第613堀:ハイデン建国記簡易版 始まりの章
ハイデン建国記簡易版 始まりの章
Side:ソウタ
「ただ、ユキに呼ばれてこの土地にきてわかったことは、中級神派の連中が今何かしてるってことだけ。当時を詳しく知っているのはソウタと水神のほう。そっちから話を聞かせてくれない? そこからある程度予測ができるかもしれないわ」
天照大御神様こと、ルナさんに言われて、私は当時を振り返る。
『当時……ですか』
自分が発した声がひどく異質に感じた。
そう、自分は死んでいるのだ。
ここに存在するのは本人ではなく、当時の写し魂、分け御霊というやつで、本物はすでにカミシロ家の屋敷で静かに眠っている。
それも当然、なにせ……。
『自分で言うのはなにか変ですが、今から500年ほど前の話です』
自分ではあまり実感がないんだけどね。
幽霊なせいなのか、それとも500年ほど過ぎても周りはさほど様変わりしなかったせいなのか。
まあ、そんな個人的な感傷はいいとして、とりあえず、私がこの土地に呼ばれたときの話からするべきだろう。
『あれは、いつものように神社でジャソプを読んでいた時のことです……』
そう、私のこの土地での始まりは、いつもの日課から始まった。
Side:神代 宗太 神代神社次男 大学生 経済産業専攻
「えーと、先週号でも見直すか」
俺は神社の片隅、小さい社、摂社の横に腰を下ろしてカバンから、ジャソプを取り出していた。
「たく、親父も頭硬いんだから。おかげで、漫画を読むのも一苦労。ゲームなんて以ての外。おかげで友達の家でやるしかねぇ」
そう、俺は神社の子。だからと言って、この環境はないと思う。
もう時代は昭和も60を過ぎたし、3Kは当たり前だし、親父だってそれを甘受しているのに、俺には漫画ダメ、ゲームもダメときたもんだ。
漫画とか親父の時代からあっただろうに、なんで家で読むのにも気を遣わないといけないのかね。
別に兄貴でもあるまいに。
俺はどうせ、このまま大学を出たら、こんなしみったれた神社とはおさらばする。
「なのに、なぜか摂社の世話は俺がメインでしろって言ってるんだよな。このやり方の方が罰当たりだよな? なあ、水辰之命様」
お互い、この神社では住み辛いよな。
土着神のマイナー神様に、俺は後を継げない次男ときたもんだ。
ああ、そういう意味では相性はいいのかもしれないな。
ま、俺の方はこんな神社の後継ぎなんざ願い下げだけどな。
俺にとっては御利益もない、宇迦之御霊神が主神だし。
五穀豊穣より学業の神様の方が俺にとってはご利益があるわな。
「ま、そんなこと言っても仕方ないか。とりあえず、お供え物のビールです!! 日本酒ばかりだと飽きるだろう。今の酒も美味いんだよ」
そういって、お供えしてあるワンカップを取って、お高い恵比寿様がかかれたビールを置く。
……今更ながら、他の神様の名前を冠する酒を置くのはどうなのかと思ったが、こんなことで怒るわきゃないか。
「さーて、お供えも終わったし、しばらく場所借りるぞーっと?」
俺は近くの桜の木に背を預けて座り、ジャソプを読もうと……。
「うおっ!?」
読もうとして、なぜか後ろに転がった。
背もたれになるはずの木が消えていた。
……いや、ただ単に、俺が座る位置を間違えただけか。
「ちっ、これが罰ってことか? ワンカップよりビールの方が高いんだけどなー」
我ながら間抜けだなーと思いつつ、起き上がると……。
「はい?」
見慣れた風景は無く、ぽつーんと大草原の真ん中に俺は立っていた。
「え? なにこれ?」
状況を把握できない。
いや、草原に立っているというのはわかる。
しかし、なんで草原に立つことになったのかが分からない。
さっきまで、俺は神社にいたんだから。たぶん。
が、現実は別の場所にいるから、自信がなくなってくる。
そこでひらめいた。
ああ、なるほど。これは夢だ。
俺は夢を見ているんだ。
こんな大草原は日本には存在しない。
いや、北海道ぐらいならあるかもしれないけど、山に囲まれた俺の村にはそんなものはありはしない。
俺を攫う理由も思いつかない。
となると、記憶がはっきりしているところを思い出すと……。
木を背もたれにしてジャソプを読もうとして、気絶。
そして夢を見ている。
完璧に説明がついたな。
「はぁー。間抜けだな。しかし、夢とは言え、なんで摂社まで一緒に草原にきてるんだか……」
俺は視界に映る土着神をまつる小さな社を見て、それもひらめく。
「……あ。これが罰ってことか。しっかり、世話をしろと」
納得はできたが、理不尽だ。
夢の中で説教される羽目になるとは。
それとも何かの啓示か? 草原に社を建てろって?
なんでやねん。水辰之命さんはうちの村にある川の氾濫を抑える為だろ?
