第626堀:獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 状況証拠
獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 状況証拠
Side:カグラ
「それは……、ハイレ教会だよ」
そう、トーリさんの話を聞いて、私は頭を殴られたかのような衝撃を受けた気がした。
いや、分かっていたはずだ。
元々、叡智の集とハイレ教会が繋がっているかもしれないという話は、私たちがハイデン王宮に乗り込んだ時からわかっていたことだ。
そして、初代様から500年前の真実を聞いて、ダンジョンコアを所持しているという話も聞き、フィンダールの魔物事件からの関連もある。
まず、間違いないはずの答えだ。
今までの状況を踏まえるとそれしかない。だが、私は心のどこかで、今まで信じてきたハイレ教がそんなことをするわけが……という気持ちがあったのだろう。
だから、こんなにショックを受けている。
ミコスやソロも同じように、顔を真っ青にしている。
このハイデン、いや周辺諸国においてハイレ教は国教となっている。
どこにでも存在していて当たり前のものだ。年間の行事や子供の洗礼などすべてを担ってきたのだ。奉仕活動も当たり前、治療も行っていて、民からの信仰も厚く……。
なにより、初代様、ソウタ様の戦友であり、女神であったハイレン様を祀ったものなのに、なぜ……という感情が強かった。
そして、その話の後は、また分かれてオーノックでの情報収集を再開するが、私が望んでいた、怪しい場所が見つかることはなく……。
・学院生が町に来るさい負傷して、治療の為に教会に預けられた。
という書類を複数見つけてしまった。
トーリさんたちの言葉がなければ、ただの変哲もない報告書として見過ごしていただろうものが、先ほどの話で異質すぎることに気が付かされた。
ちょっとさきの町に行くだけで、教会に運び込まれるような怪我を負うほど、学院生は弱くはないし、そんな事件があったのにも関わらず、学院には何も連絡が届いていないことが、学院長への報告で判明し、さらに学院側の調査の結果、現在連絡の取れていない卒業生や中退生の名前が判明し、私が見つけた報告書の学院生の名前が一部一致したのだ。
……つまり、限りなく、教会が黒だということだ。
勿論、その日の夜はトーリさんたちには申し訳ないけど、家族団らんの食事はお預けとなり、対応策を話し合うことになった。
「……なんてこと」
そういって、頭を抱えるのはキャリー姫様。
私や学院長からの報告を聞いて青ざめている。
それも当然だと思う。今ハイデンでハイレ教会相手に騒動を起こすわけにはいかない。
というか、どの国もハイレ教会に強く出るわけにはいかない。
民衆全てがハイレ教に付きかねないからだ。
ハイレ教が魔物を生み出していることに加担していると言われて、誰が信じるのか。
下手につついてハイレ教が武装蜂起でもすれば国は崩壊する。
今現在がたがたに近いハイデンであるならなおのことだ。
「……日本でいう、一向一揆かな」
「うへぇ。それは面倒ですね」
皆が沈黙するなか、呟いたのはタイゾウさんとタイキさんだった。
「……タイゾウ様。その一向一揆というのは?」
姉であるカンナがタイゾウさんに説明を求める。
「ハイレ教のようなものです。日本でも昔、宗教によって人心を集め、国に不満がある者を集めて武装蜂起させた。宗教集団の事件がありましてな」
「……日本はそれにどう対応を?」
「簡単です。制圧して治めました。まあ被害は甚大でした。守るべき民衆に対して武器を振り上げたのですから、反発は必至。もとより、国が安定していないからこそ、明日の不安を取り除くために宗教に縋ったという側面もありますから、一概に宗教が悪いとも言えないのですが」
……制圧。つまり、戦争。
「……今の我が国ではできそうにないですね。先のフィンダールとの一件や留学生軟禁で周辺国の信頼は地に落ちています。ここで、ハイレ教へ下手に強固な対応を取れば……」
一気に武装蜂起される。
今回の事件の真実を知らない貴族たちなどは、王家が狂ったと思い反旗を翻す者も多いだろう。
