第641堀:集う御三家
集う御三家
Side:エノラ・ハイレン ハイデン王都ハイレ教会司教代理
「……」
もう、声も出ない。
余りの激痛に、声を出す余裕すらないのだ。
ただ、両手に枷をつけられ、磔にされ、頭を力なく地面に向かってだらりと下げていると、赤い水が私の体を伝って、地面に落ちて溜まっているのがよく見える。
血だ。私の血が下に溜まっている。
何がどうして、こんなことに……。
もう何度考えたのかわからない現実逃避をしていると、不意に足音が聞こえてきて、急に意識が引き戻される。
きた……。
そう思っただけで私はあまりの恐怖に粗相をしてしまう。
だって仕方ないじゃない。
私はこれから……。
「はーい。魔力の皆さん。今日も元気にやっていきましょうね」
そう言って、この地獄に入ってきたのは、人を痛めつけるためだけの道具を持った、綺麗な我がハイレ教徒たちだったからだ。
「今日もあなた達の敬虔な祈りによって、徳が溜まるのを期待します。ああ、大丈夫ですよ。無理やりにでも徳は絞り出せるので、疲れていても問題ありません。素晴らしいですね」
そう宣言すると、私と同じように磔にされている人々に容赦ない拷問が加えられて、叫び声やうめき声が辺りに響く。
「さあ、エノラ様も、私と一緒に頑張りましょう」
「や、やめっ……」
私が言い終わる前に、すでにナイフが私の体に突き立てられた。
「あぎぃっ!?」
「はい。今日も元気でなによりです。しかし、上質ですね。流石、初代エノル大司教の血縁者」
突き立てたナイフを左右に抉り傷口を広げられて、意識が飛びかける。
「おや? 気絶してはダメですよ。もっと頑張ってくださいね」
「あぐぅぅ!? がひっ!? ぎぃっ!?」
回復魔術を掛けられながら、気がすむまで拷問をされ、私からはもう人の声とは思えないものが口からでてくるのを、どこか別世界のような感じで聞いていた。
どれぐらい時間が経っただろうか、気が付けば拷問は終わっていて……。
「ヒュー……、ヒュー……」
「今日はこんなところですね。ご苦労様でした。じゃ、明日までに元気になっててくださいね。そうしないと処分しないといけないんで」
そう言って、彼女は私から離れていくが、それを喜ぶ余裕もなかった。
呼吸がおかしい、叫び過ぎたせいか、それとも、自分がもう死ぬからか。
このまま目をつぶって、また目をあけられるのか……。
いや、このまま目を閉じたままの方が、幸せなのではないかと思うぐらいだ。
私は、ただ、ハイデンで起こったことを伝えに来ただけなのに……。
そして私は再び、この地獄にいることになった原因を思い出す。
「お母さま? なんでしょうか?」
私はその日、司教である母に呼ばれて、ある仕事を託された。
「ハイデンとフィンダールの件がどうやら落ち着きそうなのは知っていますね?」
「はい。どうやら、リラ王国の残党が動いていたとか」
でも、結局はそれにそそのかされた、ハイデン側からの酷い挑発の結果、このような事態になったようで、ハイデン側の責任は追及されるだろう。
いや、リラ王国の残党が原因なら、下手をすると、フィンダールが裏で糸を引いていたとか?
