第665堀:偽物で本物の聖剣
偽物で本物の聖剣
Side:ユキ
「さて、こっちも久々だな」
「そうだろうね。じゃ、とりあえず連絡を付けるから待っててくれ」
「あいよー」
俺はそういって、エージルが待合室から出て行くのを見送る。
今、俺たちはジルバ帝国を離れ、エナーリア聖国へと赴いている。
表向きはジルバと同じ、遊びに来た。
裏では、相談と外務省の件だ。
あ、あと、ジルバの内紛についての手だし無用の話だな。
「しかし、驚きましたね」
「うん。驚いたよ。ゲート出た途端、スィーア教会の人たちが大挙して出迎えしてたからね」
「すぐに、ルルア様たちがいないと判ってしょんぼりしていましたが」
「……ん。気持ちはわかるが失礼」
護衛兼、外交官の面々がそんな話をする。
確かに、俺たちがエナーリアに向かうことは、エージルを通して連絡をしておいた。
ジルバの内紛の件もあるから、なるべく早く話を通さないといけないからだ。
しかし、大げさにしろとは言っていないので、ゲートを通った先に人が沢山いたのは驚いた。
その大半はスィーア教会の人たちだった。
まあ、元々王家と教会はスィーアたち聖剣使いの扱いで対立しているからな。
いやいや、既にご本人はなんの後腐れもなく、他の聖剣使いと共にウィードでのんびりしているのにご苦労なことだとは思う。
だからと言って、スィーアを送り込んでも解決することでもないしな。
俺が解決すべきことでもないし、なるようになれという話だ。
で、エナーリア聖都で起きた魔物襲撃事件の時、スィーアのように民草を癒して助けて回った俺の嫁さんたちは、聖剣使いの再来とか言われて、教会の方から丁重に迎えられたのだ。
教会にとっては、王家や民を救っている嫁さんたちを引き込めればいい立ち回りができると思ったんだろうな。
ああ、なんか教会が悪だくみをしている風に感じるが、実のところ大司教たちは王家に利用されないかを心配している善人だから、今回のことは、俺たちの為を想ってのことなわけだ。
まあ、周りにいた教会の人たちは、嫁さんたちの力量というか治療行為目当てだったから、俺たちのメンバーにルルアたちがいなくてがっくりしたわけだ。
俺たちがウィードの所属と明らかになってから、堂々とエナーリア王都に顔をだして、治療行為を行うわけにはいかなくなったからな。
一国だけひいきにするわけにもいかないし、何せルルアはリテア聖国の元聖女様であり、ウィードでもそれなりの権限を有する人物。
そんな大人物を呼びつけて治療してくださいとはいえないだろう。
他のミリーやラッツ、エリスも同様。元奴隷と言えど、俺の嫁さんであり、ウィードでは重鎮だからな。
ま、あとで、大司教の方には挨拶に行っておかないとな。色々向こうの情報も聞かないといけないし。
そんなことを考えていると、ジェシカが疑問を口にする。
「ですが、なぜユキはルルアたちのエナーリア訪問を許可していたのですか? こうなることが予想できなかったわけではないと思いますが?」
「そういえばそうだね。私だって、ここで治療魔術をしただけで褒め称えられてたし。まあ、ユキさんの護衛が主なお仕事だったから、ルルアたちほど人気はないけど」
「私たちは、ユキ様たちがエナーリア聖都で起きた襲撃事件の時はいませんでしたから、よくわかりませんが、話を聞く限りは不自然に感じますわね」
「ん。ユキにしては不用心な気がする」
「んー。まあ、今となってはそうなんだが。当時は必要だったんだよな」
「当時は?」
「ほら。俺たちは当時、傭兵団って立場だったからな。立場確立の為の慈善事業って感じかな。一応、ジルバの客将って肩書はあったけど、まあ、肩書とかは多くても困らないからな。エナーリア王家に、スィーア教会、そしてエナーリアの国民を味方につければ、何か困った時は助けてくれるだろう?」
「「「ああ」」」
俺の答えに、4人がすぐに納得する。
まあ、それ以外にもミリーやラッツが過去のトラウマを越える為に動いたってのもあったりなかったりするんだけど、それはわざわざ言う事でもないからな。
そんなことを話していると、エージルが戻ってきて、会議室へと案内してくれる。
「よくぞいらしゃった。ユキ殿」
「お久しぶりですな」
「お久しぶりです」
そういって、出迎えてくれたのは、エナーリア王と名前はしらない宰相さんに、老将ハインに二刀魔剣使いのプリズム将軍。
促されて、ソファーに座ると、ジルバと同じようにメイドさんたちからお茶が出てくる。
「まずは、改めてお礼と自己紹介をしよう。魔物襲撃の時は、本当に世話になった。エナーリアの王として、スデイスという一個人としても、本当にありがとう。スデイスと呼んでくれ」
「その後の、各国へのとりなしも本当に感謝しております。申し遅れました。私はエナーリアで陛下の宰相を務めております、デーキルと申します。これからもよきお付き合いを」
うーん。名前を教えてもらってしまった。
これで名前を呼ばなければ失礼になるな。
……というか、そろそろ名刺とかも提案するべきか?