それほどハイレ教はこの一帯に根付いている。
そうなれば、日本のように戦力があるわけでもなく、ハイデンは瞬く間に滅びる。
「……カグラ、オーノック子爵にこのことは?」
「……いえ。まだ何も」
「分かりました。このことは絶対言ってはいけません。最悪、子爵がハイレ教に情報を流しかねません。……おそらく敵になるでしょう」
「はい」
言えるわけがない。
子爵だって、ハイレ教徒だ。
下手なことを言えば、私たちがその場で処罰されかねない。
それほどハイレ教への信仰は厚い。
だからこそ、王都でもハイレ教の関与に関しては、じっくり静かに、波風立てずに調べるしかできないのだ。
姫様の立場だって危うくなりかねない。いままで積み上げてきたものが崩れ落ちる。
……意味が分からない。なぜ、ハイレ教がこんなことを……。
そんなことを、ハイデンの皆は思って沈黙していたのだが、ユキたちは特に気にした様子もなく口を開く。
「ふむ。ハイデンとしてはやっぱり口出しはなかなかしにくいか。となるとやっぱりやることは一つだな」
「「「え?」」」
顔を上げるとユキがめんどくさそうに、立ち上がっていた。
「正直な話、ただの宗教のいざこざなら口を出す気はそうそうなかった。とばっちり食うこと間違いなしだからな。だが、今回は違う。俺の邪魔をする敵だ。そっちが何といおうと、俺たちは調べて、徹底的にやる」
「し、しかし、それではハイデンが……」
「心配するな。お姫さん。気が付けば勝手にハイレ教会が無くなっているだけだ」
「はい?」
その言葉に姫様が目を点にしていた。
「もしくは綺麗になっているかだな。姫さんたちは預かり知らぬこと。ってやつだ」
「ま、それしかないだろうな」
「国で対処できないなら。個人的な暴走あるいは、盗賊などの偽装ってことですね」
なるほど。確かにそれなら……って。
「そんなことできるわけが……」
私はそういいかけて止まる。
普通ならできるわけがない。
そんな都合よく侵入して調べられるなら誰だって苦労はしない。
だけど……。
「できないと思うか?」
「「「……」」」
沈黙するハイデンメンバー。
……ユキができないことをできるというほど愚かではないのは、私がよく知っている。やると、できるといったら絶対できるのだ。
それは私たちはよく知っている。
最初からそうだったじゃないか。
向こう10万の敵と私たち5千のバイデ内の敵を抱えて、あっという間に制圧してみせたのだ。しかも10人そこらでだ。
誰が否定できるのか、と思っていると、姫様が口を開く。
「……ユキ様の実力はよく存じています。しかし、相手はこのハイデンだけでなく周辺諸国に根を張るハイレ教です。このオーノックの末端を秘密裏に潰したところで……」
「確かに、大本を叩かねば意味がないでしょう。そこはどうお考えなのですかな?」
姫様が尤もなことを言って、学院長が同意するが、私はその話に同意することはなかった。
ユキが徹底的にやると言ったのだ。その意味することは……。
「ん? 誰がオーノックの教会を潰して終わりとかいった? 観光のついでだ、一気に総本山とか怪しいところは片っ端から潰すとしよう。こちとら色々迷惑だしな。あ、もちろんオーノックの教会の方で証拠が出ればだけどな」
「「「……」」」
絶句するハイデンメンバー。
どこの世界に、観光をするついでに教会を荒らす人がいるか。と言いたいが、ここにいるのだ。
そして、私たちにとってはとてもありがたい話でもある。
勝手に動いて、勝手に処理してくれるのだから、ハイデンはハイレ教と向き合わなくてもいいのだ。
「というか、むしろこっちの方が楽だな。表立って抗議をする必要もない。少数精鋭をぶっこんでぶっ壊す。それだけでいいだろう。さらに、魔物の仕業とか流布すれば、それこそハイレ教は動けなくなるだろうしな。ハイレ教が叡智の集と繋がっているなら、それこそ身内の魔物を討伐しなくちゃいけなくなるわけだ」
……咄嗟になんでこんなことを色々思いつくのか。悪辣すぎる。
「でも、ユキさん。それなら最初から王都のハイレ教会を強行で調べてればよかったんじゃない?」
