第625堀:獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 推理
獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 推理
Side:カヤ
「この間は本当にありがとうございました」
そういって、頭を何度も下げてくるのは、このオーノックの町に着いたときにお店で暴れるお客さんたちに困ってた店員さんだった。
具体的に言うなら、このお店の看板娘のサーチェ。
「もう気にしないで。十分にお礼は受け取っているから」
私が表通りの調査にちょうどいいとっかかりかな? と思って助けたのはいいのだが、こうやって来るたびにお礼を言われるのはちょっとやり過ぎだと思う。
まあ、まだ3日ほどしか経ってないというのもあるだろう。
「で、ご注文は何になさいますか?」
「いつもので」
「私は紅茶でお願いします」
「あ、私も紅茶で、ビスケットを一緒で」
「はい。かしこまりました。少々お待ちください」
だからと言って、他にたむろするのにいい場所がないし、やっぱりこのお店がいい。
表通りに面していて、外のオープンカフェで休憩としてお茶をしながら、道を通る人たちの話に聞き耳を立てていればいいのだから。
あ、ちなみに今日の編成は私に、ソロ、そしてアマンダ。本来ならエオイドのはずだったんだけど、ちょっとした事情があって、アマンダが2日連続でこっちにくることになった。
「しかし、2日目となると、見て回るお店がないですよね」
「それは半日も町にいれば表通りのお店は一通り回れますよ。あとは露店ぐらいですけど……」
「露店はこのあと向かおう。当初の予定通り。一旦、合流して確認を取る」
私がそういうと、ソロとアマンダは頷く。
そう、この町で色々調査している他の2チームとここで合流して朝の成果を確認するのだ。
コールで会話すればいいじゃないかと、ユキに言われたが、こういう事件の解決には顔を突き合わせて話している方がピンとくるものがあったりするのだ。
現場の事は任されているので、そういうとユキはそんなもんか。と言って納得してくれた。
現場には現場のやり方があるというわけだ。無論、コールの会話だって無用というわけじゃない。いざという時に連絡を取る手段としては最高のモノだ。
そんなことを考えていると、サーチェが注文の品を持ってやってくる。
「お待たせしましたー」
そういって手慣れた手つきで素早く注文した品を置いていく。
「ありがとう」
「いえ。ではごゆっくりー。あ、いらっしゃいませー」
そしてすぐに他のお客の案内へと向かう。
働き者なのだ。彼女は。
とは言え、そこは女性。男性同士の喧嘩に割って入ることはできない。
じゃあ、親父さんが来ればいいじゃないかと、言う話だが、まあ、このご時世両親が健在というのは幸せなのだ。つまりは母親と二人でここを経営しているらしい。
幸い、この店を父親が残してくれていたおかげで生活するのには問題ないらしい。
繁盛しているようだし、そこに嘘はないだろう。
そんなことを考えていると、お客さんを連れてこちらに戻ってきた。
「え、えーと、こちらでよろしかったのでしょうか? 中にお席はご用意できますが……」
「別にいいわ。というより、そこの人たちと待ち合わせなのよ」
「え? カヤさんたちとですか?」
サーチェが私と、カグラを見て驚いている。
「そう。カグラとは知り合い」
「えー!? 黒髪の貴族様ならカミシロ様ですよね!? なんで知り合いなんですか!?」
「えーっと……」
カグラがどう説明したものかと悩んでいる。
なるほど、カグラはどうしても目立ってしまうのか。
これはやりづらい。ま、適当に言っておくか。
「そこは、こっちのソロ関係」
「ああー、ソロちゃんが知り合いか。でも凄いねー。カミシロ様と知り合いなんて羨ましい!!」
「え、えーと、サーチェさん。と、とりあえず注文を取った方がいいんじゃない?」
「あ、し、失礼いたしました!!」
「いいえ。気にしていないわ。私みたいなのが顔をだして迷惑かけたわね」
「い、いえ!! カミシロ様に来ていただけるなんて光栄です!!」
「……ありがとう。で、そういってもらって悪いのだけれど、一応学生ということで町にきているから、もう少し普通に接してくれると助かるわ」
「え? で、でも……」
「本人がそう頼んでいる。まあ、のんびり町を回れないっていうのもある」
私がそういうと、サーチェは自分がとった行動を思い出して納得したようにうなずく。