いや、一国のトップや重鎮はそうそう忘れたりはしないが、他の人とかそろそろわからなくなってくるわ。
まてまて、今は名刺提案にきたわけじゃない。
迂闊なことをいうと、俺が忙しくなるだけだ。
まずは、今やるべき仕事をこなすとしよう。
「これはご丁寧に。じゃ、まああくまでも個人的な相談から話をするとしよう。スデイス。聖剣使いの件でもめているって?」
「そうなのだ。まあ、大したことではないが、教会の方から圧力がな」
「ああ、聖剣は教会が持つべきとか言う話か?」
「そうだ。加えて、ジルバと休戦から同盟、さらには連合となってしまったことから、ジルバとの戦いに駆り出された者たちはなぜ早く講和をしなかったと騒いでいるな」
戦争だからな。死んでしまったり被害をうけた周りの連中としては、分かっていても言わずにはいられないって話だな。
「まあ、後半はよい。問題は聖剣のことだ。あの時は聖剣を使い士気を高揚させて、ベータンを取り返したあと、勢いにのってジルバまで攻め寄せるつもりでいた。だが、聖剣と聖剣使いライト・リヴァイヴはユキ殿たちによって敗れ去った。そのことで、教会側から糾弾が来ておる」
「聞く限り当然のことでは? 元々聖剣は教会側の物という主張はあったようですし、聖剣はすでに教会側が管理しているのでは?」
聖剣を引っ張り出して負けたんだから、そこは糾弾されるだろうさ。
「いや、問題は聖剣の所有権ではなくてな……」
「実はですな。聖剣使い、ライト・リヴァイヴ殿が偽物だから敗れたという話が出ているのです」
言いにくそうにしていたスデイスの代わりにハイン将軍が答えた。
「ライト・リヴァイヴが偽物?」
というか、聖剣ですらノーブルが作ったレプリカというか、模倣なんだけどな。
本物の光の聖剣は聖剣使いのリーダーのディフェスが持っているぞ?
そんな的外れなことが頭の中をよぎっていると、プリズムがより詳しく説明を始める。
「つまりですね。聖剣を奪いたいがために、偽物の聖剣使いを用意したと教会側が主張しているのです」
「ああ、なるほど。それで、教会側の発言力が強まっていると」
「ええ。そして陛下の臣下の中にも教会側の人はおりますので……」
「これからの大陸間交流に差しさわりが出る可能性があると?」
「まあ、幸い、ユキ殿たちは教会側からも好意的に迎えられていることは知っているから、大陸間交流自体に問題が出るわけではないと思うが、下手をすると、王家対教会での対立が表面化する可能性がある。教会側としては、大陸間交流で自分たちがエナーリアの代表として顔を出せれば、王家よりも上ということになるからな」
ふむふむ。スデイスの話だと、聖剣使いライトが偽物であったという噂をつかって、大陸間交流の主導権を握ろうとするスィーア教会と対立が起こりつつあるというのが問題なわけだ。
俺からすれば、別に大陸間交流の顔を譲ればそれで終わりじゃんと思うのだが、メンツというものがあるからそうもいかないよな。
というか、一番簡単な解決策があるんだが、嫌な予感がするけど聞くしかないか。
「話はわかったけど、簡単な解決策としてはライトに聖剣を使わせればいいだけだろう? それで噂は払拭される。逆に教会が嘘をついていたということにもなるだろう?」
そう。使える本人が民衆の前で使えばいいだけだ。
使えないわけじゃないんだから、それですべて解決だろう。
それをなぜしない?
