第620堀:命がけの顔合わせ
命がけの顔合わせ
Side:カグラ
カタカタ……。
そんな音が響いて私は自分が震えていることに気が付く。
押さえないと。
私は意識して、体の震えを止める。
よし、止まった。
しかし、私の鼓動は早いままだ。
落ち着け、落ち着くのよ。カグラ。大丈夫。大丈夫。
私は目を閉じて自分自身にそう言い聞かせる。
「あれ? カグラ、寒いの?」
「ミコス?」
目をあけると、集合場所の部屋にミコスが入ってきていた。
どうやら、緊張しすぎてドアが開く音が聞こえなかったようね。
「うん。きょうも可愛いミコスちゃんだよ。で、そこはいいとして、なんで震えてるの? こんな時に風邪でも引いた?」
「え?」
そういわれて、改めて自分の体を見ると、確かに小刻みに震えていた。
さっき止めたばかりなのに……。
とりあえず、ミコスに言い訳しないと。
「風邪じゃないわ。ちょっと、緊張しているの」
「緊張って。オーノックの調査? でもさ、まずは子爵の家へ挨拶でしょう? そんなに危険なはずはないって話だけど……。まさか、何かユキ先生とかお姫様とかが変な情報でもつかんだ? 危ない?」
「い、いえ。そうじゃないの。そうじゃ……」
そう言いかけたところで、またドアが開く。
「うひゃ!?」
私は驚いて、思わず椅子から転げ落ちてしまった。
「え?」
「あ、ご、ごめんなさい。驚かせてしまったでしょうか!? カグラ先輩、大丈夫ですか!?」
ミコスがポカーンとしている間に、ドアを開けて入ってきたソロが慌てて私のことを気遣ってくれる。
というか、ソロでホッとした分、まだ処刑執行はないのかと不安になる。
「え、ええ。ちょっと驚いただけだから、大丈夫よ」
「いや、ちょっとどころじゃないって。というか、また震えてる。マジでカグラ大丈夫?」
「ほんとだ。それに顔色もあまりよくないように見えますよ? 本当に大丈夫ですか? ユキ先生たちにいってお休みに……」
「ダメ!! それは絶対にダメ!!」
私のせいで、オーノックの調査が遅れるとかなったらそれこそ問題だわ。
「ダメって。このままじゃ、カグラがどう見ても倒れそうなんだけど。ねえ、ソロもそう見えるよね?」
「……はい。どうみても無理をしているようにしか見えません」
「べ、別に病気とかじゃないの。心の問題だから」
「心の?」
「どういうことですか?」
もう、こうなったら素直にぶちまけた方がいいわね。
「……私、今日死ぬかもしれないのよ」
と、ぶちまけてみた。
「はい? なんでまた?」
「何かあったんですか?」
2人とも首を傾げている。
「ソロは知らないから当然として、ミコスはわかるでしょう。調査メンバー見てないの?」
「調査メンバーって、調査メンバー全員の顔合わせをして、それから向かうって話でしょ? ウィードの方から、新しい人員が派遣されてくるから。それがどうしたの?」
「その派遣されてくる人たち。ユキの奥さんなのよ」
「へー。奥さんか沢山いるって聞いてるし、別に不思議じゃ……。あっ」
ここでようやくミコスも私が震えている理由に思い至ったのか、顔をこわばらせている。
「まさか……。リエル、トーリ、カヤって名前……」
「……私がユキを召喚した時に巻き込んだ。妊娠していた奥さんたちよ」
「あちゃー」
私の言葉を聞いた瞬間にミコスは片手で目を覆ってそういった。
でしょう? そういうしかないでしょう?
