第663堀:事前の相談と確認
事前の相談と確認
Side:ユキ
「やあ、よく来てくれた」
そういって、俺を出迎えてくれるのは、イフ大陸の6大国が一つ、エクス王国の王、ノーブル。
しかして、その本質は王に留まらず、ルナにこのイフ大陸の維持を命じられた神の一人である。
そして、イフ大陸における、魔力枯渇現象に関しての総指揮官でもあり、俺の協力者の一人である。
今日は、イフ大陸の連中に外務省の話をする前に、まずは身内のノーブルにこの話を聞かせるためにやってきたのだ。
「疲れているようだな。ここはベータン。俺の領地だぞ?」
「はは、そうだった。だが、こちらの大陸の管理者としては間違っていないだろう? しかし、疲れているのは何も私だけじゃない。ユキ殿も同じだろう?」
ノーブルはそう乾いた笑いで返すが、俺とノーブルどちらの顔色がいいかと聞かれると、どう見ても俺の方が健康的に見えて、ノーブルは疲れているというだろう。
なんというか、徹夜明けのサラリーマンを見るようだ。
「まあ、とりあえず。お座りになられてはどうでしょうか、ユキ殿? 奥様たちもお座りいただけませんぞ?」
「ああ、そうだな。とりあえず座るか」
ホーストに促されて、ソファーに座る。
「しかしだ。サクリは調子よさそうだな」
「おかげ様でね。ユキの奥さんに感謝だよ」
ノーブルの横でそういうのは、ノーブルの相方であり、ダンジョンマスターでもあるサクリ。
イフ大陸で起きた魔王戦役の時に負傷して、片足と両腕を無くすことになり、それ以降は裏方として、ノーブルを支えてきた男だ。
ノーブルが俺たちと協力体制を取った際に、再生じっけ……治療を施して、成功。
まだ右腕の段階だが、これが上手くいけば残りの欠損部分もいけるだろう。
それまでは、ナールジアさんが用意した義手義足で何とか歩けるようになっていると思っていたのだが……。
「今では走れるんだよ」
「そうか」
やっぱりあの人が作るとスペックがおかしくなるのだろうか?
「だけど、まだ右手が上手くいかないけどね」
そういって、サクリは再生した右手を動かそうとするが、ぴくぴく指が動くだけだ。
「リハビリの最中だしな。気長にいこう」
「そうだね。無くして400年もたっているし、ゆっくり頑張るよ」
どうやら、長い間、欠損していると何が原因かはわからないが、神経が通っているのにも関わらず動かすのが難しいようだ。
体が欠損状態を当然だと思っているのが原因ではとルルアやエルジュが言ってたな。
ちなみに、欠損を治したときは、ノーブルたちが涙を流して喜んでいた。
そして、もう一人、何も言わずにソファーにも座らずにノーブルの横に控えているのが……。
「ジョブもお疲れさん。座ったらどうだ?」
「いいえ。私はあくまでも、陛下の宰相。部下。同格であってはいけません。お気になさらずに。ユキ様」
相変わらずお堅い宰相のジョブだ。
ノーブルやサクリと顔を見合わせて苦笑いをする。
「ま、挨拶はここまででいいとして、俺の方の話は聞いたか?」
「ああ。報告書は見た。しかし、新大陸でもいらぬ面倒を背負ったな」
「ユキも災難だね」
「面倒で災難でもあったけど、それで終わらせるほうがあとあと面倒だからな。こっちの利益になるように動いただけだ」
転んでもただでは起きん。
泣き寝入りなぞするか。
「相変わらず強かだな。頼もしい」
「だね。心配したけど、こうして顔を合わせると安心したよ」
「サクリには連絡だけだったからな」
「仕方ないよ。僕は、リハビリ中だったし」
そんなことを言って笑いあう。
こういう気安さはいいよな。
だが、ずっと雑談をしているわけにもいかないか。
「と、そろそろ本題に入りたいけどいいか?」
「もちろんだ。今日は一体どうした?」
俺がそういうと、ノーブルは真剣な顔つきになり、サクリもそれ以上口を開くのをやめる。
流石、阿吽の呼吸というやつだな。長い間コンビを組んでいただけはある。
さて、俺も仕事を開始するか。
