第649堀:和解と再会
和解と再会
Side:ユキ
さて、元英雄様御一行はどうなったかというと……。
こちらの提案を素直に受け入れて、手枷を自分たちでつけたあと、大人しく武装解除したのち、普通に大聖堂に入ってきて、お互いの事情を話し合うことになった。
その結果、一時的協力体制監視付きとなったわけだ。
懸念、心配だった、実は洗脳されているということもないようで、検査に時間はかかったものの、手枷は外してよいということになった。
まあ、しっかり洗脳があっても解除できる系の状態異常回復の魔術を二重三重にかけてやったからな。
ステータス確認でも異常は見られなかった。
とまあ、色々話し合ったとしても、一日で話せる内容では無いので、数日に分けて色々と話し合う予定である。
と言っても、死者軍団の方は、目が覚めて総本山に行けと言われただけなので、主に俺たちの事情説明がほとんどだ。
あ、有益か損益かわからんが、宝玉、壊れたダンジョンコアのことだが、そこに狂王アクエノスだけでなく、ハイレンという女神も精神体として存在しているらしいという情報を得られた。
このハイレンのおかげで、この死者御一行は狂王の操り人形にならなくて済んだそうな。
いやー、頑張るね。現地の女神様。といいたいが、俺が召喚される前に何とかしてほしかったというのが本音である。
何度も何度も思うが、俺にとって神と名のつく奴は、ペーパーより役に立たない。
アレだな。宗教上の理由で、自分が祀る神以外は悪魔だという気持ちはよくわかる気がする。
これだけ足を引っ張られれば保守的にもなるだろうさ。
残念ながら、俺には祀りたい神様なんぞいないがな!!
「あのー、何かお加減でも悪いのでしょうか?」
「あ、いや、ちょっと考え事をしていました。今後の展開とかですね」
「ああ、申し訳ありません。私たちの事もかなり問題ですからね」
そういって謝罪するのは、年老いたソウタさんだ。若いソウタさんを知っている俺としては違和感があるが、この人もやはりソウタさんだというのが話をしていてよくわかる。
お茶を飲むしぐさとか、好みのお菓子とか、まあソウタさんとそっくりなのだ。
いや、どっちも本人だけどな。
「いえいえ。そちらも勝手にたたき起こされただけですからね」
「まったくだ。狂王の奴はとっちめてやるわ」
「こら。もうちょっと行儀よくしろ。すいません。うちの妻が」
「いえ、お元気そうで何よりですよ。しかし、ファブル殿の事は残念です」
そう、彼ら御三家というからには、カミシロ家、ハイレン家、そしてハイデン家とあるはずだが、この場には二家しかそろっていない。
つまり、キャリー姫の祖先といえる初代ハイデン王ファブルだが……。
「まあ、私たちのように自我が戻ったのが幸運だったのだと思います」
「ほっとけほっとけ、いずれ自我が戻るだろうさ。多少の反応はあるからな」
「お前は、もっといいようがあるだろうが……」
「はっ。一人だけ、未だ寝ぼけ状態なのが気に食わん」
そう、未だ自我が戻っておらず、指示に従う人形でしかない。
実のところ、死者御一行の3分の1ほどはこのような状態だった。
どうやら、魔力が高い人の方が自我を取り戻しやすいのではないかと、死者の経歴を調べてわかった。
まあ、まだまだ分からないことの多い分野だから、推測の域をでないし、死者を復活させるとかも、好んですることでもないからな。そうそう進むものでもないだろう。
「とりあえず。私たちのことは大体お分かりいただけたと思います」
「ええ。そちらもだいぶ苦労されたようで」
お互いそういって苦笑いする。
俺もソウタさんもこの世界に呼び出されて、こき使われているのは変わりないからな。
ちなみに、この説明はソウタさんにするのは二度目だ。
まあ、写し魂のソウタさんの方に一度というだけなんだが。
同じ人物に、違う人物として同じ説明を二度するとは思わなかったわ。
「ま、考えることは一緒だということよな。カグラにキャリー姫様だったかな。ようがんばったな」
「「はい。ありがとうございます」」
エノルの言葉に、キャリー姫とカグラは緊張した面持ちで返事をする。
ま、2人にとっては伝説のご先祖様だからな。
俺にとっては苦労したご老人にしか見えんが。
「エノラや大司教殿も私たちの不始末で迷惑をかけた。謝ってすむことではないが、すまない」
「い、いえ!? エノル様、お顔を上げてください!! 悪いのは狂王たちですから!!」
