第637堀:できることをする
できることをする
Side:キャリー・ハイデン
「……ああ、バカだったんですね。我が友、カグラは」
「うわーん!!」
私が率直にいうと、カグラは泣き出した。
まあ、本気で泣いているとは思えないけど、情けなくて涙が出ているとは思う。
「まったく、ユキ様に呼ばれて、普通に今回の件に参加したことで、注意でも受けていたのかと思えば……」
下手な告白で玉砕していたとは。
しかも、聞けば、世界の為にもなどと、恥ずかしくてとってつけていたらしく、誤解して当然です。
「バカねー。カグラ、あのユキがそんな言い方でわかるわけないじゃない。私たちだって苦労しているのに」
「いえ。それはドレッサだけだと思いますよ。私はいつでもお兄様に愛を捧げています」
「……と、ヴィリお姉はいうけど、今も処女」
「そうよねー」
そんなことをドレッサさんたちは言って、ヴィリアさんに頬を引っ張られています。
「「いひゃい、いひゃい」」
「言葉を選びなさい。私とお兄様はちゃんと落ち着いて愛し合える日を待っているのです。今のままでは騒がしいままですから」
こちらは迂闊なことは言えませんね。
精神的にはともかく、戦闘能力は私たちをはるかに超えています。
下手にからかうと命懸けになるでしょう。
「コホン。カグラの告白が失敗したのは残念ではありますが、ヴィリアさんの言う通り、今は騒がしいので、そういうのは落ち着いて改めてしてもらいたいですね。私たちも支援したいですし、個人的に動くのは待ってくださいね」
勝手に告白されて玉砕されては、私たちも色々困る。
ユキ様に本気で拒絶されたとなると、ウィード外交官の配置換えも考えなくてはいけない。
女王陛下や側室の方々に睨まれるのは確実でしょうから。
ましてや、ハイレ教会総本山の切り崩し作戦を遂行中に、お互い気まずくなっては困ることしかない。
「は、はい。ちょっと、つい口が滑ったというか……」
「だよねー。自然と出たから、ミコスちゃんもあれ? 今の告白? って思ったぐらいだから」
「だ、だから、まだチャンスはあると思います!!」
ふむふむ。
若いのですねーと思って、我に返る。
私も同じ年なんですけどね。そう思うとなんかイラっとした。
しかし、そんなことより、まずはハイレ教会総本山の件だ。
「さて、カグラがおバカをやったことはいいとして」
「ひ、姫さまぁ!?」
「落ち着きなさい。ハイレ教の事をどうにかしないと、カグラがユキ様に告白できるチャンスはないのです。そのためにも、さっさと中級神派の連中をあぶりださなければいけません。そもそも、仕事を放っておいて、恋に現を抜かす人などユキ様は好きにならないでしょう」
「な、なるほど、確かに!! ユキは真面目だから」
「ま、ユキが仕事に真面目ってのは同意するわ。結果はしっかりだすし」
「当然です。お兄様が動き出して相手がただですむわけがありません」
「……だけど、お兄だって、疲れるから、ヒイロたちも助けないといけない」
ヒイロちゃんがそういってみんな頷く。
流石というか、ユキ様の配下だけはあり、そういう思考はちゃんとしているようです。
「それはカグラたちにユキを召喚されて、それに私たちもついてきてよくわかったわよ」
「あれほどまでに、激務をこなしていたとは思いませんでした」
「……お兄は凄い」
「「うぐっ」」
3人にそういわれて、心が痛い私とカグラ。
ユキ様に負担を強いているのは、間違いなく私とカグラだ。
「でもさ、ミコスちゃんたちに与えられているのは、写真の中からの元貴族たちの選別でしょう? 他に何ができるのかな? できたとしても、聞いてもらえる?」
「そ、そうですね。迂闊に、作戦に口を出していいのでしょうか? エノル8世大司教様の件は私たちが意見を挟めるようなことではないのでは?」
「いえ、そうでもありません。この場には私やスタシア殿下もいますし、今回のハイレ教総本山の件は既にユキ様たちウィード単独で行うのは危険だと判断して、私たちに協力を要請してきました。なので、ここで何かよい提案があれば、十分に意見具申をできるでしょう」
ミコスとソロの不安にそう答える。
各国との調整が必要だとわかった時点で、ウィードが勝手に処理するわけにはいかなくなったのだ。
最悪、大戦乱になる。それを恐れてユキ様は慎重に情報を集めるという方法を取ったのだ。
「しかし、一体どういう方法があるのでしょうか?」
「それをみんなで考えるのです」
皆はなるほどといって、頭をひねるが、そう簡単に作戦、方法があるのなら、既にユキ様に提案しているでしょう。
と、そんなことを考えているとヒイロちゃんを抱えているスタシアお姉様が目に入る。
「先ほどから、無言ではありますが、スタシアお姉様は何かいい案はありませんか? 私たちとは違って、れっきとした将軍としてかなりの経験を積んでいるはずです。このようなことは経験がありませんか?」
そう聞くと、スタシアお姉様ははっとした様子で、目が泳ぐ。
あれ? 何か、変なことを聞いたかしら?
