第601堀:掃除の時はバケツの水が一番メンドイ
掃除の時はバケツの水が一番メンドイ
Side:ユキ
「こほっ」
「けほっ」
「くしゅん」
そんな声が部屋中で聞こえる。
俺たちは今、ソウタさんの所と繋がっている、図書館の倉庫を掃除しているのだが、500年分?の埃を落としているので色々と忙しい。
「埃すごいですね。ユキさん」
「そうだな。幸いなのは、物自体はそこまで多くないってことか」
この倉庫はパンパンに詰め込まれるようなことはなく、そもそも、ソウタさんが仕掛けた秘密の部屋の出入り口になるため、あえて、窓なし、この倉庫に来るにはぐるーっと図書館入って、受付の方から回ってからじゃないと入れないという、不便な作りにしておいたせいで、ここにモノを置いているのは極少数なのだが、代わりにほったらかし過ぎて、埃がすごいことになっていた。
「ここまでひどいと、ツタンカーメンの呪いとか、ファラオの呪いとかいう、カビ毒とかあるんじゃないですか?」
「いや、あれは番組ででっち上げただけで、実際の死者は1人だけだぞ。ただ具合が悪かったところに、ウィルスでも入って急死したって話だぞ」
「あれ? そうなんですか?」
「よく知っているな。あれは、周りが勝手に騒いだだけだろう」
俺たちがそんな話をしながら、古い椅子を運んでいると、タイゾウさんが話に加わってきた。
「あれ? タイゾウさんってツタンカーメンを知っているんですか?」
「それはもちろん。1922年11月4日に発見されたと大々的に世界に発表されたからな」
「ああ、まだ大戦前ですか」
「そういうことだ。学者やその手の職についていたのであれば、噂ぐらいは聞いただろう。ユキ君たちのおかげで現代の情報を色々みてはいたが、ツタンカーメンの呪いというのが出てきて驚いたよ。なかなかいい笑い話だった。あれだな、話題にはちょうど良かったのだろう」
そう、あのツタンカーメンの呪いとかファラオの呪いとか言われているのは、基本的にデタラメなのだ。
関係者が次々と死んだとされているが、平均年齢70歳以上という高齢。
天に召されて当然の年齢である。
発掘に関連して1人だけ死んだとされているが、その人も別に墓を暴いたとたん死んだのではなく、数か月後、しかも急死ではなく、髭剃りの時に皮膚を傷つけ熱病に感染し、肺炎を併発したという経過報告もある。
「ツタンカーメンの呪いと騒ぐなら、日本にはそれ以上のいわくつきがあるだろう」
「ありましたっけ?」
「タイキ君。ほら、日本の首都ど真ん中にあるだろう」
「首都のど真ん中? ああ!! 平将門ですか?」
「そうだ。しかし、米軍でも排除できないという話ができたのは驚いたな。まあ、どこまで本当かわからんが、いまソウタ殿と会ったというユキ君たちもいることだし、あながち嘘でもないのかもな」
ですよねー。
いま、俺たちは学院6不思議の当たりを引いたわけですから、本場の日本でその手のことがあながち嘘だとは言い切れないのが怖すぎるよな。
そんな話をしながら荷物を置いて戻ってくると、倉庫掃除をしていた他のメンバーがなぜかそろって仁王立ちをしながら、こちらを見ていた。
「ん? どうした?」
「どうしたじゃないわよ。私たちがけほけほいって掃除してるのに、なんで、ユキたちは咳き込まないのよ」
一歩前に出てきてそういったのは、ドレッサだった。
その言葉にほかのメンバーも頷く。
そういえば、ドレッサの言うように、俺たちは特に咳き込んではいないな。
なにか違いが……と思ったら、違いは明らかだった。
俺やタイキ君、タイゾウさんは防塵マスクを着用。
他のメンバーはハンカチなどの大きめの布を口もとに巻いているだけである。
それでは密閉できるわけないので、埃を吸ってしまうのだろう。
というか、アマンダ、エオイドなどのウィード以外の人が手拭いを使うのはわかるが、嫁さんたちもマスクを着けていないのが不思議だった。
「いや、この防塵マスクをつけてるからだけど」
「マスク? マスクってお医者さんが使うものでしょう?」
ドレッサが首を傾げる。
ああ、そうか。
未だに、ウィードではマスクは浸透していないのか。
ようやく衛生面の関係で、お医者さんがつけるものという認識があるだけで、予防の為とか、埃を防ぐために一般人がつけるものという認識はないのか。
その証拠に、ルルアも手拭いを口に巻いているだけだ。
「え? マスクは病気を感染、拡散を防止するだけの物では?」
と、ルルアは驚いた感じでそういう。
まあ、病気に関連付けてしか教えていなかったから、そういう認識になっても仕方ないか。
「いや、埃がでるような場所では、こういう防塵マスクというのがよく使われる。もちろん、吸い込むと有害なものを防ぐためってこともある」
現代日本でいうとアスベストとか? そういうのを防ぐためにも建築関係者はヘルメットはもちろん、防塵マスク着用義務もあったんじゃなかったか?