「そうです。エノラ殿の言う通りです。初代大司教様に落ち度などありません。まさか、精神だけ生きているなどとは誰も思わないでしょう。そして、この総本山の中であのようなおぞましいことが行われていたのにもかかわらず、気が付かなかった私に一番の問題があるでしょう」
エノラはおおむねカグラたちと同じ反応だが、エノル8世は落ち着いた感じでそう答えるあたり、大人の女性という感じだ。
「大司教殿だけの責任ではあるまい。こんなことで、大司教の座を降りてくれるなよ。この事態を収束して、ちゃんと任期を終えることを私は望む。エノラやそして若者たちに託すのはもっと平和になった世界でよかろう。なに、私もいつまでこの状態でいられるかわからんが協力しよう。しかし、肩書はないがな。はっはっは」
「……エノル様の御心の広さ、そしてお覚悟に深く感謝いたします」
大司教様も目に涙をためてそうお礼を言う。
このエノルって婆さんは気持ちのいい思い切りのいい人みたいだ。
ま、この場は鞘に戻ったと言っていいんだろうが、一つだけ問題があった。
それは……。
「キャリー!! だずげでぐれー!!」
そういって、会議室のドアを思い切り開け放ったのは涙で顔をぐちゃぐちゃにしたスタシア殿下だった。
「スタシアお姉様!? 一体なにが!?」
「アージュが許してぐれないんだー!!」
そう。感動の再会になるはずだったアージュ殿下とスタシア殿下、及びキャリー姫だったが、門前で、きっつい警戒態勢で銃を使って盛大にご挨拶をした結果、完全に機嫌を損ねてしまったらしい。
ま、敵でなかったのに、敵扱い、冷たい態度を取られれば、普通の人なら傷つくだろうからな。
さてさて、キャリー姫はどう反応するのかなーと思って見てみると、彼女も困惑した様子で……。
「……スタシアお姉様が許してくれないのであれば、私が謝ったところで同じような気がするのですが。そもそも、今回のことは仕方のないことだったと伝えたのですか?」
「伝えた!! 伝えたが、駄目だった。お姉様なんて知らないって。あうあう……」
「……とりあえず、私もアージュお姉様と面会いたしましょう。スタシアお姉様の面会は一先ず終わったとみていいでしょうから」
「お願いだ。キャリー、私を許してくれるように言ってくれ!!」
「……善処いたします」
どっかの政治家発言をしてアージュ殿下に会いに行くキャリー姫。
あ、姫だから政治家で間違いないか。
そんな悲壮な覚悟をしたキャリー姫を見送った我ら一同はもちろん今後の相談は一中止となる。
泣いているスタシア殿下を横に淡々と話せるほど、神経は太くはない。
「何をするにしても、一度、内部の一致団結を図った方がいいでしょう」
「そうですね。まずは、アージュお嬢ちゃんとお姉さんの仲直りですね」
俺が言ったことにすぐに同意をするソウタさん。
「あの、スタシア殿下。どうかお気を確かに……」
「大丈夫ですよ、きっと姫様が何とかしてくれますから……」
「そ、そうですよ。アージュ殿下もきっと色々あって、混乱しているだけです!!」
そういって、スタシア殿下を慰めるのはカグラ、ミコス、ソロの学院メンバー。
それをよそに、俺も状況の確認をしてみる。
「エージル。アージュ殿下はどんな様子だ?」
「うーん。私が知る限りは、普通に挨拶をしてくれたんだが、あれだね。久々の姉妹再会ということで、色々思うところがあるんだろう。というか、あの年で亡くなったにしては、よくできた子だよ。自分の状況に悲嘆してもいなければ、恨み言を言うこともない。普通ならおかしくなっても不思議じゃない。自分が死んだなんて、受け入れられるのは少数だろうからね。だから、あの程度は許してやるべきじゃないかな……。ま、度が過ぎるのは困るけど」
エージルの言うことにみんな頷く。
エージルの言うように、アージュの精神力は並みじゃない。
恐らく、姫という立場がそうさせているのか、あの幼さで命を失ったのに、取り乱す様子はまったくない。
そして、別に事態を深刻にしているわけでもなく、俺たち相手には普通に対応して、姉妹だけでの喧嘩だ。
下手に家庭の問題によその人が介入していいことじゃない。
「ま、キャリー姫様の腕の見せ所だな」
「そして私たちは待つばかりと」
「こればかりはな。ま、最悪私がこう拳骨を下せばアージュも素直になると思うが、それは最後の手段じゃろう」
スパルタ死者エノルはそう言って拳を振り下ろす動作をする。
そういう発想になるのは凄いというべきか、年の功というべきか……。