「えーっと、いったいどういう?」
ソロが付いていけてないので、とりあえず、説明することにした。
私が、ユキを召喚した時に、妊娠中の奥さんたちも戦場に呼び出してしまったこと。
王配の誘拐にとどまらず奥さんたちやお腹の中の子供まで危険に晒したということを、キチンと説明した。
「あ、あははは……」
「もう、笑うしかないよね」
「……ふん。2人はそうして笑っていればいいわ。そして、私が死んだ後はお願いね。私が死ぬことで、召喚に関する遺恨はたぶんなかったことにできるから」
「せ、先輩、落ち着いてください。まだ死ぬって決まったわけじゃないですし」
「そうそう。というか、殺すつもりならもう死んでるでしょう? ウィードに何日いたのよ?」
「うぐっ、それはそうなんだけど。でもね。私の気持ちが落ち着かないのはわかるでしょう」
「まあねー。でも、こればかりは……」
「……ちゃんと謝るしかないですよね」
「もう、こんな緊張に耐えられないわ。死んでお詫びします」
そういって、窓の方に歩み寄ると、ミコスとソロに体をつかまれる。
「はいはい!! 落ち着いて!!」
「そうです!! ウィードとのお仕事とかはどうするんですか!?」
「私が死ねば、私が引き起こしたことはチャラにできるかもしれないのよ!! あとはお父様とかミコスやソロが外交官の仕事を引き継いでくれればいいわ!!」
「無茶いわないで、落ち着けー!!」
「先輩!! 大丈夫ですから、落ち着いて!!」
私がこの苦しみから解放されるのはこれしかないのに、2人が邪魔してくる。
なんとか、窓から……。
「そんなことしなくても、別に怒ってないよー」
「死なれると私たちが困りますので、やめてください」
「……迷惑かけた分は働いて返して」
「というわけだ。落ち着いて、席に戻れカグラ」
……あ、私、終わった。
「終わってないから。はぁ、先に顔合わせをしておいて正解だったな。いきなり調査で送りだしたらとんでもないことになってたな」
「……すみませんでした。どうか、どうか……」
私は気が付けば、必死に頭を下げて謝っていた。
「大丈夫。大丈夫だから、ね? カグラ、落ち着いて」
「……思ったよりメンタルが弱いですね」
「……気の毒に。ユキ、脅かしてた?」
「いや全然。アマンダ、エオイドー」
「はい。なんですかーって、どうしたの!? カグラ!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「ん。リエルたちを召喚に巻き込んだ罪悪感でああなっている。なんとか落ち着かせてくれ」
「「あー」」
私は周りの説得のおかげでようやく冷静になった。
「……お恥ずかしいところをお見せして、誠に申し訳ありませんでした」
……そして、醜態をさらしたことにお詫びすることになるとは、私のバカ。
「まあ、カグラが元に戻ってよかったよ。僕はリエルって言うんだ。これからよろしくね。あの時は話す機会もなかったから、こうやって話せてうれしいよ」
「私はトーリです。カグラさんの気持ちは十分に伝わりましたから、そこで根に持つことはありません。これから一緒に働くのですからよろしくお願いします」
「……ユキはちょっと恥ずかしがり屋で性根がねじ曲がっているから、何かいじめられたら私を頼ると良い」
「おい、カヤ」
「「「あははは……」」」
どうやら、私に気を使って和ませてくれているみたいだ。
……はぁ、本当に私の気にしすぎか。
いや、誠心誠意謝ったからこその結果だと思っておこう。
で、ようやく落ち着いた心でリエル様……じゃなくて、リエルたちの顔を見ると、ある違和感に気が付く。
「あれ? ない?」
「ないって、何が? 忘れ物?」
「取ってきましょうか?」
ミコスとソロは私の横にいたので、呟きが聞こえていたみたいだ。
隠す理由もないので、何がないのかを告げる。
「そうじゃないの。えーっとね。確か、リエル、トーリ、カヤの3人は巫女様だったはずなんだけど……」
「はぁ? 巫女様って、精霊の巫女様?」
「うん」
「……人に見えますけど?」
「そうよね」
そう、どこをどう見てもケモミミが生えている様子はない。
私の見間違いだったのか?
まあ、一瞬だし、あの時は切羽詰まってたからね。
「というより、リエル様たちが巫女様だったとして、お腹に御子を宿した状態で召喚したとか、それ、ハイデン国内じゃ、極刑もんじゃん」
「……だから私はあんな状態だったの」
「なるほど。納得」
「でも、一応聞いてみた方がいいんじゃないですか?」
「あ、そうだね。他の奥さんって可能性もあるし、そこらへんをはっきりさせないと、またカグラがあの状態になる」
「で、でも、私が聞くの? し、死んじゃわない?」
「あー、落ち着いて。ソロ」
「はい。任せてください」
ソロはそういって、リエルたちの所に歩いて行って話を聞く。
「あ、あの……」
「ん? 君は?」
「わ、私は、カグラ先輩の後輩でこの魔術学院の中位生をしていますソロと言います」
「ああ、貴女が、盗賊に襲われた学生ですね」
「……怖がらなくていい。私たちが守ってあげる」
「あ、ありがとうございます。で、少し聞きたいことがあるんですが……」
「ん? なに?」
「実は……」
そこから、話を聴き取れなくなったが、横にいたアマンダとエオイドが驚いた顔をしている。
「あ、そういえば、アマンダとエオイドにも言ったことなかったよね。ねー、ユキさん見せていいかな?」
「あー、いいぞ。メンバーには知ってもらっておかないとな。特にカグラ、ミコス、ソロはハイデンでのフォローをしてもらわないといけないし」
ん? 何を言ってないの?
