第648堀:酔っ払いは酔ってないという
酔っ払いは酔ってないという
Side:ユキ
「降伏する!! 弁護士を呼んでくれ!!」
総本山にやってきた、元英雄たちの亡骸が、なぜかそういって降伏宣言をしてきたことには正直驚いた。
まあ、最初から不思議ではあった。
ゾンビ、死者の集団という情報は聞いていたが、なんと普通にキュペル大聖堂のアホ共とは会話をし、町の人たちとも普通に挨拶を交わして、門から堂々と出ていったというのだ。
最初はてっきりキュペル大聖堂の連中が指揮官としてついていて、対応をしていたのかと思えば、実は付き添いはおらず、死者の軍団だけで出てきたようなのだ。
通常というか、俺の体感、経験則からなのだが、死体からのアンデッド化を行うと、魂という、自ら体を動かす機関が無くなっているので、命令を聞くだけの人形になっていることが多い。
例外といえば、俺が使っている霧華たちなのだが、こいつらは元々、死体からのモンスターではなく、ダンジョンコアによって生産された者なので、あまり参考にはならないだろう。
あと、コメット。ダンジョン内で死亡したことにより、魂が成仏することなく、遺体に定着したままアンデッド化したので、本人の意思は残ったまま動くことができた珍しい例だ。
他の死者たちに関しては、徐々に肉体に残っている記憶を思い出させるという実験をしているとしか言えない。
ということで、総本山に訪れた、普通に人のように感情を見せて動くアンデッドの集団は異常なのだ。
『で、どうするんすか? 降伏を申し出た死者御一行は門前で現在大人しくしているっすよ?』
「とりあえず現状維持だ。俺たちも混乱している。処分したくても、降伏を申し出ている相手をやってしまえば、それはそれで問題なんだよ」
『まあ、そりゃそうっすね』
今から、新御三家始動って時に、無抵抗の相手を倒して名声とか、どこの悪役スタートだよ。
俺たちだけならともかく、ハイレ教会の連中も死者御一行が何もしていないのは見ているし、降伏宣言も聞いている。
そんな相手をやっちまえば、どう考えても不信が残る。
「とりあえず、協議して決めるから、その旨を伝えてくれ。必要な物資があれば武具以外ならできうる限り支給するとも伝えてくれ」
『了解っす』
はぁ、頭が痛い。
ただ、襲ってくるなら、銃でハチの巣で終わりだったのに、まさか降伏してくるとは思わなかった。
まあ、本人たちの言い分を聞くに、洗脳は解除したとのことだが……。
「で、当人たちと対峙した、新御三家たちはどう思う?」
「……すみません。私からはなんとも」
「同じく、アージュの姿を見て冷静さを欠いておりました」
キャリー姫とスタシア殿下は判断つかずか。
仕方ないよな。身内の死体を使われているんだから、精神的にもギリギリだろう。
あとは、カグラとエノラだが……。
「貴方がユキね。ふぅん……」
「こら、エノラ。ちゃんと質問に答えなさい。えーと、ユキ、正直私は嘘を言っているようには見えなかったわ」
「そこは、カグラに同意。そもそも、私たちを殺すために来た連中が会話を試みるわけないと思うわ」
とりあえず、エノラの方は俺に対して不信感バリバリらしい。
まあ、現場は部下任せというか、キャリー姫たち主導にしていたからな、あとでのこのこ来ていい気分はしないのだろう。
だが、銃や部下の戦力は知っているので、表向きに反抗する様子はない。
ここは、徐々に慣れていくしかないだろうな。
ああ、めんどい。だから現場に来たくなかったのに。
「エージルはどうだ?」
「僕もカグラやエノラに同意かな。危害を加える気があるなら既に戦闘になっているだろうさ。だって、いくら相手は過去の大英雄たちとはいえ、多勢に無勢。真っ向勝負をしても数に押しつぶされる。不意打ちで一気に攻めるしかないんだよね。それをしてこなかったから、降伏の言葉は信じてもいいかなーに、傾いている。ま、アールエスが命令変更して、だまして近づいてブスリ。なんてことも考えられるからね」
