第603堀:残る噂
第603堀:残る噂
Side:ユキ
残念ながら、ハイデン学院6不思議で、ソウタさんを見つけて、ハイ終わりとはいかなかった。
まあ、普通に考えて、6不思議の1つ、図書館の秘密の部屋の住人である人が、目の前に半透明でいるのだから、残りの噂が全部偽物という決めつけはできない。
むしろ、より一層、他の怪談にも信憑性が出てくるだろう。
つまり、本物の可能性が高いというわけだ。
幸い、6不思議の内、3つはソウタさんが仕掛けたものとわかり、回収作業を迅速に手配することができたので、そこは問題ない。
だが、残る3つはソウタさんの預かり知らぬ噂、不思議であり、こちらも本物である可能性が高いのだ。
その噂の検証をしない限り、この学院での国際会議?の開催は不可能であろう。
もしも、他国の貴賓が怪談で行方不明や死亡なんてなれば、ぶち壊しで、最悪戦争勃発案件だ。
最悪、その場所は改装中に付き危険。とでもして、立ち入り禁止にして警備を強化するしかないだろう。
ま、それは最悪の話。
今は、残る3つの噂のことをソウタさんに聞いているところだ。
案外、実は仕掛けていたの忘れてたよー。ってオチかもしれない。
……いや、淡い夢というのはわかるけどな。
俺がそんな、宝くじが当たるといいなーという妄想をしているうちに、ミコスがソウタさんに、残る3つの噂話を説明し終わろうとしていた。
「……と、ソウタ様が言われるのを除くと、この3つに絞られます」
『なるほど。うん、とても分かりやすいよ。ミコス君、ありがとう』
「い、いえ。お役に立てたなら幸いです」
ソウタさんは説明に使われていた、ノートを手にもって、3つの噂が書き込まれたところを、読み直している。
「えーっと、何か、不備でもあったでしょうか?」
「す、すみません。ミコスは私の友人なんです。どうかご容赦を!!」
『あ、いや。そういうことではないんだよ。安心してくれ。ミコス君にカグラも』
恐らくは、残っている噂が定番という、鬼門、大当たりに近い噂話だから、内心苦笑いしているんだろうが、そんなのは日本人にしかわからないので、難しい顔をしているようにしか見えない。それを見ているミコスとカグラは首を傾げ、今度は、噂の精査をしていた、カンナとグリモ学院長が心配そうに話しかけてくる。
「あ、あの。その噂の精査をしたのは私たちですが、なにかご不明な点でもあったでしょうか?」
「申し訳ありません。何分、500年近くも昔の噂話なので、情報がなかなか集まらず……」
『いえいえ。内容が内容で、ちょっと考え込んでしまっただけですよ。カンナや学院長の仕事ぶりには文句はありません。よく500年も前の噂話なんて集められたと感心していますよ』
ソウタさんがそう答えると、今度はカミシロ公爵が話に加わってくる。
「初代様。その内容が内容というのは、どういうことでしょうか?」
『うーん。この感覚は日本人じゃないとよくわからないんじゃないかー、と思うけど……。ねぇ』
ソウタさんはそう言ってこっちに同意を求める。
しかし、こっちもなんと答えていいものやら……。
素直に話してみるべきか。
「ええ。日本ではよくある定番の怪談ですね」
「定番ですか?」
カミシロ公爵が首を傾げる。
日本の怪談、ホラー話など知るはずもないからな。
「夕方の教室というのは、あれですね。黄昏時で昔の言い方では逢魔が時といわれて、昼と夜が交わる時間で、異界への扉が開かれるといわれています。言い方としては、逢う魔の時や、禍々しいなどが元ですね。教室というのはよくわかりませんが、夕方と限定しているあたり、日本では何かが起こる時間帯といわれていますので私たちとしては、アレだなーと思うわけです」
俺がそういうと、タイキ君も説明に加わってくる。
「特に学校、学院ですからね。こういう特別な環境は時間での変化が激しいですから」
「特別な環境ですか?」
今度は、学院長がタイキ君の説明に食いつく。
「そうです。この学院は将来を担う子供たちがいろいろな力を磨くために来る所ですが、それは日中の話で、夕方には授業が終わり、学院の寮棟以外は静かになりますよね?」
