第621堀:獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 猫
獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 猫
Side:ミコス
昨日はちょっとやばかった。
危うく、カグラと絶縁状態になるところだったね。
まあ、結果としては、仲を深められたし、ブツも貰って私は満足。
と、そこはいいとして、本日はようやくオーノックの調査へと赴くことになった。
「今日は初日だ。昨日話した通りの3チーム編成で情報を集める。トーリをリーダーとして、カグラ、デリーユの3人はオーノック子爵の屋敷に行って捜査協力の取り付け、あるいは許可を取り付けてくれ」
「「「はい」」」
ユキさんが言うように、カグラはトーリさん、デリーユさんを連れて、子爵の家に交渉に行く。そのため、戦力的にはユキ先生の奥さん2人とかなり高い。
「次に、リエルをリーダーとして、ミコス、リーアは裏通りを調査。こっちも危険が多いから、無理はするな」
「「「はい」」」
私も一緒に返事をする。
今回私は、オーノックを知っている1人として、町の情報収集にあたることになる。
主に、裏通りの治安の悪いところ。なので、私もユキ先生の奥さん2人という豪華護衛メンバーだ。
ちなみに、リエルさんは気さくな方ですぐに仲良くなった。精霊の巫女様でもあるからとても心強いし、リーアさんも一緒ですごく助かる。
「最後に、カヤをリーダーとして、ソロ、エオイド。こっちは表通りで捜査だな。まあ普通に話していけばいい。ソロは働いてもいたし、そこらへんは得意だろう。フォローしてやってくれ」
「「「はい」」」
「残った、ヴィリア、ドレッサは俺の護衛。アマンダはタイゾウさんの授業フォロー。いいな?」
「「「はい」」」
今回は初日ということで、編成の戦力を重視していて、学院に残る奥さんメンバーは少ない。
まあ、タイゾウ先生の方は、今日は座学で、実験はしないっていってるから問題ないんだろう。
タイキ先生やポープリ学長、エージル様もいるし、護衛としては申し分なし。
あ、ヒイロちゃんはスタシア殿下の妹に相変わらず収まっている。殿下がご機嫌だから特に文句なし、あれ以上の護衛もいないと思う。
「もちろん。スティーブたちが隠れてバックアップをしているから、何かあればすぐに援護できるようにはしている。有事の際は逃走ルートの確保はまかせているから、独断に逃げずに、このスティーブたちに従うように」
「今日はよろしくお願いするっす」
そういって緑色の小人が頭を下げる。
この人はゴブリン族で、ユキ先生の部下のスティーブ将軍。
ゴブリンは非力で穏やかな性格って聞いているけど、このスティーブ将軍はとんでもなく強いらしい。
リエルさんやリーアさんが全力でやっても、状況次第では必ず負けるっていってたから、物凄いんだとおもう。
でも、昨日の顔合わせの時にはユキ先生から忘れられていて、最後の最後で思い出されてやってきたんだけど、別に将軍で偉いんだぞーって感じはなくて、むしろ、私が聞いている穏やかで、ひょうきんな感じの人だった。
「よし、じゃ、あとはスティーブ任せたぞ」
「ういっす。皆さんこちらへ。ゲートを利用するっす」
「ゲート?」
「なんでしょう?」
私とソロは聞き覚えの無い言葉に首を傾げていると、スティーブ将軍が丁寧に説明してくれた。
「ああ、お2人はゲートの使用は初めてでしたっすね。ウィードが持つ特殊技術でゲート……、ある地点に門みたいなのを設置して、行きたい場所にも同じように門を設置すると、その間を瞬間移動できるんっすよ」
「それって召喚みたいに?」
「そうっすね。そういう認識で間違いないっす」
「凄いですね!! ウィードってそんな技術があるんだ!!」
ソロは称賛していたが、私はその話をきいて冷や汗をかいた。どんな気持ちでキャリー姫様やカグラが必死に、ユキ先生たちのご機嫌を取っていたのか理解した。
だっていつでも、侵略できるんだ。バイデを押さえられた時点で、ハイデンはウィードに侵略拠点を確保されたとの同義だったんだ。
援軍や補給がないのだから我慢すれば、とかバイデに拘留されていた時に他の学生が言っていたが、そんなのはあり得なかったわけだ。
そりゃー、必死になるよ。こんな技術力を持った相手と勝負なんてできるわけがない。しかもすぐに援軍がくると。
ユキ先生たちにですら歯が立たないのに、ウィードの本隊と勝負とかバカげている。自殺志願だ。
そしてゲートをくぐって目の前にオーノックの町が見えた時に、わずかに残った、そんな技術があるわけない、という思いも完全に否定された。
……全然、勝負にならないと本当に実感した。
なにがなんでも、ハイデンのバカ貴族を押さえないといけないと思ったと同時に、私ができるのはせめて男爵のお父さんにユキ先生には失礼のないように!! って告げるぐらいしかできないと絶望し、伝手があるカグラは公爵の娘としての国を守るという責任の強さに改めて尊敬した。
「……カグラ、ごめん。死にたくなった理由、よくわかる」
「……でしょう。この技術を見た時は、あ、終わった。と思ったもの」
思う思う。
こんな技術を持つウィードの王配呼び出したどころか、奥さん、子供も一緒にだ。
普通なら戦争案件。
むしろ私なら、お詫びで既に死んでいるかもしれない。
カグラみたいに国が亡ぶことのないように奔走などできる自信はない。
やっぱりカグラはすごかった。
「では、おいらたちはこれから後方支援に回りますんで、あとは皆々様よろしくお願いします」
オーノック前まで送ってくれたスティーブ将軍はそういって、いきなり目の前で掻き消えた。
去って行ったのではなく、文字通り消えた。
「あ、見えてないだけで目の前にいるっすよ。他のゴブリンたちも。だからご心配なく」
なるほど。姿を消す魔術でも使っているのか。
そんな魔術があるとは知らなかったけど、これもものすごい技術だ。だってこれがあれば暗殺し放題じゃん?