「なるほど。じゃ、普通にしますね。ご注文は何にいたしましょうか」
色々あったが、そこは接客業。すぐに切り替える。
まあ、カグラだけじゃないだろうしね。このお店によった貴族は。
そのあとサーチェは注文を取って厨房の方へと引っ込む。
それを確認したカグラは少し疲れた顔をする。
「はぁ……」
「有名貴族も大変」
「あ、そうじゃないんです。これはまあよくあることですし」
「じゃあ、どうしたの?」
私がそうカグラに聞くと、横にいたトーリが答える。
「ここ数年の町の出入りの書類確認のせいだよ」
「「ああー」」
道理で、一緒にいるデリーユも口数が少ないわけだ。
書類の確認とかデリーユが一番嫌いなことだもんね。
でも、それがわからないのはソロだ。
「でいりのかくにん?」
「なにそれ?」
「ああ、ソロやアマンダはわからないわよね。えーとなんて言ったらいいのかな?」
「簡単に言うと、怪しい人とかが入っていないかを確認するために、門に立つ兵士の報告書を確認しているんですよ」
「……ここ数年分じゃな。お前たちにわかりやすく言うなら、教科書数十冊にずーっと目を通すものじゃな」
デリーユがテーブルに顔を突っ伏したまま最後に的確に表現して、ソロとアマンダが納得の顔をした。
「でも、なんでそんなことを?」
「盗賊がまともに出入りするわけないんじゃ?」
「それがそうでもないのよ。というか、こんなところで喋っていいんですか?」
「構いません。聞き耳を立てている人がいればすぐわかりますから」
「逆に炙り出しに使える。そういう意味もあってわざわざここで合流を選んだ」
「……だが、悲しいことに聞き耳を立てているのはおらんのじゃがな。ちっ、いれば話が早かったものを。はぁ、おかげでこの後も書類仕事か……。ああ!! アマンダ代わらんか?」
名案とばかりにデリーユが顔を上げてアマンダをみるが……。
「けっこうです」
というのは当然。
そんな話をしていると、不意に人の影が差す。
「相変わらずだねー。デリーユは」
「なんじゃ、リエルか」
どうやらリエルたちも到着したようだ。
「カグラも大変そうだね。ミコスちゃんが手伝ってあげようか?」
「結構よ。ミコスにオーノックの出入りなんて情報を渡せるわけないでしょう」
「ひっどーい!? 信用ないなー」
「ま、冗談はいいとして、ミコスの方はどうなの? ドレッサ、この子ちゃんとやってる?」
「ええ。ミコスの顔の広さに驚きね。まさか、裏のまとめ役と知り合いとは思わなかったわ」
「ミコス!? そんな危険なことしてたの!?」
「え、いや、普通の人だったよ。グドさんは」
「グドって、本当にこの町の裏のまとめ役じゃない。子爵から聞いた名前そのモノじゃない!? 自分がどれだけ危険だったか、理解してるの!?」
「はいはーい。カグラも落ち着いてね。聞き耳どころか、周りの人が普通に見てるから」
「あ、すいません」
リエルにたしなめられて、大人しく座り直すカグラ。
でも、厳しい顔つきは変わらないようで。
「……ミコスが裏に情報流してたとか言わないよね?」
「ないない!? それだけは絶対にないよ!! というか、私のこと疑ってるの!?」
「せ、先輩たち、お、落ち着いて」
あ、いけない。
カグラが思ったよりも仕事が忙しくて余裕がないのか、ミコスに言ってはいけないこと言ってる。
ソロの制止は耳に入っていない。私たちが止めないと、と思っていると、私よりも早くリエルが動く。
「はいはーい。2人とも、落ち着いて。特にカグラ、友達のミコスにそんな言い方はないと思うなー?」
「え? あ!? ご、ごめんね。ミコス」
「ふんっ」
カグラはリエルに指摘されてようやく自分がおこなったことがまずかったと自覚したのか、慌てて謝るが、流石にミコスもあんなこと言われてすぐに怒りを収めるわけにもいかない。
「でも、ミコスも疑われることしちゃったんだから、そこはダメだよ。そしてカグラは最初心配してたでしょう? 心配したからこその反応だって。それはミコスもわかってるでしょう」
「……はい。ごめん、カグラ。心配かけた」
「……うん。私もごめん。余裕がなくなってた」
「これで仲直りだね」
「よ、よかったー」
そういって、リエルは2人の手を取って握手させる。
2人ともなんだか照れ臭そうだ。ソロは横で涙ぐんでいる。
そんなことをしている間に、サーチェが注文の品を持ってくる。
「あれ? 何かありましたか?」
「いいえ。ちょっと友達と仲良くしていただけよ」
「へー。ってミコスさん」
