第628堀:成果と限界
成果と限界
Side:ユキ
世の中上手くいくと思っていたら上手くいかないし、逆に上手くいかないとおもっていたら、予想外に上手くいくこともある。
ただ、それだけの事なんだが……。
「オーノックのハイレ教会をつついただけで、なんか思ったより大物が出てきたな」
報告書を読んでそう呟く。
予定通り、教会に探りを入れていたら、オーノック周辺で起きていた学生誘拐事件の主犯らしき助祭に襲われて、それを逆に撃破して捕縛に成功した。
「予定狂いまくりだよな」
本来であれば、スティーブたちが適当に騒ぎを起こす予定だったのに、先に騒ぎを起こされるとは思わなんだ。
おかげで、予定していた作戦は中止で、カグラたちのフォローをすることになった。
てっきり、のらりくらりと躱すかと思っていたら、カグラを襲いに来るとはな。
バカなのか?
「まあ、教会内部に味方がいたのはいいことか」
助祭の女性は話を聞く限り狂信者とか言う部類で話が通じないタイプだったが、司祭の方は助祭たちに襲われたときに、自分が刺されてまでカグラたちを逃がそうとしたらしい。
演技をするなら命をかけたりしないだろうし、最初から敵に回るだろうから、おそらくはこちらの味方として判断していいだろう。
「……今、戻ったわ」
「おう。お疲れ、カグラ。トーリたちもお疲れさん」
「ただいま戻りました。ユキさん」
「はぁ、最悪の事後処理だよねー」
「……まさか、あの地下が解体場とか」
教会での処理を終えたカグラやトーリたちが戻ってきた。
ちなみに、ミコスとソロは、地下の惨状を見てぶっ倒れた。
まあ、カヤの言う通り解体場だったので、スプラッタ耐性でもないと耐えられないだろう。
ミコスは戦場経験者ではあるが、あの解体場の中はまた別なのだ。
どうやら、学院生だけではなく、傭兵などの流れものを連れ込んでは、魔力がよさそうであればやっちまってたらしい。
で、なんでわざわざ連れ込んで解体していたのかというと……。
「これが、現場にあったマジック・ギアです」
そういって、トーリに渡されたものの為だ。
解体というより、魔力を奪っていたのだが。
拷問というべきだろうか? それで無理やり魔力を引き出しては、回復させてという強烈な方法を取っていたらしい。
そんな無茶をすれば、最後には廃人になるので、そのあとは解体して処分ということだったらしい。
サイテーという奴だ。
人ってなんでここまで極端になれるかねー。
というわけで、ミコスとソロが倒れたのは至極当然。誰も責めたりはしない。
それよりも、今後お肉を見てトラウマ発動がないことを祈る。
心のケアとかできねーよ、俺は。
「ま、調査は難航するかと思ってたけど、最後にあっさり動いたな」
「だねー。正直、もう引き払っているかと思ったけど、そうでもなかったみたい」
「まあ、教会という隠れ蓑がありますからね」
「……自分たちで襲って気絶した生徒や人を教会に連れていく。それで終わり。あやしい噂がないわけ」
「……どうやら、私が狙いだったみたいだけどね」
「話を聞く限りそうだな」
助祭のお姉さんは、カグラを攫うつもりだったらしい。女神の為にと。
教会で解体する気はなかったようだ。記録を見る限りは。
まあ、だからと言って別に許す許さないの話じゃないけどな。
「お姫さんの方には?」
「……私から報告を入れて、さらに大混乱よ」
そりゃそうだろう。
怪しいとは思っていただろうが、まさか、殺人鬼もびっくりだよな。スプラッタ解体をやっていたんだから、教会の神父さんたちが。
学生服という物的証拠も丁寧に保管されていたからな。
最低でも10人分近くの学生服が確認されている。
この4、5年の間にそれだけ解体されたということだ。
まあ、映画のネタとしてはよくある真相みたいだけどな。
「だからと言って、抗議なんてできないよな」
「……ええ。どうせ抗議したって、オーノック教会が勝手に凶行に走ったと言われるだけよ。下手に追及なんてすれば、ハイレ教徒の人たちが敵に回りかねない」
当然の話だな。
トカゲのしっぽ切り万歳というわけだ。
そして、それを理由に強行で捜査でもすれば、各地の何にも知らない純粋無垢なハイレ教徒が暴発すると。
いやぁ、宗教は厄介だわ。
というか、これ幸いに、ハイレ教会がハイデン乗っ取りを堂々と始めるかもしれないな。
マジック・ギアの事がばれたということだから、真っ先に潰しにかからないと、ハイレ教にとっても痛手なのだ。
「……それで、事態の深刻さから、ユキたちウィードが捜査する件を受け入れてくれたわ。これ以上、貸し借りなどと言っていたら、とんでもないことになりかねないって」
お姫さんも流石にハイデン主導での解決は不可能と見たか。