「そこだよな。演技という可能性の他に、本人たちは洗脳されている自覚がないということもありえる。洗脳や催眠などには、一定の発動条件で勝手に体が動くようなものもあるからな」
酔っ払いが酔っ払っていないと主張するほど、信用の無いものはない。それと同じだ。
さて、どうしたものか……。
そう考えていると、ドレッサが口を開く。
「そういう問題はいくら考えたって、どうしようもないんじゃない? どっちみち行動しないといけないんだから。で、そうなると、ユキ的にはどうしたいのかってことよね」
「そうですね。お兄様はどうするべきだと思っているのですか?」
ヴィリアの後押しもあって、他の皆も俺の意見を聞きたそうにしている。
まあ、俺がトップだしな。意見を言わないと始まらないか。
「そうだな。俺としても、相手の動きは妙だと思う。だから、対話はしたいと思うが、相手の策だった場合という懸念が抜けない。つまり、相手から危害を加えられる可能性がなければ話を聞いてもいいという話だな」
「ま、当然だね。あの死者の集団が言うように、僕たちの味方であれば、今後の展開は楽になるだろうからね。とはいえ、相手がこっちを騙していない、洗脳されていないとどう証明する? それが解決できない限り、護衛リーダーの私としては対話はおすすめできない。キャリー姫様やスタシア殿下には申し訳ないと思いますが、そのまま死体に戻ってもらった方が、安全でしょう。無抵抗の相手をということで躊躇いはあるでしょうが、アールエスが呼んだという事実はありますし、私たちに任せてもらえれば、それは何とかなるでしょう」
エージルの言う通り、洗脳されていないと証明できるものがない。
だが、それとは逆に洗脳されているという証明もないわけだ。
悪魔の証明ってやつだな。
疑わしきは罰せずとは言うが、命が賭け金というのは……な。
となると、やっぱり対話はやめてエージルの言うように処分した方が、後々の為か?
そんなことを考えていると、不意にソロが口を開く。
「あ、あの、別に対話するといっても、直接目の前で話を聞く必要はないのでは? い、今の話を聞く限り、姫様たちや、ユキ様たちがいきなり直接相手と対面してということが前提になっているような……」
「あ、それはミコスちゃんも思いました。ほら、こんな通信?魔術があるなら、これを利用して間接的に話を聞くのはどうですか? まだ詳しい話を聞いたわけでもないですし、いきなり処分ということでは、姫様たちやハイレ教徒の皆もためらいがあるわけで……」
「あ、そっか。その間接的な対話を大司教様たちを含めて聞けば、どちらに転んでもある程度理解は得られるよね」
ソロに続くように、ミコスとアマンダもソロの意見に乗る。
だが、厳しいようだが、エージルが俺の代わりに懸念事項を口にする。
「……その間接的な対話にしても、誰かがあの死者の御一行に近づかなくてはいけない。下手をすると死ぬ。おそらく、ユキの部下だろうね。それに君たちは死んでこいというわけだ」
「「「……」」」
そういわれて、3人は口を閉じる。
名案に聞こえなくもないが、結局は生贄を立てろと言っているともとれる。
結局、どういう対話にしても、誰かが身を危険に晒さなければいけないということには違いない。
誠意のない対話には不信感しか生まれないからな。
まあ、立場的なことから考えると、カグラたちやキャリー姫たちからの犠牲は認められないし、俺や嫁さんたち、エージルたちからの犠牲も許容できないから、必然的にゴブリン隊からということになる。
命に貴賤はないというが、状況によりけりということだな。
「さて、これ以上相手を待たせるのも失礼か、話し合いはこれまでにして、対話の準備でもするか」
「「「え?」」」
俺の言葉に驚くカグラたち。
「で、でも、ユキの部下が……」