……やっぱり、ウィードに喧嘩は売れないと改めて実感するだけだった。
本気になったら、軍隊で潰されるというより、一夜にしてハイデンの王侯貴族の首がとられて、朝には城門にならんでいてもおかしくないわけね。想像しただけでゾッとする。
それで、ハイデンは瓦解する。組織的な抵抗なんてできもしないだろう。
と、そんなアホな未来が来ないようにカグラと同じように頑張らないと。
そういう意味でも、私はユキ先生たちと仲良くなれて本当によかった。
そんなことを考えているうちに、オーノックの門へとたどり着く。
既に朝を過ぎて昼に近いけど、門の前には多くの人が並んでいる。
出入りが激しい町なのだ。それだけ栄えているってことなんだけど。
「えっと、じゃあ、私たちは並びますね」
そういって、ソロたちメンバーは町に入るために並ぶ。
私も今回は一般人としての来訪なので並ぶ。
で、カグラたちだけは、貴族としての訪問なので……。
「皆さま。私たちはオーノック子爵に話をつけに先に行ってきます。町の方はよろしくお願いします。ミコス、ソロ、ちゃんとリエルやカヤの言うことを聞いてね。あと案内もちゃんとしてね」
「うん。わかってるって」
「はい。任せてください」
私とソロがそう答えると、頷いて門の貴族用の入り口に一足先にいって、町に入って行く。
それを見送っていると、リエルさんが不意に口を開く。
「なんかさ。カグラって、真面目だよね」
「……うん、真面目。あまり遊びとかをしたことが無いタイプに見える」
「カヤの言う通りだと思うよ。カグラってずっとあんな感じだし、色々立場とかあるんだろうね」
カヤさんやリーアさんの言う通り、私たちとおしゃべりしているとき以外は、ずっとあんな感じだった。
貴族としては当然だと思っていたけど、ああまで友達がいないと辛いものがあるって今さっきの過酷な仕事状況で気が付いた。癒しがないとああなるって。
いや、癒しがあっても今回の件はガクブルものだよね。
「僕はトーリさんに似てるかなーと思ったんですけど……」
「うーん。トーリとカグラが? いやー、僕はそうは思わないけど……」
「……エオイドの言うことはわかる。トーリもカグラと同じように仕事に真面目って言うところは一緒だけど、基本的に私たちやユキと一緒で、ちゃんと笑っている。そこがきっと違う」
「あと、ユキさんが言ってたけど、カグラって軒並み色々できるから、仕事量から考えると、ルルアとミリー、エリスを混ぜたような万能型だから、そこらへんも原因じゃないかっていってた。天才もつらいねーだって」
「ああ、そうか。政治に、統率に会計とか諸々してるもんね。私たちの場合は基本的に分担してるけど、カグラは全部1人やってたのか」
「……今はだいぶ落ち着いてきているけど、ユキを呼び出した時は、さっきみたいなガクブルになる暇もないぐらいに忙しかった。カグラはカグラで国を守るために奔走していた」
「貴族って大変なんだなー」
エオイドの意見に同意。
貴族は大変なんだ。忠誠心厚いと。
しかし、リエルさんとカヤさんがカグラに恨みとか不満が無いのがはっきりわかってホッとした。
これをカグラに伝えてあげれば、もっと安心するだろう。
そんなことを考えているうちに、門の検査は終わり、町に入ることになった。
「へー、ここがオーノックの町なんだー」
「……思ったよりもにぎわっている」
「そうだね。何か面白そうなお店ってないかなー」
「いや、見学は後日でいいんじゃないですか? 今はユキさんに頼まれた仕事を……」
そう、エオイドが3人をたしなめると、振り返ったリエルさんがぷぷっと笑う。
「なるほど。カグラに似ているのは案外、エオイドかもしれないね。アマンダって言う彼女に振り回されているあたりとか、似てる」
「……おお。なんかぴったり」
「あー、分かる」
うん。私もなんとなくわかる。生真面目って感じかな?
