第646堀:新たな御三家
新たな御三家
Side:エノラ・ハイレン ハイデン王都ハイレ教会司教代理
「何ですって!? そんなの、何としても止めるべきよ!!」
私は、キャリー姫様やカグラ、そしてスタシア殿下から聞かされたことに、ベッドから体を跳ね起こし、そう叫んでいた。
「落ち着きなさい。エノラ。貴女はけが人なのですよ?」
「しかし、姫様!!」
「おちつきなさい。骨を砕いてもいいのですよ?」
「……」
キャリー姫様の迫力ある声に私は口を閉じる。
……昔はもっと可愛げがあったんだけど、なんか凄みというか、王族っていう感じのオーラが出ている。
「気持ちはわかります。遺体を利用するなどということはあってはいけません。しかも、私たちのご先祖様の御遺体ともなれば、なおのことです」
「そうです。そんな死者を辱めるようなことがあってはいけません。ですが……」
「だからと言って、どう止めるのよ? エノラはエノル様より強いと思うの?」
「……それは、思わないけど」
「しかも、姫様の言う通り、エノラは病み上がりだし」
「……」
カグラの意見にも何も言い返せない。
私は総本山の拷問場で拷問を受けていたところを、カグラたちによって助け出された。
そう、何もできなかった。いや、だからこそ、なんとかしないといけないと思ったのだ。
「そもそも、私たちが何かをするのは最終手段よ。既に、狂王信者は捕らえたし、そこを利用して、教会の門構えを盾に、壁上から矢でも射かければ終わりよ」
「そう簡単に終わると思うの? 私たちのご先祖様がそんな簡単に倒せると思うの?」
カグラの言っていることはわかる。
普通の相手ならそれだけで終わるだろう。
だけど、相手は私たちのご先祖様であり、幾たびも戦場を超えて、魔王を倒し、狂王を倒した英雄だ。
それが、矢を射かけたぐらいで倒せるものだろうか?
私の疑問を理解したのか、キャリー姫様とカグラは難しい顔をするが……。
「……誤解を覚悟でいいますが、おそらく、ご先祖様たちの御遺体、アンデッドは何もできずに敗北すると思います」
「矢で倒せると?」
「そこが誤解のもとですね。私たちがウィードという国と交流を持ったのは知っていますね?」
「はい。カグラと力を合わせて、伝説の再現をして、召喚した人がそのウィードという出身だったとか……」
なんでこんな時にそんな話を? と思ったが、一応知っていることを答える。
「ただの人ではありません。私たちが呼び出したのは、ウィード国を治める女王陛下の伴侶です。王配です」
「……はぁ? それってまずくないですか?」
他国の王族を勝手に召喚とか、誘拐でしょう?
いや、召喚自体誘拐だって、エノル様の手記に書いてあったわ。
「……当初は色々まずかったですが、何とか友好関係を結んでいます。ですが、それだけではありません。その彼も初代カミシロ様と同じ日本出身の人物です。色々事情があり、元々ウィードへと呼び出されたとか」
「はぁ。えーと、そのウィードの王配には失礼のないようにという話でしょうか? 今の防衛の話と何の関係が?」
なんか話が変な方向に向かい始めたので、元の本筋に戻そうと思って言ったのだが……。
「大ありです。表向き、私たちハイデンとフィンダールが手を取り合って、今の事態に立ち向かっていますが、裏で強力なバックアップを行っているのは、ウィードの部隊です。護衛も、ウィードの関係者。エノラを治療したのも、ユキさまの奥様です。と、そこはいいのです。日本出身ということは、膨大な知識と技能を持ち合わせているということです。矢とわかりやすく言いましたが、矢の数十倍は威力を誇る銃を装備しているのです」
「え? 銃ですか? たしか、そこまでの威力はなかったような? 初代様たちが試作した時は、火薬を詰める作業もいるし、高くつくし、魔術を撃った方がいいと言われていた、あの銃ですか?」
なぜ、役立たずの銃があるからと安心しているんだろう?