「じゃ、魔術解くよー」
リエルがそういうと……。
ピコッ、ピコ、ピコ……。
リエルたち3人に巫女様の証であるケモミミが生えていた。
おしりから尻尾も……。
「と、こんな感じで、お耳は魔術で隠していたんだ。出していくと騒がれると思ったからね」
「あー、なるほど。でも、リエル、トーリ、カヤの耳、可愛いー!! 触っていい!?」
「だめだよー」
「そうです。お耳や尻尾とかは、基本的に身内にすら触らせることはないのです。夫とか子供、親友ぐらいのモノです。ほら、誰にでも頭を撫でられるのは嫌でしょう? 尻尾とかお耳はさらに女性でいう胸とかお尻に該当するんです」
「あー、それは触られたくないよね。でも、親友って枠でもだめ? 触りたいよー」
「……私は別にアマンダだったら構わない。でも、痛くしたらおこる」
「大丈夫。痛くしないよー。あ、エオイドは触っちゃだめだからね」
「触らないよ。そんなことしたら、ユキさんに殺されるから」
そんな感じで、アマンダはお耳や尻尾を触らせてもらってきゃーきゃー言っていたが、私は再びガクブルになっていた。
「やっぱり、私死ぬのね……」
精霊の巫女様たちを誘拐しただけでなく、お腹の子供まで危険に晒した。
よく今まで生きてたものね。
……お父様、お母様、お姉様、今までありがとうございました。
なんとか、私が死ぬことで、チャラになるよう頑張ってください。
そして、窓へと再び歩いて行こうとすると、やっぱり体が動かない。
「おちつけー。冷静になれー。私やソロに事後処理まかせるんじゃない!!」
「そ、そうです。リエル様たちは許してくれているのに、そんなのはダメです!!」
ふふっ、ミコスったら、自分のこと私って呼ぶほど焦っちゃって。
ダイジョブ。もう迷惑な私はいなくなるから。
ソロもごめんね。こんな駄目な先輩で。
私は力尽くで静止をふりきろうと身をよじると、今度は前に誰か現れて窓への道を塞がれた。
「はいはーい。落ち着け。もうカグラが召喚した件で根に持っていないから。今後は仕事で返してくれ」
ユキがそういって、ポンポンと肩を叩いてくる。
……仕事ね。そう、死後屠。私の存在意義はそれしかないのよ。
儚い夢だったのよ。ユキは最初から死後屠で必要って言ってたじゃない。
なのに、変な夢見て、バカよね。
「……ユキ。もうちょっと素直になる」
「はい?」
「はぁ、ユキさん。もうちょっと言葉を選ぼうよ」
「私なら自殺しているかもしれないですね。まあ、カグラも一歩手前ですけど」
あ、気が付けば巫女様が近寄ってきてる。
もう、この世ともお別れね。
「あーもう、ユキさんはこれだから。リエル!! カヤ!!」
「はーい」
「了解」
「おいおい、なんだ?」
なぜか、リエルとカヤはユキの両腕を片方ずつ掴んで、大きく広げると、トーリが後ろからユキさんを私に押しつけて、さらに腕を私の体に回して、抱きしめるような形にしてきた。
「え? え? え?」
あまりの出来事に目をぱちくりしていると、腕を回してくれたリエルとカヤが横で呟く。
「一目みたらわかったよ。ユキさんの事、好きなんでしょう?」
「……最初は怒りも沸いたけど、ユキがそういう怒りの矛先が向かわないように、カグラが頑張っていると私たちによく言っているし、頑張っているのを今も見ている」
えーと、つまり、どういうこと?
未だに頭が混乱してユキの抱擁から抜け出せないでいると、トーリが今度は後ろからやってきて……。
「あとは、カグラの頑張り次第ということです。知っての通り、ユキさんは意地悪なところがありますから、今回の抱擁は私たちからのご褒美だと思ってください。今後は自分でねだってくださいね」
「そ、それって……」
「私たちはカグラが望むなら特に否はありません。頑張ってください」
そういわれて、頭がはっきりしてきた。
まだ、望みは絶たれていない!?
いや、むしろ奥さんたちを味方に付けられたから、我が方優勢!!
そんなことを考えていると、ユキは残念なことに抱擁をやめて離れていった。
「なあ、あれだとセクハラになるだろ!? まだ学生だぞ!!」
「落ち着いたようですし、カグラもいやがってないですよね?」
「はい。ユキありがとう。落ち着いたわ」
「……まあ、落ち着いたならいいか。じゃ、顔合わせも済んだし、編成の話を……」
困惑していたユキはすぐに切り替えて仕事の話を始める。
私も、ユキを見習って仕事を頑張ろう。そして、ちゃんと認めてもらう。
「でもさ、トーリ。あと2人ほど厄介なのがいない?」
「いるね。でも、そこもカグラの頑張り次第」
「……難関。ミリーとエリスは強敵」
と、何か聞こえた気がしたが、今は仕事だ。私が重要な役割を担っているんだから。
そう気合いを入れていると、ミコスから服を引っ張られる。
「なによ?」
「なによじゃないよ。私たちに迷惑かけといて、一番いい思いをしたって不公平でしょう? せめて、ユキ先生の香りが付いたカーディガンよこせ」
「いやよ」
「ちょ、ちょっと、先輩たち!? これ以上の騒ぎは不味いですよ……」
とりあえず休戦して、編成の話の後に話し合うことになったのだが、その時には冷静になってて、ミコスにカーディガンを譲って友情に罅が入ることは避けられた。
「「ひゃっほーう。いい香り」」
「……先輩って何だっけ?」
何か、ソロの見る目がちょっと冷たかったのは気のせいだろう。
カグラは生き延びて、変態になったのであった。
まあ、幸せな日々はまだ遠く、これから面倒なことにカグラを盾に進むことになるのは間違いない。
その激動の中、カグラはどう成長するのか!!
そして、ユキはどうするのか!!




