第666堀:そんなことあった
そんなことあった
Side:ユキ
「とまあ、ジルバとエナーリアはそういう感じになってたな」
「思ったよりも、面倒というか、当然というべきか?」
「どうだろうな。判断つかん。今までこういうことをしたことはないからな」
「それは私もだ」
そんなことを言って、俺とノーブルはジルバとエナーリアで相談されたことについて話し合っていた。
とりあえず、ジルバとエナーリアによってから、エクスに中間報告というか、情報のすり合わせに来たのだ。
「で、確認したいことは、主にジルバの小国群との争いの件に、エナーリアの聖剣云々は情報でも聞いているか?ってところだな」
「……話程度なら聞いている。というか、話を聞く限り、どちらも私が蒔いた種だな。面目ない」
そういって、ノーブルはがっくりと肩を落とす。
まあ、そうなんだよな。
中間報告は最初する予定はなかったのだが、ジルバ、エナーリアと2か国にわたって、ノーブルとヒフィーが暗躍していた時の名残というか汚点が目に付いたので戻ってきたのだ。
ジルバで問題になっている小国群の反発の原因は量産魔剣。
エナーリアでの偽聖剣使いの原因はコピーした聖剣が発端。
つまり、今の所2か国のトラブルの原因の大本は、このノーブルだ。
「思ったよりも量産魔剣の回収は上手く行ってないみたいだな」
「ああ、ユキ殿が傭兵団として回収したのは大国だけだからな」
「……そうか」
言われて気が付いた。
残りの5大国に対して喧嘩を売る予定だったのだ。
大国の首都を乱すのは当然として、危険がないと思っている小国群が反旗を翻せばノーブルたちが動きやすくなる。
そのために、小国群にも魔剣をばら撒いていたわけだ。
「一国当たりの絶対数は大国の方が多いが。あのジルバ管轄の小国で騒いでいる連中の所には、他の小国に流した量産魔剣が集まっている。その総量は一つの大国に送った総量よりも上だ」
つまり、ジルバのヨキエル将軍は量産魔剣を持った大国と喧嘩していることと同じになるのか。
よく、軽微な損害で済んでいるな。普通大敗していそうなものだが、そこは名将と呼ばれるだけはあるのか?
「おそらく、他の国に流したのも買い集めたんだろうな」
「まあ、俺たちが事前に大国に知らせて、注意させたから、量産魔剣を持っている小国とかはすぐに放出するだろうな。それを手に入れたってわけか」
俺が事前に5大国に量産魔剣の注意を促した結果、6大国は量産魔剣を確保したうえで、警戒態勢を敷くことができた。つまり5大国の首都テロ、混乱は避けられたわけだ。そんな中、小国が量産魔剣を持っているなんて知られれば、喧嘩を売っていると思われるのは当然。
量産魔剣を持っているメリットも消し飛んだのだから、多少頭が回るのであれば、量産魔剣は手放して、事件にはなにも関与していませんというのが当然か。
「一応、回収はしたんだろう?」
「無論だ。量産魔剣を放出したままだと、今後の展開に問題がでるのはわかっていた。なので、ユキ殿と和解して手を組んだあとは速やかに回収した。あれは残りだな」
「残りね。大体の総数は?」
「約500だな」
「大国で回収したのは大体300前後だから、まあ大国1国よりは多いぐらいか」
500もの量産魔剣を持った部隊がいるわけか。
まあ、多くも少なくもない。出てくるのなら包囲殲滅ぐらいはできるだろうが、城や砦にこもられて砲台として機能すると面倒だよな。
「まあ、ジルバが小国を併呑したくて、難癖付けているわけじゃないって言うのは確認とれたからよかった」
「流石に、あのジルバ王が小国を併呑したくて攻めているなどというわけがないからな。しかし、そっちの方がある意味簡単に済む話だったな」
「俺や残りの5大国が警告でも発したら終わった話だしな。だが、今回は量産魔剣が原因だからな」
「普通に考えるなら、独立まではできないと考えるだろうが、ジルバ王が今までの方針から変えたのも原因の一つだからな」
「反発。ついていけないというやつだよな。そういえば、一応お隣のエクスにはその小国から応援要請は来ていないのか?」
「いや、来ていないな。向こうもわかっているんだろう。下手に介入を頼めば、あとはずるずると持っていかれるだけだからな」
「話は分かるが、そうなると、小国の連中はいったいなにが目的になるんだ? 他国に応援要請もしない、仲介も頼まない。どういう決着を望んでいる? まさか、ジルバ相手に勝てるとか思ってないだろうな?」
「さてな。介入はさせてもらえないから、小国の連中が何を目的にジルバとやりあっているのかは予想もつかない。まあ、ただ単に、量産魔剣を大量に手に入れて、調子に乗っていたとかが、一番濃厚だと思うがな」
そんな馬鹿な。
小国とはいえ、アホな。そんな考え無しの短絡的で国が維持できるのか?
