落とし穴111堀:公園デビュー
公園デビュー
Side:スラきちさん ウィード魔物軍 魔物四将軍
「いいわね。クアル、スラきちさん。なんとしても守りきるのよ」
「「了解」」
俺と近衛隊長のクアルはセラリア姐さんの命令にそう答える。
「よし。ならば作戦開始は1300変更なし。予定通り配置につきなさい」
「「はっ」」
俺たちがそう答えると、セラリア姐さんは満足したのか、執務室を出て行く。
恐らくは準備をしに行ったのだろう。
子供たちの公園デビューの為に。
そう、本日は3歳を過ぎた子供たちを、そろそろウィードの公園に連れて行っていいだろうということになったのだ。
そのために動員される俺たちスライム部隊と近衛隊というわけ。
「しかし、面倒なことになったな……」
「サクラ様やスミレ様、ユーユ様は王族や元聖女様の血筋です。他のお子様たちもウィードでは重鎮たちの子供です。本来であれば一般の公園に行くなどということ自体認められることではないのですが……」
「そんなのは情操教育に悪い。いろいろな経験をさせるのが成長につながるって大将がいってたからな」
「ユキ様の意見はわからなくもないですし、女王陛下や他の奥様も賛成されていますからね。反対できないです。しかし、子供たちは生身です。誘拐は簡単でしょうし、首でも絞められればすぐに殺されてしまいます。なかなか難しい仕事ですね」
「首を絞められるとか、刃物の心配はしなくていいだろう。指定保護を受けているし、まあ、問題は子供同士の喧嘩とかだな」
「相手になった、子供の両親の心臓が止まりそうですね」
「だよなー」
お宅のお子さんが一緒に遊んでけんかしていたのは、女王陛下の一人娘のサクラです。
とか言ったら、普通びっくりしてひっくり返るわ。
「……教育も学校に行かせると言っていますし」
「そのための公園デビューなんだけどな……」
「まあ、幸いといってはなんですが、サクラ様たちはご姉妹が沢山おられますから、同じ年の子たちを怖がることが無いというのが幸いです」
「怖がるどころか、姉妹喧嘩はよくしているからな。相手に怪我をさせないか心配だ」
おもちゃの取り合いとか、色々。
そのたびに母親たちに怒られてぎゃん泣きしては、仲直りしているから、別に姉妹仲は悪くない。
だが、やんちゃが過ぎる。初めての子相手にいつもの調子だとこっちが相手の子供のご両親に頭を下げないといけないだろう。
「ま、色々心配しても仕方がないですね。部下には私服で待機するように言ってますし、私も着替えてきます」
「はいよー。近衛隊も大変だね。俺たちスライム隊はいつもの公園警備の一環って感じだから気楽だよ」
「スラきちさんの任務は私たちよりはるかに大変ですけどね。ずっと公園に待機して、不審者の監視とか、人では無理ですよ」
「ま、そこは適材適所ってところだ。というものの、スライムの連中も休暇でローテーションだしな」
「一回の勤務時間が酷いですけどね」
「本来、単細胞で思考能力もほぼないからな。適度に機能低下させて、警戒態勢にしてればいいんだよ。3日連続勤務はよゆーよゆー」
「人だと死にますね。と、では失礼します」
そんなことをいってクアルは執務室から出て行く。
さて、俺も先に公園に行ってスライムたちの配置を確認しとくか。
緊急救護用のヒールスライムとか、多めにあつめるか?
公園で大けがすることはまずないが、不意に転んで頭を転がっている石にぶつけてスプラッタになるという事故は何度かあり、病院で使われているヒールスライムが公園に配備されるようになったのだ。
公園でただで治したってのは、病院の存在意義を問われるから応急処置だけの命令が出ているが。
「お待たせしました。スラきちさん」
「おおー。クアルの私服は見たことなかったがそんな感じなんだな」
うん。近衛隊の隊長だから、お嬢様のような恰好かとおもえば、普通の服装だ。
どちらかというと、すらっとしたOLのような感じ?
