第638堀:何事もチャレンジである
何事もチャレンジである
Side:ユキ
「……ということで、この作戦で行きたいのですが」
「どうでしょうか?」
そう言ってくるのは、キャリー姫とスタシア殿下だ。
その後ろには、カグラたちが立っている。
「話は分かった。事前にドレッサたちからも報告は受けているし、ハイレ教会総本山の切り崩しにはジョージン殿や、カミシロ公爵、学院長、オーノック司祭と話し合った結果、それが最善だという結論にも至った」
そう返事をしたので、カグラたちは意見が通ったと思っているのか、笑顔が浮かぶが、俺たちだって無条件にこの作戦を受けるわけにはいかない。
俺が目配せすると、後ろに控えていた、ジョージン、カミシロ公爵、学院長、オーノック司祭が前にでて、口を開く。
「作戦自体は素晴らしい。ですが、姫様たちやカグラ殿たちが倒れては元も子もないというのはご理解していただけていると思います」
「そこで、カグラたちや、姫様たちが行う魔物相手の訓練に関しては厳しい審査を私たちが行うこととなりました」
「言わなくてもわかると思いますが、耐える、だけではだめです。これは失敗が赦されない物。生半可な覚悟で行かれては困るのです」
「……私が言えたことではないですが、あの頭のいかれた連中がいるかもしれない総本山です。大司教様を助け、味方につけるというのは大賛成ですが、それを達成するために、姫様たちが向かうというのは正直言って反対であります」
当初、ドレッサたちから話が来た時は、一蹴したのだが、意外にもドレッサたちが喰いついてきた。
というか、他にいい作戦があるなら聞かせろと言われて、俺やジョージンたちも口をつぐんだ。
俺たちだって、カグラたちを前面にだしてという作戦を思いつかなかったわけではない。
だが、倒れてしまう確率が高く、それでスティーブたちが姿を現して大々的に動けば逆に信頼を失いかねないということもあった。
まあ、最悪、写真付きのビラを各国に撒けば、世論はこちらにつくだろうというのはある。
しかし、代わりにハイレ教の威信は地に落ち、真面目にハイレ教を信奉して、奉仕している人たちが糾弾されて最悪死ぬという事態にもなるだろうと予想ができて、なかなか難しい問題だった。
だからこそ、ドレッサたちの提案を飲む代わりに、カグラたちがちゃんと実戦に耐えうる体力、精神力を鍛えるという条件を出したわけだ。
条件というか、至極当然の話だ。
「ということだが、カグラたちはその覚悟はあるか?」
俺はキャリー姫でなく、カグラたちにそう問いかける。
キャリー姫とスタシア殿下の覚悟や実力はすでに問うまでもない。
そこは誰もがわかっているので、誰も言及はしないが、お姫様としては色々間違っていると思う。
と、そこはいいとして、カグラたちは俺の問いかけにしっかりと俺たちを見つめ返して返事をする。
「覚悟はあるわ。できることはする。しなくて後悔をしたくない」
「私もです。というか、ここが頑張りどころだと思います」
「わ、私も、です。お世話になった人たちを戦火に巻き込まずにすむなら、ここで頑張るほうがましです」
そういう3人を見て、正直、脅かしすぎたかな? とも思ってしまった。
前にカグラたちに色々言ったから、この力強い返事になってしまったのではないかという疑念を捨てきれない。
というか、俺も正直、カグラたちの参戦を願って、ああいう風に焚きつけたというのもある。
そこまでしておいて、今更こんなに色々言うのは、大人って汚いなーと思ってしまう。
学生相手をしていると尚、そう思ってしまう。
だからこそ、しっかりカグラたちの意思とやる気を確認して、訓練をしっかり積ませようという判断だ。
ということで、カグラたちの訓練は即日開始されることになる。
まあ、キャリー姫やスタシア殿下が行ったハードな潜入訓練ではなく、ただの受け答えや死体を見ても精神を保てるかという類だ。
肉体訓練ではないが、無理な奴は一生無理な類だ。
