第624堀:獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 裏
獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 裏
Side:リエル
「さて、今日も張り切っていこー」
「「おー」」
僕の掛け声に、腕を振り上げて乗ってくれるドレッサとミコス。
「でも、一体何するの? 私は何も知らないんだけど?」
「あ、ごめんごめん。ドレッサは初参加だったね」
そう、ちゃんとローテーションをしていて、本日はリーアの代わりにドレッサが加わっている。
この町の調査、捜査の間は、僕たち3人組はリーダーなので外せず、ユキさんの護衛に付けないのは不満だが、まあこの仕事は僕たちしかできないから頑張ってやろう。
ということで、初参加のドレッサに昨日おこなったことを説明することにする。
「えーと、昨日本格的に、オーノックの捜査に乗り出したのは聞いたよね?」
「ええ」
「とりあえず、昨日の成果から説明するね。トーリの方でカグラがオーノック子爵と話をつけて、町での捜査する許可を貰えた。何かあれば、僕、トーリ、カヤが強制捜査委任状を使って強行的なことはできるようになった」
「へえ。なら調べ放題ってことですね」
「なるほど。片っ端から、殴り込むわけね」
……駄目だ、この2人。
ドレッサ、ミコスは本格的な捜査は初めてだからとはいえ、この先面倒なことになりかねない。釘を刺しておこう。
「えーと、この委任状を使うのは最終手段だからね。そんな風に堂々と一軒ずつ調べてたら相手が逃げるから。ちゃんと裏を取って、相手の繋がりも調べたうえで捕まえるから。迂闊な行動をするっていうなら、ユキさんに言って、待機にしてもらうからね? いい? わかった?」
「うっ。わかりました」
「わ、わかってるわよ。じょ、冗談よ」
……ミコスはともかく、ドレッサが心配だな。性格を知っているだけに、正義感に引っ張られて暴れたりしないよね? こっそり証拠を集めるってことに耐えられるかな?
まあ、邪魔だったらマジで送り帰せばいいか。
ユキさんには経験を積ませてくれとは言われているけど、邪魔なら戻せってちゃんと言われてるし。
「で、今日の僕たちの仕事は主に、グドさんから話を聞くこと」
「グドさんにですか? そういえば昨日は手紙を渡しただけで何も話してませんでしたね」
「グドって誰よ?」
ミコスは昨日のやり取りを見ているし、元々面識があったからそこまで疑問に思っていないようだけど、ドレッサは今日初めて名前を聞くから説明はしないとね。
「ああ、ドレッサは知らないよね。この町のビッグさんみたいな人」
「ビッグって、バイデのならず者のまとめ役の?」
「そうそう」
僕がそこまで言うと、流石にドレッサも僕が何をしたいのかを理解したようで、ポンと手を叩く。
「なるほど。蛇の道は蛇ってことね」
「そう。餅は餅屋ってやつだよ。僕たちが調べるよりずっと早い」
「でも、リエルっていつビッグと知り合いになったの? バイデでは顔は出していないはずでしょう?」
「いや、そうでもないんだよ。ほら、バイデってキャサリンが服従して、実質的にウィード領でしょ? だから治安関係で、シェーラの手伝いをしてたんだよ。まあ、実際にビッグさんにあったのは出産したあとだけどね」
「ああ、だから私が知らないのか」
「そゆこと。で、今回の捜査手伝いをするにあたって、繋がりがないかなーってビッグさんに聞いたら、グドさんは元々バイデからの移った人で知り合いだったらしいんだ」
「へー。ミコスはそのことは知ってた?」
「いや。私は全然。グドさんの事は深く聞かないようにしてたし。ただ、貴族の動きを流してただけかな」
ふぅん。ユキさんの言うように、ミコスの危険を感じ取る感覚はかなり鋭いみたいだ。
それともグドさんが思ったよりお人よしなのかな?
まあ、ミコスが貴族で魔術学院の生徒ってところも今まで無事だった要因なんだろうけど。と、そこはいいか。まずはお仕事。
「じゃ、そういうわけで、僕たちはまずグドさんと会って、このオーノックのならず者たちが妙な話を聞いていないかを確認するよ」
「「了解」」
そういうわけで、再び僕たちは裏通りから裏路地へと足を進めていく。
「……匂いが酷いわね」
「そう?」
裏路地に入るとすぐにドレッサが酷い匂いに顔をしかめる。
ミコスはこれが当然と思っているようで首を傾げている。
「……デッキブラシでごしごしやってしまいたいわね」
おおー、諜報清掃員としての性かな?
