第610堀:ありきたりな結末と……
ありきたりな結末と……
とある事情で、ハイデン魔術学院に訪れたウィード一行は、慣れない環境にめげず、学院に慣れるために努力をし日々を過ごしていた。
しかし、そんな学院で日々を送るウィード一行は妙な噂を耳にする。
曰く、図書館には秘密の部屋がある。
曰く、東女子トイレには近寄るな。
曰く、夕方に見知らぬ教室が現れる。
曰く、寮棟の地下に
という、怪談ネタだ。
しかし、ここは異世界であり、治安の良い現代の日本ではない。
とある事情で、この噂を放っておけないウィード一行はこの噂の調査に乗り出す。
結果、噂の真相を一つずつ、解決に導いていく。
真相はどれもありきたりなもので、卒業生たちのやんちゃの話だったり、この学園を作った人たちのお茶目だったり、ボッチの生徒の行動の結果だったりと、そういう他愛のないものだった。
しかし、最後の最後でウィード一行は見つけてはいけないものを見つけてしまったのかもしれなかった。
なぜならば、彼らが見つけたのは……どす黒く染まった、使い古したベッドだった。
そう、そのベッドは血に染まっていたのだ。
明らかに見て取れる事件の可能性。
ウィード一行はこの真相を解明できるのか!?
そして無事にハイデン魔術学院に平和を取り戻せるのか!!
Side:ユキ
「……なに、どっかの探偵もののあらすじ風に言ってるんですか」
「いや、今までのまとめって感じで。ちゃんとわかりやすく、誤解なく、誰に知られてもいいような説明だったろ?」
「はぁ、大げさですよ。ねえ、タイゾウさん」
そういって、横にいるタイゾウさんに声をかけるタイキ君。
「まあ、な。だが、ユキ君の言う通り公表しないとまずいだろうな。学院側は」
「そりゃ、そうですけどね」
タイゾウさんの返答にタイキ君も仕方ないという感じで頷く。
「ともあれ、これ以上、私たちが手を出すことはできないからな」
「何事もなく終わってよかったと思っておきましょう」
「そうですね」
俺たち3人はそういって、お茶を飲む。
すでに俺たちは部屋に戻っていて、現場の調査はすでに終えていたのだ。
そう、現場の調査は終わった。
つまり、怪談の真相は解明したということだ。
理由はいたって簡単だった。
発見したどす黒い染みが付いた使い古しのベッド。それの染みはもちろん血であるのは間違いない。
だが、それは別に恐怖の対象ではなかった。
確かに、血はついていた。
だが、べっとりというか、ちょこっと。
少し怪我でもして、少し血が落ちたぐらいの物で、決して殺人現場のような大量の血がというわけではなかった。
あと、詳しく調べると、思ったよりも、その部屋は片付いていた。
具体的に言うのであれば、普通に生活できる程度だ。
だから、埃まみれのベッドではなく、使い古したベッドだったということだ。
あとは、ちょっと異臭がする。
汗というべきか、なんというべきか……。
ちゃんと掃除はしているようで、異臭もそこまでひどくなかったのが気が付くのが遅れた理由だった。
さて、これから読み取れる結論、真相は……。
「まあ、若い男女が大勢いるんだ。起こるべくして起こったと言えるだろうな」
「あそこはリア充の巣ってやつですよね」
「そうだな。あとは、学院の皆様方に任せるしかない」
そう、ただの宿だった。
具体的にいうなら、ラブホ?