「まあ、そうですな」
「その落差が異様に激しいんですよ。学院長や教員の方々はこれを当然と思っていますが、こんな大人数が毎日出入りして、夜には誰もいなくなるような場所が他にありますか?」
「……なるほど。確かに、ここまでの人の出入りがあるのは、せいぜい王城ぐらいですが、王城は夜もしっかり兵士が見回りをしていますし、元々、学ぶための場所でなく、仕事の場所、王権の象徴ともいえる場所ですからな」
まあ、現代日本では、学校と似たような感じで、工場などの日中と夜の落差が激しい場所は存在する。
だが、やはり仕事場と学校というのは何かと意図するところが違うんだよな。
工場の怪談などよりは、学校の怪談の方が多い。
これは科学的にというか、一般的な意見としては、日本人が共通して認識を持てるか否かということじゃないかといわれている。
だから工場の怪談ではなく、学校の怪談の方が流行ったのだ。
日本人は義務教育で必ず、学校に通うことになるからだ。
それは、先ほど言った共通の認識、話題となる。
ま、こんな心理学に片足突っ込んだような説明をする意味はないから、落差が激しくて不安を煽る場所だというのを理解してくれればいいんじゃないか?
「まあ、そんな感じで、学院の先生方は特に感じないのかもしれませんが、ここに通う生徒たちが、忘れ物などで、不意に夕方、夜の誰もいない学院に足を踏み入れると、言い知れぬ不安に襲われるでしょう」
「確かに、学生たちが知るのは、昼間の多くの学友がいる学院ですからな」
「だからこそ、今回のような不気味な噂が飛び交うんですよ。いや、常時飛び交っているんです。学院長が学生の時にも変な噂があったんじゃないですか?」
「ええ。ありました。鼻で笑っていましたが……なるほど。こう話を聞くと、噂が飛び交って当然なわけですか」
「はい。そして、残る3つの噂は、不安を煽る要素が盛りだくさんなんですよね。夕方の教室の説明はユキさんがしてくれましたから、残る2つなんですけど、トイレに地下。連想できるものが嫌すぎる。噂ならただの笑い話、だけど、本物なら、トビキリの恐怖をプレゼントって感じですね」
「連想ですか?」
「トイレについては、まあ怪談の定番で、狭い密室、出口は1つ、不浄のたまり場、幽霊ネタに事欠かない日本では伝統の場所。誰もいないのに扉があかなかったり、上からありえない恰好で誰かがのぞき込んでいたり……」
タイキ君がそう説明すると、学院在住のカグラ、ミコス、カンナがひっと叫び声をあげる。
おいおい、無駄に怖がらせるな。
トイレの噂は女子トイレなんだから、検証をするなら、この3人が筆頭候補だぞ。
俺は肘でタイキ君をツンツンとすると、察したのかすぐに話をもう1つの方に変える。
「こほん。トイレの方はこれぐらいでいいとして、寮棟の地下ってのは、土の下、墓という感じのイメージはあるんですけど、こっちはあまりピンとこないんですよね。噂話はどんな感じなんですか?」
『えーっと、夜の寮棟の地下に幽霊が出る。っていうやつだね。この噂は、文字通り寮の地下にある倉庫で、妙な人影を見たって話だね。実害の方は特に記載されていないな』
ノートを持っているソウタさんがそう答える。
「もともと墓地だったとかは?」
『そういうのは知らないな。ソウや学院長は何か知ってますか?』
「いえ、そういう話は聞いたことがありませんが……」
「いや、公爵、ちょっとお待ちください。確か、地下で誰かが亡くなったというのを聞いたことがあるような……」
「亡くなった? 私の方は……いや、そんな話を聞いたことがあるな」
『実際に亡くなったという記録を見つけたような話じゃないみたいだね』
「はい。噂の程度です。今では地下は倉庫になっておりますが、どれほど前かはわかりませんが、以前は寮生の部屋だったという話です」
「ええ、学院長と同じ話を聞いたことがあります。地下の部屋ということで、苦学生などが格安で利用していたと聞いています」
