第659堀:新部署と人材
新部署と人材
Side:ユキ
俺は今日も今日とて、机の上の紙切れと格闘中。
紙切れとはいうが、これをおろそかにすると手痛いしっぺ返しを食らう。
全く、書類を見通しで目の痛いことだ。
昨日、イフ大陸の状況確認を終えて報告書を作り上げたと思ったら、今度はイフ大陸各国の陳情書だ。
いや、陳情書は国民の権利だから、どちらかというと、他国からの希望、依頼書という奴かな。
内容は主に、我が国にウィードの外交官派遣をと望む声だった。
言葉も通じないというか、国交もまともに開いてない状態で何をバカなといいたいが、イフ大陸の連中は、少しでも早く、ロガリ大陸への足掛かりを得たいのだろうな。
まあ、ウィードかロガリかはしらんが、交流を持ちたいというのは悪い話ではないだろう。
ちなみに、派遣人員の教育はやっているが、それを統括する外交機関は設置されていない。
だからこそ、俺の方に外交関連の書類が回ってくるのだが。
「なんで、俺の所に……」
「いや、ユキ以外に、イフ大陸相手の外交官として務められる人材などいませんが?」
ジェシカのバッサリした言葉に俺はなにも言えなくなる。
俺が散々イフ大陸で暴れまわったから、こういう結果になったのは間違いないからな……。
「ジェシカさんの言い分はわかりますが、我が夫であり、王配であるユキ様が、外交官としてあちこちに顔をだすのは色々下に見られる心配はありますわね」
「……ん。というか、ウィードの外交機関を作らないといずれ身動きができなくなる」
サマンサやクリーナの言う通り、俺がわざわざ動くのも問題がでてくるし、そろそろ仕事が満載過ぎて身動きが取れなくなる。
「大変になるって言うのはよくわかるけど、そうなるとユキさんはなんで今までウィードで外交専門の部署を作ってなかったの?」
そんな俺たちにリーアがすごく当たり前な質問をしてくる。
「今までは必要性が認められてなかったからな」
「必要性が認められてなかった? 外交官がですか? でも、ロガリでも沢山の国と色々やってたじゃないですか?」
「そこはな……」
俺が息を溜めて、リーアたちの視線が集まったのを確認して口を開く。
「いままで何とかなってたから、放って置いたのが原因」
「「「は?」」」
目が点になっている嫁さんたち。
ま、そりゃそうだよな。
俺にしちゃ、らしくない失敗と言えるだろう。
だが、それにもちゃんと理由がある。
「まあ、簡単に言うと、ロガリの場合は、セラリアを筆頭にルルア、シェーラ、タイキ君などなど、各国との外交ルートが既に確立されていたわけだ。わざわざ、新しい外交機関を作って、混乱させる必要がなかった」
「ああ、そういえば。ロガリ内の外交はルルアたちがやってた」
そう、ロガリの各国は、俺の所へ嫁さんを送って、その伝手で色々外交を進めていた。
変なルールを作って複雑化するとウィードの流通が滞りかねなかったというのもある。
「だが、イフ大陸は違った。ジェシカやクリーナ、サマンサはある意味、ルルアたちと同じ立場かもしれないが、それができているのは、ジェシカたちの3か国だけだ」
「「「あ」」」
俺がそういって皆気が付いたようだ。
「つまり、ジェシカはジルバ。クリーナはアグウスト。サマンサはローデイ。では残る3国はどうなるのか? という話になる。こちら側には、俺やセラリアに直接訴え出るルートが存在していない」
「ああ、だから、エージルさんはお嫁さんにしてくれーって言ってたんですね?」
「そういうことだ。簡単に話を通せるルートがないんだ。外交関係で俺に面会したいといって、気軽にこの執務室に来れるわけがないからな。この状況はある意味不公平ともとれるわけだ」
「……そういうことですのね。まあ、今までの理屈なら、ユキ様に気に入られなかったのが悪いといえばそれまでですが」
「……ん。そんなことを堂々と言えば、イフ大陸に格差や不和が生まれる。ユキが扱いに差をつけるとは思わないけど、私たちがお嫁さんになっている事実があるし、そういう目で見られることになる」
