第602堀:改めてご挨拶と今後の話し合い
改めてご挨拶と今後の話し合い
Side:ユキ
さて、埃を落として、再び図書館の秘密の部屋へ赴いた。
『改めて初めまして。神代 宗太と申します。こちら風にいえば、家名が後ろにくるので、ソウタ・カミシロですね』
そういって、深々と頭を下げるのは、秘密の部屋の住人であり、このハイデン魔術学院を創立し、ハイデン建国に貢献したといわれる御三家の1人、本人?の幽霊である。
そして、俺やタイキ君と同じように、この世界アロウリトに呼び出された日本人でもある。
「これはご丁寧に。私は、タイキ君の叔父で、モトメ・タイゾウと申します」
『ほほー。あなたがタイキ殿の叔父さんですか』
まあ、同じ日本人ということで、こんな感じで、俺たちウィードメンバーとは和やかに挨拶をするのだが……。
「お初にお目にかかります。私は、現在このハイデン魔術学院で学長を任されております、グリモ・ワールと申します。ハイデンを作り上げた伝説のお方とお会いできたことを光栄に思います」
『そう言っていただけると光栄です。ですがそうかしこまらないでください。学院長を務めているグリモ殿がいてこそ、今の学院があるのですから』
このハイデンの人々にとっては伝説の英雄であり、学院長は深々と頭を下げ挨拶しているが、ソウタさんの返しで少し苦笑いになる。
というのも、グリモ学院長は前任の後釜で替わったばかりで、学院の失態としてはとんでもないからな。
まあ、本人の失敗ではないとはいえ、胸を張って言えることでもない。
そしてカミシロ家の子孫たちは……。
「私が現カミシロ家当主のソウと申します。この度は分け御霊とはいえ、初代様とこうして対面できることに感動を禁じえません。そして、初対面時に、我が娘、カンナとカグラが失礼をいたしましたこと、ここに深く謝罪いたします。申し訳ございませんでした」
「「申し訳ございませんでした」」
と、3人そろって、深々ーと土下座をするのを見てソウタさんは盛大に苦笑いをしている。
ちなみに、カミシロ公爵ことソウさんは、初代であるソウタさんを発見したということを聞くと、仕事を後回しにしてすぐにあいさつに行くといって、俺たちについてきた。
そして、どういう経緯で出会ったのかを聞いて、青ざめて、今の謝罪になっている。
もちろん、この報告を聞いたのはカミシロ公爵だけではなく、この学院での会談を目論んでいるハイデン王や姫様ももちろん聞いているので、また後日面倒な面会作業になるだろう。
そこはいいとして、目の前で子孫たちが別段悪いことをしたわけでもないのに、土下座をしているのを見たソウタさんは苦笑いしかできない。
一応身内とはいえ、すでに何世代も経っており、今現在のカミシロ家の教育方針に口を出すのはお門違いとも思っているのだろう。
というか、自分がそんなに崇められてもという気持ちが強いのだろう。
一般的な日本人なら大抵そうだ。
そんなソウタさんの困惑を知った水龍が土下座する3人の前に躍り出る。
『そう土下座をする必要はないぞ。元はといえば、この阿呆が悪いのだからな』
『誰が阿呆だ。誰が』
『お前しかおらんだろうソウタ。この阿呆が』
『よし、お前とは結局死を迎えてからもわかりあうことはなかったな』
『はっ、分け御霊も大人しく成仏すればよかったと後悔させてやろう』
場を和ませるために出てきたかと思えば、なんか喧嘩し始めてやがる。
「はいはい。落ち着いて、2人とも。子孫の方々が呆然としているから。先にこっちをどうにかした後でやりあってくれ」
『あ、そうだった。この水の無礼は後で絞めるとして、この前のことは気にしなくていいですよ』
『そうだ。この阿呆に気遣いなど無用。あとで阿呆は私から指導しておこう』
『『ああ!?』』
「は、はぁ」
カミシロ公爵は目の前のやり取りにそう答えるしかできない。
こっちもこっちで、カミシロ家を築いた初代ご先祖様と祀ってきた神様の罵倒の応酬をみてどう反応したものかと悩んでいるようだ。
「こういうのは放っておくのが一番ですよ。特にカンナとカグラのことは怒っていないようですし、過剰に謝られても逆に困るだけです。あとであった時にちょっと謝っておけば、仕方ないことで済むでしょう」
「……なるほど。では、そう致しましょう。今は、初代様とこうして出会えたことに感謝ですから」
なんとかカミシロ公爵は納得したのか、土下座をやめて娘2人と一緒に下がる。
さて、こっちはいいとして、喧嘩をしそうな2人を止めるか。
「はいはい。やりあうのは話の後にしてくれ」
『……そうだな。命拾いしたな』
『お前がな』
なんなのお前ら。
この世界に来て、一緒に協力して生き延びてきたんじゃないの?