水源も何もありもしない草原に社を立てて何の意味があるのやら。
「ま、そんなことはいいか。とりあえず、夢ならさっさと目を覚まそう」
神社で気絶なんぞしてたら人を呼ばれかねない。
それが親父にばれたらどう考えても怒られる。
夢から覚めなくてはいけないと思い、俺は定番である自分のほっぺをつまんでみた。
ぶに
ふむ、痛くなかったのがいけないのか。目が覚めない。
まあ、痛いと分かってると腰が引けるよな。
しかし、さっさと目を覚まさなければ、親父の説教は確実。
ここは気合いをいれて、ほっぺをつまむではなく、ビンタで行こう。
せーの……
バチン!?
両手で挟み込むように顔面を張る。
「いたい」
気合い入れの時はいいかもしれないが、目を覚ます為にやるもんじゃないな。
そんなくだらない感想を……。
「あれ? 夢から覚めない」
どういうことだ?
俺は頬が赤くなるレベルで張ったのに、未だに草原にいる。
……うーん。あれか、夢から覚めるためには何かをしろというタイプか?
お社さんもあるし、罰だとも思ったしな。
神様が何か希望しているのだろうか?
そう思って、摂社をよく観察してみる。
「そういえば、これが一番怪しいよな」
俺にとっては見慣れた摂社であるが、この草原において一番変なのは何かと問われると、俺の存在よりもこの摂社だ。
さっきあげたビールもあるし、間違いなく俺が世話をしていた水辰之命、水神様の社だ。
そんな感じで、摂社を観察していると、不意に草原の端に何か見える。
「なんだ? 人?」
たぶん、あれは人だと思う。
馬に乗った人。
「……ここ北海道か?」
最初に頭をよぎった草原がある日本国内と言えば、北海道という答えが正解な気がしていた。
だって、馬がいるし。
馬を草原で走らせられるような場所はやはり北海道しかないだろう。と妙な納得をしていたが、その人たちが近づくにつれてそれは間違いだということに気が付いた。
何せ……。
「外人さん?」
金髪碧眼のイケメンと、赤髪をした美少女に、猫らしき耳を付けた銀髪の美少女の3騎がこちらに向かって来ていたからだ。
こんな金髪イケメン一人ならただの外国人観光客とでもおもえたのだが、あとの2人を見てこりゃ北海道じゃないなと、妙な納得をした。
まあ、とにかく、人だ。
言葉は通じるか分からないが、ここがどこなのかぐらいはわかるだろう。
向こうも俺を見つけたのか、こっちに近寄ってくる。
「……本当にいたな」
「……いましたね」
「ふふーん。私のいう通りでしょう」
呆れた感じで、金髪のイケメンと銀髪の獣耳を付けた美少女はそういって、赤髪の美少女はなぜか威張っていた。
と、そこはいい。
日本語をしゃべっているのは助かった。
案外ここは日本なのかもしれない。北海道のどこかに違いない。
そう思いたかった。
「あ、あのー。ちょっとお尋ねしたいんですけど」
「ああ、なんだい?」
「ここは、どこなのでしょうか? やはり、北海道のどこかですか?」
「ホッカイドウ? いや、ここはフィンダールとロザンタの間にあるノッサ平原だけど……」
「フィンダール? ロザンタ? ノッサ?」
全然知らない地名を言われて首を傾げるしかない俺。
「ほら!! やっぱりそうなんだって、知らない地名言ったじゃない!! 見たこともない服装しているし!!」
「……まあ、そうね。でも、彼がそうなの? 強そうにはみえないけど……」
なぜか赤髪の美少女は俺を見て興奮して。銀髪の獣耳を付けた美少女は俺を訝しげに見てくる。
「大丈夫よ。ね、あなたは私の召喚に応えてくれたのよね?」
「はい? しょうかん?」
赤髪の美少女はそういって俺に詰め寄ってくるが意味が分からない。
しょうかん? 召喚?
