第656堀:めでたしとはじまり
めでたしとはじまり
Side:カグラ・カミシロ
狂王アクエノス改め、狂茸アクエノキはルナによって処罰された。
これにより、新大陸における最大の問題は片付いた。
尚これは極秘事項であり、表向きはハイデン、フィンダール、ハイレ教会が協力して狂王信者を打倒したことになっているので、関係各所は口裏を合わせるように。
スティーブ将軍の部下から渡された書類には簡単に言うと、そう書いてあった。
「「「は?」」」
その書類を読んだ私たちが間の抜けた声を上げたのは当然のこと。
だって、私たちが服の洗濯を頼んで、お風呂に入って少しゆっくりしたと思うけど、それでも半日も経ってなくて、ご飯を食べて、ゆっくりしてたらこの書類が回ってきた。
一体何があったの? と思うのは不思議ではないでしょう?
ということで、私たちは慌てて食後のお茶を中止して、ユキたちのいる場所へとスティーブの部下に案内をたのんで、会議室にたどり着くと……。
「ユキ、何があったの!?」
「あ、やっほー。カグラちゃん。それにお友達かな?」
なんか、見知らぬ赤髪の女性が増えていた。
しかも私を気軽に名前で呼んでいる。
「……?」
少々腹立たしかったが、会議の場だし、無礼というにも、正直この会議の場において私より立場の低い者なんて、ミコスやソロぐらいのモノだ。
つまり、あの赤髪の女性はお偉いということになる。
……赤髪の知り合い、知り合い、ああ、いた。
「……あの、クリーナのお姉さんか親戚でしょうか?」
そう、クリーナは赤髪のショートボブ。
ユキが普通に受け入れているなら、クリーナの血縁だと思うのが普通だろう。
娘のシュテンちゃんも赤髪だし。
半ば当たりだと思って聞いたのだが、その赤髪の女性は首を傾げる。
「クリーナって誰?」
「ぶははははっ!? そうよねー!! 顔合わせるのは初めてだし、普通はそっちの方よね!! あんたももうちょっと、自分の状況を把握しなさいよ。うひー、お腹痛い」
「え? え?」
よこで笑い転げるのはルナ様。
しかし、その赤髪の女性はなぜ笑われているのか理解できないようで、困惑している。
それを見ていたユキが、ひじょーにめんどくさそうな顔で私に告げる。
「……はぁ。カグラ。その頭の悪そうなのはな、ハイレンとか言うらしい」
「はぁ!? 頭の悪そうってなによ!?」
「……カグラがお前の正体をわかっていないという事実にすら気が付いてないのを、頭の悪い以外でどう表現すればいい?」
「ぬぐぐぐ……!?」
あ、このやり取りは確かに見たことがある。
「えーっと、本当にハイレン様なんでしょうか?」
私たちはにわかには信じられないので、横にいるソウタ様とエノル様に聞いてみる。
流石にいきなり目の前にいる女性が私たちが崇めている女神様と言われても、ね……。
「……すまない。残念ながら、ハイレンだ」
「本当に残念ながらじゃな。ルナ様のお力とユキ殿のコアの提供で復活したわけじゃ」
「誰が残念よ!?」
「あー、もう。ポンコツは黙ってろ、話が進まん。というわけだ。納得したか?」
「え、ええ」
信じられないけど、ユキやルナ様がいるんだもん、こういうこともあるわよね?
「ねーよ」
「え?」
私、口にだしたっけ?
