第640堀:各々方、討ち入りでござる
各々方、討ち入りでござる
Side:ユキ
長き屈辱の日々は過ぎ、私たちは、今は亡き主君に報いるために、旗を掲げよう。
「各々方、討ち入りでござる」
俺がそういうと、タイキ君が即座につっこむ。
「いやいや。忠臣蔵じゃないですって。しかも、それ死亡フラグでしょうに。嫌ですよ。最後には全員切腹とか」
「気分だよ気分。ほら、状況的には赤穂浪士だろ? ハイレ教は未だにこの一帯の最大勢力。下手に訴えてももみ消される。ならば、敵本陣に切り込んで訴えるしかない。アレだ。殿中でござるにちかい」
「それって、どちらかというと、敵討ちじゃなくて、直談判タイプだから、走れメロスとかそっちじゃないですか?」
「あれは友情物語だろ? 一命を賭して、立場が上のモノに話に行くなら、織田信長の養育係の平手政秀が切腹したのじゃないか?」
「しかし、あれは、厳密には信長公を諫めるためというのは断言されていないぞ? まあ、一般的には平手殿のおかげで大人しくなったとは言われているな。美談でもあるから浸透しやすかったというのもあるだろう」
ついには、タイゾウさんも話に加わってくる。
しまったな。迂闊な時代劇ネタを挟むと、こういう意見が増えるのを忘れていた。
「と、そこはいいとして、他の皆はついて来れていないし、本題に入ろう」
俺はそう言って、話を区切った。
実際、キャリー姫やスタシア殿下、カグラたちは今の会話について来れていない。
ちなみにリーアも首を傾げているが、意外にデリーユやルルアは俺の話を聞いて頷いたり苦笑いして理解していたりする。
まあ、デリーユもルルアも人の上に立つ者だったということもあり、日本の歴史ものは読み込んでいて、有名な忠臣蔵とか信長公記とかも知っているのだ。
と、そんなことはどうでもいい。今は、話さなければいけないことがある。
「さて、かれこれカグラたちの作戦参加が決まって、1週間が経った。みんなわかっていると思うが、それに並行して、ハイレ教総本山への訪問予定も既に組んでいる。というか、スティーブたちに設置してもらったゲート用ダンジョンを麓の森の中に設置してあるので、丸一日でも歩けば、総本山にいつでもいけるという状態になっている」
そう。今日はハイレ教会総本山への訪問&敵殲滅&味方になってね作戦会議である。
名前としては長いので、ホワイトボードに上記の長いのを書きながら、下に簡略としてハイレフレンドリー作戦と書いてある。さらに略すると作戦呼称HFである。
「ちなみに、訪問予定の調整はカミシロ公爵、ジョージン殿が頑張ってくれた。訪問内容はそちらが提案してくれた、ハイデン、フィンダールの和解条約の宣誓と誓約書の奉納だ。これは、キャリー姫とスタシア殿下が行うことになる。それに伴い、カグラたちは側付きとして同行。カミシロ家の血筋のモノとして、個人的な挨拶というのも盛り込まれているから、そこで、まずは大司教の状況を深く探ってもらう。敵でないと確認できたのなら、キャリー姫、スタシア殿下と同席してもらい、オーノックでの出来事を説明したのち、総本山内部に怪しいところがあれば、そこを一緒に暴いてもらうことになる。ここまでで質問はあるか?」
俺がそう問いかけるとカグラが手を挙げる。
「最後の怪しいところがなければどうするの? 私たちが適当にでっち上げているとも取られるけど?」
「怪しいところはないだろうが、怪しい奴の目星はついているから、この、回収したマジック・ギアに似せて作った、召喚君を使って、以前ハイデン城で協力してもらった、リザードマンたちにそいつを守ってもらいつつ、ハイレ教会で適度に暴れてもらう予定だ」
「「「……」」」
学生一同が絶句している。
叩けば埃の出る連中に遠慮などいらない。
証拠がないというのなら、こちらから与えてやろうではないか。という話である。
まあ、流石に冤罪とかは可哀想だからしっかり調べるというのはちゃんと言ったから安心したようだ。
というか、国という社会において、冤罪はやってはいけないことの一つだ。
国、社会の信用が著しく落ちる原因になる。
これが前にも言った疑わしきは罰せずというところに繋がる。
ちゃんと証拠を集めて、みんなが納得したうえで、処罰を決めるのだ。