ズコバコする場所になっていたということだ。
しかし、なぜミコスがこれをしらなかったということになるが、元々彼女はこの手の噂を重視したりしない。
俺たちが調べたいからという理由でようやく掘り起こしたり、集めたりした情報だ。
ミコスが基本的に欲してるのは、今後の就職に有利になったり、お金になるような情報で、こんな些末な噂はあまり興味がないのだ。
さらに、情報通のミコスにこの場所を話せばどうなるかなんて、誰もが想像できるだろう。
それに、こういう場所を利用しているということは、部屋で直接会うのがまずい人たちもいるわけで、下手に関わるとミコスの首が飛びかねない。
だから、ミコスはこの噂に直感的に深入りせずに俺たちと一緒に探索するという手段を取ったわけだ。
こうでもしないと、ミコス一人だけ消されて、本当の事件になった可能性もある。
といっても、ミコスはしょせんは男爵の娘だから、それよりも上の貴族がいれば簡単にもみ消される。事件にすらならないであろう。
というか、学院としてもこの事態はまずい。
寮棟の地下をほったらかししてて、生徒たちが淫行していました。で済むわけがない。
特に、今はまずい。ようやくフィンダールとの話がまとまりつつあるのに、こんなことが起こっては、会議どころか戦争勃発の危機である。
昔となにも変わってないじゃねーか、と言われかねないのである。
結局、夜に出る幽霊の噂は文字通りであったというわけだ。
朝っぱらから、ズコバコ人目をはばからずやれるような生徒はいないだろうから、必然的に周りが寝静まる夜になるというわけだ。
だから、ハイデン魔術学院の関係者以外は締め出された。
授業が終わる前に大慌てで持ち出した家具を戻して、使っている犯人を特定しようとしている。
カグラの部屋の時みたいに、他国の貴族様たちが淫行に勤しんでいるなら、超問題でしかないからな。
もちろんビデオカメラの貸し出しをして、監視はオールタイム録画状態だ。
こっちにデータを横流しはもちろんしているが、そうそう脅しに使う気もない。
俺たちだってハイデンのことで精一杯なんだから、今は他の面倒事は極力避けたい。
「まあ、3人とも大した噂じゃなくてよかったじゃないか」
そういってくるのは、エージルで、彼女も同じように締め出された1人だ。
「学術的調査と言われてあれだから、多少がっかりなのは同じだけどね。しかもあれだろ。つい最近まで使ってた痕跡ありだったし。いやー、若者はいいねー」
「いや、エージルだって若いでしょうに」
「お? 勇者様は私が好みかい?」
「なんでそうなるんですか」
「あのねー。見てくれはペタンコでちっこいけど、年齢はもう適齢期過ぎてんの。若いって言葉は私を抱けますよって意思表示にとれるよ」
「あー。なんか、すいません」
「謝るぐらいなら、もらってくれると嬉しんだけどね。こっちも、上がやいやいうるさいからね。ということで、第一候補というか、上からの命令でもあるユキ殿はどうだい? 尽くすよ、私は」
「そこらへんは、嫁に来るとしてもまだ時期尚早だろうな。向こうはアグウストがなんかきな臭いことになってるからな」
「ちっ、いま婚約発表でもしたら、アグウストが爆発しかねないか。はぁ、テキトーに本国に報告して、のんびりウィードで研究漬けになりたいんだけどなー」
「そっちが本音だよな」
「それがそうでもない。ユキ殿たちを見ていたら、結婚も悪くはないと思っている。まあ、ウィードに忠誠を尽くすなら、もちろん研究し放題という条件が付くけどね。そうしないと、エナーリアよりだね」
「あ、じゃ、俺は無理ですから。勇者で王様と言っても、無茶はできませんから」
「俺も無限ってわけじゃないんだけどな」
「しかし、ユキ殿は否定はしないよね。案外いけそう?」
「元から、エナーリアの方は不公平って話は聞いているからな。ジルバのジェシカ、ローデイのサマンサ、アグウストのクリーナ、それでエナーリアは繋がりがないってのは、こっちとしてもあれだよなーって話はある」