「ああ、サーチェ。やっほー。注文は紅茶でよろしく」
「はい。かしこまりました。他のお客様は……」
サーチェは再びミコス、リエル、ドレッサの注文を聞いて厨房へと戻る前に、他のお客さんに捕まる。
看板娘は大変だ。私にはできない。
「……で、リエルの方はどうなの?」
「こっちはミコスのおかげで順調順調。裏のトップと初日に繋ぎが取れたからね」
「へー。ミコス先輩すごいですね」
「ふっふーん。そうでしょう」
「でも、あまりこういうことはしないでよね。さっきの話聞いてこっちはミコスを疑っちゃたんだから」
「うん。今後はカグラの補佐だからね無理はしないよ。ああ、無理をしないで済むように仕事の調整してね?」
「それは保証できないわ。だって、ウィードだし」
「「「あはは……」」」
みんなで笑う。
ウィードを相手に無理しないで済むわけがない。
さて、気分よく笑うのも一端ここまで、これからは……。
「じゃ、情報の交換しようか。さっさと用事を済ませて、残りもさっさと終わらせよう」
「リエルの言う通りだね。まだ、こっちも書類に目を通さないといけないし」
「……今日はみんなで御飯の予定だし」
そう。本日は皆で集まってごはんの予定なのだ。
日々忙しく、最近ではごはんまでバラバラ。
だからこそ、時間を合わせてみんなで仲良く食事をする。
そして、ユキとイチャイチャして、明日への英気を養うのだ。
さあ、この話でどこに拠点があるか絞れれば、この後の仕事もなしで終わる可能性が……。
「……ま、そんなに都合よくはいかないよねー」
「だね。でも、情報はちゃんと集まりつつあるからいいよ」
「……地道な作業が大事」
仕事は引き続き継続ということになった。
リエルの方は裏のグドと話をつけて、怪しい空き家の捜索をしているが、収穫は今の所ないらしく、私が担当している表の所も今の所ない。
トーリの出入りの書類も今のところは怪しいのは無しと。
そんなことを話していると、不意にソロが呟く。
「でも、私みたいに誘拐して町に入ったら、衛兵さんとか気がつきそうですけど」
「そうよね。人を担いで来たら怪しいわよね。しかも学院生でしょう?」
「ソロにカグラ、何いってるの? そんな堂々と持ってくるわけないじゃない。適当に袋にでも詰めて、荷物に紛れさせるにきまってるじゃない」
「あ、そうですね」
「むぅ。でも、検査が……」
「貴族らしいって話だし、貴族側で通ればそんなにしっかり見られないよ。というか商人とかなら、荷物わんさかで確認なんておざなりだし」
うん。ウィードと違ってコールの監視システムでぱっと見てわかるわけないから、全部手作業になる。
商人の売り物である荷物を全部確認するなんて手間をこの国の町レベルでするわけがない。
貴族の荷物なんてなおさらだろう。下手をすれば一発くびチョンパだ。衛兵がそんなリスクを犯すわけがない。
「というか、ミコスちゃん的には、この前のソロを襲った連中は盗賊として捕まえたんだし。敵は警戒して、もう拠点を引きはらっているとかないですか?」
「その可能性も無くはないけどね。もうソロの誘拐未遂事件からかれこれ6日ほどだけど、まだそれらしい人の出入りは見受けられてないんだよね」
「……監視はスティーブたちがソロが襲われたときからやってるから」
「ああ、それでまだ町に何かあるって思っているんですね?」
「そうだよー」
そう、未だに怪しい人が町から出たり入ったりというのは見ていないのだ。
「というか、まあ、一番の目星は最初からつけているんだけどね」
と、トーリが言うと、カグラが驚いた顔をする。
「え? わかっているんですか?」
「分かっているのとは違うかな? 確証がないんだよ。でも、今までの情報を集めて整理しているとやっぱりこれしかないってところにたどり着く」
「ど、どこなんですか。この町のどこにそんな場所が……」
ソロとミコスもトーリの次の言葉を待つ。
「それは……、ハイレ教会だよ」
そう。
叡智の集がハイレ教と繋がっているという事実は、ハイデン王都に乗り込んだ時に判明している。
そして、ソウタの話と合わせると、一番怪しいのはどう見てもハイレ教会。
この町のどこをどう調べても、何も怪しい情報がない。
つまり、堂々と存在していて、誰が訪問しても怪しまれない場所となる。
……ハイレ教会以外に該当するものがない。
全部が怪しくないなら、あとは怪しく無さすぎるところが怪しい!!
というより、前から注意してたところだしね。
さて、そろそろ、ハイレ教との対決の日が近い。