「今俺の顔をみて、俺やルナならあり得ると思っただろう。そこの駄目神はともかく、俺を何でもできるドラ○もんとか思うんじゃない」
「ドラ?」
「ま、というわけで、ルナに狂王の処分を任せてそれが終わった。その書類は皆読んだな?」
ユキにそう聞かれて私たちは頷く。
「ついでに、こうしてハイレンは復活した。それだけの話だ」
「それだけって、十分大事だと思うけど……」
「別にすぐに集まって話し合うことでもないだろう? 切羽詰まっていた事態は終わったんだ。あとは明日にでもゆっくり説明しようと思ってたんだよ。カグラもこのポンコツに体を使われて体調を崩していたからな」
そういわれると、何も言えなくなる。
「でも、それなら、狂王のことは、明日でもよかったんじゃない? なんで私がいないところで……」
そう言いかけて、ルナ様がこちらの言葉を遮る。
「ノンノン。それ以上は無粋だって、ユキ的には体を乗っ取られたカグラがいる前でアクエノキと対峙したくなかったのよ」
「あ、はい」
つまり、ユキは私の為に、手早く片付けてくれたわけか。
「はぁ、まあ、言わないと納得しないよな。そういう理由だ。何かあった後じゃ問題だからな」
「うん。ありがとう」
ユキはやっぱり優しい。
そんな感じでポーッとしていると、ミコスが口を開く。
「えーっと、そうなると、ユキ先生や皆さんはなんでこの会議室に集まっているんでしょうか? 具体的な話は明日からってことですよね?」
そんなミコスの質問に答えたのはキャリー姫様だった。
「そこは、ある程度方針をまとめておこうという判断からです。カグラはともかく、ミコスにソロは本来であれば同席できる立場ではありませんからね。今までは緊急の事として、同席を認めていましたが、これからは国と国の話し合いです。興味本位で首を突っ込むと、落とさないといけなくなりますよ?」
「あ、あははは。失礼しました」
ミコスはそう言って、後ろに下がる。
……落とすって、首よね。
まあ、でも姫様の言うことも尤もか。
これまで国家機密の出来事に首を突っ込めたのは、主にユキが同席を求めたから、それがないのであれば、こんな小娘たちに国の行く末を左右する話なぞ聞かせられるわけがない。
よくも悪くもミコスとソロの立場は外交官補佐でしかないのだから。
「となると、私たちは退席した方がいいのでしょうか?」
迂闊に聞いただけで友人が死ぬことだけは避けたい。
「いや、別にいいんじゃないか? ミコスにソロは外交官補佐だろう? 今後の展開を知っておかないと面倒だろう。別に今からハイデン、フィンダール、ハイレ教内部での具体的な金銭のやり取りとかをばらすわけじゃあるまいし。キャリー姫様のは一種の脅しだ。ミコスはそこらへん弁えておけって注意してるんだよ。なあ?」
ユキにそういわれた姫様は少し難しい顔をしたが、すぐに頷いた。
「ユキ様の言う通りですが、ミコスは私が見た限り、迂闊に色々聞きまわったりするみたいですので、ミコスの行動次第で、我が国の不利益となりかねません。そこはよくよく注意してください」
「あ、はい。ユキ先生に迷惑はかけないですよ」
「私たちハイデンにです!!」
「ひゃい!! ごめんなさい!!」
ミコスのバカ。
「はぁ……。まあ、このまま上手くいってくれるなら問題はないのですが。とりあえず、ミコスは言動に注意するように。ソロはそのままアマンダさんや、エオイドさんと良い関係を築くように」
「は、はい。が、頑張ります」
「さて、色々お説教をしましたが、これからの話ですね。ユキ様、カグラたちは着席させても?」
「いいぞ。キルエ、皆の分のお茶を」
「はい。かしこまりました」
今になって気が付いたけど、そこにはメイドのキルエさんや、他のユキの奥さんたちが勢ぞろいしていた。
リエルさんやトーリさん、カヤさんたちはこちらに手を振ってくれたし、サマンサにクリーナも変わりはないようだ。
ラビリス、アスリン、フィーリアたちもちゃんといる。彼女たちはあの怪談騒動以降は学院の防衛についていてくれたらしい。
あとは、ウィードの女王陛下であるセラリア様を筆頭に文官系のラッツさんたちは内政で非常に忙しかったようだが、流石に今回の会議はでるようだ。
でも、みんな穏やかな雰囲気をまとっていることから、本当に終わったんだなと思った。
そんな感想を抱いていると、キルエさんがお茶を持ってきてくれて、それを確認したユキが話を始める。
「さて、既に皆も知っていると思うが、俺たちが処理すべき案件であった狂王という、中級神派のアクエノキはそこのルナに人に戻してもらって追放処分にしてもらった。理由は今後の中級神派かアクエノキの信奉者かはわからないが何かしら接触してくることを狙ってだ」
うん。それは正しいと思う。
ルナ様に逆らうような馬鹿は根こそぎ消滅させないと。
「アクエノキは知らないがちゃんとマークはつけているからいつでも追跡は可能。あと、放し飼いにした場所は、新大陸東部、つまりハイデンやフィンダール、ハイレ教の版図な」
「「「はぁ!?」」」
その話は初耳だったので、私たちは声を上げるが、姫様たちは落ち着いた様子だったので、既に聞いていたのだろうが、なぜそんなに落ち着いていられるのだろうか?
