第661堀:計画ができたら上司に報告
計画ができたら上司に報告
Side:ユキ
さて、ソウタさんの快諾も得られたことだし、この外務省の設立を始動するべく、まずは俺の上司に話を通さないといけない。
ああ、この場合の上司はルナとかいう駄女神ではなく、ウィードの最高指導者、女王陛下こと俺の嫁さんであるセラリアにだ。
大抵の場合は、俺の判断で実行できるが、今回はセラリアに話を通さないと不味い。
大陸間交流を今まで主に担ってきたのはセラリアであるし、外交次第ではウィードの立場も危うくなりかねないからな。
まあ、あれだ、俺が独断実行できるのは、魔力枯渇とか、武力行使の時のみで、外交が絡むとセラリアを通さないといけないってやつだ。
ハイデンの時も、キャリー姫やカグラがきちんとセラリアに挨拶に行ってたぐらいだからな。
俺が公に女王陛下を無視して動くと、ウィード的に色々まずいってことだ。
あくまでも、俺はウィードではナンバー2ぐらい。
そうじゃないと、ウィードの経営もしないといけなくなるから死ぬ。
ま、そんな感じで、セラリアに仕事の話を通しに会いに行くのは、俺がのんびりとまではいかないけど、組織の力をある程度自由に使いつつ、動きやすい状況を維持するために必要なことなのだ。
決して、セラリアにウィード経営の仕事を押し付けて楽をしたいという思惑があったわけではない。
嫁さんに仕事を押し付けてさぼるほど、俺は腐ってないと思う。
そんなことを考えつつ、セラリアの執務室へ。
ちなみにセラリアの執務室はウィード庁舎にある。
いや、日本なら市長とかが、庁舎にいるのは当然なんだけど、一応中世ヨーロッパファンタジーなので、お城がいいかなーとは思ってたんだが……。
『そんな無意味なのはいらないから』
と、セラリアが庁舎で仕事をすると言ってきたのだ。
日本でも皇居とか総理官邸とか普通にあるんだけどね。
いや、まあ、拠点にしているウィードの秘密旅館がそういうのに該当するんだろうけどさ。
ダミー旅館も厳重な警備体制だしいいのか……。
今更ながら思うが、旅館が皇居とか総理官邸でいいのか?
そんなことを考えていると……。
「あら、何か用?」
「あ、セラリア」
庁舎内の廊下でばったりとあった。
「ああ、大陸間交流の件でな。あと庁舎についてか?」
「大陸間交流はわかるけど、庁舎が問題?」
とりあえず、今懸念事項になった皇居とか、総理官邸とかの話をすると……。
「旅館が私たちのウィードにとってはお城でしょう? 庁舎と旅館でウィードの特色をよく表していると思うのだけれど。」
「まあ、な……」
「しかも、来賓館も別に存在しているし、問題も何もないでしょう? そもそも、防衛に関してはダンジョンの中にウィードがあるってことが難攻不落なんだし」
「うーん。俺がお城とかそういうのにこだわり過ぎてたかな?」
「ま、気持ちはわかるけどね。ユキにとっては旅館も庁舎も一般的なもので特別なものって意識がないから。だけど、私たちからすれば、驚異の塊よ」
ああ、俺からすれば大したものではないが、こっちの人から見れば驚異の塊か。
「作りたいなら、日本のお城とかでいいわよ? 姫路城とか?」
「いや、それはそれでメンドウ。維持費とかどうするんだよ。そもそもあれは、戦争用の城で、中はめちゃくちゃ入り組んでるから普通に使用するのは大変だぞ」
「でしょう? だから、いまのままでいいじゃない」
「確かにな……」
ま、そんなことを話しつつ、執務室に到着する。
「おかえりなさい、陛下。と、ユキ様じゃないですか?」
中ではクアルが書類を整理をしていた。
「よ。相変わらず、近衛隊長なのに書類の手伝いしてるんだな」
「ははは。もう少し文官を入れてもらえませんかね?」
俺がいつもの万能ぶりを褒めると、空笑いしながらクアルはセラリアにそういうが……。
「今更クアル以外を横に置くのはアレなのよねー。知られたくない内容も多々あることだし。夫の事とか、大陸間交流のこととかね」
「まあなー。下手な新人を横に付けるわけにはいかんよな」