ウィードというのは、魔術が発展していないのだろうか?
そんなことを考えていると、カグラが苦笑いをして口を開く。
「あー、あの初代様たちの銃は、ウィードが扱っている銃を目指して失敗しただけ。周りもそんなことに予算をかけるよりも復興ってのもあったしね。ウィードの持っている銃を見ると驚くわよ?」
「ふーん。ま、カグラやキャリー姫様がそういうなら信じていいけど、なんで私に話したわけ? あなたたちで勝手にやっててもいいんじゃない?」
私に一々説明するのも面倒だし、私を蚊帳の外で終わらせた方が話は早いはずだけど?
「そうもいきません。一連の事件の裏には狂王信仰がありました。しかも、ハイレ教を隠れ蓑にです。今回の事件は、ここに向かっているご先祖様を撃退あるいは捕縛した後で、各国に伝える予定です。その時には、狂王信仰者たちとの真っ向からの対決になるでしょう。騒ぎは避けられません。その騒ぎ、混乱を少しでも抑えるためにも、今代の御三家、いや、スタシア殿下を含めた、四家による新たな伝説が立ち上がったと宣伝する必要があります」
「つまり、私にハイレ教の代表。エノル様の代わりをやれと?」
「そうです。エノル8世である大司教様は、今回の事件で、各教会への調査や、各国への説明で大忙しとなります。ですが、何もしていないエノラがいきなりエノル様の代わりに私たちと集うと……」
「周りから文句が出るわけですね。だから、これから来る初代様たちの御遺体と対峙して戦ったという実績がいるわけですね?」
「その通りです。どうですか? 協力してもらえますか?」
元々、御三家が集うということで心をときめかせていたから、断る理由もなく、協力することにした。
どうやら、前もって手を回していたのか、大司教様と面会するやいなや、すぐにハイレ教の代表として認められて、今後は姫様たちと行動を一緒にするように言われた。
ついでに、拷問の件についてはこちらが恐縮するほど謝られた。
ちなみに、私を拷問していた連中は只今生きた証拠として隔離中とのことで、一発殴りたかったのだが、あきらめることになった。
そのあとは、キャリー姫様、スタシア殿下が大司教様と今後の予定の打ち合わせということで、私とカグラは執務室から退出することになり、手持ち無沙汰になったので……。
「ねえ。そういえば、そのウィードの人と挨拶とかしたいんだけど、あと銃も見て見たいわ。やっぱり実物を見ないとね」
と、カグラにお願いしてみる。
「ユキは現場にいる、ここには来ていないわ。代わりの護衛部隊とか、奥様がいるだけ。それでもいいならいいけど」
「え? こんな大事件が起きているのに、来ていないの? 伝説の英雄様なんでしょう? しかも、ハイデンとフィンダールの争いを止めたって言われるほどの人なのに? 命令の通達とか遅れまくりじゃない。なんでそんなことを?」
「あー、えーと、何ていったらいいのかしら……」
私が質問すると、カグラがまた困ったような顔をする。
なんでだろう?
