第650堀:お花摘み>>絶対越えられない壁>>>宝玉
お花摘み>>絶対越えられない壁>>>宝玉
Side:ユキ
「……どうやら、私が死んでいる間に、お姉様やキャリーはずいぶん美味しい思いをしていたようですね。まったく。あ、ユキ様、このいちごパフェとか言うのをお願いできますか?」
そういって、俺が渡したデザートのメニュー表を指さす。
……よく食う死者共だ。
と思いつつも、今後の円滑なお付き合いの為に躊躇う理由はない。
ついでに、ソウタさんとエノルさんはラーメンを食べたあとは、コーヒーを頼んでいて……。
「うん。いい味だ」
「にがっ!? 舌がおかしくならんのか、ソウタ!?」
「……だから、砂糖とミルク入れるか、ジュースにしろって言っただろう」
「ぬぐぐ、ソウタが飲めるなら、私も飲めると思ったのに……」
と、仲睦まじくしている。
ま、飯の時に仕事の話をするとかは無粋か。
「はい。アージュ殿下。こちらが、いちごパフェとなります」
「うわぁ。お姉様、キャリー、すごいわよ!?」
「ああ、美味しいぞ。ウィードでは散々私たちも色々食べ歩いたものだ。これよりも大きいパフェとかあってな。なあ、キャリー?」
「……ふーん。私が食べているこれはたいしたことがないってお姉様とキャリーは言いたいわけね」
「あ、いえ、アージュお姉様。スタシアお姉様は今度一緒に食べに行こうということを、ですね……」
「そ、そうだ、そういう意味で言ったわけではない。キャリーの言うように、一緒に食べに行こうということだ」
「はぁ、なんか、死んでからお姉様の間抜けな姿を見ることになるとは思わなかったわ。あれね、無骨すぎるのも問題ってことかしら? お父様やお兄様が嘆くわけだわ」
「ぐふっ!?」
「ああ、スタシアお姉様。お気を確かに。アージュお姉様も、もう少し言葉を……」
「はいはい。さて、せっかくユキ様が出してくれたパフェにケチをつけられたけど、私は美味しくいただきましょう」
そういって、アージュ殿下は美味しそうにいちごパフェを食べ始めるが、対して俺の出したパフェが格下と発言してしまったスタシア殿下は即座に復活してこちらにペコペコ謝りはじめた。
「ユキ様、さ、さっきの発言は、け、けっして、文句があるわけではななく……」
「あー、気にしなくていいよ。ウィードで楽しくやろうって話しだろう。アージュ殿下もそういうことだから許してやってくれ」
「無粋な姉に気を遣っていただきありがとうございます。ということですので、お姉様、キャリー、少し遅れましたが、このアージュは再び戻ってきました。まあ、死体ではありますが」
アージュ殿下はようやく面と向かって「ただいま」を告げると、2人は目に涙をためてうんうんと頷いていた。
ギャグをかなり挟んだが、こういう再会もまたありだろう。
だが、だがだ……。
なぜ人は同じ過ちを繰り返すのか。
「……お、お腹が膨れて動けない」
「麺類は後で膨らむからほどほどにしておけといっただろうに……」
「……ふと思ったんだが、アージュ、それだけパフェを食べてお腹は痛くならないのか?」
「そうですね。冷たい食べ物のはずですが、というか排泄とかはどうなっているんでしょうか?」
「ん? そういえば、お腹は痛くないですね。そして排泄もしてないです。一体どういうことでしょうか? お腹が張った感覚はあるのですが……」
こんな感じで、食いすぎ現象はここの死者も同じようだ。
コメットも同じように食い倒れていたしな。
と、そんなことより、死者の体と食事のことは教えてやっとかないとな。
「どこまで、俺たちがいる大陸と同じかわからんが、基本的に死者の体は魔力で体の動きを補っているから、生命活動が行われているわけじゃない。つまり、体が損壊するレベルの損傷、異常でない限りは特に違和感は感じないと思う。食べたものは少なくはあるが魔力に変換するようで、アンデッド系が生き物を襲うというのはそこらへんが関係しているのではと言われているかな。ま、今お腹が膨れているのは魔力変換が追い付いていないからだろう。だからほとんど排泄はない」
「「「はー」」」
俺の説明に納得したのか、感心したような返事が返ってくるが、アージュは俺が最後に言ったことに気が付いたようで……。
「あ、でも、ほとんどってことは……」
「流石に、食べたものを全部魔力変換できるわけじゃないからな。残り物は出てくる。まあ、これも自分の事じゃないからよくわからんが、知り合いのアンデッド曰く、お腹が普通に痛くなるので、そうしたらトイレに行けばいいらしい」
「「え、ということは……」」
エノルさんとアージュがそういった途端。
ぐぎゅるる~。
と、お腹の音が響き、2人ともお腹を押さえる。
「あ、あの、大司教殿」
「ど、どこでお花摘みをすれば……」
「ああ、はい。こちらになりますよ」
そういって、2人を案内する大司教。
が、そのあとを見て愕然とする残りのメンバー。
何を驚いているのかって?