俺のそんな考えが表情にでていたのか、察したノーブルが続けて説明をする。
「案外多い話だ。元より、自国を発展させて収入を増やすより、他国を襲って奪い取るほうがいいというのはよくある」
「ああ、それは知っているが。流石に国力差を考えずに戦いを挑むとかないだろう?」
「だから、量産魔剣を手に入れて調子に乗っているといったんだ。事実、未だにジルバは攻め切れていない。これはジルバの内情を知っている私たちは、軍の被害を抑えたいとの同時に、私たちという大国に根回しをしなければ動けないという理由があるが」
「戦っている小国としては、ジルバが攻めあぐねている。という事実から、自分たちは勝てると錯覚しているのかもしれないな。元より、ジルバの支配地域は、お互いに攻めあっている小国もたくさんいる。領土争いにいちいちジルバも口を出すわけにもいかんからな」
あれか、日本で言う戦国時代ってところか。
いざって時に言う事だけ聞けばいいというやつだろうな。
普段からの領土争いには手出ししないと。
まあ、双方の言い分の問題もあるだろうからな。
下手に強く出ると、他の大国に寝返るかもしれないか。
大国の王とはいえ小国を侮って配慮に欠けると、足元を掬われるというやつだ。
だから、俺は領土関係は一切いらないって言ってるんだよな。
それなのに、イフ大陸ではベータン、新大陸ではバイデ港と、増えてるのが悩みだよな。
「私の責任でもあるが、戦争を推奨していたジルバ王の自業自得ともいえるな」
「それは俺も思った。だが、このままなのはまずいだろう?」
「だな。ジルバの希望はわかった。こちらも親書をしたためる。あと、エナーリアの聖剣使いのお披露目に関しては出席すると伝えてくれ」
「了解。しかし、あれだな。ある意味ジルバが戦争推奨だから量産魔剣が集まったとも考えられるんじゃないか?」
「……まあ、言えなくもないが、それを良かったとはいいにくいな。ともかく、ジルバの方の動きはそっちも注意していてくれ」
「わかった」
さて、ここでジルバとエナーリアの件は終わったが、それよりもはるかに聞きたいことがあった。
外務省の件の時にはわざと聞かなかったが、俺がイフ大陸の大国周りを始めたので聞かないわけにはいかない。
「で、ジルバよりも問題なのは、アグウストだ。一応、順番は最後にしようと思っているが、どうだ?」
そう。エクスのもう一つのお隣アグウスト。
クリーナの祖国。
「……クリーナ嬢がいるが?」
「構わない。なあ?」
「ん。ノーブル王、気遣いは無用」
「……アグウストは、正直、かなりまずい。ついこの間、こんな手紙が届いた」
そういって、ノーブルは手紙を俺の前に置く。
「内容は簡単にいえば、ヒフィー神聖国に派兵を頼みたいとのことだ」
「はあ? なんでそっちに?」
アグウストの話じゃなかったか? と思ったのだが、ノーブルは気にせず話を続ける。
「しかも二通ある。一つはアグウスト王家、もう一つはアグウストの古くからある公爵家からだ。笑えることに内容は正反対で、王家の方からは、神聖国を守ってくれ。公爵家の方からは、神聖国を攻め落とすから手を貸してくれときたものだ」
「はぁぁ?」
意味が分からん。
全くもって意味が分からん。
俺たちが混乱しているのを理解しているノーブルはさらに説明を続ける。
「私も混乱して問い合わせた。するとな、ほら、この前のイフ大陸会談の時に、ユキ殿をののしった馬鹿騎士がいただろう?」
「ああ、いたな」
「あの場では、一応、ユキ殿の本当の狙いを知るために脅しをかけたみたいになっていたが、実はそうではなかったらしい。地方の公爵家から押し込まれた騎士だったらしくてな。帰ったあと、その騎士の処罰でかなり揉めて、公爵家と修復不可能な亀裂が出来たらしい。前にも、そこの息子がアグウストに訪れていた竜騎士アマンダご一行の客人に無体を働いて、イニス姫を筆頭に王家の連中から処罰を受けた件もあってかなり不満があったようだ」
「ん? それって……」
「そうだ。ラビリス殿たちのケーキを奪ったり、剣で斬りかかったり、アスリン殿を人質にとった件の息子だ」