『苦学生? 成績優秀者学費免除制度はなくなったのかい?』
「いえ、今でも成績優秀者学費免除制度はありますが、それに漏れた生徒たちが、それでも学びたいということで、学校の清掃や管理の仕事をかけ持ちしながら、勉学に勤しんでおります」
『そういうことか……。個人的にはそういう意欲がある生徒には援助してやりたいが、そうもいかないか』
「ええ。心意気は買いますが、私たちが援助しては、勉学を頑張って学費免除制度を手に入れた生徒や、普通に入学費用などを払っている生徒たちに対して不公平になります。しかし、ご心配なく。初代様が申されていました、奨学金制度が100年ほど前に施行されましたので、仕事とはいえ、そこまでキツイものでもありません」
『へえ。奨学金ができるようになったということは、ちゃんと学院の意義を認められたわけか』
「はい。学院ができることにより、魔術師の質は年を重ねるごとにあがり、今ではこのハイデン魔術学院を見本として各国にも同じような学び舎ができるぐらいです。今では学院への投資に首を傾げるものはおりません。今回のカグラがユキ様たちを呼びだしたことも、プラスに働いています」
本当にソウタさんが学校の設立に力を入れてたんだなーと思う話だ。
よくもまあ、理解を得られない中からここまでやったもんだ。
『なるほどなー。喜ばしい限りだ。じゃなくて、今は不思議の話だ』
あ、そうだった。
今は、そういう学院のいろいろな苦労話ではなく、不思議の話だ。
「ああ、失礼しました。その奨学金制度が施行される前までは、自分で毎月全額支払いながら頑張っている生徒が地下を格安で使っていたという話です」
「その生徒は別に地下で死んだのではなく、町の方で仕事中に事故死したとかなんとか、その結果……」
『学院に未練がある、その生徒が夜な夜な出るわけか』
「はい。日中は勉学に仕事と忙しく、夜に部屋で自主勉強をしていたとかなんとか……」
「外出中の死亡記録はそこまで残っていなかったので……」
『いや、ありがとう。そういう話が聞けるのはプラスだよ』
そんな感じで、詳しく残り2つの噂も、何か別の話が関係していないかとカミシロ公爵、学院長、カンナ、カグラ、ミコスが頭をひねって思い出そうとしていたが、結局、寮の地下以外には明確な話が残っておらず、実際検証してみるしかないということになった。
残る噂は3つ
・夕方に見知らぬ教室が現れる
・2階の東女子トイレは使うべからず
・夜の寮棟の地下には幽霊がでる
さーて、ただの噂話か、それとも、この中に本物が紛れているのか。
その本物は何か厄介なことを抱えてないと良いんだけどな。
「で、個人的にはどれが当たりだと思う? タイキ君」
「そうですねー。話を聞く限り、濃厚なのが寮の地下の話ですかね」
そんな話をしていると、タイゾウさんとソウタさんも話に加わってきて……。
「逆に、関連する話がないというのも、本物だからいう可能性が高いと思うがな」
『体験者が戻ってこないから、明確な記録、話が残らないってやつですね。ありえそうですね。私自身いますし』
ああ、よくある当事者死亡の怖い話とか、だれがこの話聞いたんだよ。っていう矛盾を突いた話ね。
死人に口なし、誰も無事に戻ってこないから、本物の可能性が高いというやつ。
で、そんな話をしていると、デリーユがツンツンとつついてきた。
「どうした?」
「どうしたもなにも、恐怖を煽ってどうするつもりじゃ。そこのソウタ殿が関係ないというなら、安全の保障もない怪談探検ツアーじゃろう? 特に、誰が女子トイレにいくのかのう?」
「「「あ」」」
それから、女性陣の説得に野郎どもは苦労する羽目になったのは言うまでもない。
さて、残る噂を詳しく聞いてみたり調べてみたり。
3つの噂の内、一番怪しいのは寮棟地下。
でも、他の2つも怪しさ満点!
次回から噂の究明。どうなる怪談調査隊!!
そして女子トイレ捜査隊メンバーは誰になるのか!!
ちなみに、トイレの話は男子トイレの噂も私の学校ではありました。
みんなはどうだったでしょうか?




