第622堀:獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 狐
獣人美人刑事純情派 学生誘拐事件 狐
Side:ソロ
ミコス先輩が行ってしまった。
……私はどうしていいか悩んでいた。
この場には、ユキ先生の奥さんであるカヤさんと、イフ大陸からの客人であるエオイドさんしかいないのだ。
……つまり、私の案内1つでハイデンの未来が決まる!?
そんなわけはないと思いつつ、カグラさんは震えて、こわがっていたし、不安を拭いきれない。
「……落ち着いて。お友達と遊びにきたって感じでいい」
「あ、は、はい。お友達。おともだち? オトモダチ……」
ナニソレ、美味しいの?
ボッチには、その単語の意味が分からない……。
「……なるほど。だからユキはアマンダでなく、エオイドを選んだのね」
「え? どういうことですか?」
「エオイド。私がいることで、ソロは緊張している。かといって無理に言っても緊張が解けるとは思えない」
「そうですか? 徐々に慣れていくと思いますけど」
「その間ずっとぎこちないのは、周りから奇異の目で見られる。今回の目的は自然と表通りを調査すること」
「ああ、そうですね」
ごめんなさい。私がボッチでごめんなさい。
2人の話を聞いてますます居心地が悪くなる私。
はぁ、なんでこうなのかな。先輩たちがいるときは安心して話せたのに。
1人で話すとなると、思うように口が動かなくなる。
自分の情けなさを改めて実感している間にも、カヤさんとエオイドさんの話は続く。
「じゃあ、どうするんですか?」
「答えは簡単。ぎこちなくても、問題ないようにする」
「ぎこちなくても問題がないようにする? どういうことですか?」
「……エオイドは察しが悪い。つまり……」
カヤさんはそういって、エオイドさんの手をとり、そして、私の手も取って、お互いに握らせる。
「ひあっ!?」
いきなりの事に思わず声をあげてしまう私。
「あのー。ソロさん嫌がってません?」
「ち、ちがいます!! お、驚いただけです!!」
「はあ。ソロさんが良いならいいですけど。で、手をつなぐとどうなるんですか?」
「……エオイド。察しが悪すぎ。つまりは初々しい恋人同士なら何も問題ない。むしろ当然」
「こっ、恋人!?」
エオイドさんが私の恋人!?
そういわれてようやく、自分の手を握ってくれているエオイドさんの手のぬくもりを感じてきた。
「いや、なおさら、ソロさんが嫌がってません? 僕が演技とは言え、恋人役とか……」
「いえっ!! そんなことはありません!! 大丈夫れす!!」
こ、これはチャンスかもしれない。
私に彼氏ができる最大のチャンス!!
だって、私が退学になるかもしれないって時に、庇ってくれたし、エオイドさんは私の事が好きなのかもしれない!!
わ、私も、エオイドさんならいいかなーって思うし……。
ボッチから彼氏持ちに一気にジョブチェンジできるかもしれない。
イフ大陸からの賓客だし、私って玉の輿!?
「アマンダが怒らないですかね?」
エオイドさんがそういった瞬間私は一気にお花畑から、豪雪地帯に入り込んだような気持になった。
そうだ、エオイドさん奥さんいるじゃん。
はは、バカだな。私。
アマンダさんにも散々お世話になってお友達になってくれた恩人なのに、その人の大事な人に手を出そうとしていたんだ。
最低だね。私。
もう冷静になったし、案内はできると思う。もう、手を放そう。そう思っていると……。
「大丈夫。アマンダから許可は今もらった」
「「へ?」」
私とエオイドさんはそんな感じで間抜けな声を出しているうちに、カヤさんは私たちの耳に何か変なものを取り付けると、そこからアマンダさんの声が聞こえてきた。
『エオイド。話は聞いたわ。恋人役ぐらいやってあげなさいよ。元々エオイドが庇ったからここまでついてきたんでしょう? ちゃんと騎士として守ってあげなさい』
「あ、うん。アマンダがいいのなら」
『よし。ソロ。エオイドが恋人役で不満かもしれないけど我慢してね』
「ふえっ!? いいえ!! そんなことはないです!!」
『……? あ、ふーん。いや、なんとなく分かってたけどね。でも、案外いい機会かもしれない。ポープリ学長や、エリス師匠とかデリーユ師匠も同じこと言ってたし』
「え? あ、あのー?」
『ん? ああ、こっちの話。とりあえず、今日はエオイドとソロは恋人同士、仲のいい友達同士ってのができないならそれで行くしかないわ。エオイドも女の扱いに慣れていないけど、そこはカヤさんお願いします。ついでにソロに変なことをしないことも』
「……できる限りフォローはする。だけど、エオイドのミラクルは私も反応できないから事後処理しかできない」
なんですか、そのミラクルって?