いや、本気でやりあっているわけではないのはわかるが、しつこいよ。
普段は馬が合わないってやつかね。いざというときは協力しあえるタイプ。
「で、さっそく本題に入らせてもらうけどいいですか?」
『構わないよ。で、本題というけど、何を聞くのかな? 私は日本に戻る方法はしらないよ。先にカミシロ家に行ったのならそういうことは知っていると思うけど』
「はい。その話は手紙で伺っています。でも聞きたい話はまた別のことです」
『別のこと?』
「まずは、学院の6不思議の話です。危険性のある物がないかを確認したいんです」
『ああ、なるほど』
そう、まずは学院の安全確保だ。
俺たちの本当の目的を言おうにも、他の人の目があるので、今は学院のことだ。
ここで近々会談が行われることだし、命の危険性がある怪談、不思議があるのなら排除しなくてはならない。
『でも、6不思議? 私が用意したものは3つほどですけど。そこまで魔術的、神通力的に余裕がなかったですから』
「じゃあ、あとあと追加されたんでしょうね」
幾ら調べたとは言え、結局伝聞だ。
昔からあるというだけで、裏が取れないものを選んだのだから、当然はずれもあるだろう。
『まあ、学校の不思議とはそういうものですからね。で、私が用意したものですが……。まずはもちろん、この図書館の話。秘密の部屋ですね。あと2つですが、これはどちらも、この図書館に誘導するためのもので、今はどこに設置されているのかわかりませんが、大きな姿見の鏡の不思議。そして、銅像が夜な夜な動き出すというやつですね』
「ふむふむ。どちらも害は?」
『びっくりする程度ですよ。鏡の怪談は映した姿を借りて、日本語で話しかけるだけですし、銅像の方も同じく日本語で話しながらグラウンドを歩き回るだけです』
その程度か。
しかしな、心臓の悪い人はぶっ倒れそうだし、排除していいかを聞いてみるか。
「その、現状こうしてお会いできましたし、ソウタさんが作った不思議、姿見の鏡と銅像は取り除いて構いませんか?」
『ええ。構いませんよ。この部屋のことを信頼できる方々に伝えていただければ。いつかまた日本人とも会うことがあるでしょうし』
「えーと、そこはこのカミシロ公爵か学院長に聞かないとなんとも……」
俺とソウタさんはそういってカミシロ公爵と学院長に視線を向けると、2人とも首を勢いよく縦に振る。
「もちろん。我が家の家宝にさせていただきます!!」
「この秘密の部屋に関しても、王家と話し合い、ちゃんと管理していきたいと思いますので、ご心配なく!!」
『そ、そうですか。よろしくお願いします』
本人からしたら、イタズラ道具なのだろうが、この時代の人からみれば歴史的に価値の高い物だろう。
だからこそ違和感があるのだろうけどな。
そんな感じで、少々ペコペコ合戦はありつつも、和やかに話は進んでいき……。
『そうですか。カグラと姫が、ユキ殿たちをこちらにですか。申し訳ない』
「いえ。こっちもこっちで、元々この世界に来ていましたから」
その過程で、俺たちウィード勢が呼び出された経緯を話すことになり、ハイデンとフィンダールのことも話さざるを得なかった。
『しかし、フィンダールと戦争ですか。スタシア殿下にはご迷惑をおかけしましました』
「いえ。幸い、そこまで被害もなく、ユキ様たちの介入により、このような場を設ける形となりましたので、カグラ殿やキャリー殿下の行動は結果から見れば正しかったと言えると思います」
『そういっていただけると幸いです。ですが、この500年の間に妙なことになっているようですね。ハイレ教の妙な動きに、魔物の消失、そしてフィンダールでの魔物の事件に、今回のハイデンでのことですか』
ハイデンの現状を聞いて、考え込むような素振りを見せるソウタさん。
さて、情報は欲しいのだが、俺から問いかけるべきか、それとも……。
「……失礼ながらお聞きしたいのですが、初代様。今回の事件に関して何か知っているようなことはございませんか?」
流石に、俺が聞く前にカミシロ公爵が聞いてきた。
俺が聞くのは、流石に僭越だよな。
『流石にないね。何せ500年近くこの場所に閉じこもっていたからね。まあ、私が持っている知識や記憶から、何かわかるかもしれないけど、それはそっちに聞いてもらって、君たちが判断することだからね。あくまでも私はもう故人だ。今の時代を作るのは君たちの仕事だよ』
「はっ。失礼いたしました」
『ああ、ごめんごめん。叱ったわけじゃないんだ。そういう心構えでいて欲しいって話さ。もちろん、協力はさせてもらうけど、この話はハイデンの王様たちも一緒に話すのがいいんじゃないかな?』
「その通りでございます。手筈の方はお任せを」
今の話を聞く限り、今回の騒動に関してピンとくるものはなかったようだが、500年前に魔王を討伐して平和をもたらし、ハイレという神を崇めることになった経緯は、俺の本来の目的を達成するためには必要不可欠な情報だ。
今後のこの大陸での活動にあたっても、今回の問題は解決しないと足を引っ張られることは予想できるので、俺たちも協力は惜しまない。
そんなことを考えていると、ソウタさんが口を開く。
『では、今回の各国を巻き込む話は後日改めて話し合うということでいいとして、残りの不思議の調査をしないといけませんね』
「ん? どういう事でしょうか? 他の話はただの根も葉もない噂話では?」
カミシロ公爵は不思議そうに首を傾げながらソウタさんにそう聞く。
まあ、本物の怪談の判別はついたわけだから、残りは偽物ということに……はならない!?
そうだ。
あくまで、ソウタさんが言ったのは、ソウタさんが手がけた怪談だけのこと。
「つまり、他の誰かが何か仕掛けを、怪談を意図的に作ったという可能性もあるということですか?」
『ええ。私が作れたのですから、他の誰かがそういうのを作ってもおかしくないでしょう。ハイデンの王族たちは、地元ということでいいでしょうが、今後他の国々のトップを迎えるならその手の噂の究明をしない限りは、この学院に迎え入れるのはやめておいた方がいいでしょう。この手の怪談は厄介なものが多いのが定番ですからね。万が一、そんなのに他国の来賓が巻き込まれでもしたら、それこそ戦争勃発ですよ』
その発言で、残り3つの不思議の究明と、他に何か見落としがないかの確認作業へと移っていくのであった。
残る不思議は3つ
・夕方に見知らぬ教室が現れる
・2階の東女子トイレは使うべからず
・夜の寮棟の地下には幽霊がでる
ただの噂であって欲しいんだが……。
どれも鬼門のような話だよな。
さて、本物の怪談はどーれだ。