いや、この世界にOLとかいないけどな。
「ええ。オフは大体こんな格好ですね。まあ、ユキ様のおかげで服には困らないのが嬉しいですね。おかげでクローゼットが服で一杯です」
「そりゃよかった。クアルはセラリアの姐さんに無理言われてるからな、それを結構気にしてたからな。大将は」
「よく気遣っていただいています。と、そこはいいとして、配置の方は?」
「こっちは全部済んでいる。クアルの方は?」
「はい。近衛隊も既に配置についています。あとは奥様たちの到着を待つばかりです」
「近衛隊も送り迎えご苦労だなー」
「まあ、本来近衛はこのような使い方ですから。陛下が若い時、結婚前は私たちはいつも陛下について戦場でしたから、幾分マシですよ」
「そりゃ、お疲れさんとしか言いようがないな」
「ええ。疲れますとも。妙に剣の腕も指揮官としても優秀でしたからね。我に続けと先頭を走られたときはこっちが死ぬかと思いましたよ。どっちの意味でも。まあ、ユキ様のおかげで大人しくなってくれてありがたい限りです」
クビって意味と、物理的に戦死ってやつだね。
最悪の上司ここに極まれりという奴か。
大将も初めて会った時のセラリアの姐さんの印象は突撃バカの話通じねえだったしな。
「わるかったわね。若気の至りという奴よ」
そんな声が聞こえて振り返ると、我がウィードの女王陛下様や重臣たちという、大将の奥さんたちが子供たちの手を握って立っていた。
「あ、スラきちさんだー」
「ほんとだー」
その子供たちは俺を見るなり、母親たちから離れて駆け寄ってくる。
「スラきちさん。いけー」
「あ、サクラおねーちゃんずるいー」
「のーりーたーいー」
どっかの娘さんはいきなり俺の上に乗ってきて、馬代わりにする。
他の子どもたちは年長であるサクラの行動に頬を膨らませる。
とりあえず、お嬢さん方。俺はスライムであって、馬じゃないからな。
そりゃ、家で会う時は馬になったりクッションになったりで遊んであげたけど、今回は公園で俺と遊ぶってことじゃないからな。
といっても、分かるわけないよなー。子供だし。
どうしたものかと思っていると、お母さま方が子供たちを俺から引き離す。
「サクラ。今日はスラきちさんで遊ぶんじゃないのよ。公園にきたの」
「こうえん?」
「そう、公園」
説明してくれるのはありがたいが、なんで俺「で」遊ぶなんだよ?
普通、スラきちさん「と」じゃない? 俺って玩具扱い?
「しゅてお姉ちゃん。こうえんってなにー?」
「なになにー?」
「うーんと、とと様からから聞いたけど、人がいーっぱい遊びに来るんだって。私たちと同じ年の子とかも」
「「「へー」」」
秋天の嬢ちゃんもスミレやシャンスの嬢ちゃんの手を引いて立派にお姉さんをしている。
正直、秋天の嬢ちゃんがいれば護衛なんていらねぇだろうと思うが、秋天の嬢ちゃんだって大将の子供だからな。大人な俺たちが守ってやらねばなるまい。
「はい。秋天お姉ちゃんの言う通りです。スミレちゃん。ここでスラきちさんだけじゃなくて、他のお友達もたくさん作りましょう」
「はーい」
スミレ嬢ちゃんは素直だね。
ここは母親のルルア姐さん譲りって感じだ。
「でもじゃ、ユーユ。いじめられたら、拳でビシッとやるんじゃぞ!!」
「わかったよ。おかーさん」
そういってシャドーボクシングをする幼児。
流石、デリーユ姐さんの子供だ。おっかない。
「いやいや、穏便に済ませましょうよ。でも、シャンス。お耳やお尻尾は他人に簡単に触らせちゃだめですからね」
「うん」
うーん。ラッツの姐さん。そのいいかただと、知り合いになって仲良くなったら触らせそうだぞ。
シャンスの嬢ちゃんは姉や妹たちにモフモフされるのが当たり前って思ってるからな。
「エリアもこれを機にもうちょっと外で遊びなさい」