まあ、考えればきりがないので、母の話に集中する。
「……ええ。その旧リラ王国の残党が関わっているという件ですが、どうやら、その残党に我がハイレ教会が関わっているという話があります」
「はあ!?」
余りに変なことをいうので、思わず大声を出してしまった。
「エノラ」
「失礼しました」
すぐに謝るが、やっぱり信じられない。
だけど、お母さまのお耳や尻尾はまったく揺れていないから、本当の事なんだろう。
「……尻尾や耳を見るに、信じていないようですが、そういう話があるというのは事実です。あと、何度もいいますが、私たちは精霊の巫女。耳や尻尾には感情がよく現れるのでちゃんと制御しなさい。心を読まれますよ」
「……はい。申し訳ございません」
うぐ、やっぱりお母さまの心を読んだつもりが、私が読まれてた。
はあ、でも、お耳や尻尾はどうしても勝手に動くんだよね。
「まあ、すぐに言って直るものでもないですから、日々の修練が大事ですよ。私たちの祖先である御三家のエノル様は、カミシロ様、ハイデン様、ハイレン様と旅を始めた時には既に……」
「わかっています。既に耳や尻尾の制御を完璧にこなしていたという話ですよね。それより、私を呼び出した理由は?」
「……むう。そうですね。本題に戻りましょう。この件で魔物を操る宝玉を教会から譲り受けたという者の話を聞いています」
「宝玉? 教会から? そんなもの知りませんよ? 物資の管理はちゃんとしています。若くとも私は司教代理でもあるんですから」
「ええ。そこは私も信頼しておりますし、我が教会からそのようなモノが出るわけがありません。しかし、事実としてそのような話が挙がって、ハイデン王家は警戒の目を私たちに向けております」
「……確かに、なんか最近巡回兵の訪問が増えたような」
「今回の戦争で、ハイデンと初代様から縁があるフィンダールの関係にひびが入り、果ては、私たちがいるハイレ教。これは何かの意思が働いていると私は思っています」
「意思ですか?」
「ええ。初代様たちから約500年続いてきた友諠を壊そうとしている人々がいると私は思っています」
「え? それって、魔王が?」
「その可能性もあるでしょう。ですが、迂闊に騒ぐことはできません。まずは、総本山に行って、今回のハイデンとフィンダールの出来事を伝えるのです。私たちハイレ教会が疑われていることや、私の推論も含めてです。いいですね? エノラ司教代理」
「はっ。お任せください!!」
あはは……。
何度思い出しても笑える。
私は、ただ素直に、状況を伝えたことでここにとらわれた。
少しでも考えればわかることだったのに、なぜ教会が関わっているという噂があるのか、それは教会を装っている何者かがいるということ、そしてそれが教会内部に潜りこんでいるって可能性をなぜ考えなかったのか。
結果、私はここで拷問を受けている。
私の流した血に宝石らしきものを浸けているのをみた。
あれがおそらく魔物を呼ぶ宝玉なのだろう。
唯一よかったと言えるのは、供回りは今回つれてこなかったことかな。
私1人の方が早かったから。
でも、悔しいな。
お母さまから話を聞いたときは、私が伝説の再現をするものかと思っていた。
カグラやキャリー姫は、異世界より英雄を呼び出しフィンダールとの戦争を止め、次は私かと思った。
また、3人で小さい時みたいに……遊べると、わいわいやれると思ったのにな。
ああ、そうか。世界の運命を懸けた戦いになるかもしれないのに、こんな不純な動機じゃだめだよね。
だから、私はここで死ぬんだ。
そう思うと、なんか痛みも感じなくなってきた……。
最後に、カグラやキャリーの事を思い出して逝けるなら、悪くないや。
……さよう……な……。
「「エノラーーーーー!!」」
ドゴーーーン!! ドン、ドン、ドザー!!
そんな大声と共に、何かが壊れた音がして、その余韻が地獄に響き、私の意識が戻ってくる。
何か、私を呼んだ声が聞こえた気がする。
「……な、にが……」
私が何とか顔を上げると、そこには……。
「ここ!? もう大丈夫だからね!! ああもう!! この鉄格子、邪魔!!」
そう言って、どこか昔馴染みに似た女性が隣の鉄格子を素手で押し広げ。
「こっちですか!? 大丈夫です。すぐに出します!! せいっ!!」
こっちも昔馴染みに似た女性が剣で反対側の鉄格子を斬り飛ばしている。
「……この牢屋だと思うんだけど、ソロどう思う?」
「……ええっと、ミコス先輩の言う通りだと思います。だって、精霊の巫女様ですし。とりあえず、私たちが助け出しましょう」
「え? いいのかな?」
「いえ、私たちしかできませんよ。だって……」
何か私の牢屋の前にも女性が2人立っている。
一体何が? と思っていると、再び叫び声が聞こえてくる。
「「違う、エノラじゃない!?」」
「こら!! 優先するべきはこの場にいるすべての怪我人です!! 放り出すような真似はしない!!」
「「はいっ!! すみませんでした!!」」
……なんだろう。とても馬鹿らしいのに、その声にとても安心する。
そんな声に聞きほれていると、気が付けば牢屋の扉が開けられていて、手枷を外され、磔から降ろされて、私は介抱されている。
「エノラ様。助けに来ました」
「わ、私たち、ハイデンからの使者です。お気を確かに」
その言葉を聞いて、私はようやく助かったのだと理解した。
「……あ、りが、とう」
私はそうお礼を言うけど、なんか力が入らない。
「うげっ!? 思ったより出血がひどい!? というか、足元に結構な血だまりが!?」
「ルルア様!! ルルア様!! エノラ様が危険です!!」
私の目の前にいる2人は私の惨状をみて慌てているが、なぜか私は死ぬとは思っていなかった。
だってさ……。
「エノラ!? 酷い!! すぐに治療を!!」
「エノラ!! しっかりしなさい!! 私たちが3人、いや4人そろう時が来たのです!! 目をしっかりあけなさい!!」
カグラとキャリーがやってきてくれたんだ。
私がこんなことで死ぬわけがない。
「ええーい!! 2人とも邪魔です!! どきなさい!!」
「「ふぎゃ!?」」
しかし、なんか2人がいきなり、壁に吹き飛ばされて、奥から青髪の女神様がやってきた。
ああ、ハイレン様もやってきてくれたんだ。
……あれ? ハイレン様って赤髪だったような?