具体的に言うなら、貴族、いや元貴族のハイレ教徒相手の練習は、カミシロ公爵や学院長が指導して、死体などや魔物の軽い対処法などは、我がウィードの特設訓練ダンジョンにて、行うこととなった。
訓練期間は約1週間。
この間に、何とかカグラたちは不動の精神を鍛えなくてはいけない。
なんでこんなに短いのか? と問われると、この学院から、ハイレ教総本山に馬や徒歩で移動する時間はだいたいこのぐらいかかるからだ。
これ以上、ハイレ教総本山に時間をやるととんでもないことになりかねないので、こういう段取りとなった。
『みぎゃー!?』
『ひぃぃぃ!?』
『わひゃー!?』
『ふむふむ』
『ほほう。これはこれは』
そんな声を聴きながら、俺たちは訓練風景をモニターでのんびりと眺めている。
まあ、俺は他に色々用事があるから、常時見張っているわけじゃない。
「これは……」
「話には聞いていましたが……」
「すごいものですな」
と、漏らすのは、同じ控室にいる悪い大人たちであるカミシロ公爵、学院長、ジョージン。
実践? 実戦訓練に興味があるので様子を伺えるのであれば伺いたいと言われたので、見てもらっている。
学院長は、ゲートによる移動に目を白黒させ、ウィードの街並みに口をあけっぱなしになり、魔物が盛りだくさんのダンジョンの様子をみて、言葉もないという状態だった。
幸い2人がウィードになれていたので、学院長のフォローをしてくれた。
というか、カグラやキャリー姫、ジョージン、カミシロ公爵以外では、初めてのまともな訪問者なので、この後もしっかりもてなしの予定が詰まっている。
これはある意味、ハイデンやフィンダールとの交流も行えているので、トータル的にはよかったのかもしれない。
まあ、そんな政治的なことはいいとして、現在カグラたちは、訓練用のダンジョンに挑戦している最中である。
『うばおぁぁぁ』
『おぉあぉあ』
『『『きぁぁぁぁあ!?』』』
流石に初日から、戦闘訓練などはしないが、死体を見て耐えてもらうためにお化け屋敷風にして、追い回してもらっている。
幸い、本人たちは気絶や吐いたりするより、命の危機ということで、必死に走り回っているのはいい方向に訓練の効果が出ているという事だろう。
そうだな、わかりやすく言うのであれば……。
泳げない奴を海に突き落としたら案外泳ぐ
というやつだ。
まあ、海の方は死ぬ危険があるから、それに比べたらマシなんだけどね。
ダンジョンお化け屋敷のゾンビたちは、俺の部下ではないが、ダンジョンモンスターなので命令は聞く魔物で、今回は追い回したり脅かしたりするだけとなっている。
無論、襲われないというのはカグラたちはしらないので、必死に逃げている。
一緒にいるキャリー姫とスタシア殿下にはその旨は伝えているので、2人はアトラクションを楽しんでいるという感じだ。
無論、ここの大人たちもそれを知っているから心に余裕を持って見れているのだ。
カミシロ公爵なんて娘がゾンビに追い回されて、命の危機だと思えば、平静に見ることなんてできないだろうからな。
何も知らないカグラたちからすれば、リアルバイオハザードの世界だろうしな。
「まあ、吐いて気絶するようなことはないですし、本人たちの意思の強さは本物でしょう」
と、モニターを見入っている3人にそう告げる。
これなら、本番に耐えうる。
下手な説明よりも、判りやすい証拠だ。
「……そうですね」
「……確かに。これを1週間こなすのであれば、下手な訓練などよりは安心ですな」
「正直に言って、ここが問題でしたからな。大司教との交渉などは、姫様たちが行うでしょうし、あとはカグラ殿たちの頑張りですな」
そう。交渉事はキャリー姫とスタシア殿下がこなすことになる。
なら、カグラたちいらなくね? と思うが、そうでもない。カグラたちは事件の証人でもあり、総本山内部の敵性勢力が行動を起こさないための護衛というにはあれだが、抑止力でもある。
お姫様2人なら……とか思う馬鹿がいるかもしれないが、多人数であればためらうのではないか? という話だ。