あと、塗装関係者もするよな。シンナーとか普通に使うから、マスクは必要不可欠だ。
「というか、建築や解体の現場はウィードでは手拭いか?」
「え? それはどうでしょう? ナールジアさんの部署ですから」
あのトンデモ妖精と筋肉ドワーフたちがマスクとかするとは思えんな。
というか、病気時のマスク着用も義務化するか?
無駄に風邪を広げる理由もないからな。
うーん、一度ウィードの会議で話してみるか。
まあ、それはいいとして、なんとなくみんなは手拭いをあてるだけで平気なのだろうと思っていたが、そうでも無いようだ。
ならば、みんなに防塵マスクを渡せばいいだけだ。
「ちょっと蒸れるけど、埃に咳き込むことはなくなるから、使ってみてくれ」
俺がそういって、防塵マスクをだすと、みんなためらうことなく着用して、作業を再開する。
「うわ。全然大丈夫。エオイドそっちもって」
「わかったよ。よっと。埃が立っているのに平気だから楽だね」
そういいながら、机を運び始めるアマンダとエオイド。
「ユキの言ったように少し息がこもるわね」
「カグラ、これだけでもすごいよ。ちゃっちゃと本を運び出そう」
「そうね。ユキが出してくれただけで感謝よね」
「そうそう」
カグラとミコスも先ほどより動きがよくなっている。
「……妾はこのマスクは苦手じゃのう。呼吸がしにくい」
「デリーユは格闘タイプだもんねー。呼吸って大事だから。まあ、私もなんだけど……」
デリーユとリーアは防塵マスクは苦手なようだ。
まあ、かなりこもるからな。
だが、埃を吸うのは嫌なようで、しぶしぶマスクを着けている。
そんな姿を見ながら、タイキ君が口を開く。
「マスク一つでも文化が違うと大変ですね」
「まあ、衛生マスクという概念自体が元々なかったからな。ああ、仮装用のマスクは歴史は古いだろうが」
「そっちはマスク違いですね」
「日本では1919年のインフルエンザの流行でマスクが一般化した感じだな」
「さっきのツタンカーメンの少し前ですか」
「だから、私も知っている」
「なるほど」
俺やタイキ君がタイゾウさんの話を聞いて納得していると、ルースが声をかけてくる。
「陛下。こっちを手伝ってもらえませんか?」
「あ、今行く」
タイキ君はすぐにルースの手伝いに加わり、俺たち2人になる。
「私たちも雑談はこれぐらいにして、がんばるか」
「そうですね」
「では、旦那様、タイゾウ様」
「「うおっ!?」」
気が付けば後ろにキルエがバケツを持って立っていた。
「驚かせて申し訳ありません。よろしければ、バケツにお水をお願いできますか? 大体の荷物は運びだしましたので、そろそろ雑巾で拭き掃除を始めたいと思うのですが」
「ああ。わかった。任せてくれ。ユキ君。雑巾を頼む」
「はい」
「旦那様とタイゾウ様はあちらを、私は向こう側を掃除しますので」
テキパキと指示をだすメイドのキルエ。
流石メイドというべきか、この倉庫の掃除において最高指揮官である。
彼女より掃除に長けた人物は我が軍には存在しないだろう。
まあ、俺が掃除を手伝うというと、顔をしかめたのだが、だからといって、他の先生や生徒を入れるわけにもいかないので現有戦力で掃除をするしかなく、掃除への参加を認めてくれた。
「んしょ、んしょ。キルエかか様、こんな感じ?」
「はい。見事でございます。秋天様。ですが無理をしてはいけませんよ」
「流石、私の娘」
「クリーナ様はちゃんと角を拭いてくださいませ。埃が残っています」
「うぐっ」
「かか様。がんばる」
秋天やクリーナも一緒になって掃除をしている。
俺とタイゾウさんは魔術で水をバケツに出して、そのあとは汚れた水を外に運んで捨てるという作業を繰り返した。