その雰囲気がカグラとよく似ている。
「いや、僕は男ですよ。で、ソロさん、ミコスさん。これからどうします?」
「予定通りに、僕たちは裏通りの案内。ソロは表通りの案内でいいんじゃない? 何か見つけても、カグラがオーノック子爵から許可をもらうまで待ったって話だし」
「時間も余るでしょうし、案内が終わったら一緒にお昼でもどうですか? 私が働いていたお店があるんですよ」
「おー、ソロが働いていたところ? 興味ある!! お仕事がおわったらそこで集合!!」
「……リエル。落ち着いて。1人できめちゃだめ。皆もそれでいい?」
カヤさんにそう聞かれて皆頷く。
「……じゃ、そういうことで。あと、リエルもうちょっと大人しく。裏通りなんて特に治安が悪い。騒ぎ起こしたらユキに迷惑が掛かる」
「あ、うん。大人しくするよ」
「私もいるし、大丈夫だよ。カヤ」
「……田舎娘のリーアが一緒。ミコス。2人をよろしくね」
「「こらー!?」」
そんな笑えるやり取りがあって、私たちは裏通りの方へと足を進める。
最初はリエルさんの軽い雰囲気で大丈夫かな? と思っていたけど、そんなのは杞憂だった。
裏通りに入るなり、一気におしゃべりなリエルさんはなりを潜めて、目を鋭くして、裏通りのチンピラは尻込みする迫力を出していた。
私は、裏通りに用事がない限りは近寄らないし、用事があっても目を合わせないように進むことにしているけど、リエルさんは堂々とあちこち見て回って、目が合ったチンピラは目を背けていく。
「……ねえ。リエルさんの雰囲気がガラッと変わったけど、ウィードでお仕事とかしているの?」
「ああ、言ってなかったっけ? リエルは警察……って言ってもわからないか、ウィードの衛兵の副隊長さんみたいなことやってたんだよ。隊長はトーリね」
「うえっ!?」
つまり、こういうことはお手のモノのエキスパートじゃない。
しかもウィードって王都でしょう? 王都の警備隊長って……なんでそんなことを奥さんがしているんだろう?
「そこの2人無駄に喋らないで。あまり女の子らしいところを見せると舐めて襲ってくるからね」
「「はい。ごめんなさい」」
こわっ!? リエルさんのお仕事モードってかなり怖い。
そんなことがありつつも、とりあえずぐるっと裏通りからさらに治安の悪い裏路地に入って歩いていると、不意にボロのローブを被った男が目の前に立って針路妨害してきた。
「邪魔だからどいてくれるかな?」
リエルさんは静かに、にこやかにそういうと、相手の男はわずかにビクッと体を震わせて、すぐに返事をする。
「……なるほど。俺でも相手になりそうにねえな。で、何の用でこんなところを、後ろの子猫を連れて歩いている? ミコスの嬢ちゃんまで連れて」
「え?」
いきなり名前を呼ばれて驚いていると、男は頭にかかったローブを降ろし顔が明らかになる。
「あ、グドさん」
顔に斜めに眉間を通っている切り傷がある、強面の人グドさんがいた。
「知り合い?」
「はい。グドさんって言って、色々私が町で情報を集めているときにお世話になりました。こう見えても優しいんです」
「毎度いうけどな。優しいってわけじゃない。俺たちとしてはオーノックのお貴族様の動きは知っておきたいからな。その情報を流してくれるミコス嬢ちゃんとはちゃんとした取引だ」
「それでも、私みたいな小娘を相手にしてくれるじゃないですか」
「それはミコス嬢ちゃんの情報がしっかりしているからだ。信用ができる相手にはそれ相応に礼を返す」
「でも、なんでこんな危ない裏路地にいるんですか? いつもは裏路地の酒場でしょう?」
「ミコスの嬢ちゃんが俺の忠告を破って裏路地に入っていったって聞いたからな。慌ててきたんだよ」
「あ、ごめんなさい」
「無事ならいいさ。その様子だと、その迫力のある姉ちゃんに捕まったとかではなさそうだな」
ああ、そう見えるのか。
なんとなくわかる。今のリエルさん物凄い迫力あるから、勘違いされてたのか。
とりあえず、何事も無くてよかったと思っていると、リエルさんが口を開く。
「なるほど。グドって君がそうか。ちょうどよかった。バイデのビッグから手紙があるよ」
「ん? ビッグから? なるほど、そっちの使いか」
え? なになに? 私の知らないところで話が進んでる?
リエルは書類仕事は苦手だけど、現場ではしっかり臨機応変に対応できるタイプ。
元々、生きてきた環境がアレだから、そういうのは得意。
そして、最後には海沿いの崖に犯人を追いつめて……という内容はありません。
どこかのサスペンス劇場のような推理ものではなく、あぶ○い刑事タイプかな?