真面目にウィードで仕事をしているようでなにより。
「気持ちはわかるけど、掃除始めちゃだめだからね?」
「わかってるわよ。でも、バイデとか、オーノックとかをみるとやっぱりウィードが特殊なんだなーって思うわ」
「掃除って、ウィードってそんなに綺麗なの? というか、ドレッサが掃除してるの?」
「ん? 私もユキから色々任せられているって言ったでしょう? その一部が清掃しながらの情報集め。もちろん、掃除も真面目にしてるからウィードは清潔そのものよ」
「へー。そんな町があるんだ。路地なんて基本こんなものだと思ってた。いつかウィードに行ってみたいなー」
「ユキは確かOKしてたし、近いうちに来れるんじゃない? その時は私が街を案内するわよ。今日のお返しね」
「ありがとう、ドレッサ」
そんな感じで2人が場を弁えず喋っていると、路地に面したドアが開いて、そこからグドさんが出てきた。
「なに、こんなところで仲良く話してるんだ。よからぬ連中に絡まれるといっただろう」
「おかげで分かりやすかったでしょう?」
僕がそういうと、怒っていた顔から、驚いた顔になる。
「わざとか。まったく、やりづらい嬢ちゃんだ。こっちに来てくれ」
そういって、グドさんはドアの向こうへ行き、僕たちもそれについていくと、路地裏の様子とは違ってそれなりに綺麗な部屋に案内される。
「へぇ。思ったよりも内装は綺麗ね。ビッグの所といい勝負」
部屋を見回したドレッサがそう呟くと、グドさんがそれに反応する。
「お嬢ちゃんもビッグの知り合いか……って、んん? ちょっとまて、お嬢ちゃんの名前はドレッサか?」
「ええ、そうよ? ビッグの手紙にでも書いてあったかしら?」
「……ああ。死にたくなかったら丁重に持て成せってな」
「あら、随分失礼な紹介ね。あとでビッグに文句でも言っておくわ」
失礼も何も事実だと思うな。
随分、バイデの制圧戦では暴れたみたいだし、アスリンやフィーリア、ラビリス、ヴィリア、ヒイロと一緒にちぎっては投げちぎっては投げしてたって聞いたよ?
「そうだな。その件はビッグに言ってくれ。で、リエルの嬢ちゃん。許可は取れたのか?」
「うん。この通り」
僕はそういって、強制捜査委任状を見せる。
「子爵とマジで手を組んだか。そこまでする必要がある何かがあるってわけか」
「だね。で、協力してもらえるかな?」
「構わないと言いたいが、俺たちだって生きて行かなきゃいけない。まずは報酬を見せてくれないか?」
「いいよ」
僕はアイテムボックスから、小麦粉の大袋10と酒樽5、そしてお金がそれなりに入った袋を取り出しグドさんの前に置く。
一瞬驚いた顔をするが、すぐに近寄ってこちらに顔を向ける。
「見ても?」
「もちろん」
そういうと、グドさんがしっかりと中身を確認する。
ちゃんとしてるね。この人は組織をしっかり預かっている人だ。
中途半端なゴロツキじゃないね。
「間違いないな。お前ら倉庫に持っていけ」
「「「うっす」」」
部下の人たちがドアから入ってきて、数十人がかりで物資を移動していった。
「……倉庫に直接持っていった方がよかった?」
「それは今度からたのむ。今回はあれでよかった。お嬢ちゃんたちが並みの人間じゃないってわかっただろうさ。で、協力の件だが、あくまでもできる限りだ。俺たちだって、危険な橋はわたりたくない」
「それでいいよ。こっちとしても、あまり派手に動いてほしくないからね」
「どういうことだ? これだけの報酬を渡しておいて、派手に動いてほしくない?」
「ちょっと、状況が特殊なんだ。その様子だと、グドさんも気が付いてないようだしね」
僕の発言でグドさんは自分の知らない何かが、この町で起こっていると気が付いたようで、真剣な顔で聞いてくる。
「……この町で何が起こっている?」
「他言無用だよ」
「当たり前だ。と言いたいが、それだけ大事な話をなんで俺たちなんかにする?」
「簡単だよ。グドさんたちにとって、いや、この町にとって絶対しちゃいけないことが起こっているんだ」