「いやいや、裁判とかに呼び出されてはいないですけど」
「さいばん? ああ、裁判。なんで裁判?」
お互いに首を傾げる。
何を言っているんだって感じで。
「おちつけ、ハイレン。まだ間違いの可能性もある」
「そうそう。確かに、彼は近場の人じゃないかもしれないけど、ハイレンが呼んだとは限らない」
「なによー。お母さんから言われた通りにやったんだから間違いないって!! それに旅しているような格好じゃないでしょう。荷物も変なカバン1つだし」
「……まあ、確かにここにいるには変な恰好だよな」
「……そうね」
よく分からないけど、俺の正体について話し合っているのはわかる。
正直な話、腰に剣?を佩いて、鎧みたいなものをつけているので、頭のおかしい連中に絡まれたか? と警戒しているのだが、こっちを害するようには見えないし、馬も持っているので、逃げ出したとしても捕まるだろうから、ここは大人しくしておくのがいいだろう。
下手なことを言って怒らせるのは得策じゃない。
夢だと思いたいが、そろそろ、夢じゃなくて現実ではないかという考えもよぎってきた。
SFであるようなワープとか、昔からある神隠しにでもあったのかと思い始めたのだ。
SFのワープはともかく、神隠しは文字通り、摂社が存在しているし、なんかありえそうだ……。
「とにかく!! この人をここに置いてはいけないわ。連れて帰るからね」
「それは、そうだな。武器らしいものも持っていないし、危険なのは間違いない」
「ええ。ファブルの言うとおりね。それに、私たちも余裕があるわけじゃないし、連れて帰って手伝わせるのが賢いわね」
「こらー、エノル。この人は私が呼んだ英雄よ。そんな雑用やらせないでよ」
「だから落ち着け。この人は良く状況をわかってないみたいだし、ハイレンの言う通り、連れて帰って話を詳しく聞こう。それでいいだろう?」
「それでいいわ」
「むー。絶対英雄なんだって、帰ったら証明してやるんだから」
なんか、どこかに連れて行かれそうな話になっているな、それは構わないけど、その前に……。
「あの、とりあえず、名前を伺っていいでしょうか? 私は神代 宗太と申します」
「ああ、すまない。僕の名前は、ファブルだ」
「私の名前は、エノル」
「ソウタね。私はハイレン。この世界アロウリトの女神、カナンの娘よ」
「女神の娘?」
何を言ってるんだ。この赤髪は……。
「はぁ、まあ、ハイレンのことは置いといて僕の馬にどうぞ」
「ハイレンのことは、頭の悲しい娘と思っておいた方がいいわよ」
「こらー!? 本当なんだからね!! ね!!」
ということで、俺はこの3人に連れられて、この世界へと踏み出すのであった。
Side:ソウタ
私はなるべく簡潔に話したつもりだが、それでも長話になってしまったな、とここまで話して思った。
『すいません。私自身もどこから話したものかと思いまして。お茶も切れましたし、一旦休憩にしましょう』
「いえ。結構まとまっていたと思いますよ。というか、その3人が重要人物なんでしょう? 実は序盤でなんの意味もない人だったとかだと、そんな無駄話すんなーと、パイルドライバーですが」
『ええ。ファブルはのちの初代ハイデンの王で、エノルはハイレ教を立ち上げた初代大司教、そして、頭のおかしい赤髪のハイレンが、女神を母にもつ、ハイレ教が崇めることになる女神その人ですよ』
私がそういうと、ユキ君たちはあちゃーという感じで、ルナさんに話をする。
「その可能性があったのを忘れてたな。こっちの神様は子供を作れたんだった。名簿にはなくて当然。母親のカナンって名前は名簿で見た記憶がある。で、子供はスペック的にはどれぐらい受け継ぐものなんだ?」
「まちまちとしか言いようがないわね。こういうのは訓練次第なのよ。ユキもよく知っているでしょう。力、才能は無くても、別の方法で補ってしまえばいいんだから。まあ、でも、ソウタを呼び出したんだから、潜在的な才能でっていうなら、結構力を受け継いでいるみたいね。というか、日本や地球の神様だって子供は作るわよ」
「そうだった。まあ、とりあえず、話を聞こう。これがどう500年前に起こったことに繋がるのか……。と、休憩だったな。お茶とってこよう」
「あ、おせんべい追加よろしく」
「お前は自分で出せや」
「なによ。あいかわらず、クソケチセコねー」
「どうぞ、ルナさん」
「あ、ありがとう。ルルア。まったく、あのユキには困りものよねー」
「あ、あははは……」
さて、私もお茶をと、思って腰を上げると……。
『ソウタ。私も茶のお代わりを』
『水が水飲んでも仕方ないだろうが。というか、自分でやれ』
『お前は死んでなお信心が足らんな』
「あわわわ!? わ、私がお茶を持ってきます!! 初代様、水辰之命様の分も!!」
慌てて、ユキの後を追うカグラ。
カグラは今回の話、ハイデン側の見届け人としてこの場にいるのだ。
他の血縁者や学院関係者は誘拐の洗い出しで忙しいから。
『さいてーだな、水。カグラをお茶汲みに使うとか』
『お前が最低だ。まったく、立ち上がったのだからついでというものだろうが。というか、私が出てくる話はまだか』
『そこかよ。まだ先だろうが、水だって当時は知ってるだろうが』
『知ってはいるが、お前の話は私が登場する所までこないと話せないではないか。まあ、こちらに来た当初どれだけ間抜けだったのかは初耳で面白かったが』
『水、その性格のせいで、お茶を貰えないとは思ったことはないのか?』
『はっ。この程度でお茶をしぶるとは器がしれるというものよ』
『『ああ!?』』
「お、お茶をお持ちしましたから、どうか、どうか、落ち着いて……」
今は、カグラに免じて許してやるとするが……こいつはこの話が終わったらどっちが上で下か思い知らせてやる必要があるな。
そして昔話へ、過去から今の問題を紐解くことはできるのか?
ソウタが歩んだ歴史がここに簡易的に説明される!!
ちゃんとこの物語を読みたい場合は別出版の「神社の息子(次男)異世界へ」シリーズ1200円(税別)をお求めください。
嘘です。出てません。