「カグラ、落ち着きなさい。アクエノキは力を失いましたが、未だ、私たちの土地には狂王が生み出したマジック・ギアが存在しています。アクエノキが地元に解き放たれたと知れば、まず接触するのは……」
「あ、そっか。その狂王信者ってわけですね」
「ミコスの言う通りです。ただで放免するわけがありません。狂王の下に集うならまとめて始末しますし、狂王の元に別の中級神派が集まる可能性もあるかもしれません。まあ、野垂れ死ぬならそれだけの男だったというわけです」
「「「……」」」
キャリー姫様のいいように皆口を閉ざすが、為政者としてはこのぐらいやって当たり前だろう。
散々迷惑を掛けられたんだ、これぐらいの扱いは覚悟してもらわないと。
「ま、アクエノキの動向はいいとして、問題点はまた別だ。これ以降はハイデンやフィンダール、ハイレ教へのウィードからの支援はほぼ無しとなる。元々、俺たちがここまで首を突っ込んでいるだけでも問題だったんだ。マジック・ギアを使った犯罪についてはハイデン、フィンダール、ハイレ教で協議して対応してもらうことになる。もちろん、要請があれば助力はするが……」
「ご厚意はありがたいですが、これ以上ユキ様率いるウィードの手を借りては、色々と問題が出てきます。今でも色々と問題がありますからね。当面の目標は、学院での国際会議でしょう」
そういうのはスタシア殿下。
そうだった。元々学院に行ったのは今後の国の安定のために各国に今回の事を説明してウィードという国を認めさせるための話だっけ?
「そこはまあ頑張ってくれ。こっちはこっちでそろそろ、ロガリイフ会談の進展とか繋ぎとか、色々仕事が溜まってるからな。準備ができたら連絡よろしく」
「はい。その時はよろしくお願いいたします」
あ、そうか、もうユキがずっとハイデンにいる理由がないのか。
でも、なにか忘れてるんじゃ……あ、そうだ。
「ねえ、ユキ。私たちの土地の魔力枯渇現象とかはどうなるの?」
「そっちもいずれやらないといけないが、今はハイデンとかフィンダール、ハイレ教が落ち着かないと調査もクソもないからな」
「た、確かに……」
「ま、目に見えている大事は終わったが、これからは地道な作業の始まりってことだ。ここで国をしっかり立て直してくれることを祈る」
「ここまでお手を貸していただいたのです。近いうちに、正式にウィードをお招きできるよう頑張らせていただきます」
そうキャリー姫様が挨拶をして、大体の今後の予定は話し終わった。
私たちはそのまま、ウィードへと赴任。
学院へは別に通ってもいいけど、バイデ防衛戦の功績で私やミコスは卒業決定だし、仕事ももう決まっている。
ソロに関しては、まだ学生なので、学院とウィードを行ったり来たりして、ハイデン、フィンダール、ハイレ教、ウィードの連絡員として役に立ってもらおうという話になっている。
それと最後に……。
「そういえば、私たちこれからどうすればいいのよ!?」
「心配するな。俺のコアの分は働いてもらうから」
「きゃー!? なんであんたが出てくるのよ!? 私が戻るならハイレ教とか、ファブルたちが作ったハイデンでしょう!? カグラの家とかじゃないの、ソウタとエノルの家だし」
「バカハイレン。今更私たちが出て行っても混乱するだけだ。体の代わりは作ってもらうということで話はついたし、恩もある。私やエノル、アージュはしばらくウィードで過ごして、何かあればハイデンやフィンダールに手を貸す」
「そんなの聞いてないわよ!? 今から、私たちはアージュたちやファブルも含めて平和になったところを見て回るんじゃないの!?」
「ファブルは自我が戻ってないから連れて行けるわけないわ。さっさと死体に戻ってもらうことになっている。他に自我のある連中も遺体に戻りたいと願うものも多い。それは私たちが残ってくれるなら安心してという意味だ。もうちょっと頑張れ」
「……ということだ。働かざる者食うべからずだ。働け。そして休日に遊べ」
「むっきーーーーーー!! やっぱ、私はユキ少年はきらいよー!!」
どうやら、ハイレン様たちは大丈夫のようだ。
さあ、私たちも……、あれ? 一体何をすればいいんだろう?
そう思っていると、不意に肩を叩かれて振り返ると……。
「どうも初めまして、私、ウィードで会計、そちらで言うと財務を任されています。ユキさんの妻でエリスと言います」
「私は二度目ね。あの時はどうなるかと思ったけど、無事に子供も生まれたわ。と、私は魔物退治を基本的に専門とする冒険者という人たちを管理するギルドとウィードを仲介をしているユキさんの奥さんでミリーって言うの」
「「これからちょっとお話でもしましょう。カグラさん」」
あ、死んだ。
今度こそ死んだ。
皆さん知っているとは思うけど、普通の物語ならここでハッピーエンド。
しかーし、我が必勝ダンジョンはただのよくあるトラブルでしかないのは皆さんご存知の通り。
タイトル通り、英雄、魔王、神なんて畑から湧いて出るような感覚。
ユキは再び、ウィードを中心に魔力枯渇問題を解決するために外交と更なるトラブル解決へと向かって行く。
そしてカグラはラスボスと対峙。
いったいどうなる!!




