第660堀:御社の事業説明をしてもらってもよろしいでしょうか?
御社の事業説明をしてもらってもよろしいでしょうか?
Side:神代 宗太 屍人 享年78歳 無職
地球を離れてはや……500年近く?
異世界で普通に天寿を全うしたはずなのだが、なぜか死後復活させられて、異世界の国を……救ったのかはわからないが、また関わることになった。
まあ、なんというか、人間生きていればいろんなことがあるとは思ったが、死んでからも色々あるもんだなと思ってしまう。
「ええ。ソウタさんの力を貸してください!! 切実に、真剣に、俺たちが外務省を作るために!! あ、エノルさんはともかく、ポンコツはいらねーよ? アージュ殿は、ご自身の判断に任せます」
「口に出てるわよ!!」
そう、ユキさんから就職してくれと言われたのだから。
まさか、日本で就職したことのなかった私が、異世界において、しかも死後、外務省を作るために力を貸してくれと言われるとは思わなかった。
いや、異世界でずっと無職だったかというと、一応傭兵団の参謀して、そのままハイデン作って公爵位を貰って領地経営だから、違うんだろうが、なんというか、こうな……。
いずれ、死んだ親父や御袋、兄貴にあの世であった時に、何をしていたかと聞かれると、ちょっと説明しづらいじゃないか。
まあ、死んでいる間に、親父たち家族とは会わなかったが、履歴書にまともにかける職種ぐらいは欲しいと思う。
しかし、外務省だ。
これを聞けば、親父たちも多少は見直すというか驚くだろう。
そんなことを考えていると、ポンコツと事実を言われたハイレンが、ユキさんに食い掛っていた。
「なによ、がいむしょーって!! ソウタやエノルにできて私ができないわけないでしょー!!」
「いや、無理」
「即断するなー!!」
「まーまー、落ち着け。ハイレン。ユキ殿、色々察せられるが、流石にいくら友人であるポンコツをいきなりバカにするのはどうかと思うぞ? 詳しい説明をしてくれんか?」
「あ、それは失礼しました。すまなかった、ハイレン」
「エノルもポンコツっていうーー!! ユキ少年だって、全然謝ってないでしょう、それ!? ソウタ!! ソウタ!! 何呆けているのよ!!」
「あ、ああ、すまん。エノルの言う通り、ユキさん。一度詳しい御社の説明を聞かせていただけないでしょうか?」
「ごらー!! まずは私がバカってのを否定しなさいよ!!」
「お、落ち着いてくださいませ。ハイレン様。ハイレン様はバカじゃありませんとも。それはこのアージュが知っております。ちょっと抜けているだけですわ。それよりも、ユキ様。私は私の判断に任せるという意味を教えていただけないでしょうか?」
「アージュまで!? なんか私、無視されてない!?」
「「「はいはい。おちついて。ハイレン。ユキさんにまともに噛みつくと負けるわよ」」」
横でなんかハイレンがうるさいが、リリーシュ殿たちが構っているから放って置いていいだろう。
しかし、咄嗟に出てきた言葉は、就職活動の練習でよく言っていたもの。
合同の企業説明会で、見たことも聞いたこともない会社の企業説明を聞いていた。
何事も、練習あるのみだと思ったな。
……あれ? 外務省って公的機関だから、御社っていうのは間違いか?
でも、新しく作るみたいなだから、新事業と同じか?
だが、外務省はウィードという国の組織、御国の為に働きたくって言うのが正しいのか?
いや、誘われたんだし、この程度のミスはいいのか?
そもそも、私はウィード国民ではない。となると、御国の為に働きたいというのは、間違いじゃないか?