だが、そうは言っても、現代の日本、地球においても冤罪はなくならない。
こういう事柄においてゼロというのは難しいのだが、こと、俺たちがいるこの異世界において冤罪などをやらかしたら、一気に国が不安定になることは間違いない。
下手をすれば他国介入の原因になったりもするので、慎重にやるとも。
「だが、それは最悪だ。ここまで派手に動いているのだから、証拠がないというのもあり得ないだろう。さらに事前にスティーブたちには潜入してもらって色々家探しをしているので、そういう心配は無用だ。証拠隠滅するには少し規模が大きいからな」
「え? その、マジック・ギアが見つかってるの?」
「見つかったのはそっちじゃない。オーノックの地下で見た方だ」
「「「……」」」
既に、拷問場は見つけているのだ。
まあ、下手な地方の教会より人は多いので、地方から集まった信徒でめぼしいものを見つけては、特別指導として連れていって、燃料にしたあとは埋葬しているそうだ。
いやー、便利だよね。教会ってお墓セットだし。
「書類上は、過度な修行で命を落としたとなっている。まあ、雪山の上だしな。実際、修行道とかいう道を歩いて、凍死する連中も、年に数人はいるし、病死や事故で死ぬ連中もいるから、上に報告として挙がってもわからんだろうな」
ここが日本なら大問題なのだろうが、ここは異世界であり、医療関係も充実してるわけでもない。
一歩屋外へ出れば死体になる覚悟がいるというわけで、死人がでるのはさほど珍しいことではないらしい。
というか、そういう過酷なことをくぐりぬけて、悟りを得るという考えはこのハイレ教にもあるので、それが問題だとも思われておらず、むしろ推奨気味である。
まあ、無理だと思って逃げ帰る者も多いので、やはり個人の判断によりけりというわけだ。
別に逃げ帰ることは咎められるようなことはないが、そういう特別な修行から逃げれば、1,2年はその修行は禁止というルールもある。
連続でチャレンジして、どれか一発でOKというのは俺もどうかと思うからな。
地球で言えばオリンピックみたいなものだと思えばいい。
「その、拷問場で生きている人は……」
「いる。だが、それを秘密裏に助けても意味がない。やめさせなくちゃいけない。だから、カグラ。お前たちがその人を助けろ。大司教を連れて中級神派の悪行を暴け。これが、一週間っていう短い訓練時間の理由だ」
スティーブの見立てでは、入れ替えたばかりみたいで、しばらくは持つらしいが、生命力や精神力に関しては人それぞれだ。
いつ、ショックを起こして命を落とすかも分からないし、気がふれて廃人になるかもわからない。
かといって、スティーブたちがこっそり治療することもできない。
だからこそのカグラたちだ。キャリー姫やスタシア殿下だけではどうしても手が回らない。
「無論。カグラたちが現場を押さえて、大司教の許しを貰えれば、すぐにルルアたちが援護に回る」
「けが人の治療は任せてくださいね」
そう言って、挨拶をするルルア。
ウィード屈指の治癒術師なので、これ以上ないぐらいの援軍だろう。
護衛にヴィリア、ドレッサ、ヒイロにアマンダ、エージルも追加でくることにもなっている。
「え? でも、女性ばかりじゃ……」
「舐められて、襲ってくればそれこそ好都合だろう」
「「「……」」」
そういうことで、あえてキャリー姫、スタシア殿下の護衛同行者は女性のみにしている。
しかも、見た目が少女たちだ。
アマンダの方は、ポープリ学長からのお願いで参加、エオイドは男なので参加権なし。
エージルはここを手伝って、ハイデン、フィンダール、ハイレ教に対して貸しを作っておきたいとのこと。
まあ、ポープリの方も、アマンダをよこしてこれからの友好関係の足掛かりになればと思っているのであろう。
流石に、ポープリ学長本人はお仕事の関係で戻っている。
ちなみに、タイキ君やタイゾウさんは学院で待機。俺もそのうちの1人。
というか、俺は作戦本部のトップだから現場に行くわけにはいかない。
「交渉チームの指揮はキャリー姫。スタシア殿下はサポートを、カグラたちは証言を求められたときの証拠を突き出せ」
「「「はい」」」
キャリー姫たちの返事を聞いて、次は護衛メンバーに顔を向ける。