「最初はルルア殿を推したかったんだけどね。教会派であり、王家派ではないんだよね。というか元々ルルア殿はユキ殿と一緒にイフ大陸に来た口だしね。となると、やっぱりうちの所から1人でも10人でも貰って欲しいってのが本音だね。今の所、うちに直接ユキ殿やセラリア殿に意見を言える立場の人がいないのはかなりマイナスだからね。外交官としての別の木っ端役人はいるけど、そんなのより、内に入り込んだ方がいいって言う意見はどこも一緒さ。まあ、この状態が長引くのは好都合か、せっつかれるにしても、言い訳はできるんだ」
こんな感じで、エージルの方は度々売り込んでくるが、本人もあまり気乗りはしていないようだ。
いや、結婚自体にはそこまで問題はなさそうだが、そうなると、どう考えても、エージルも王家と養子縁組で王女様でっち上げ作戦になること間違いなしだからな。
そうなると、クリーナのようにお姫様としての教養をという話になる。
それはエージルも勘弁願いたいだろうな。研究職はしばらくお預けで、したくもない勉強をやらなくてはいけないわけだ。
で、そんな話をしていると、ポープリが部屋に戻ってくる。
地下の真相がわかったあと、何か仕事があったのか、ララと連絡を取るということで、席を外していたのだ。
「おかえり」
「……ああ、ただいま」
なぜか、ポープリは疲れた顔をしている。
何かあったのか? そう思って聞こうとしたら、先にアマンダが話しかけていた。
「あのー、学長。何かあったんですか? 学府でなにかあったなら私たちも戻りますけど?」
「ん? ああ、そういうのじゃないよ。心配かけてすまないね。ただ……」
「ただ?」
「今回のことは他人事じゃなくてね。うちはこの学院よりは勉学に力入れているとはいえ、それでも男女が一緒に生活しているんだ。君たちのような夫婦もいる。それはいいんだが……」
納得、明日は我が身と思ったわけだ。
「他国から預かった生徒たちが淫行をしていたのを見逃したなんてのは、ちょっとどころじゃなくまずいからね。私たちの学府は周りの国の援助で成り立っているようなものだから」
「「ああー」」
と納得する、アマンダとエオイド。
イフ大陸では貴重な魔術師の卵だ。
それが、他国の貴族とできちゃった。というのは戦争勃発の案件だ。
今はそこまでならないだろうが、学府の評価は確実に下がるだろう。
「今更ながら思ったけど、エオイドがサマンサやクリーナにしてたセクハラってかなりまずかったですか?」
不意にアマンダが口にした言葉に、俺やタイキ君、タイゾウさん、というか他の回り全員が頷く。
「クリーナ君は当時はその手の事はわかっていなかったようだが、サマンサ君の方は彼女の気持ち一つでエオイド君の首が飛びかねないという状況だったね」
「うぇっ!?」
事実を言われて驚くエオイド。
そらー、公爵令嬢の胸触ったり、服脱がしたりしてたら、日本でも痴漢とか強姦とかで捕まると思うぞ。
「まあ、サマンサちゃんはそういうことはしないだろうと思っていたから放っておいたけどね。と、そこは
いいとして、今回の件をララに伝えて、倉庫にしている場所とか使ってない部屋の確認を徹底するように指示したわけだよ」
「学び舎を運営しているところは大変だねー」
「いやいや、それはユキ殿も一緒だろう」
「俺の場合は、新築だしな。貴族様もいない土地柄だから、自己責任で済むな。親同士の話し合いになる。というか、運営には基本ノータッチだしな。名誉校長みたいなもんだし」
「気楽だねー。学府が潰れたら、ユキ殿の所に再就職がよさそうだね」
「こっちとしては喜んでと行きたいが、潰れたりはしないだろうさ。イフ大陸の魔術師の底上げはきっとポープリ主体で行われるだろうしな」
「……はぁ、それで私は各国のお歴々からお小言か」
「いや、元々ポープリの腕っぷしもあって、中立の学府だろ。各国の貴族へのつながりも強い。というか、そこらへんが嫌ならもっと他国からの支援なしにやっていけるように産業起こせよ。幸い魔物が住む森があるんだから、そこで素材とか……売っぱらってもダメか」