「ま、本題をすすめるわけにもいかんし。ユキ殿。銃の他にも、話から察するに、色々あるのじゃろう? だんじょんますたーというのは?」
「まあ、色々ありますが……。しかし、敵対してきたダンジョンマスターと同類だと言われてあっさり信じ、そして普通に話し合いに応じてくれましたね」
そう、実は銃などの関係もあり、俺が日本から連れてこられたというのはばれているし、今後の展開上、ダンジョンマスターだということは隠しておくのは不便だと感じて、素直に喋ったのだ。
まあ、敵対してくるなら、処分できるというメリットもあってのことだが。
だが、意外にも、2人はとくに嫌悪感を持つことなく、俺の話を信じて受け入れてくれた。
「昔なら、鼻で笑い飛ばすところじゃが、今となってはな……。魔王、狂王アクエノス、そしてハイレンときたものだ。今更、だんじょんますたーがなんのと言われて驚かんよ」
「そうですね。私たちが信じるのは誠意をもって話してくれる目の前の人だと思っています」
「そういっていただけると幸いです」
いい話のように聞こえるが、聞き方によっては神様だろうが何だろうが、敵対するなら容赦しねえと言っている。
ある意味、俺たちの先輩と言っても間違いないだろう。
「と、話がずれた。私が聞きたかったのは、ほれ、食べ物の方じゃ。まんじゅうという美味い菓子があるのじゃろう? ソウタがよく言っておったが、残念ながらあんこの元となる小豆やその他色々足りなくてな。あきらめてたんじゃよ。あ、それにらーめんとかいったかな?」
「こらこら、エノル。そんなことをな……」
「いえいえ。時間もありますし、ダンジョンマスターとしての能力のお披露目ということで、お出ししましょう。みんなも腹ごしらえということで」
「うむうむ!! 話がわかるのう、ユキ殿!! この頭の固い爺とは違うわ」
「ユキ殿。このクソ婆には、餡の代わりに馬糞でも詰めて出してやってください」
「「あ!?」」
なんというか、仲睦まじい夫婦だな。
こういうのを目指したい。
「さて、まんじゅうよりは、まずはラーメンですね。何味にしますか? 豚骨ですか? 醤油ですか? 味噌ですか? 塩ですか?」
「ほうほう!! らーめんと言っても色々あるようじゃのう!! で、どれが美味いんじゃ。ソウタ!!」
「うーん。味の好みは人それぞれだし、私が食べていた醤油ラーメンもその店の味とはちがうだろうからな……」
そりゃ、各お店の味まで調節してたら、ラーメンの種類だけで一覧が100軒一枚としても10枚以上はできそうだな。
そこで、悩みだしたらキリがないと気が付いたので、とりあえず全種類出すことにした。
小皿もだして、みんなでつつけばいいじゃないかと思ったのだ。
本来であれば、1人一杯を大事に食べるべきだとは思うが、それは大人の日本人の矜持なだけであり、子供がいる家庭は普通に子供に小皿に分けて食べさせるし、家族で違うものを頼んで味比べもするので、些細なことだ。
異文化交流がラーメンで進むなら万々歳ではないか。
で、そのラーメンを出したのが事態をすすませた。
「しくし……。あ、これはラーメンの香りですね。私は豚骨がすきなのです。いただきますね」
泣いていたはずのスタシア殿下は即座にラーメンの香りに反応して、即座に食べ始める。
分けようというのは聞こえていなかったのか、即座にどんぶり一杯を自分で確保してしまう。
まあ、みんな仕方ないよなという顔で、俺も大人しくもう一杯だしたのだが……。
「お姉様!! 反省していると思って覗いていれば、美味しそうに異世界の食べ物を!! しかもソウタ様が好きだったという由緒正しいものを私を忘れて食べるなんて!?」
「ぶぼっ!? げほっ!! ごほっ!! アージュ、これは違うんだ!!」
いきなりのアージュ殿下登場。
いや、キャリー姫と一緒に戻ってきて覗いてたのは知ってたけどね。
天岩戸大作戦ってところだ。
だが、不意打ちをうけたスタシア殿下は酷いことになっている。
むせたせいか、鼻から麺が……。
「ほ、ほら!! アージュも食べるといい」
「お姉様!! 顔をどうにかしてください!! 凛々しいお姉様はどこにいったの!?」
「……はぁ、お姉様方、落ち着いてください」
横にいたキャリーが深くため息をつく。
他の皆はその様子をみて、にこやかにしながらラーメンを食べていく。
ああ、寒い日の一杯はいいね。
寒い日は夜ラーメンを食べたくなる。
なんか雪が多いね。