まあ、話し合いの余地はもうない状態だからな。
攫って監禁していたなら、……ごくわずかに交渉の余地があったかもしれないけど、殺人だからな。
そして、ハイデン王都で起こった謀反の件にも、ハイレ教会が絡んでいるという証拠が出てきては、今更、話し合いもくそもないだろう。
やるか、やられるかだ。
「ハイデンに協力を頼んで受け入れられるか?」
「ハイレ教を刺激できないから、あくまでも、仲介という形でしか手伝えないと言っていたわ」
「となると、今回の件も……」
「非常に残念ながら、今回の件は極秘、表向きにはなかったことになるわ。司祭様から話を聞いたあとは、司祭様は戻っていただいて、いつもの通りに振舞ってもらうことになっているわ。助祭たちは行方不明扱いね」
当然の判断だな。
犠牲者たちには申し訳ないが、こうすることで、ハイレ教に勘づかれずに動けるのだ。
これが、ウィードの人たちなら、ラジオニュースにでもして、一気に民意をこっちに傾けるんだが、ラジオやテレビなどの簡易情報伝達装置がないこの新大陸ではそんなことはできないからな。
まあ、情報伝達装置があったとしても、マジック・ギアがどこまでそろっているかわからない。下手に情報を流せば、やけを起こして、それこそ第二次魔王戦役勃発だろう。
町中で魔物を呼んで阿鼻叫喚になるのは目に見えている。
となると、やっぱり秘密裏にぶっ潰すしかないか。
「面倒だな」
「でも、いままでと変わらないんじゃない?」
「はい。いままでやってきたこととあまり変わりないと思います」
「……いつもの通り」
「まあな」
リエルたちの言う通り、いつもとやることは変わらない。
最小限の労力で相手を叩き潰す。それだけの話である。
「……で、次はどうするの? ハイレ教の総本山の方へ探りを入れるなら、姫様から紹介状を貰うことはできるわ。それを持って私と一緒に行けば通してくれるはずよ。私を狙っていたし、喜んで引き入れてくれるはず」
「いや。それは必要ない」
「え?」
カグラが意外そうな顔をする。
ああ、分かってないな。
「今回の事で俺たちは確信を持った。そして、ハイデン王家もハイレ教会がしでかしていることをちゃんと知った。そうだろう? カグラが危険な目にあってお姫さんに報告したんだから」
「え、ええ。証拠も挙がっているし」
「つまり、これで俺たちはハイレ教を叩き潰しても、ハイデン側から文句はないわけだ」
「……いや、叩き潰すって、どうやって?」
「……スティーブたちがいるだろう? カグラは光学迷彩をみてないのか? 透明になるやつ」
「あっ!?」
そこまで言って俺の意図に気が付いたらしい。
ハイデンとの関係がこじれないと確信が持てた今、わざわざ、ハイデンに配慮して一緒に行動をする理由はない。
さっさと、ハイレ教の総本山を強襲して、大本を叩いて、事態の収束を図る。
今回、俺たちが勝手に動けない、いや動かなかったのはウィードだけが真相を知って勝手に解決を図ると、ハイデンと関係がこじれかねなかったからだ。
最悪、ハイデンとハイレ教を相手に戦争になりかねなかった。
何も知らなければ、ウィードがいきなり国教であるハイレ教に襲い掛かった状態だからな。
怪しいとは気が付いていたが、怪しいだけでは罰せられないのが世の中だ。
証拠を押さえて、GOサインがなければダメというのはどこの社会も同じである。
疑わしきは罰せずというのは、無能という意味ではなく、社会的不信感を抱かせないための国が国として成り立つための絶対的条件なのだ。
疑わしきは罰するなんて国で安心して過ごせるわけがないからな。
あやしーと言われるだけで処罰されるとか勘弁願いたい。
勝手にやって知らぬ存ぜぬで通してもいいが、どう考えても、ハイデンはウィードを疑うだろうし、軍事力などの観点から危険視ということも十分あり得るだろう。
これから、新大陸で調査をしたいと思っているのに、こういうことで関係悪化をすればかえってウィードにとっては面倒になる。
その枷が今解除されたのだ。
ハイデンがやってくれといったのだ。秘密裏の黙認とは言え、ハイデンの上層部の許可を得たということ。
「あとは、こっちの独擅場だ。カグラやミコス、ソロに体を張ってもらう必要はない。今まで無理してたんだ。ウィードにでも行って休憩してるといい。ミコスとソロを案内するって約束もしてただろう? ちょうどいい機会だ」
「ユキ……」
と、カグラをそれとなく気遣っているように見えるが、実のところ邪魔。
作戦行動についてこられたら、いちいち説明が面倒。
いままでは、ハイデンと協力してという建前が必要だったが、今度は必要ない。
だれが、お荷物を背負って仕事なぞするか。
ハイレ教の総本山は一週間以内に強襲してやるわ。