まあ、こっそり護衛のスティーブたちもいるし、道中の護衛もいるから戦力的には問題はない。
また、キャリー姫やスタシア殿下はともかく、カグラたち学生からの証言だといえば、即座に否定して自分が正しいと言ってくる馬鹿が出てくるだろう。
その時に人を集めて、写真、映像を突き付けて、チェックメイトというやつだ。
やましいことがないなら、どこでも調査して問題ないよな。とでもいえばよし。
中級神派の連中は自ら首を絞めてくれるというわけだ。
自爆して、大司教は事の重大さを知り、各国に通達と調査を行うだろう。
それをフォローして、ハイレ教の失態ではなく、一部の人たちが魔王の邪教に取り込まれたとでもいえば、分離はしやすいし、ハイレ教はこちら側につくことになる。
中級神派は一気にあぶりだされて、孤立して全滅。
と、理想を語ってみたが、所詮は理想論。
恐らく中級神派がどこかに集まって、決戦でもあるとは思う。
その時、どう始末するかは、またその時になってからだな。
「さて、カグラたちの訓練を覗くのはいいとして、私たちも自分たちの仕事をしなければいけませんね」
俺はそういって、カグラたちの訓練風景に見入っているカミシロ公爵や学院長の意識をこちらに引き戻す。
「そ、そうですね。娘が頑張っているのに、父親がのんびりなどはできません」
「ですな。学院側としても、大人としてもやるべきことをこなしましょう」
「では、ハイレ教総本山に出家している、元貴族の方々ですが……」
こっちはこっちで、難しいお話が始まった。
前日話していた、元貴族への対応の話だ。
まあ、おおざっぱに言えば、巻き込むか巻き込まないかという判断の話だ。
消してもいいか、否かという話。
ここは俺が口を挟める話ではないので、出てきた結論を受け取るだけだ。
しかし、交渉がメインになっているから、消す消さないというのはほとんどないだろうと俺たちは思っている。
大事な現場の証人に利用しようという狙いがあるからな。
この話で一番の問題なのは……。
「こちらはこれでいいとして、問題は関与していると思われる、人事管理の連中ですな。あそこの連中の探りを入れましたところ、やはり、一か所、同じ出身地の者で固められておりました」
ジョージンが調べてくれた、教会総本山の人事部の報告を聞いて、みんなやはりという顔になる。
その反応を見ることなく、ジョージンは一つの書類を差し出す。
「かつて、狂王戦役の最終決戦の地。女神ハイレン様が生まれた土地であり、中級神が倒れた場所。キュペル大聖堂の出身の者ばかりです。総本山の大司教様たちの保護と協力を取り付けたあとは……」
恐らくキュペル大聖堂が俺たちの決戦の場所となるはず……か。
「ですが、私の情報はかなり古い話です。裏付けを取るのであれば、ユキ様のお力を借りることになります」
「よし。そっちに諜報部隊を送る。目標がはっきりしているなら、やりやすい」
ブリット隊の方をキュペル大聖堂に送るか。
総本山の方は、スティーブ隊に任せるのがいいだろう。
裏が取れて、大司教をこっちに引きいれたのなら、一気に畳みかける。
さて、ブリットがキュペル大聖堂を調べ尽くすのが先か、総本山の大司教を引き入れるのが先か……。
『『『ぎゃぁぁぁぁ』』』
と、なんともすごい叫び声で、意識を再びモニターに向けると、凄い顔でカグラたちが走り回っているのが見える。
「「「……」」」
「ああ、年若い娘が、なんて顔を……」
嘆くカミシロ公爵。
……訓練の確認のためと言えば仕方ないが、この顔を見たというのはカグラには黙っておくべきだよな。
ずっと軍人というわけでもないし、この顔を見られたら結婚できんだろう。
これはここだけの話ということだ。
しかし、お化け屋敷を作った経験が生きたな。
絶妙な位置で脅かしている。
何ごともやってみるべきだな。と思ったのであった。
何事もチャレンジある。
それは、カグラたちのことだけでなく、ユキにも該当する言葉であった。
お化け屋敷を作るってことは、経験になるんだね!!