「えー、ごほんがよみたいー」
エリアの嬢ちゃんも母親のエリスに似て文学系だ。
この年で本にかじりついて、俺と一緒に遊ぶのはちょっとだけだ。
まあ、嫌ってないのはわかるけど、この年でああだと心配になるよな。
「いいですか、シャエル。なにかあれば、すぐに助けを呼ぶのですよ。いいですね」
「はい。おかあさま」
メイド魂をこの年の子に既に教えこまれているシャエルの嬢ちゃんは、個人的に不憫な気がするが、本人は当然だと思っているのでなんともなー。
キルエ姐さんが、メイドの身分ですので。っていうからどうもな。
まあ、別にサクラの嬢ちゃんたちと遊ぶのを禁止したりとかはないから、大将も特に何もいわないんだけどな。
「サクラ。貴方は皆の姉として、みんなを導き、守らなくてはいけないわ。それが、姉としての役目なの。わかるわね」
「うん。おねーちゃんは皆を守るよ!!」
「いや、セラリアかか様。それは秋天の仕事」
「秋天お姉ちゃんは、サクラが無茶をしたときに止める。もっと偉いお姉ちゃんね。頼りにしているわ」
「ん。任せて」
……親子は似るということか。秋天嬢ちゃんはもちろん総まとめって所から大将似だな。可哀想に。
大変なことにならないよう、俺たちがフォローしてあげないとな。
「じゃ、サクラ。みんな。この公園を冒険してきなさい」
「え? おかあさんたちは?」
「私たちは、後ろからついていくわ」
「わかった。みんないくよー」
「「「おー」」」
セラリア姐さんの言葉に押されて、サクラ嬢ちゃんたちは公園へと入っていく。
小さい大冒険の始まりだな。
「……というか、奥様たちがここまでそろっているのに、私たちが周囲を固める必要性があるのかという……」
「それはいっちゃいけない」
というか、クアル。お前さんは王族を守る最後の騎士。近衛だろうが。
まあ、のんびりとしたウィードの公園で、近衛騎士が抜刀するようなことはないだろうな。
すでに、トーリ経由で警察官も緊急配備状態だ。
不審人物がこの公園に近づくことは不可能だろう。
でも、万が一ということもあるので、俺たちがこうやって配置についているのだ。
「すごーい」
「うらにわよりひろーい」
「あっちには何があるのかなー」
「おねえちゃんたちまってー」
「……ごほんよみたい」
「おねーちゃん、がんばろう」
子供たちはそんな俺たちの心情に気が付くわけもなく、思い思いに公園を走り回り……。
「ふべっ」
「うきゃ」
「うぐっ」
「きゃっ」
「あう」
「にょ」
みんな一度は転び、泣き出す。
でも、お母さんたちに励まされて、ぐずりながらも自分の手で立ち上がる。
ちゃんと、成長しているようだ。
家でこけた時は助け起こすまで泣き通しだったのに。
ちなみに、その時、クアルは……。
「落ち着きなさい!! クアル!!」
「何を言っているんですか!? サクラ様が転んで泣いているんですよ!? 助け起こさないと!! それでも母親ですか!?」
「教育よ、教育!! あんたが駄々甘でどうするのよ」
「甘くはないです!! サクラ様が呼んでいるんです!! 離してください!!」
「あー、落ち着けー!!」
と、なんか修羅場だったりした。
クアルもよく家に来ては、子供たちの遊び相手しているからなー。
まあ、遊び相手をするだけで厳しいことは言わないから、そこら辺の問題なんだろう。
しかし、このことから将来クアルが嬢ちゃんたちの教育係になることはないだろうな。
「あ、そこの男児!! スミレ様やユーユ様に気安い……ふぐっ!?」
「はいー。クアルさん。落ち着いてー。ね?」
「ちょっと。後ろにいこうかのう」
終いにはルルアとデリーユに後ろに引きずられていく始末。
だめだこりゃ。
次の章に入る前に、一旦休憩。
サクラたちはどんどん成長していっているのでした。