「実は……」
俺は、小一時間かけて、外交官の統一機関、外務省の設立と、それを多数の国の同意をとり統一事業とすることで、外交に関する規格の統一や異文化の習慣、礼の面倒事をなるべくなくそうというのを話した。
「……確かに、この案自体は悪いものではないな。ジョブどう思う?」
「はっ。計画書には目を通しましたが、とても理に適っていると思います。問題点もしっかり書かれていて、今まで外交を行っていた縁故での外交官たちが今の地位を奪われる不安があるところですが、これも外交官教育課程での教員としての再就職先の提示もありますし、これで外交官の地位を剥奪されるようであれば元々、才能がなかったと言えるでしょう」
ジョブ宰相にはおおむね好評のようだ。
ちなみに、話をする前に、みんなにはちゃんと計画書の方は渡してある。
ドレッサがせっせと配っていたのだが、普通にノーブルやジョブと軽く笑顔で話をしていたし、関係は良好のようだ。
「うむ。私もそう思う。ホースト殿はどう思われるか?」
「え? 私ですか? 外交官ではないのですが……」
「このベータンに6大国の要人を迎え入れ、もてなせる人の意見が欲しいのですが……」
そう言われて、否定できないホーストは俺に視線を向ける。
「俺もホーストの意見は聞いてみたいから、言ってみてくれ」
「わかりました。そういうのであれば……。ユキ殿の外務省の設立計画は全体的に見れば、素晴らしいものだというのは、ジョブ宰相と同じ意見です。ですが、今のイフ大陸の状況で素直に受け入れられるかという懸念があります」
ホーストがそういうと、3人とも頷く。
「私は、ホースト殿の意見は的を射ていると思います。確かに計画自体は素晴らしいものですが、既存の利権を侵すというのは国としては辛いものがあります。しかも、ロガリ大陸との交流の為にイフ大陸での連合を組んだりなどをして、国内外で色々慌ただしい状態です。そこで、この外務省の設立計画を上げると……」
「ジョブの言う通りだね。今まで外交で甘い蜜を吸っていたかもしれない連中が反旗を翻すかもしれないね。下手をすると、普通の領主も今までの利権を奪われるかと思って動くかもしれないね」
「やることが大きいからな。粛清などと思われると、かなりまずい。そこら辺の対処はどう考えているのだ?」
まあ、やっぱりというか、同じ懸念にたどり着くな。
今までの利権を侵すところから来る、不安からの反発。どこでもあることだ。
「そこは、入念な説明だな。そして、今まで外交を担ってきた一族には一度招集をかけて、この外務省設立に手を貸せというか、ほぼ主導でやってもらえればいいと思う。新しい部署のトップとその重役だ。利益云々というのなら、この話に乗らない方が損をするというのもわかるだろう? ジョブが言ったように、元々才能がなかったというのも露呈するだろう」
「なるほど。外交を担ってきた一族たちをまとめて、そこから外務省の人員をというわけですな。そうなると、人事も思いのまま。今の世代では立場を奪われるような心配はないですな。上手くいけば、より次代に強固な外交官の一族として立場を強められるかと。それすら理解できないようであれば、外交官をやってもらうなど私たちはできませんな。さっさと首を切ります」
「でも、それだと、外務省を私物化される恐れがあるんじゃないかな?」
「……ふむ。サクリの言う通り……いや、ありえないのか。外務省を設立するのは、大国だけではない。そうだな、ユキ殿?」
「将来的にはそうなる」
俺がそういうと、3人とも納得したように頷く。
「となると、大国だからと言って、無茶な交易を要求していても、いずれ小国に外務省が出来たときに、他所の対等な取引をしてくれる国の方へと持っていかれることになる」
「その時は、交易相手がいなくなりその報告が飛んでくるというわけですな。そもそも、外務省からの収支の報告書は届くでしょうし、上にいる私たちが無能でない限り不正は防げるでしょう」