そんなことが頭の中をぐるぐるめぐっていると、ユキさんは納得したように席に着く。
「そうですね。外務省と言っても、ソウタさん以外にはよくわからない上に、ソウタさん自身もなぜ? という疑問が多いことでしょう。このような人の多いところで話す内容では無いですし、場所を移動しませんか?」
「確かに、このような多くの人が食事をとる場所で話す内容ではないですな」
ということで、私たちは場所を移動して、ウィード庁舎にて話を伺うことになった。
そこで聞いた話は簡単にいうと……。
・ユキさんたちだけでの外交管理が許容範囲を超えかけている。
・解決策として、外務次官を据え、外交官を取りまとめ、対外を管理する外務省の設立をしたい。
・だけど、外務省を作っても上に据える人がいない。
・だれか、手が空いていて、ユキさんたちが信頼出来て、他国の知識があり能力がある人物が欲しい。
・そういえば、今、ウィードで預かっている、ソウタさんたちがいたじゃないか。
そして、今に至るというわけだ。
「話はわかりましたが……」
「うむ。私たちとて新参者もいいところじゃぞ?」
「それに私たちは、ウィード国民ですらありませんが……」
「よくわからないから。簡単に説明してよ」
ハイレンは放っておいて、この案件は私たちに任せていい内容では無いと思う。
ウィードの外交管理を他国者に任せるなど正気の沙汰ではない。
そう思っていたが、ユキさんは即座に話を返す。
「いや、実はそうでもないんですよ。新参者というのはある意味間違いないですが、このウィードという国はまだまだ新興国、出来て5年も経っていない。よそから来た人が偉くなるのはままあることで、そういう意味では、ソウタさんたちは俺たちが信頼できるというお墨付きがあるので、そうそう反発はないでしょう」
なるほど。確かハイデンをファブルと作った時もそんな感じだったな。
他所から色々人材を集めた。
「さらに、ソウタさんは俺や、タイキ君、タイゾウさんと同じ日本人。外務省と言って理解していましたし、俺の意図を汲んでくれるのはソウタさん以外にはいないんですよ。タイキ君やタイゾウさんは、一国のトップや、宰相ですからね」
「なるほど……」
だから私にユキさんは真っ先に話を持ってきたわけか。
「アージュ殿下の言う、所属の件ですが、流石にソウタさんにエノルさんはハイデンの現場に戻るというのはなかなか難しいことでしょう。アージュ殿下も同じなはずです。まあ、アージュ殿下の方は、死んでいなかったとして手を打たれるなら戻れる可能性もありますから、手伝うとするなら、一時的な物ですね」
「確かに。ハイデンにとって、私たちの存在はある意味頭の痛い問題だろう」
「まあな。無視できぬ存在じゃ。いっそ、ユキ殿の言うようにウィード国民として生きた方が、ハイデンの連中は安心するかもしれんのう」
「なるほど。だから、私の判断に任せるということなのですね」
「ねー、ねー、なんで私を無視するのよー」
今はハイレンに構っている暇はない。
バカへの説明で時間を潰すのは惜しい。
理由はわかった。だが、話を聞いて疑問がでてきた。
「ですが、なぜ今なのでしょうか? 前々から外交管理はユキさんが行っていたのですよね? 許容範囲を超えつつあると言っても、すぐに耐えられなくなるわけでもないでしょう? それに、今更変えるとなると、それ相応の問題があると思いますが?」
「あー、そっか。詳しい事情はまだしらないですよね。失礼しました。私たちも焦っていたようです。多少お聞きになったかと思いますが、私たちは私たちで、大きな問題に直面しています。ただ単純に、外交先が増えたわけではないのです」
そしてユキさんが、なぜ今、外務省を作りたいと言い出した詳しい説明をし始めた。
その内容は度肝を抜くモノだった。
いや、よくよく考えれば当然のことだ。
私たちハイデンがある大地、そしてウィードがある大地は別の大陸だ。
他に大陸があっても何も不思議じゃない。
それが、イフ大陸。
そことの大陸間交流が今まさに始まろうとしているのだという。
つまり、一気に外交ルートが倍増しそうになっているのだ。
外務省を作るチャンスとしては、ある意味、一番適切な時期と言えるだろう。
ここで一気に、外交に関連することを整理するという話だ。