「大司教様の所……」
「ラーメンのどんぶりが5つに……」
「パ、パフェが、9つ!?」
と、残骸を見て恐れ慄く、カグラ、ミコス、ソロ。
この中で一番健啖家だったのは、どうやらエノル8世大司教だったらしい。
いや、あれだな。こう、精進の日々だったんだろうから、俺が出したものとして、久々に遠慮なく、じゃなくて無理に食べたんだと思おう。
「お、驚くべき食欲だね」
「……少なく見ても、4、5キロ増じゃな」
「「「ひぃぃぃ!?」」」
エージルも顔を引くつかせ、デリーユの体重増加予想を聞いて、耳を塞ぐアマンダ、ドレッサ、ヴィリア。
やはり、女性にとって体重増加の話は聞きたくないことなのだろう。
「と、そういえば、カグラ」
「なに?」
「エノラはどうした?」
「あれ、そういえば、一緒に食べていたはずなのに、いないわね?」
気が付けば一緒に食事をしていたはずのエノラが消えていた。
と思ったのだが、ソファーの後ろからなにかうめき声が聞こえてきて確認をすると、そこにエノラは転がっていた。
「もう、たべれ、ない」
「はぁ、あんたはー……」
そう言いながら、カグラはミコスと一緒にエノラを運んでいく。
そんな騒ぎの中、ヒイロだけはマイペースにパフェを食べていて……。
「ん? スタお姉食べる?」
「い、いや、これ以上は私はいい」
「じゃ、キャリーお姉、食べる?」
「い、いえ、流石にこれ以上は女性としてダメな気がしますから遠慮しますわ」
「ふーん。大人の女性は大変なんだねー」
そういって、パクパクとまた食べ始めるヒイロ。
まあ、ヒイロは小柄で量もそんなに食べていないので、気にしないでいいだろう。
それに、成長期という奴だ。どんどん食べて大きくなるといい。
甘いものばかりだと気をつけないといけないが、俺の家で食事してるから偏ることもないだろう。
『しかし、よくもまあ、バクバクと食べる死人どもがいたものだな』
そんな状況を傍観してみていた水が、そういって、ソウタさんに近寄っていた。
「水か。お前は食わないからな。食事の懐かしいとか、美味しいとかわからんだろう」
『まあな。そういう娯楽に興じれるほど、実体化できる神通力もなかったからな。しかし、飯は食ったんだ。そろそろ建設的な話でもしたらどうだ?』
「妻と、アージュ殿、そして大司教殿が席を外しているのにできるわけないだろう」
『死者が喰いすぎで腹を壊すか。……あの猫娘も、相変わらずだったな。死んでも性格は治らんようだ』
「あのエノルが大和撫子のようになって、水は受け入れられるのか?」
『……ないな。妖でも化けているかと思うな』
「だろ?」
ひどい言われようである、エノルさん。
『しかし、大まかな方針は話し合っていてもよかろう。どうせ、あの猫娘はソウタに丸投げだろうからな』
「それを言われると否定しようがないな」
「そうはいいますが、あとは、確保した宝玉をどうするかぐらいですけどね。各国、各教会への連絡は総本山、つまり大司教殿からの通達事項ですし、今後の国のかじ取りはあくまでも、国の代表で行うべきです」
「ユキさんの言う通りだな。だが、その宝玉の扱いが一番の問題だ。あの中にハイレンはともかく、狂王もいる。不幸中の幸いというか、ユキさんたちが直接触れずに、確保してくれてよかった」
ソウタさんの言うように、アールエスの腕を切り落として確保してた宝玉は誰が触ることもなく、爆弾処理のように厳重に隔離した。
アールエス本人から、宝玉に触れて啓示を得たとか聞いてたからな。だれが触るかよ。
で、この宝玉をどうするかという問題がでてくるわけだ。
俺としては、もうさ溶鉱炉にでもぶっこんで焼却処分でもした方がいいんじゃないかと思うが、流石に戦友が閉じ込められているといっている、ソウタさんたちの前でそんなことは言えない。
最悪、そう言う処理もやむなしといってくれるだろうが、最初からあきらめるのは認めてくれないだろう。
『どうにかというが、正直あれはあのまま粉砕するか、供養するしか方法がないと思うがな。触れただけで精神汚染をするものなど、処分するのが一番だろう?』
俺が言うまえに、水がばっさりと言いにくいことを言ってくれた。
そのことはソウタさんもわかっているのか、難しそうな顔をして口をひらく。
「それはわかっているが、私たちの自我を呼び覚ましたり、狂王の洗脳から解放してくれたハイレンもその宝玉の中にいる。それは水もわかるだろう?」