「リエル。そういうわけにもいかなかったんだよ。今では、ソウタさん、姫さんや王や学院長の信頼は厚いけど、最初にこんな行動をとれば、ハイデンと敵対確定だ」
「……その通りです。いきなり確証もなくハイレ教を襲うなどと言われては、前の状態なら何としても止めたでしょう」
「時と場合ってやつだ。こっちは外堀を埋めた。あとは証拠をつかんで見せれば、文句はないだろう? な?」
ユキがそういって、姫様とスタシア殿下を見る。
「……はい。文句などございませんが」
「私も文句はありません。しかし、何かあれば私たちはユキ様を庇えなくなります。そこは……」
「あー、まあ、俺が出向く時は、とどめを刺す時だから、心配はいらない。途中で部下が捕まるならただの盗人で終わりさ。そんな間抜けはいらん」
……ユキがそういい捨てる。
部下を大事にしているはずのユキからの言葉とは思えなかった。
だけど、人の上に立つ者なら当然の判断でもある。
そう納得しようとしていたら、突然声が上がる。
「じゃ、私たちがオーノックの証拠は集めてくるね!!」
「そうですね。一番外せないところですし、私たちが行ってきます」
「……任せて」
なぜか、奥さんであるリエル様たちがオーノックのハイレ教会の潜入捜査に手を挙げてきたのだ。
部下ではない。奥さんたちにそんな危険なことを任せるわけが……。
「じゃ、任せた。盛大にやってくれ」
「「「はい」」」
だが、なぜか許可を出すユキ。
「ちょ、ちょっと!? トーリさんたちが危険に晒されるのよ!? そんなのは認められないわ!! というか、なんで奥さんたちを送るのよ!?」
万が一、トーリさんたちが傷つけばそれこそハイデンが危険に晒されかねない。
「いや、オーノックに限っては、堂々と見学ができるだろう? そこを利用しない手はない。トーリたちがカグラたちの案内で教会を見学中にスティーブたちが荒らす。これで、関与を疑われることはないだろう? 逆に信頼を集めてもいいかもな」
「それはどういう……」
「盗賊集団の被害にあった教会の人及び訪れていた人々を助ける嫁さんたち。評判は鰻登りだろう。そして、カグラたちが精霊の巫女様だって明かせば堂々と総本山の方に出向く理由もできるだろうな。むしろ、招くだろうな。御三家の伝説の再現なんだから」
「……確かに、民衆の支持を受ければそうなるとは思うけど、それはある意味、トーリさんたちがソロたちの身代わりになりかねないんじゃないの? 相手は魔力の高い人を集めて……」
そう言いかけて、止まった。
身代わり? トーリさんたちが身代わり?
つまり……囮?
私だけでなく、姫様や学院長、姉様も意図を理解して黙ってしまう。
「幸い。今の所トーリたちの素性はこの面子以外にはわれていない。学院の授業参加はしていないからな。ただの学院生の知り合いみたいな感じだ。相手がそれで手を伸ばしてくるなら、こっちのものだな。嫁さんに手を出したんだから、大義名分もできてやりたい放題。スティーブたちもバックアップに回すから更なる証拠固めも楽だろう」
「……しかし、この問題はハイデンやフィンダールの……」
姫様がなんとか口を開く、それではハイレ教のことは全部ウィードに任せることになると。
それでは、色々と不味いと言いたかったのだと思うが……。
「そっちは堂々と手を出すわけにはいかないんだろう? 少数精鋭もハイレ教には手札がばれている可能性がある。動くに動けない。なら、俺たちがやった方が早い。違うか?」
「「「……」」」
国の命運を他国に任せる。
それは、なんとも情けない話だ。
いや、まだ決まったわけではない。
でも……。
「よーし。決行は明日のお昼。残念だけど、トーリたちの学院デビューは先送り、ローテーションも凍結だけどいいか?」
「いいよー」
「構いません」
「……教会を潰す」
……私は個人的に明日オーノックの町が壊滅していそうな気がしてならないんだけど。
そしてほぼ黒確定のオーノックのハイレ教会に対して、あぶな○刑事シリーズに切り替えて乗り込む3人の美女たち。
さて、どうなる!! ユキ、ついにしがらみ解除。あとはやりたい放題。
中級ペーパー派の暗躍とは!?