「……話してくれ。この町が無くなるかもしれないって話だろう?」
「うん。実は……」
そういうことで僕はグドさんに情報開示できる限りのことを話した。
具体的には、魔術学院の生徒を襲っていた連中を捕まえたら、攫っている集団がこの町に潜伏しているらしいという話。
このままだと、怪しいところは片っ端から潰される可能性があるってことと、こっちとしてもそれをやると目的の集団に逃げられる可能性があるから最終手段であることを告げる。
「……なんてこった。そんなことが起こってたのか」
話を聞いたグドさんは青ざめていた。
まあ、魔術学院の生徒に手を出すってことは、ハイデンに喧嘩をうるってことになるからね。町のならず者の集団なんてあっという間に潰されるだろう。
しかも、今回は叡智の集っていう、やっかいな連中が関わっている可能性があるから、ハイデンに躊躇いはないだろうね。
「その様子だと。やっぱり、関係ないみたいだね」
「当たり前だ。ガキとは言え学院の生徒は基本的に魔術を高レベルで習得している。どいつもこいつも将来がそれなりに約束されている。そして、そこのミコスのように貴族も混じっている。たとえ平民の魔術師とは言え貴族との繋がりがないとはいえないし、貴族の差別意識の中で頑張ってきた平民がへなちょこな腕なわけがあるか。攫うにはリスクが高すぎる。しかもここは、学院のすぐ近くだ。何か起これば真っ先に疑われるのは目に見えている。……ってそれが狙いか?」
「多分ね。学院の生徒が攫われているなんてわかれば、普通なら大騒ぎだよ。そして、その騒ぎを聞きつけた連中はさっさと引き上げて、罪はここにいるグドさんたちとかに擦り付けて。適当に学生服とかそこら辺でも置いてれば終わりでしょ?」
「……その通りだな。わかった。全面的に協力する。子爵から委任状まで出ているんだ。この裏路地の連中はすでに睨まれているってことだろう?」
「そうだよ。下手すると、グドさんたちは皆殺しにしないといけなくなる」
酷い話とは思うけど、ある意味当然だ。放っておけばハイデンにとっては致命傷になりかねない。それこそ、慈悲なく怪しいと思った連中を拷問にでもかけて吐かせようとするだろう。
「……俺たちが騒ぐのも駄目。子爵が騒ぐのも望んでいない。何をしたらいい?」
「最初に言った通り。話を聞かせて。この町の噂。魔術学院の生徒が誘拐されたとかいう話がないか」
「……いや、そんな話があるならこっちで始末はつけている」
「まあ、直接的に聞けばそうだけど、誘拐とか、妙な連中が出入りしているっていう話はない? 連中は別に毎年10人20人を堂々と攫っているわけじゃないんだ。だからこそ発見が遅れたんだ」
「……なるほど。1人2人なら、俺たちが見ても別に怪しくはないな。奴隷といえばそれまでだ。俺たちだって学院生の全員を把握しているわけじゃない。目立たない生徒、しかも平民の魔術師を狙っていたとなると、俺たちでは判別つかないな。しかし、そうなると、どれもこれも怪しいな」
まあ、そうだろうね。
この町でも奴隷は普通にみるし、相手だってそう簡単にはばれるようなことはしないだろう。
そんなことを思っていると、不意にドレッサが口を開く。
「ねえ、とりあえず、何も見ないで悩むより地図でもみた方が何か浮かぶんじゃない?」
「地図? ああ、確かにあった方が便利だな。部下にもってこさせ……」
グドさんがそう言いかけて、今度はミコスが口を開く。
「グドさん、ちょっとまって。それならユキさんが用意して私たちが書き込んだ地図の方がわかりやすいんじゃないですか? リエルさん、お願いできますか?」
「そうだね。グドさんこれを見てもらえるかな?」
僕はそういって精密地図を広げて、グドさんの話を聞いていくのであった。
リエルは現場仕事はちゃんとできるタイプ。
しかし、書類仕事は苦手なのはご存知の通り。
いつもトーリが手伝いながら報告書を作っているリエルでした。
リーダーシップはリエルもちゃんとあるっていう一面な話。