「普通、このような報告書をみれば頭がいかれていると思うでしょうね」
クアルはそう言って、俺がこの前だした、新大陸における中級神派との攻防についての報告書を手にもっていた。
「ま、クアルのほかに、エリスやラッツとか、今は代表から退いた仲間がこっちに手伝いに来ているからね。なんとかなるんじゃない?」
「エリス様やラッツ様のご助力は確かに助かりますが、まだ現場をずっと離れられるわけではないでしょう?」
「まあ、そうだけど、そんなこと言ったら、どこの所ももっと予備人員がいるって話になるわよね」
「むー。まだ、エリス様やラッツ様の手助けがあるだけましという話ですか」
「そう思いましょう。後進を育てるっていうクアルの話も理解できるけど、まだウィードは出来て5年も経ってないからね。重鎮を育てようにも、まだまだ……」
「功績も何もあったものではないですしね。ウィード自体は極めて平和ですし」
「そ。地道にちゃんと頑張っている人を採用しないといけないから、エリスとかラッツが使えるだけでもありがたい話よ。ユキが最初に奴隷の採用をもくろんでモーブたちにエリスたちを買ってこさせなければ今頃どうなっていたか……」
「想像もしたくありませんね」
恐らく、書類地獄で身動きできなかっただろうな。
それどころか、イフ大陸、新大陸ともに進出不可能だった可能性すらある。
ま、もともとウィードの件は俺一人では手に余ると予想してたからこそ、エリスたち奴隷を購入して、ウィード経営を任せようとしてたんだがな。
「で、そんな人が足りない話はいいとして、大陸間交流の話があったんじゃないかしら?」
「あ、そうそう。そっちが本題だった」
俺はセラリアに、交流国全体に外務省設立を提案したいという話を伝える。
無論、メリットやデメリットなども含めて。
「ふーん。いいんじゃないかしら? クアルはどう思う?」
「私も良いと思います。今でも陛下にはロガリ大陸各国からの外交官の挨拶などひっきりなしですからね。午前中は謁見の大半は外交官の挨拶と交流交易の願いですよ。それを一手に引き受けてくれる外務大臣がいれば仕事が効率よくなるでしょう」
概ね、2人の反応は良好だった。
ま、仕事が減るというのは喜ばしいものだからな。
「というか、今までは、縁故による近隣国との付き合いが主で、縁故の連中に任せていたのよね。そのやり方だと、数が増えるにつれ問題があるのはウィードになってよくわかったわ」
「お隣の数国と遠方の国、数国ならどうということはないですが、既に大国だけでロガリは5大国、イフ大陸では6大国、さらに小国家が無数と。そんなのを何も緩衝を入れずダイレクトに私たちが対応していましたからね。ユキ様に言われて、なんで今まで作らなかったんだろうと思いましたよ」
それも仕方のないこと、地球でも各国の大使館自体はかなり大昔から存在しているが、外務省や外交官などの基本的なルールが国際社会で出来たのは記録に残っている限りでは1800年前半だ。
明確にルールが制定されたのは、1815年のウィーン規則を元に、外交官の安全保障などの色々な改訂を含めた1961年から1963年に定められたウィーン条約。
これが今日における地球での外交官ルールと言われている。
年代を見ればわかると思うが、この外務省とか外交官の安全保障などの明確なルールを多くの国々が受け入れたのは地球でも近年、ここ200年前後の事である。
というか、ウィーン条約からみればまだ作られて100年も経っていないことになる。
悪い意味で言うつもりはないが、この中世ヨーロッパ程度の文明レベルで海の先は滝で奈落の底という認識のところで、こんな外交に関しての国際条約を思いつくことすらないだろう。
だって、未だに歩兵で攻めかかれー!! って考えが主だったしな。
この話を素直に受けいれられている、セラリアやクアルが凄いということだ。
「私たちとしては歓迎するべきことだけど、問題はよその国がこの外務省設置の提案を受け入れるかって所よね」