あー、あったわ。そんなこと。
確か、ラビリスのおっぱいも触ったクソロリコン野郎だったな。
「うわー……。そりゃー、ウィードは大っ嫌いだろうな。とは言え、自業自得な話だろう?」
「自業自得ではある。だが、ユキ殿たちは護衛の傭兵団であり、当時の手柄は全部竜騎士アマンダ殿へだ。そのあと、そこのクリーナ嬢が、その公爵家を差し置いて、養子で王女。小国と侮っているウィードへの配慮としての対応がさらにな」
「で、不満が色々溜まって、アグウスト国内がもめているのはわかったが、なんでヒフィーの所が巻き込まれる?」
「いや、忘れたのか? もともと、そんな風にアグウストが竜騎士アマンダに頼ることになった原因は、ヒフィーが国境の砦に仕掛けてきたからだ」
「いやいや、それは、ヒフィー神聖国を乗っ取ろうとした犯罪組織がってことで決着しているだろう?」
「私たちはな。だが、公爵家としては、神聖国の危機管理が出来ていなかったから、迷惑をこうむった。賠償として、自国に組み込むと言っているんだ」
「バカか?」
「バカだろうが、それを押し通すだけの力がある。今回の連合参入やウィードに対しての配慮に疑問を持つ地方の貴族は多い。勝手に事件が起こって勝手に解決されたからな、王家もユキ殿たちの実力を計りかねていたのも問題だったんだろう」
「あー、そこに行きつくか。だけど地方の貴族たちを納得させる、というか統制するのが、王家の仕事だろうに」
「そこで、その公爵家が出てくるわけだ。自業自得とは言え、色々煮え湯を飲まされたと思っているからな。ユキ殿たちや竜騎士アマンダ殿のこと、そして、ヒフィー神聖国に対しての対応を非難して、地方の貴族をまとめ上げているのがその公爵家だ」
「それってさ。俺たちがどうのというより、元から仲が悪いって話じゃないか?」
「そうだろうな。だが、アグウスト国内が揺れているのは間違いなく、ウィードが原因の一つであり、私やヒフィーが原因でもある」
そういわれると、そうではあるが、なんか納得いかん。
「で、エクスとしてはどう動くつもりだ?」
「無論、神聖国を守るほうだな。王家側につく。もとより、5大国を敵に回して勝てるわけもないからな」
「そりゃそうだ。というか、神聖国に手を出したら他の国もでてくるんじゃないか? そんなこともわからん公爵家か?」
「いや、神聖国を割譲するように私に言ってきているあたり、何かあれば責任をこっちに押し付けたり、あるいは、神聖国の人材を流すといってなだめようとするんじゃないだろうか? 良くも悪くも、今回の件ではヒフィー神聖国に非がないとは言えないからな。というか、真相からすれば、ヒフィーが悪いからな」
「そこはな……」
「真相を知らない連中も、国家のトップがとらわれるような国が問題あると思うだろうし、案外、人材を流すといえば、ジルバ帝国あたりは公爵家に賛同するかもしれないな。無論、大陸間交流に関して協力的であるという前提がいるがな」
「じゃ、他の大国が公爵家に手を貸す可能性は低いということか?」
「いや、狙いがアグウストの王権であるなら、大陸間交流に賛同して、現王家を引きずり下ろすぐらいわけないな。公爵家の王家への反発は、前からあったものだからな。ウィードの扱いがどうとかと言うよりも、そっちの線の方が強いだろう」
「つまり……、今回の色々な問題に乗じて、公爵家はアグウストのトップになりたいだけかもしれないってことか」
「そういう線もあるという話だ。ただ周りも気にせず暴れるなら、鎮圧は容易いだろう? 私たちが考えるべきは、容易く問題を解決できない時だろう」
「そうだな」
まあ、結局、確信に迫る情報はなく、あくまでも推測という形で、アグウストの現状は聞いた。
とりあえず、ローデイ、ホワイトフォレストを先に回ってアグウストの情報を集めることを優先しよう。
ちなみに、外務省の件とか素直に話が通りそうなという意味もある。
そして浮かび上がるアグウストの問題。
さてさて、これから一体イフ大陸はどうなっていくのか。
ユキはどう対応していくのか?
そのために、6大国訪問を続けていく。