「ああ、そんなことは百も承知だ。命をかけるのが兵士の仕事だからな。俺もこの対話に関しては価値を認めている。成功すれば大きい。戦うより犠牲は少ないだろうさ。とはいえ、大事なのは俺が直接判断することにあるからな。姫様や殿下が俺の配下を勝手に使うわけにはいかないんだよ」
「……ユキ様。ご迷惑をおかけします」
「……この御恩はいつか」
「気にするなと言っても無駄だろうが、俺としても有益だからやる。まあ、それなりに対策はするけどな。流石に優秀な部下たちを不用心で失いたくはない」
俺は最初から話し合いに応じるつもりでいた。
だが、それは俺が望んだのであって、姫、殿下、カグラに頼まれたからではないというのが大事なわけだ。
ハイデン、フィンダールの都合のいいように俺たちを使えると勘違いされてもらっては困るからな。
ちゃんと一度考えさせて、問題点を自分たちで自覚してもらうことにしたわけだ。
「で、対策というのは具体的には?」
エージルはわかっていそうだが、カグラたちの手前わからない風に聞いてくる。
「簡単だ。俺たちが用意する拘束具をつけてもらっての話し合いだな。仲間だと言って、降伏を申し出たんだ。そのぐらいの条件は飲むだろう。飲まないなら話し合いは無しだな」
「ま、妥当だね。拘束具も特殊なんだろう?」
「そりゃもちろん。魔力放出を禁じる手枷だな。これで逃げるぐらいしかできないだろうさ。スティーブたちから手枷を渡して、自ら装着してもらえればいいだろう」
「なるほど。自分からっていうのが大事なわけだ」
「そうそう。それができないなら、敵対したとみても何も問題ないだろう。そもそも最初にはアールエスの名前を使って入って来ようとしたんだから」
流石、将軍エージル。
場数を踏んでいるだけあって、的確に答えてくれるから、こっちもやりやすい。
それを聞いた、カグラたちも納得している。
まあ、キャリー姫と殿下は普通なら気が付いただろうが、今回はきつかったか。
「奥の手に、水も連れてきているからな。心を読み取れるから、そこからも判断できるだろう」
『うむ。多少なりとも精神に異常があればわかるだろう』
横でふよふよと依り代の小さい龍で浮かぶ水。
本音を言えば、学院にいるソウタさんコピーを呼びたかったのだが、本人同士が会うとどうなるかわからんということで取り止めになった。
一応、もう別物と存在しているので問題はないはずだと俺もソウタさんも水も言っていたが、今回は交渉事だし、わざわざ混乱するようなことはするべきではないという話になった。
万が一、敵だった場合、学院の制御が奪われるという事態になりかねないというのもあったからな。
「じゃ、話はまとまったな。異存はないな?」
そういって確認をとる。
全員頷くのを見て、スティーブに連絡を入れる。
『ういっす。話はまとまったっすか?』
「ああ。そっちはどうだ?」
『こっちは特に。ほしい物資は毛布とか温かいスープとかだったんで、一応届けたっすよ』
「無事に接触もしたのか」
『ええ。向こうさん。死者ってことで、葬儀の時に身に着けていた衣装ぐらいで、飲まず食わずだったそうで。いや、既に死んでるから生存のための食事は本来いらないっすから、問題はなかったんっすけどね』
「ま、生前の行為には執着があるよな」
『普通に感謝してくれたっすよ。あ、で、話はどんな風に?』
「ああ、すまん。予定通りだ。手枷を渡してつけさせてくれ。それで、総本山の方に入ってもらう。場所は大聖堂の方だ」
『了解っす』
さて、大人しくしてくれるといいんだが……。
しかし、予定通りとはいかないもんだな。
なんでこう、予想の斜め上か下かわからない方向に転がっていくかね。
これ以上、さらに面倒な話が出てきませんように。
俺もそろそろ、大陸間交流の方に戻らないといけないし、あとは勝手にやってくれよ。
頼むから。
神に頼みたいぐらいだが、その神が厄介事持ってくるからな。
「はぁ……」
酔っ払いの酔っぱらっていない発言ほど信用のならないものはない。