「……すまない。私は、鉄面皮の女と言われていて、その、恋愛事はさっぱりで……」
自信なさげにスタシアお姉様がそういったので、思わず、机に頭をぶつけるところだった。
「い、いえ。そっちではなく、ハイレ教会総本山の作戦についてです。大司教やその他大勢の関係のない人を味方につけて、大事にならないようにするにはどうしたらいいのかという話です」
「あ? ああ!! すまない。そっちだったか、どうも最初の会話に参加できなくてそっちに意識が向かったままだった」
しまった。こっちも私の配慮ミスね。
スタシアお姉様を寂しくさせてしまっていた。
後でフォローしておかないと、と考えていると、スタシアお姉様が意外なことを言う。
「で、いい作戦については、あるにはある」
「「「え?」」」
そう簡単にいい作戦が思いつくとは思っていなかったので、意外だった。
しかし、スタシアお姉様は、カグラたちの顔を見て気まずそうにして続きを話そうとはしなかった。
「何か問題でも?」
「……おそらくこの作戦はユキ様やジョージンも考えてはいるが、躊躇っているのだろう。私もその理由はわかる。だからこそ、私の口からいっていいものかと、思っている」
この様子から察するに、カグラたちを使う作戦に……、ああ、なるほど。
私もわかってしまった。
それがスタシアお姉様にもわかったのだろう。
こっちを見て苦笑いをする。
「……確かに。それは、かなり無理がありますね」
「え? ええ? 姫様もわかったんですか? 教えてくれませんか?」
「私も是非聞きたいです」
「わ、私もです」
「そうよ。キャリー姫。ユキが少しでも楽になるなら、教えて!!」
「ドレッサ落ち着いて。お相手はお姫様です。どうか、私たちにわかるように教えていただけないでしょうか?」
「しかしだな……」
流石に本人たちに言うのは気が引けるのか、どうしたものかと迷っているようでしたが……
「……スタお姉。教えて?」
そう、ヒイロちゃんに請われた瞬間。
「しかたない。教えてやろう」
あっさり陥落した。
ヒイロちゃんはアージュお姉様に似ていないのだけれど、どこがスタシアお姉様の琴線に触れたのだろうかと不思議に思う。
まあ、スタシアお姉様が笑顔を見せてくれるのならいいでしょう。
それよりも、大事なのは作戦の内容です。
私が考えている通りならば……。
「私が思いついている作戦というのは、前回と同じだ」
「前回? ですか?」
「なんの前回でしょうか?」
「「「?」」」
やはり。と、私は思ったが、カグラたちはわからず首を傾げている。
「……前回というのは、カグラ殿たちが倒れたオーノックにあるハイレ教会を訪れたときのことだ」
「え?」
驚きの表情に染まるカグラたち。
だが、ここまで話したスタシアお姉様は遠慮せずに話を続ける。
「大司教様が何も知らないという可能性が高く、味方に付けられるかもしれないというのであれば、縁がある、カグラ、キャリー、私、そしてあの教会の惨状をその目でみたミコスとソロが訪れて写真や動画を持って説明するのが一番早く、そして理解が得られる。下手な小細工をすると疑われる可能性があるからな。これ以上の説得力がある訴えもないだろう」
スタシアお姉様はそこで一旦口を閉じてカグラたちを見る。
カグラたちも、なぜ言い辛かったのかが分かった様子だ。
それを察したスタシアお姉様は続ける。
「だが、それは前回のオーノックのハイレ教会でやったことを再び行うということ。安全については、ユキ様が率いるスティーブ将軍たちがいるから確保されていると思っていいだろう。しかし、カグラ殿たちは下手をしなくても、写真や動画であの時の現場を再び目に焼き付けることになる。最悪、総本山でも同じことが行われているという可能性もあるから、その現場に踏み込むことになるかもしれない」
そう。カグラたちにあの地獄を再び味わえという話だ。
こればっかりは、無理強いしてどうにかなるわけではない。
無理をさせて現場で倒れでもすれば、邪魔でしかないからだ。