私は別に不思議なことは言っていないはず。
確かに、身分の高い総大将が、前線にでるのをためらうのはわかるけど、今回の状況では例外だ。キャリー姫様、スタシア殿下と王家出身の人間が2人も出てきているのに、その場にユキという人がいないと、英雄として認められない可能性がある。
それは今後のウィードがハイデンやフィンダールと並び立つには避けたいことのはず。
私だって、不信感を抱くぐらいだから、ハイレ教としてもウィードの事を懐疑的に思うはずだ。
こんなことがわからないような人ではないと思うんだけど……。
そんな感じで、私がカグラの態度に不信感を募らせていると、不意に近くから声が聞こえる。
「ま、普通はどう説明したらいいものかと悩むわよね」
「そうですね。こればかりは、カグラさんを責められません」
「そうだよねー。初めて聞いたときは何を言ってるんだと思ったし」
「ははっ。そのことを躊躇いもせずに言えば、頭の中身を僕は疑うね。色々な意味で」
誰かと思って振り返ると、ドアから入ってきてる人が4人いた。
でも、1人はカグラや私と同じぐらいだが、あとの3人はどう見ても私たちより年下の子供だ。
「だれ? 教会の人?」
「いいえ。……えーと、もう、言うしかないわね。この人たちが、ウィードから派遣された護衛部隊の人たち、中央にいる小さい……いえ、若い方は、エージル殿と言って、将軍職についておられる女傑よ」
「……はぁ? この人たちが、ウィードからの護衛? え、冗談?」
言葉の意味はわかるが、理解することを私の中の常識が拒む。
こんな子たちが、護衛? そんな馬鹿な。
私が疑っていることが分かったのだろう。将軍と紹介された子がこちらを見て笑っている。
「あはは。いや、その反応が当然だよ。カグラも気にしないでいい。自分の背格好についてはあきらめがついているからね……」
あ、不味い。
これは言っちゃいけないことだったみたい。
「エノラ!!」
「ご、ごめんなさい。女性で将軍というだけでも珍しくて、さらにあまりにもお若いので……」
「いや、さっきも言ったように気にしていないよ。あと、若いというのは残念ながら間違いだ。この中で僕が一番年上だね。本来女性として、若く見られるというのは褒め言葉なんだろうが、僕の場合は度が過ぎるからね。エノラ殿のように勘違いされるのは慣れているのさ。まあ、証明が面倒なだけだね」
はぁ? この中で一番年上?
「ま、その困惑も含めて全て納得させようじゃないか。先ほど、キャリー姫様からお願いされたからね。君に私たちの実力を見せてほしいとね」
「よかった……。姫様、ありがとうございます。あ、でも、エノラはけが人で……」
「そこも確認を取ったよ。ルルア曰く、傷の治療はしたので、あとはリハビリが必要だってさ。まあ、医者としては一週間ほど安静にしてほしいらしいけど、状況が状況だからね。エノラ殿が何も知らないで動かれるのは困るということで、許可が下りた」
「なるほど。場所はどうするのですか?」
「これから来る、アンデッド相手の練習場として、防壁の一角を借りているから問題ないよ」
なるほど。カグラのこの態度、そしてエージル殿の堂々としたふるまい。
嘘は言ってないように見えるし、他の部下の子たちもよく見れば全然隙が無い。
相当の実力者だ。
それでピンときた。
そうか、拷問場の存在を知っていたんだから、相手を油断させつつ制圧するための偽装部隊とかなのか。
だから、姫様たちが拷問場に乗り込んでこれたんだ。
姫様たちだけじゃ、そんなところに踏み込めるわけもないし。
いくら強くても、私の巫女としての能力でもどうにもならなかったのに、普通の人の姫様たちだけで来れるわけがない。
と、内心は納得しかけていたんだけど……。
「撃ち方始め!!」
パパパパパ……!!
「撃ち方やめ!! 手榴弾!!」
コン、コロン……。 ズドドドドーン!!
銃と手榴弾とかいうモノで、城壁の前に置いてあった案山子に着せた鎧が穴だらけになり、バラバラになっていた。
というか、鎧を貫通して、壁にも穴が開いているのを見れば、どれほど威力が高いかわかるだろう。
「は、ははは……。なにこれ? 夢?」
「落ち着いて。現実よ。そして、馬鹿なふるまいはやめてね。ウィードと関係がこじれたれら私たちが滅びるから」
「……ねえ。正直な話、狂王より……」
やっかいじゃない。と、そう言いかけたとき、カグラがボディーにいい一発を入れてきた。
ボグッ!!
「こふっ!?」
「助けてもらって、その言い草はやめなさい。それに、私の恋路を邪魔するなら。コロスワヨ?」
……まあ、私が悪かったのは認めるけどさ。
なぜか、明日にでもカグラに殺されかねない気がするのは気のせいかな?
ガクッ。
新生御三家爆誕!!
そして崩壊までの一連でした。
まあ、エノラはエノルの血が濃いようです。