「さらに、イフ大陸の認識は一度ユキに話を通してということが絶対条件になっています。まあ、当然です。ユキを無視して話を進めるとひどい目にあうと考えていますからね。ルルアたちのように、祖国の希望をきいて、そのまま担当に話を持っていき。セラリアの所には完成した交易予定書がでるというわけではないですから」
3人の説明で俺は頭を抱えた。
傭兵団で暴れすぎた弊害だ。
ノーブルとか、ホワイトフォレストの連中は、まあ身内みたいなものだから遠慮はないんだけど、他の国は俺たち傭兵団が暴れすぎたせいで、まず俺にお伺いを立てる。
それが目の前の書類の山だ。
「……とまあ、今までの体制に頼っていた弊害ってやつだな。そもそも普通の国なら、隣国と、たまに遠方からくる少数の国とちょいちょいと会話を済ませて終わりだからな」
「普通ならですわね。でも、私たちにはゲートがありますから」
「……ん。便利過ぎても色々大変になるということ」
そう、この奥さんとか知り合いが友好国にいるからそれが外交官でいいじゃないか。というやり方は元々相手が少ないからこそできたことである。
相手が増えると、ちゃんとした統一機関が必要になるのだ。
日本的に言えば外務省を作るということだ。
……血を吐きたい。
人が圧倒的に足りない……。
いやまて、案外、嫁さんの友達にグローバルで活躍したいという人たちがいるかもしれない。
「……外交官の統一機関。日本の名称を取って、外務省として、その人員の確保の為に誰か引き抜けるというか、適任者はいるか? ほら、ウィードの友人とかで」
「……ウィードの生活を捨てて、生活し辛い、治安の悪い他国に行きたがる友人はいないと思いますが」
「……ジェシカほど、自分の国を悪く言うつもりはありませんが、言葉も通じない知り合いもいないとなると、なかなか厳しいかと」
「……ん。そんなところに赴任とか。私だったら泣いて嫌がる」
イフ大陸の嫁たちは海外への赴任とか、ただの左遷という虐めだとみている。
まあ、俺も実にそう思う。
ウィードから他国へのゲート設置班からも度々同じような苦情がセラリアの方に上がっていると聞く。
主に、トイレがない、風呂がない、飯がまずい。うん、どうしようもねえな。
ウィードの生活水準を上げ過ぎた弊害という奴だ。
そんなことを考えていると、リーアが何か思いついたようで口を開く。
「でも、冒険者とかなら、見知らぬ土地へってのは楽しみなんじゃないんですか?」
「冒険者は冒険することが仕事だしな。他国に行ってウィードの為に交渉するとなると、また別だ。まあ、普通のウィード国民よりは他国で生活することを嫌がったりはしないだろうが……」
「そっかー。いい案だと思ったんだけどなー」
「そもそも冒険者の多くはウィード国民ではありませんからね。そして、礼儀や書類仕事を一から叩き込むとなると……」
「まず、ウィード国民になる手配に、読み書き、礼儀作法、外交官としての仕事を叩き込むと、膨大ですわね」
「ん。とは言え、そういう派遣人員の教育は行っているはず。もうすぐ大陸間交流が始まることを予定しているから。それをそのまま外務省に移動すればいい」
「いや、クリーナの言うように、今後の大陸間交流の為の派遣人員はいるが、外務省という外交官の統一機関を統括する人材がいないわけだ」
「……ん。なるほど、問題点を理解した。今から派遣人員とは別に外務省の人がいると」
「そうそう」
俺がそう返事を返したあと、クリーナは一瞬沈黙して……。
「……ん。無理」
と、返答した。
ですよねー。
「無理というか、無茶ですね」
「ですわね。外交官の統括ということは、立場上、私たちというか、ユキ様がしているこの外交の精査や細かい調整、書類の作成を代わりにやるということ。それ相応の知識や礼儀はもちろん、私たちの意をくんでくれる方であり、信頼できる人でないといけませんわ」
「……そんな人いないよ。私たちだって一杯一杯なのに」
リーアが言うように、俺たち身内から外務省メンバーを出す余力もない。
一応、警察官組である、リエルにデリーユが特務という特別枠で空いてはいるが、この2人が外交官のボスというのはアレだろう。