「ダメだよ。需要を満たせるほど出せない。というか、魔物の素材系はおそらくロガリ大陸からが主になるだろうから、勝負にならない」
「んー。まあ、色々他にも案はあるが、それは後日だな」
「今話し合うことでもないからね。とりあえず、よかったことはこれで、学院の方の安全は確認できたというわけだね」
そう、くだらない結果に終わってしまったが。
残り3つの噂は特に害のないものだった。
無駄に体力を割かなくて済んだというのは幸いだろう。
「結局、不思議は6つだけでしたね」
「いや、ミコスの情報を集めて、6つに絞っただけだからな。噂自体は50以上あっただろうに。というか、6つじゃなくて、実際本物の怪談は4つだったろ。ソウタさんが仕掛けたのだけ」
「ふたを開けてみれば、心霊現象というのはそうそう起こる物ではないということだな」
「そんなものじゃないですか? タイゾウ殿。そうでもなければ、世の中死者で一杯ですよ」
「エージル殿の言う通りだね。まあ、平和に終わって良しとしようじゃないか。学院の教員たちは大変だろうがね」
「「「あっはっはっは……」」」
そんな話をしながら、俺たちはようやく静かな夜を過ごした。
これで、一旦準備が整うまでは、ここで適当に授業をしつつ、ロガリとイフの繋ぎに力を入れるかなー。
Side:ソロ
「ふう。だいぶ遅くなっちゃった」
私は空を見上げながらそうつぶやく。
「店長も、喜んで送り出してくれたし、頑張ろう」
私はお世話になっていたバイト先へ、退職の挨拶に来ていた。
あのトイレでの一件から、どういうわけか、カグラ先輩の外交官補佐みたいな立場を与えるとキャリー姫様から直々に命令書が届いたのだ。
なんで私なんかにと目を白黒させていたが、カンナ先生曰く、これからのウィードとの交流でキャリー姫様は自分の立場を盤石にするためにも、色々味方を増やしたいらしく、エオイドやアマンダとも交流ができたということで、私を引き入れようと思ったらしい。裏に別の貴族の影もなさそうだから、安心だって。
「……ボッチで悪うございましたね」
そう悪態はつくものの、おかげで将来安泰だ。
下手なことをしなければ、無事に上位生になって卒業して、そのままウィード外交官補佐に就職というわけだ。
今回の件で、学費も姫様が持ってくれるって話だし。私の場合は、中位生になってから成績上位にようやく食い込めたから、成績優秀者学費免除は受けられていないのだ。
あれって、入学時からずっと10位以内ってのが条件で超ハードル高いんだよね。
まあ、多少の割引はあるから、助かるんだけど、こうして町に来てはバイトをしてたのも今日でおわり。
「明日から、ぱっぴー!!」
これで平民だからって文句を言われることは……まあ、あるだろうけど、カグラ先輩とかミコス先輩を頼ればいいだろうし、ようやくボッチも終わりだ。
そんなルンルン気分で私は日の暮れた道を急いでいると……木陰から、人が5人ほど出てきて道をふさぐ。
「ソロ・フィンドウだな」
「え?」
「間違いない。この小娘なら、いなくなっても誰も気にしない。事前の調査で、平民の魔術師ということで色々疎まれているのはわかっている。その関係で貴族への覚えもよくない」
「ただの出奔だと思われるか。よし、ならやることはただ一つだ」
そういって、その声から察するに男たちは、腰から剣を引き抜き……。
「さっさと、魔力をいただいてしまおう。我が叡智の為に」
「「「我が叡智の為に」」」
襲い掛かってきた。
「と、盗賊!?」
なんてついてない!?
私が幸せになるのは許さないっていうこと!?
えーい、やってやろうじゃない!!
名探偵諸君、君たちの予想は当たったようだ。おめでとう。
しかーし、本題はそこではない。
その隙をついて、秘密組織が動き出す!!
ソロの運命は!?
心配しろよ、ソロの心配をしろよ!!