覚悟していろ、なんちゃって神連中め。色々利用方法がある紙とか、ペーパーとかの方が俺にとってはありがたいわ。容赦などしない。
そんなことを考えていると、カグラがふらついたので、咄嗟に支える。
「大丈夫か?」
「あ、うん。って、やせ我慢ね。流石に、あの光景は私もね……」
そういってうつむくカグラ。
ああ、カグラも平気なわけないよな。
報告の為に無理していたというわけだ。
気が利かなかったな、俺。詳しい話は明日にするべきだった。
カグラはハイデンとウィードを円滑にするための得難い人材なのだから、酷使して嫌われるとかは絶対に避けなければいけない。
どっか空き部屋にでも連れて行って休ませて……。
そんなことを考えていると、護衛で一緒にいたデリーユがカグラの顔を覗き込んで叫ぶ。
「ユキ!? カグラの顔が真っ青じゃ!?」
そういわれて、カグラの顔を見ると真っ青だ。
なにかやばい病気にでもかかったのかと思ったが……。
「うぷっ!? オロロロ……」
ああ、そっちですか。
まあ、当然だよな。
ビチャビチャと床に落ちるカグラの胃の中身。
俺の横で逆流しているのだから、当然俺にも胃の内容物はかかるし、部屋は特有の匂いに包まれる。
それでも、カグラは仕事意識があるのか……。
「ご、ごべんなざい……」
と謝るが、それに鞭打つ鬼上司ではない俺はすぐに背中をさする。
「よし、よーし。とりあえず、全部ここで吐いてしまえ」
寝てしまったときに吐かれて、喉を塞ぐ可能性もあるからな。
全部吐き出してしまえ。
「で、でも……」
「遠慮するな、カグラ。ユキがこの程度の事で怒るわけないわ。ほれ、申し訳ないと思うなら、これ以上床でなく、この袋に吐くとよい」
「ば、ばい……」
デリーユはいつの間にかビニール袋を取り出してエチケット袋にしていた。
カグラも自分の吐いた物の酸臭に当てられて尚吐く。
あるよなー。
ま、結構吐いてるし、あと少しで落ち着くだろう。
「とりあえず。トーリはスティーブと今後の予定を詰めてくれ」
「はい」
「リエルは、マジック・ギアや現場の写真とかを持って、ザーギスとコメットに検証を頼んで、そのあとはトーリと合流」
「りょうかーい」
「カヤはすまないけど、ルルアを呼んできてくれ。ないとは思うが、腐敗した遺体もあっただろうからそこからの感染症などの病気の可能性も捨てきれない」
「……任せて」
……ちっ、そうなると、ミコスやソロも感染症の可能性があるな。
そこら辺の考慮が本当に足らなかった。
「ヴィリア、ドレッサ、至急ミコスとソロを隔離。部屋の除染作業を手配。移動先はこの部屋の隣の俺の寝室でいい」
「わかりました」
「了解」
どうせ、俺の部屋とか言いつつ、全然使ってないからな。ちょうどいいだろう。
さて、俺もカグラを移動させるか。
そう思ってカグラを見ると、吐くのは終わって放心している。
口の周りはもちろん、学生服も吐瀉物で汚れてしまっている。
これじゃ、ベッドを汚すだけだな。
「ほれ、カグラ。この水で口の中を綺麗にしろ。気持ち悪いだろ?」
「あ、うん」
カグラは俺に言われるまま、うがいを始める。
「リーア。カグラの部屋から着替えを」
「はーい」
さて、服も手配した。ルルアという医者も呼んだ。あと流石に忘れているものはないよな?
そんなことを考えていると、うがいを終えたカグラが床に広がった吐瀉物を手で集めはじめた。
「おいっ!? そんなことしなくていいから」
「わ、わだじが、汚しちゃったがら……」
カグラはぽろぽろ泣きながらそう訴えてきた。
ここで、初めて理解した。
やべ、やり過ぎたと。カグラに無理をさせ過ぎた。
すぐに手をつかんで作業をやめさせて、汚れた顔や手を濡れたタオルで拭い、抱え上げる。
「あう」
「すまん。本当に配慮が足らなかった。ここの片付けはこっちでするから、カグラは休め。デリーユ、ベッドに運んだあとで服を脱がせてやってくれ。すぐにリーアが替えの服持ってくるだろうから」
「うむ。任された」
そうして、カグラをベッドに運んだあとはデリーユやリーアに任せたが、俺は自己嫌悪に陥っていた。
「……俺、最低だ」
どこかで、召喚したカグラに恨み返しってのがあったんだろうな。
決着はつけたはずなのに、……年下の学生にこんな陰湿ないじめしてどうなるんだよ。
はぁ……。配置換えを考えるか。
ハイレ教への攻撃理由整い、ウィード主力が動き出す(主にスティーブ隊)
そして、それより重要なのが、度重なる激務でカグラ倒れる。
で、ユキ自己嫌悪。
まあ、ユキが悪いといういか、カグラは運がなかったとみるべきなんだけどね。
というか、全ては話を聞く限りハイレ教が悪い。
その分の報いはこれから受けることとなる。