『まあな。あの女神の落とし子の気配は感じる。だがな、狂王の方がはるかに気配は強い』
「どういうことだ、水?」
「パワーバランスまでわかるものなのか?」
意外な水の言葉にソウタさんや俺は興味を引かれた。
こんなダンジョンコアの中にいるらしい、狂王アクエノキと女神ハイレンのパワーバランスとか見ただけでよくわかるもんだなと。
『並みの人間ならともかく、ソウタやユキならばわかるのではないか? よく注視しするといい』
そういわれて、俺たちは厳重に保管していた、腕の切り落としつき宝玉をスティーブに持ってきてもらって、注視してみる。
他の皆も、食事の時の和やかな雰囲気は吹き飛び真剣な様子で警戒している。
「みえぬのう。リーアはどうじゃ?」
「ぜんぜん。アマンダはどう?」
「いえ。なにも……」
デリーユ、リーア、アマンダはそう言って首を傾げるだけ。
「壊れているし、ふれるのは禁止と。しかし、僕も見ただけではなにも感じないね。ヴィリアはなにか見えるかい?」
「残念ながら、お兄様のお役にはたてそうにないです」
「……私もわからないわ」
エージル、ヴィリア、ドレッサも同じようだ。
「私も、宝玉に何か違いがあるとは見受けられません」
「私も同じだな。ヒイロはどう思う?」
「ただの壊れたコア。で、お兄とソウタじいちゃんはどう見えるの?」
キャリー姫にスタシア殿下も宝玉をみてもわからず、最後にヒイロに聞いてみると俺たちに話が回ってきた。
「いや、正直わからん」
「ユキさんと同じく、私もわからんな。水、どうやって見るんだ?」
『……何といっていいものか。魔力というより、神域を感じるというかな。ルナ様に仕えているユキに、私を祀っていたソウタならとおもったが……』
あ、そういわれて、お互いに首を振った。
見えるわけがない。
俺は、ルナとかいう駄目神に仕えているわけじゃないからな。業務委託をうけた業者といった感じなので、尊敬とかそういうがあるわけがない。
ソウタさんも若いソウタさんから水との出会いを聞いた限りでは、元々いるとは思っていなかったが、異世界でようやく出会った戦友のようなものだ、神に対する祀るなどという感覚とは程遠いだろう。
そんなことをしているうちに、エノラを運び終わったカグラとミコスが戻ってきた。
「ユキ。ごめんなさい。エノラがあんな風で」
「気にするな。美味しいものを食べたんだからああなるだろう。2人も経験あるだろう?」
「……まあ、ね」
「あ、あははー」
そういって視線をそらすカグラに、乾いた笑い声を上げるミコス。
ウィードでカグラは酒乱になり、ミコスもウィードを訪れた時には食い倒れた。人の事はいえないのだ。
日本の食事は異世界一!! ということで喜んでおこう。
「そ、それより、一体何をしているの?」
「そ、そうですね。あ、それって、宝玉ですか?」
ごまかすようにテーブルの上にある腕付き宝玉に視線を向ける。
追及する気もないので、そのまま、なぜ宝玉を見ていたかの説明をすると……。
「なうるほどー。あ、ミコスちゃん閃いた。カグラって水様の巫女だったんでしょう?」
「え? そうだけど、私も何も見えていないわよ?」
「ちっちっちっ。カグラ、こういうところは抜けてるよね。ちゃんとした儀式をしないとだめなんじゃない? ほら服装とか」
「服装っていっても、ただの巫女服よ?」
カグラはミコスの予想は的外れというが、俺とソウタさんはそうでもなかった。
「「いや、やってみてくれ」」
そう言われて、カグラは急遽、巫女服に着替えて宝玉を見る準備を始めるのであった。
その間、俺たちも何か起きてもいいように、スティーブ達などを呼んで防衛体制を整えていると……。
「そういえば、妻やアージュ殿、大司教様はもどってこないですな」
「ああ、なんかずっとうんうん、唸ってるからそっとしておいたっすよ。あ、もちろん護衛は近くにいるっすからご心配なく」
「申し訳ない」
こういう理由で、ハイレ教のトップたちは宝玉のことは知らずに事態は進行していった。
いいのか? ハイレ教?
まあ、あれだ。
変な話に見えるかもしれないが、大事な事の前に用意をするというやつだ。
トイレを我慢して大事な用事をするより、トイレをしてから大事な用事をする人の方が多いだろう?