「……それがそうもいかないし、そう簡単な話でもない」
「というと?」
「ユキ殿も大司教とは会っているだろうからわかると思うが、スィーア様を閉じ込めたのはあの時の国としては仕方なかった。それは大司教も理解している」
うん。あの大司教は政治の世界を知っていた。
だから俺たちに王家には関わるなと忠告をくれたわけだ。
「つまり、あからさまに、教会側の力を削ぐのもまずいと?」
「そうだ。理解がある大司教以外の者がトップにつけば、今度こそ確実に荒れるだろう。それに聖剣使いであるライトもスィーア教会を貶めることに聖剣を使うとは思えんからな」
「なるほど」
メンドイねー。
王家の威信は取り戻しつつ、非難してくる教会側も脅かしたくはないと。
我儘極まりない。だが、そうしないとエナーリアが荒れる可能性有と……。
「そちらとしては、解決策は何かあるのか? 非難してくる教会側の連中を納得させるのはなかなか難しいと思うが? 権力を狙ってきた連中だろう? ちょっとやそっとのことじゃな……。ってその解決策を俺にひねり出せって話じゃないだろうな?」
「いや、そこまでの無理は言わない。すでにある程度構想はできているのでな。だが、その構想を実現するために力を貸してほしい」
「というと、具体的には?」
「他国を巻き込んで、ライト・リヴァイヴが聖剣を使えることをお披露目する。そうすれば、文句は出ないだろう」
確かに、他国を巻き込んで聖剣が使えることを証明したのに偽物と騒いでたら、頭おかしいとか思われるよな。
「お披露目会をしたいってことか?」
「うむ。場所としてはベータンが最適だと思っている。無論、かかる費用はこちらで出し、謝礼も出す」
なるほど、だから俺に仲介を頼みたいということか。
ん? ちょっと待てよ。ジルバ王の件、使えないか?
とりあえず、話してみるか。
「そちらの希望はわかった。ちょっと考えさせてくれ。実行するにしても色々調整しないといけない」
「それは理解している。返事はできるだけ早いほうがいいのはわかっていると思う」
「で、俺の方からの用事もすませたい。いいか?」
「ああ、構わない」
ということで、外務省の件を話すと、すんなり受け入れられて、この外務省設立案を話し合う会議の時にライト・リヴァイヴが聖剣が使えることのお披露目をと言ってきた。
「まあ、ありだな。と、それにジルバ王から親書を預かってる。同じように相談事があるらしくてな。先によってきた。まあ、先と言われると少し不安があるだろうが、最近、小国と揉めている件だよ。知っているだろう?」
俺がそういいつつ、ジルバ王の親書を渡す。
「ああ。あの件か。知っている。……ふむふむ。あのジルバ王がてこずっているか。まあ、量産型の魔剣があればな」
「やっぱり、そっちも知っているのか」
「小国を虐げる為ともなれば、横槍でも入れようかと思っていたが、こちらでも調べてみると、魔剣の量産品を持って暴れているようでな。手を出す気はない。親書をしたためるから、ジルバ王に渡してくれ」
「了解」
どうやら、小国が魔剣の量産品を持っているのは間違いないようだな。
ジルバ王が嘘をついている可能性も考慮してたが、そこまで馬鹿じゃなかったか。
「とりあえず、エナーリアの希望を相談ついでに他の国にもそれとなく伝えてみる」
「おお。それは助かる。ユキ殿から言ってもらえれば、手間が省けるからな」
そんな感じで、エナーリアでの話し合いは終わったが……。
「なんか、仕事が増えていないか?」
「まあまあ、ただお手紙と伝言を伝えるだけですし」
「いつもやっていることより楽ですよー」
「まあ、外交や政務というモノはそういうモノではないでしょうか?」
「ん。やってもやっても終わらない。でも頑張る」
と、ジェシカたちに慰められた。
食っちゃ寝生活は遠いなー。
ジルバ、エナーリア共に、ユキが原因というわけでもないが、色々関わっている問題が存在している。
ライトさんとか覚えてるかな?
剣を交えるどころか、戦車砲の余波で死にかけた子です。




