ?」
言う通り相手に気を遣うのであれば、予定通りに着くというのは大事だ。
しかし、今回は相手に気を遣う必要はないのだ。
「ああ、アマンダ。今回はそれが狙いなんだよ」
「それって……早く着くことがですか?」
「それだけじゃないね。全体的に相手を怒らせるようなことをするんだ」
「ええっ!? なんでですか!?」
「それを今更聞くかい? 私たちは昨日のイニス姫との会談で、現王家派を支持すると決めたわけだ。そうなると、その契約を守るために、私たちの公爵派とは確実に交渉を決裂させなければいけないんだよ。まあ、元々こちらを舐めている感じがあるから心配はいらないけど。念には念をってやつだよ」
「あーそっか。公爵派が何か条件を出さずに、こちらの提案を受け入れるって言われると、イニス先輩の立場はよくならないのか」
「まあ、一番大事なのは、私たちが公爵派を叩き潰す口実を作るためなんだけどね」
そう。イニス姫というか、現王家派を支持、支援するには、一度公爵派と交渉をして、話にならない、決裂したという事実がいる。
そのためにも記録という証拠を撮って、他国の支持もここで得る。というか、こっちもすでに根回し済み。
アグウスト公爵派がユキや私たちウィードに危害を加えるようなことがあれば、力で解決しても不問にすると、5大国は言っている。
まあ、足を引っ張られたくないというのが本音で、正直、アグウスト公爵派をユキに潰してくれと言いたいのだが、流石にそれを正直に依頼すると、アグウストの内政に介入することになる。
混乱を避けたい各国にとってはそれは本末転倒。
だから、口実がいるのだ。
公爵派が、私たちを侮り、侮辱し、危害を加える。
そうなると、私たちは防衛をするしかない。
助けを求め、イニス姫と合流して、乱暴な公爵派は退治されてめでたしめでたしということになる。
それが、今回の最終目標だ。
「ポープリのいう通りだ。このワイちゃんを使っての移動自体、相手を威圧するためだからな。ゲートは一応アグウストに、既に設置してある。ポープリのランサー魔術学府にもあるから、お互いの国は簡単に移動はできる。だけど、このワイちゃんをわざわざ使えば、そっちを信用していないというアピールにもなるし、竜騎士アマンダを知らない公爵派は、このアマンダを見てどう思うだろうか?」
「え? どう思うって、ねえ、エオイド、私ってどう思われるかな?」
「あー、なるほど。らしくないって感じで侮られるわけですね」
「はぁ!? 私のどこが竜騎士らしくないのよ!! ちゃんとワイちゃんと仲良く出来てるじゃない!!」
「こんな風にすぐ怒るのが、らしくないだろう!? や、やめろって!?」
そんな風にじゃれる2人を背景にユキがカグラたちに告げる。
「な、イラっとするだろう?」
「……するわね。色々な意味で」
「あははは、まあ、アマンダは威厳ある竜騎士様には見えないよねー」
「でも、それがいいと思います」
「そうね。それがアマンダの良い所よ。だけど、今回はそれを利用するわけね」
カグラたちも納得しつつ、アマンダにフォローは入れる。
「ああ。そして、保護者はポープリという見た目ロリ。さらに、新大陸のご一行は見ての通り、みな学生。さらに、我がウィードの訪問は俺を筆頭に……」
ユキはそういって、視線を横に向けるとそこには……。
「がんばるよー。お兄ちゃん」
「任せるのです。兄様」
「頑張らなくても暴走するわよね」
「ですね」
「って、ちょっと待ちなさいよ!? 私がなんで、ちびっこたちと一緒なのよ!?」
「ドレッサ。お兄様に期待されているのです。何を怒る必要があるでしょうか?」
「……朝早くて眠い。ぐぅ……」
と、こんな感じで、相手を煽るための本命はこの子たちだ。
ここまでくればカグラたちもわかるだろう。
ユキが考えた作戦それは……。
年端のいかない学生や子供たちで、外交の席に出向けば、必ず不条理な条件を絶対付けられるだろう!!
という、大変わかりやすい作戦だ。
そのため、私を含む、イフ大陸の外交官組以外は今回は同行していない。
ああ、無論、護衛としてリーアはついてきているけど、ロガリメンバーのみんなは待機している。
なにせ、ラビリスたち、ちびっこを除く残りのメンバーは、今までの経験から歴戦の猛者という雰囲気が滲み出ている。
見た目は確かに若いが、こう眼力とかが凄いので、作戦に支障を来すということで、待機になっている。
というか、普通に仕事。全員が来て対応するほど暇ではないのだ。
「ま、ここまですれば、こちらの実力をイニス姫から聞いて、信じていなくて馬鹿にして、王家から交渉役を奪ったんだから、絶対こちらの条件をタダでは飲まんだろうし、喧嘩を売ってくるだろう。そこで……」
ユキが続きを言う前に私が続きを言う。
「正当防衛で公爵派をぶっ飛ばす。殺さず、適度に、長く。私たちの手を煩わせて、無駄な時間を使わせたことを後悔させて、飛び込んできたイニス姫に引き渡す。みんな、がんばろう」
「「「おー!!」」」
これから行われるのは、正当な防衛の末に起こる不幸な事故。
まさか、大人が子供に手を上げるわけないんだし、そんなことが起これば子供はとっさに自分の身を守ろうとする。
それは、当然なこと。
……くくく。
何も難しいことじゃない。学生や子供らしい行動をすればいいだけ。
ね? 簡単でしょう?
小説も、文字を沢山書いて、物語を作るだけ。
ね? 簡単でしょう?