私が首を傾げていると、エオイドさんは慌てて、私の手を引っ張って歩いていく。
「さ、仕事を頑張ろう!! ね。ソロさん」
「あ、はい」
「カヤさんもいきましょう!!」
『ま、何もなければいいのよ』
「……そうそう。まずは仕事」
よくわからないけど、そんな感じで私たちのオーノック表通りの調査が始まった。
まあ、調査と言っても、表通りをぐるっと回って、お店を見て歩くことぐらいなんですけど。
「思ったよりもお店が多いんだね」
「……地図である程度知ってはいたけど意外」
「はい。私も初めてオーノックを訪れた時は驚きました。どうやら、魔術学院ができてから人が逗留するのにはこのオーノックが都合がよかったらしく、それに合わせて、色々お店などができたって、町の人がいってました」
「なるほど。学府の町みたいなものか」
「学府と町は一体化して、近場に街が他に存在しないから気が付かなかったけど、学生たちがいる場所っていうのはそれだけ来訪者が多いから、それに応じて、周りの町も潤うってことね」
私の簡単な説明で、カヤさんは私が何度も聞いてようやく理解できたことをすんなり理解している。
できる女性だなー。これで精霊の巫女様でもあるんだから、凄いよね。
いや、巫女様だから当然なのかな?
「まあ、その色々な人が来る分トラブルとかも多いんですけど……」
「そうだよね。学府もそうだったよ」
「……人が集まる場所というのはえてしてそういうモノ」
「私もお店で働いているときにお客さんたちがお店でけん……」
ドガシャーン!?
そう言いかけた時、横のお店から凄い音が聞こえてきた。
「ひゃう!?」
反射的に私は手をつないでいたエオイドさんに飛びついて、エオイドさんもすぐに私を抱きしめてくれた。
……ああ、幸せかも?
「なんだ!?」
「……エオイド。落ち着いて。横のお店で喧嘩でもしているみたい」
「喧嘩?」
「そう、喧嘩」
カヤさんはそういって、横のお店に目を向け、私たちもそれに倣って見て見ると……。
「てめえがぶつかってきたんだろうが!?」
「ああ!? そっちがぶつかってきたんだろう!!」
傭兵なのか、がっしりとした体つきの男性2人が今にも取っ組み合いを始めそうな感じで怒鳴り合っていました。
「あ、あの、お客様……」
恐らく、お店の人であろう女性が喧嘩を仲裁しようと声を掛けるが、あの手の輩がそんな制止を受け入れるわけもなく……。
「女はすっこんでろ!!」
「そうだ。女が口をはさむことじゃねえ!!」
「ひゃっ!?」
そういって、女性店員を逆に威嚇する始末。
周りの人も迷惑を被るのは嫌なので、割って入る様子もない。
これは、衛兵を呼びに行くしかないなと思っていると、カヤさんがすたすたとお店へと歩き始めた。
「エオイド。ソロをよろしく」
「あ、はい」
「え? ど、どうするんですか?」
私が歩いていくカヤさんにそう声をかけると、短く……。
「こうする」
そういって、お互い殴りかかろうとしていた男たちの腕をガシッと掴む。
「なんだ、てめぇ!?」
「女がでしゃばるなって言っただろうが!?」
男たちはカヤさんにもそう脅しをかけて、握られた手を振りほどこうとしたのだが、カヤさんがユキさんたちの一行であることを考えれば、振りほどけるわけもなく、ガシッと固定されたまま動けないでいる。
「……大丈夫?」
そんな男共を無視して、威嚇されて座り込んでいた店員さんに声をかけるカヤさん。
「あ、はい」
店員さんはカヤさんに声を掛けられてようやく我に返ったのか、立ち上がる。
「無事でよかった。で、こいつらはどうする? 机とか椅子とかお皿とかぐちゃぐちゃだけど。これって、この町じゃ犯罪?」
「え、も、もちろんです!! お2人とも、衛兵に引き渡されたくなかったらちゃんと弁償してください!!」
被害状況を確認して、顔を真っ赤にして怒る店員さん。
「こいつが悪いんだよ!!」
「違う!! こいつが悪いんだ!!」
それを見て自分たちのやったことがようやくわかったのか、お互いに責任を押し付け合うのだが、どっちともカヤさんに片腕をつかまれて動けないでいるので、情けない姿だ。
「「というか、お前、離せよ!!」」
「離したら逃げるでしょう?」
「逃げるかよ!! 女のくせに生意気だぞ!!」
「あっ、お前!?」
片方の男が振りほどくのをやめて、カヤさんに向かって殴りかかる。
もう片方の男は流石にそれはやり過ぎかと思っているのか、声をあげるがもう遅い。
カヤさんが殴られちゃう!?