それは外交官を個人の縁故で決めるのではなく、しっかりした外交官を育てたいのと同時に、トラブルや書類の決裁を外務省に委任したいという話は実は二の次で……。
「この外務省という概念は、幸い未だ他の国々でも存在しません。縁故による外交官採用が主です。となると……」
「事の問題は、ウィードだけではなく、他の国々でも起こりうる問題だということであり、これを機に、他国と話し合って、その国々でも外務省の設立を進めたいということかい?」
「ご明察です」
なるほど。
事前に予測されるトラブルを未然に防ぐ、あるいは迅速に解決するために、他国へも外務省の設立を求めるのか。
これは他国が外交関連で苦労するから、という意味だけではなく、私たちからというか、今まさに大陸間交流が始まる時期に話し合うことによって、統一規格を作れるという最大のメリットが存在する。
規格というと、わかりにくいかもしれないが、つまり必要な書類の提出、押印などを規定して、交易国ごとに違う内容や書式、大きさの書類を扱うなどというトラブルを未然に防ぎ、互いの国の外交官が外務省に行って手続きをする際の混乱を避けられるということである。
何をすればいいのかというのが、統一されていれば楽なことはない。
私も、現役のころ、他国を訪れては外交ルールの違いに戸惑ったものだ。
羊皮紙をつかったり、まずは書き出しする挨拶があったり、挨拶の品物を持っていったり……。
それを是正、統一しようという話だ。
「ちなみに、今のままだと、ハイデン、フィンダール、ハイレ教は今回の大陸間交流に噛めることはありません。ですが……」
「私たちがウィードの外務省の立ち上げに協力すれば、ノウハウをそのまま祖国に伝えられるわけですね!! それに、私たちから祖国の紹介もできるわけですね!!」
アージュ殿下は凄いと言わんばかりに声を上げる。
そうか、ここで働くことがハイデンの為にもなる。
ハイデンも、私たちを過去の英雄として持てあますことなく、いい立場を斡旋したといえるわけか。
「まあ、アージュ殿下がフィンダールの外交官として働いてもらうのは問題ですが、多少の紹介程度は問題ないでしょう。ハイデンの外交官であるカグラたちも助かるでしょう」
「なるほどのう。一石三鳥ぐらいいけそうな良い話じゃな」
「話がすんなり進めばですけどね。それを後押しするためにも、ソウタさんたちが承諾してくれるのなら、早急に外務省立ち上げに協力してもらいたいわけです。というか、作らないと、外交周りが死にます」
確かに、今からイフ大陸という多くの国との交流を前に外務省を設立しないと、とんでもないことになるのはわかる。
「しかし、嫌というわけではないが。私は残念ながら、実務の経験はない。大学を出るぐらいで就職はしていない。それでもいいのかな?」
「ええ。日本人、ソウタさん以上に、他国、異文化の違いを受け入れられる人はウィードにはいないでしょう。といいますか、ハイデンでも色々交渉で当時は動き回っていたのではないですか? 参謀として」
「うむ。ソウタの交渉能力はすごいぞ。そこは妻の私が保証しよう」
「エノルさんのお墨付きもありますし、これで実務能力がないというのはあり得ないでしょう」
はぁ、ここまで期待されては断るのは失礼か。
「一応、ハイデンの方に連絡を取りたく思います」
「当然ですね。すぐに連絡を取ります」
「それで、許可がもらえるのであれば、私はウィード国民として、ユキさんたちの元で働きたく思います。このとおり老体で死体ではありますが、よろしくお願いいたします」
「うむ。ソウタがそういうのであれば、私も一緒に働くぞ。なに、ただ飯を食うのは気まずいというのもあったしな」
「私も、とりあえずお手伝いとして参加したく思います」
どうやら、エノルもアージュ殿下もユキさんに上手くのせられたようだ。
「と、そういえば、なんかハイレンが静かじゃのう?」
話がまとまって、不意にエノルがそんなことを言って私も気が付いた。
最初の頃は私も混ぜろと、説明しろとうろうろしていたはずだが……。
そう思って辺りを探すと……。
「ぐー、ぐー」
「あ、難しい話ばかりだから、寝るっていってましたよー」
「はぁ。ユキさんの言い方はどうかと思いましたが……」
「ハイレンの場合は、女神以前にまず基本的な勉強が必要ね」
と、3女神様から、そう判断をくだされていてなお、寝ていた。
こうして、ユキは人材を得て、ポンコツ女神は熟睡する。