無論、途中でタイキ君やルース、エオイドも参加して、男連中は重労働を請け負った。
アイテムボックスに入れて運ぶかという話もあったが、流石に埃まみれの汚水を食料なども入っているところにいれるのはどうかということで、持って運ぶことになった。
バケツがアイテムボックス内でひっくり返るというのはないと思うが、気持ち的な問題だろう。
魔物の死体とかは血や糞尿詰まってるじゃんとかは言ってはいけない。
まあ、今後はそういう汚物運送用のアイテムボックスの腕輪とか用意するべきなんだろうな。
と、そんなことを考えつつも、そんなにしょっちゅう水を代えるわけでもないので、俺たちも拭き掃除に参加して、大体掃除開始から3時間ほどで綺麗になる。
あとは、風の魔術で一気に部屋の残った埃などを外に押し出す。
最初にやればという意見もあったが、荷物が色々あるし、俺たちが大量の埃に巻き込まれたり、通路が埃まみれになるので、一回は掃除しないといけない。
世の中、楽はできないということだ。
その点、ウィードにある我が家の自動清掃システムはかなり素晴らしいものと言えるだろう。
ここだけは、駄目神に感謝するべきなのかもしれない。
あの堕落した女神だからこそ発想できたシステムだろう。
だが、幾ら部屋に埃が溜まらないとはいえ、マンガ本や菓子の空袋を散らかしていては意味がないので、ルナの部屋が汚部屋であることには変わりない。
まあ、家政婦神という、リリーシュにヒフィーがいるからそこまで問題はないのだが、いろいろな意味で問題だと思うのは俺だけだろうか?
「どうかしましたか、何か掃除し忘れとかありました?」
俺がそんなことを考えていると、タイキ君が不思議そうに声を掛けてくる。
「あ、いや。どうでもいいことを考えていた。駄目神は掃除できねーなーと」
「ああ」
タイキ君はそれ以上何も言わなかった。
何を言ってもどうしようもないと理解しているから。
ついでに、駄目神とは言え俺たちの大事な物資供給者でもある。
迂闊なことをいえば、物資を止められかねん。
「さて、ユキ君。そろそろ、ソウタ殿と会ってみたいのだがいいかな?」
「あ、えーと、掃除後で汚れていますけどいいんですか?」
「私は構わないが……」
そういって、タイゾウさんが振り返ると、女性陣は埃をかぶったままは嫌だと首を横に振っている。
「……私も色々気配りが足りないようだ」
「まあ、とりあえず。開通しているかを試してみましょう。正式な挨拶はまた後日でもいいでしょうし」
「そうだな」
そういうことで、特に汚れを気にしない、男性陣だけソウタさんと会うことした。
「えーと、このお守りをと……」
ソウタさんに言われた通り、扉があった場所にかざすと、ボヤッとドアが浮かび上がってきた。
無事につながったようだ。
そう思っていると、ドアが開く。
『やあ。思ったよりも早かったね』
どうやら、ソウタさんがこっちに気が付いたらしく内側からドアを開けてくれたのだが……。
『へっくしゅ!? へくっしゅ!! あれ? なんか埃っぽい? へっくし!!』
ソウタさんは敏感らしく、埃のせいでくしゃみが止まらなくなり、俺たちも一旦出直すことになった。
あれだね。ちゃんと身だしなみを整えましょうということなのだろうか?
というか、幽霊もくしゃみするのかよ。
バケツの水くみも面倒だが、冬場の雑巾がけが一番嫌だった時がある。
友達と楽しく掃除していると、テンション上がっているから気にならないんだけど。
怪我とかしてると、しみて冷たくて、二重で辛いよな。
そこで思い出したが、学年に一人は真冬に半袖半ズボンのやついたよな。