そう思って目をつぶったけど、一向に殴られた音がしないし、カヤさんの声も聞こえない。
なんでだろうと思って目を開けると、いつの間にかカヤさんはその男の腕を離して、殴りかかってた拳を受け止めていた。
「……私を殴りたいなら、デリーユぐらいに鍛えないとダメ。で、逃げないのなら、さっさとお金を出せばいい。そうすれば大事にしないと店員さんも言っている」
「わ、わかった。俺は払う。えーと、ほら、お金だ。そこの店員。必要な額抜いてくれ」
「あ、はい。じゃあ、壊れた物の半分の代金いただきますね」
腕をつかまれたままの男の方は、カヤさんの強さがなんとなくわかっているのか、それとも衛兵に引き渡されるのが嫌なのか、あっさりとお財布を渡して、店員さんは必要な分だけ抜いて、それを見せる。
「……うっ。机と皿の分と考えると妥当か。はぁ。と、ほら支払ったから離してくれよ」
「はい」
カヤさんは弁償をした男はあっさりと離した。
残るは、カヤさんに暴力を振るってきた男。
「で、そっちはどうする? 支払う? 引き渡される?」
「てめえはなんの権利があってそんなことを言ってるんだよ!!」
「私は通りかかった善良な人。貴方たちの騒動は周りに迷惑。貴方こそ、何の権利があって、お店で暴れて物を破壊してるわけ? 犯罪してもいいの?」
「う、うるせぇ!! 女ごときが生意気なんだよ!!」
男は自由な片腕でナイフを取り出しカヤさんに……。
「ひあっ!?」
店員の悲痛な声が辺りに響き、辺りはしんとなる。
誰もが血にまみれたカヤさんを想像したんだと思う。
だけど……。
「……私も両腕が空いている」
カヤさんはそういって器用に、ナイフの刃先だけをつまんで止めていた。
「なっ!?」
男の方はその状況に驚いている。
それはそうだろう。まさかナイフの刃先をつまんで止められるとは思わない。
そんな男に向かってカヤさんが一言いう。
「さて、いい加減、私もナイフとか突きつけられてイライラしてきた。どうする? お金を支払うか、衛兵に突き出されるか、私にボコにされるか」
ギンッ。という感じの鋭い視線が向けられて、男はようやく観念したのか、ナイフを離して財布を取り出して店員さんに渡す。
「……くそっ。ほら」
「えーっと。はい、この額いただきます。今度からは喧嘩は外でやってくださいね」
「ちっ。わかったよ。ほら、姉ちゃん離せよ」
「はい」
お金を支払ったことを確認したカヤさんはあっさり手を離す。
だが私は、男の事を警戒していた。
ナイフまで取り出して、カヤさんを突き刺そうとしたのだ。
でも、襲い掛かることはなく。
「……頭に血が上ったとはいえ。ナイフまで取り出して、色々すまなかった。店員の姉ちゃんもすまなかった」
そういってカヤさんと店員さんに頭を下げる。
あれ? なんか意外。この手の人って最後まで自分が悪いって認めようとしないんだけど……。
「はい。次のお越しをお待ちしています」
「おう。この店は好きなんだ。また来る」
店員さんの最後の言葉で、険しさが取れた男の人はそういって立ち去ろうとしたところに、カヤさんが話しかける。
「脅す気ならもうちょっと殺気を込めた方がいい」
「はっ。恐ろしい姉ちゃんだ。迷惑をかけた。今度会う時は奢らせてくれ」
「その時はのんびり雑談でもする」
「そうだな。と、じゃあな」
男の人は今度こそ、町の中へと消えて行った。
「あ、あの!! ありがとうございました!!」
カヤさんに助けられた店員は深々と頭を下げてお礼を言う。
「……気にしないで。それより、このお店ってお茶とかもできる?」
「は、はい。お茶だけでも大丈夫です」
「じゃ、お礼代わりに、ちょっとお話聞いていい? この町に来たばかりなんだ。色々教えてくれると助かる」
「あ、はい!! 任せてください!! お席はこちらになります!!」
そういって、私たちはお店に案内されることになったんだけど……。
「あのー。私が案内するって話じゃ……」
「多角的に情報を集めるのは基本。というか、ソロがちゃんと店員さんの情報を聞いて間違っているとか、正しいとかを判断して、情報の精度を高める必要がある。責任重大」
「うぇっ!?」
なんかサラッと、重大な責任を押し付けられたような……。
「相変わらずカヤさんはスパッと行きますね」
「デリーユほどじゃないと思う」
「……デリーユ師匠はあの状況だとどっちとも吹っ飛ばしてますね」
そしてどうやら、デリーユさんはカヤさん以上に豪快な人のようだ。
今度話す時はちょっと気をつけよう。
カヤもこれで元自警団の副リーダーなのでトラブルを解決する力はある。
そして、裏に行ったリエルよりぶっそうじゃね? とか言わないように。