「護衛チームの指揮は、エージルに頼む」
「おや。僕でいいのかい?」
「ルルアは治療班、ヴィリア、ドレッサ、ヒイロ、アマンダの4人は指揮経験がないので選択肢がないんだよ。練習で任せるには場所が場所だからな。将軍で経験豊富なエージルが最適だと思う」
「実に理に叶っているね。ま、この分色々融通はしてくれるんだろう?」
「ま、俺やウィードのできる範囲でだがな」
「相変わらずだね、ユキのその言い方は。ま、いいだろう。護衛の指揮は任せてくれ。優先するべきはキャリー姫たち交渉組の安全かな?」
「それで頼む。あと付け足すなら、自分たちの身も守ってくれ。エージルやアマンダに何かあれば、それはそれで問題だからな」
「了解。まあ、君からもらった指輪の防御性能を抜けるような相手がいるとは思えないけどね。気が狂っている連中が相手だ、警戒は十分にしよう」
流石というべきか、エージルは特に動じることなく、応じてくれる。
エージルを副指揮官でもいいじゃないかと思ったが、ヴィリアやドレッサからエージルを指揮官にと言われたので、こうなった。
やはりヴィリアもドレッサも自分自身が指揮の経験不足なのは自覚しているらしく、尻込みしている感じだ。
今まで、俺の指示で、少数、しかも仲のいいメンバーだけで動くだけだったからな。
こういう、大人数が動く作戦行動は怖いのだろう。
いつか、そういう練習もさせないとなーと思う。
ま、そこはいいとして、次は……。
「隠れて護衛をするスティーブ隊は、それに各箇所の監視もあるが、問題ないか?」
「今のところはなにも問題ないっすよ」
「マジック・ギアの仕込みは?」
「拷問場に設置してあるっすから、相手が案内を渋ればいつでも内側から出てご案内いけるっすよ」
「よし」
マッチポンプの準備もできたと。
あとは、俺の号令を待つばかりか……。
「よし。作戦開始は明日の朝、0600より開始する。それまで各員十分に休憩しておくように」
「「「はい」」」
そう言って、その場は解散となる。
カグラたちは緊張した面持ちで出て行く。
「……あれ、下手に時間を与えると却って不味くないですか?」
俺と同じ不安を抱いたのであろう、タイキ君が話しかけてきた。
「だからと言って、作戦を早めるわけにもいかんしな」
「若者たちにはいい経験だと思うしかないだろう」
「まあ、そうですよね」
俺やタイゾウさんに言われて、頷くタイキ君。
気持ちはわかるけどな。
入学試験前の前日とか、初めての面接前は、寝られないよな。人によりけりだとは思うが。
それに比べると、カグラたちが背負った役目は多くの人の生き死にに直結しかねないから、そのプレッシャーは計り知れないものがあるだろう。
「ま、若者たちには胃の痛い時間を耐えてもらって、俺たちは、ブリット隊からの報告を聞かないとな」
そう言って、別室へと移動すると、カミシロ公爵、学院長、ジョージンが既に待機していた。
「……そろっているようだし、報告頼む」
「了解しました。では、まず結論から先に。キュペル大聖堂は完全にクロでした。地下の隠し倉庫に大量のマジック・ギアを運び込んでいるのを発見。ジョージン殿の証言通り、キュペル大聖堂から来た連中がいかれているのは間違いないでしょう。尚、原因は今の所不明です。表向きには普通の教会ですからね」
「拷問場などは?」
「そういう血なまぐさいのは今の所発見していません」
さて、これだけじゃまだまだわからないことが多いな。
「わかった。総本山の方が片付くまで、監視を継続。尚、マジック・ギアの輸送が確認されれば、それを襲撃して回収しろ。火種をバラまかれるのは避けたい」
「了解。輸送人員はどうしますか?」
「……殺すのも逃がすのも面倒だな。荷物の中身を入れ替える方向にするか。襲撃は取りやめて、夜間こっそり荷物を取り換えろ。魔術を併用すれば気が付かれずにいけるだろう」
「了解」
「輸送場所もしっかり把握しておけ」
そんな感じで、俺たちは普通に作戦まで業務をこなして、定時をちょっと過ぎて家に戻るのであった。
間違いなく、間もなく討ち入りでござる。
さて、カグラたちを待ち受ける運命とは!?
ユキは敵の動きをつかむことが出来るのか!?
まあ、そこはいいとして、そういえば、去年忠臣蔵あったっけ?