そんなことを思いつつ、私の意識は途絶えた。
Side:スティーブ
「……とまあ、発破をかけたつもりがこうなったっす」
おいらはそう言いながら、ルルアの姐さんに壁へと吹き飛ばされて目を回している、キャリー姫さんとカグラを映像に捉える。
『発破の語源どおりというか、大爆発したな』
「そうっすね。拷問場にとらわれているエノラさんのことをしらせたら、大司教を担いで、ここまで爆走。扉を守っていた、敵性教徒たちはヤクザキックで一撃粉砕したっすから」
『下手な押し問答で時間を取られて、証拠隠滅とか、敵が動くのは避けたかったから、多少強引に動けるような情報提供をしたつもりだったんだがな……』
結果は、元々御三家で交流のあったキャリー姫さんとカグラは、おいらの報告を聞いて、謁見許可も貰わず大司教の執務室へと突入。
そのまま、拉致して、地下の拷問場へと乗り込むことになったっす。
「ま、怪我の功名というか、その大司教拉致?事件で、多くのハイレ教徒が2人を追いかけて、拷問場までご招待。現在阿鼻叫喚で、この地下拷問場の管理者である、人事のアホ共を即座に拘束。尋問中っす」
『勝手に始末されたりとかすると不味いぞ?』
「そこはご心配なく。おいらの部下が付いていますし、事情説明や管理として、尋問にはスタシア殿下、ヴィリア、ドレッサ、エージルがついているっす」
『で、結局大司教の方はどうなったんだ? 話を聞く限り、ただの人質になっただけしか聞いてないが』
「ああ、今、拷問場にてルルア姐さんと一緒にけが人の治療っすよ」
『話は通じそうか?』
「多分。即座に、拷問場、じゃなくて修練場の管理である連中を捕まえるよう指示をだしたっすからね。それだけじゃなく、同じような修練場も即座に検査が入ったっすから」
『ふむふむ。じゃ、アホ共の書類関係は撮影だけにしとけ。持ち出すと逆に疑われかねん。ついでに、情報提供を求めて、こちらが確認した書類の内容と違いがないかも確認しておけ。こっちを疑っている、だましているって可能性もゼロじゃないからな』
「わかってるっすよ」
この騒ぎの間に、怪しい連中の部屋においらの部下たちが潜入して、めぼしい書類は全部撮影済みっす。
「じゃ、データ送るんで書類の分析お願いっすね」
『……はぁ。これがつらいんだよな。今日も残業か』
そう言って、大将との連絡が終わり、データの転送をする。
おいらもおいらで現場仕事で忙しいっすけど、大将も大将で情報分析や書類仕事っすからね。
世の中、楽な仕事はないって思ったっす。
白幕>ちょっとした手持ち花火のつもりでした
社畜>手持ち花火どころかダイナマイトだったっすね
と、難しいやり取りはなく、実力でこじ開ける始末。
そして、御三家が再びそろう!!
さあ、物語はどうなるのか!!
ユキが望む、のんびりとした世界は訪れるのか!?
うん。訪れるわけないよね。
まあ、この新大陸編を楽しむためにも中級神派の頑張りに期待しましょう。