「というか、下手すると、僕たちが従えている小国たちが他の大国に鞍替えしかねないから、対等に公正にやれって最初から言えるね。これで文句を言うなら、反逆罪も適応できるんじゃない?」
最後にサクリがそういうと、ホーストを含めて、全員がハッとした顔つきになる。
「ユキ殿の狙いはそこか!!」
「確かに、ここまで好条件を提示して突っぱねる連中はやましいことを抱えているということになりますな」
「これは不安定化している各国への支援も兼ねているのですね」
そう、元よりこれ以上色々やるとさらに混乱するのは目に見えている。
だが、自然鎮火するのを待つのは俺としてはあまりよろしくない。
なにせ、未だに新大陸の問題などを抱えている最中だし、元より、各国の王連中からの相談されていることもある。
だからこその解決案として、この外務省の案件を持ってきたわけだ。
「そのつもりで計画を練ってきたんだが、どう思う?」
「なるほど、なるほど……。これはいい。だから、大国全てでやる必要があるのか!!」
「今の所、6大国は連合に同意しても、武官や文官の交流はそこまでありませんからな。ゲートの行き来で多少は増えたりはしましたが、公式に色々着手しているわけではありません。だからこそ、外務省設立を目標に、6大国の共同事業とするわけですな」
「はぁー。そういうことか。初めての6大国の共同事業。しかも今後の外交円滑化を求めて。さらには、ロガリの外交も控えているから、これに参加しないのは損というか、馬鹿だよね?」
「そんな馬鹿はいりませんからな。わかりやすいほど反逆罪でもなんでも適用できるでしょう。外務省の連中を襲ったりなぞすれば、下手をすれば6大国全部を敵に回すことを意味しますから」
そういうこと。今まで煮え切らなかった連中も、色々ごねている連中も、これで態度をはっきりするしかない。
敵か味方かをはっきりしろと突き付けられるわけだ。
この中で外務省を私物化なぞすれば、6大国のいずれかが私物化している違和感に気が付いて上に連絡も行く。
「1国で厳しいなら、全ての国を巻き込めという話だな」
「規模が桁違いですが、会議などで事前に根回しをするのは当然のことですからな」
「このやり方だと、反対派は少数にしかなりえないね。ジョブの言う通り、自分の国だけじゃなくて、他の5大国も敵に回すことになるから、それをわかって敵対する人はいないだろうね。可能性としては、国を乗っ取るとかすれば……、いやこれもうまく行かないか」
「そうですな。どのみち1対5いや、ロガリやウィードも加わるでしょうから、あっという間に踏みつぶされますな。最初からわかっていた事実が、さらにはっきりするというわけですな」
ホーストのいう通り、この大陸間交流に反対するような態度を取れば、いずれ立場を失うことになるのだが、やはり跳ねっ返り共はいる。
そういうのはまだ実感がないのだ。まだ、大陸間交流は木っ端の貴族はもちろん、普通に暮らす人たちにとっては何の話かもわからないだろう。
意味の分からないものは恐怖をさそう。
だからこそ、明確にはっきりと分かりやすい行動と物を示す必要がある。
それは、条約だったり、交流だったり、外務省だったり、交易品だったりとだ。
一個だけじゃ不安だろうから、畳みかければいいじゃないかという話。
「で、これを他の5大国にも事前に話を持って行こうと思っているけど、反対はあるか?」
「「「ない」」」
全員同意してくれた。
まあ、細々とした調整はあるから、今日はこの調整を終えて、明日にでも5大国巡りかな。
はぁ、疲れるわ。
イフ大陸のノーブルやサクリとも相談と確認を取ってOKを貰う。
そして、いよいよ次からは懐かしのイフ大陸再訪問。
みんなどれだけ各国の人覚えているかなー?
あと、誤字脱字の指摘、本当にありがとうございます。
皆々様のご協力により、読みやすい修正が出来ていると思います。
これからも、迷惑でなければご協力お願いいたします。