「そうですね。未だに、縁故における外交をしているところばかりですし、外務省という枠を作るとなると、縁故で外交をしている人たちが嫌がるのでは? それを管理されるとなればなおさら」
「いや、縁故での外交官席の取り合いなんて、今でもよくあることだろう?」
「まあ、そうね。一国との外交を一手に握るのは美味しいことだもの。一領主とか木っ端役人は喉から手が出るほど欲しい立場よね」
「確かに、言われるとそうですね」
「外務省を作ることによって、各国の実態も把握もしやすくなるし、管理もしやすいだろう? ついでに後進を育てるのも。縁故でやると、その家が潰れた場合は一からやり直しだからな」
「ふむ。利点が多々あるのはわかるけど、現体制を取り壊してってのはかなり嫌がられるわよ? あなたがわかっていないとも思えないけど」
「ついでに新しい部署といいますか、外務省なる場所を建てるにも場所とお金がかかります。そういうところでも問題がでるでしょう」
セラリアやクアルの言う通り、元から外交官として働いている人たちからすれば、嫌なことだろう。
だが、それを統括する王様とかは、楽になるのは間違いない。
「ま、その通りだな。普通なら外務省を作るのには反対するのが多いだろう。だけど今ならな……」
俺がそういうと、2人とも俺の意図に気が付いたようで、目を見開く。
「……なるほど。ロガリ大陸は既にゲート流通で外交管理が大変なのはわかりきっているから、さらにイフ大陸の交流も控えていて、提案を飲まないわけがないわ」
「問題はイフ大陸ですが、イフ大陸の各国は今、ウィードを含むロガリ大陸と国交を結ぶために内部固めの状態。外務省という外交管理機関は国の上に立つ者にとってはありがたいもの。これに反発するものは、国の方針に逆らうということで、反発者の取り締まりが出来るわけですか……」
「そういうこと。イフ大陸は、内部を押さえるのに苦労している。そこに協力する形だな。縁故による外交官一族にとっては死活問題ではあるが、お互い外務省という同じ規格の統一ルールを制定することによって、無駄や不利益をなくせる可能性が高い。大国に従っている小国群も外務省を設立することによって、他国とのやり取りが簡単にできるという点もある。これは不利益なやり取りをしている小国群がいたとすれば、それを脱却できるいい機会にもなるわけだ。納得できる交易取引相手を見つければいいんだからな。別に不利益でなくても、新たなる躍進をねらって色々頑張る国も出てくる」
俺がそう付け加えると、2人は半目になってあきれ顔になっている。
「相変わらず、正論というか、賛同しないと損をするというやり方ね」
「縁故の外交官が、自分だけが儲けたいなど言えば首が飛ぶ状況ですね」
「これで、従わないやつは徹底的に追い詰められるわね」
「しかし、この話は誰がイフ大陸の王たちに持っていくのですか? 外交官である奥様たちでしょうか?」
2人とも納得していたが、クアルが不意に口にした疑問でセラリアがなお驚いた顔になる。
「あなたが直接持っていくわけね?」
「そうそう。俺が直接話を持ってきて、断れる連中が向こうにはそうそういないだろうからな」
とどめは俺だ。
傭兵団での戦歴を盾に大半は折れるというか、喜んで受け入れるだろう。
だって、ウィードの王配の願いを聞いたという評判も得られるんだから。
まあ、完全に思うようにいくとは思えないが、イフ大陸の各国をもう一度訪問して、状況を自分で把握するのも大事だろうからな。
さあさあ、ユキの本領はここから。
盛大に周りに仕事を押し付けていくスタイル!!
いや、社会では当然のやり方だけどね。
プロジェクトに関係なくても話をしていないと邪魔してくるわけわからん身内っているもんよ。
敵より味方の方が怖いし、責任を自分一人でひっかぶるのアレだし、共同作業にするのがよい。
まあ、代わりに、名前が売れるとか、自分だけの成果にはならない。
評価が分散されるから、昇進したい人は色々考えどころだよねー。