2人とも、自慢の嫁さんではあるが、こういうやり取りはどうも心許ない。
更に、デリーユはともかく、リエルはイフ大陸では亜人と蔑まれる人種だ。
あえて、という考えもあるが、わざわざ波風立てるのはなーと思うし、この2人、書類仕事が苦手だ。
できないわけではないが、やる気がなかなかでない。現場主義である。
そして何より、警察の特務班ということで、ウィードで厄介な事件が起きた時に即座に動ける部隊でもあるし、その方向での活躍はしっかりしていて、多忙ではないが、暇というわけでもない。
「できるとしたら、俺たちの誰かをお飾りとして、外務省のトップに据えて、実際の実務は俺たちが探してきた有能な人に任せるって方法はあるにはある。俺たちは出来た書類に目を通すだけでいい。細かい交易とか交流とかは全部その部下任せ」
「……方法としてはありですが」
「……その実務をこなせる有能な人材はどこにいるのですか?」
「……ん。いない」
「だよねー」
俺たちの希望を察せて、他国とのかかわりになれていて、実務もできる。
……自分で言ってなんだが、無茶苦茶言っていると思う。
カグラもこういう感じでひーひー言ってるんだろうな。
エリスやミリーがウィードでの外交官の仕事を叩き込んでいると報告があったし。
新しいことをするのには手間と苦労がつきものだ。
ん? カグラ?
なんか引っ掛かりを覚えた。
「どうしましたか? 具合でも?」
俺がこめかみを押さえたせいだろう。心配したジェシカが声を掛けてくる。
「いや、違う。何か人材に心当たりがあるような気がした」
「え? そんな人いましたっけ?」
「……思いつきませんわね?」
「どういう心当たり?」
「なんか、カグラが外交官で大変だなーと思っていたら……」
俺はそう口にしていると、気が付いた。
それと同時に、ジェシカたちもあの存在に気が付いた。
「「「あっ、ソウタさんたち!!」」」
そう、我がウィードで預かっている、新大陸の英雄死者御一行。
あ、プラス、新人ポンコツ女神もいる。
俺たちはすぐに執務室をでて、人材の確保へ走る。
「あ、ユキ少年。チョコケーキって美味しいわねー!! 凄いわ、日本の食文化!!」
「うむ。総本山でも思った。ここにきてなおの事じゃな。当時、ソウタが私たちの飯を食ってはぼやいていたのが、今更ながらよくわかる。雲泥の差じゃな」
「……本当に美味しいです。お姉様やキャリーはこんな美味しいものを食べていたなんて、うぎぎぎ……」
死者御一行は、今日も今日とて、美味しくウィードで昼食中のようだった。
ちなみに、ウィードの案内はというと……。
「あらー。ユキさんに、みなさんもー、おそろいでー」
「おや、どうしましたか?」
「何かあったの?」
駄目神で駄女神ルナの介護ヘルパーのリリーシュ、ヒフィー、ノノアがそろって案内をやっていた。
「なんでお前たちが……」
「えー。だってー、新人の女神よー? かわいいーじゃない」
「ルナ様に色々教育をと頼まれていますので」
「ええ。安心して私たちに任せて頂戴」
「こうして、他の女神様たちに色々教えてもらっているの。すごいでしょ!!」
なんで胸を張っているんだよ。
というか、お前らは暇なのか?
御国のトップが2人に、家の司教様だろうが。
とまあ、今は放っておこう。
「ソウタさん」
「あ、いや、すまない。ユキ君。私としても、ちゃんとするべきだとは思っているのだが、どうも女性の……」
「いえ、それは仕方がないです。ここまで女性が集まれば姦しいを超えているでしょう」
というか、ルナからの指示だ。
図に乗っているにきまっている。
話が通じるわけがない。
あとで絞めておこう。
「今日はソウタさんにお願いがあってきました」
「私に? ハイレンではなく?」
「ええ。ソウタさんの力を貸してください!!」
切実に、真剣に、俺たちが外務省を作るために!!
あ、エノルさんはともかく、ポンコツはいらねーよ?
アージュ殿は、ご自身の判断に任せます。
「口に出てるわよ!!」
使えるのもは何でも使う。
それが遺体であっても。
別に自分が復活させたんじゃないし、有効利用という話。