「とまあ、答えは至って簡単だ。前回と同じ行動をするということだからな。幸い、狂っている助祭はこちらで押さえているし、オーノックの司教によれば、総本山との連絡はその助祭が直属の部下に指示して行っていたというのがわかっている。つまり、向こうは私たちの動きに気が付いていない。どのみち、ハイデンとフィンダールが和議を結んだということは、ハイレ教会総本山で宣言し、各国に喧伝してもらう予定でもあった。そのための訪問だと言えば、何も不自然なことはないだろう」
訪問する理由も十分にできているが、カグラたちがそれに耐えられるか? という話になる。
「分かったでしょう。これがスタシアお姉様が言い淀んだ理由です。カグラたちは再びあの地獄を味わうことになります。それに耐えて、大司教に訴えなくてはいけません」
「「「……」」」
カグラたちは話を聞いて沈黙して、悩んでいる。
当然でしょう。嘔吐して倒れ、うなされていたぐらいなのですから。
それを見ていた、ドレッサさんたちが口を開きます。
「なるほど。ユキが言わないわけだ」
「お兄様は無理をさせませんから」
「……というか、無理をさせたからといって上手くいく話じゃない。カグラお姉たちが自分たちで頑張らないとむり。お兄は無理をさせて危険に晒すようなことはしない」
ヒイロちゃんまでも、作戦の内容をしっかり理解しているのに驚きですが、ある意味納得と言えるでしょう。
「で、どうするわけ? 作戦はある。だけど、それはカグラたちの協力と努力が必要不可欠」
「や、やるわよ。頑張るわ」
「「うんうん」」
ドレッサさんの問いかけに、カグラたちは顔を青くしながらもそう答える。
「口先だけでできると言っても、お兄様が良しというわけがありません。まずはその顔をどうにかしてください」
「……そんな顔じゃ、説得力はない」
「「「……」」」
カグラたちはそう言われて何も言い返すことができないでいる。
さて、ここで言い返すことすらできないのであれば、やはり無理でしょう。
そう思って他の作戦でもと思っていると……。
「とはいえ、どうしたらいいかわからないわよね。なら、練習でもしたらどう?」
ドレッサさんがそう提案をしてきました。
「練習?」
「そう、練習。私たちのウィードには普通にアンデッド系がいるからね。もちろんゾンビもいるわよ。あと医学の勉強とか?」
「ああ、それはいいですね。ゾンビさんたちとの訓練に、医学の勉強でもすればなれるでしょう」
「……いいとおもう。お兄たちには話を通しておくね」
ん? 一体どういうことでしょう?
まるで魔物を使役できるという話に聞こえるのですが……?
ああ、そういえば、ユキ様はダンジョンマスターとして女神ルナ様に指名されたのでしたね。
であれば、魔物を使えて当然ですか。
そんな風に驚きつつも納得していると、私を見たカグラが慌てて説明をする。
「なるほど……。って姫様!? スタシア殿下、こ、このことは……」
「いえ。言わなくても今までの話から予想は付きます。ですね。スタシアお姉様?」
「ああ。ユキ様たちにダンジョンマスターとして魔物を使役する力があるのはわかっている。私たちの事件やこの一帯の情勢を鑑みて配慮してくれたのだということもだ。そこをとやかく言うつもりはない。しかし、そんな訓練方法があるのなら、私たちも魔物相手の戦闘訓練をしたいのだが」
あ、そうですね。
スタシアお姉様の言う通り、中級神派が魔物を使役するのであれば、私たちが魔物と対峙することはあるでしょう。
現にリザードマンたちとは一戦交えていますし、魔物との戦闘訓練を積み、不測の事態に備えたいです。
そのことを伝えると、ヴィリアさんが、その旨をユキ様に話してくれることになりました。
カグラたちだけに苦労させるのではなく、私たちも強くならなくては。
そして、カグラたちは再び狂った相手と向かい合うことを決意する。
あと、最近キャリーとカグラの立ち位置が逆転しつつある。
そして、スタシアはシスコンへ。
そして、ユキはこの提案を受け入れるのか!!
その場合の訓練方法はどうなるのか!!




