第600堀:おもひでばなし
おもひでばなし
Side:ユキ
『粗茶ですが』
「あ、どうも」
そういって、お茶を差し出してくるのは、半透明の男性。
『いやー、ここまで大所帯でくるとは思いもしなかったもので、手狭で申し訳ない』
「いえいえ。こちこそ大人数で押しかけて申し訳ない」
『いえいえ。長い間、この和室でのんびりしていましたからね。人が多いのは嬉しい限りです』
そんな雑談をしている場所は、噂の図書館の秘密の部屋だったりする。
探索の結果、この部屋を見つけて、ソウタと名乗る幽霊に招かれて、お茶をしているところだ。
幸か不幸か、カグラのドアトラブルにより、お互い危機感は感じなかったので、自己紹介してすんなり秘密の部屋で歓待を受けているのだが……。
「……」
「カ、カグラ。ほ、ほら。お茶おいしいよ」
当人は顔を伏せて微動だにしない。
……何と声をかけていいのかわからない。
あれだ。笑いをとろうとして滑った感じ?
でも、カグラは芸人でも笑いを取ろうとしたわけでもない。
……ミコスにとりあえず任せておくしかないだろう。
現実逃避をして、とりあえず目の前のソウタさんと話をするとしよう。
『しかし、水がいるなんてな』
『はっ。それはこっちの言葉よ。家ではすっかり成仏しおってからに、なぜかこっちで写した魂は現役とはな』
『いや、実家で幽霊話とか、先代がいつまでもいるのは邪魔でしかないだろうが。そもそも、カミシロの家の為にこの俺がいるわけじゃないからな。この俺はあくまでも、この学院を訪れた、日本語を理解できる人との接触の為だ』
『なるほどな。カミシロの家よりも、学院の方が人の集まりはいいだろうからな』
『そういうこと』
つまり、この写し魂と言っているソウタさんは、あくまでもコピーであり、目的は日本人に関係するであろう人物との接触だったらしい。
水辰之命のことは、水と呼ぶ間柄らしい。
水龍に気が付いたときは喜んでくれた。そういう意味でも連れてきて正解だと思う。
「少しお聞きしたいのですが、学院の不思議として作ったのは意図的で?」
『ええ。日本人が来る可能性は限りなく低いと思いましたが、来たのならば必ず興味を持つと思いましたので。あえて、定番に近いものを作らせてもらいました』
なるほど。
だから二ノ金とか、花子さんのようなネタがあったわけか。
『まあ、音楽室とかないものもたくさんありましたので、作るのに苦労はしましたが』
そりゃそうだろうな。
『だが、ネタが捻り過ぎだ。誰も今まで来なかったのだろう?』
『いやー。確か、150年ぐらい前に一人来たぞ』
『日本人と何か関係あったのか?』
『いや、偶然らしい。俺の顔を見てひっくり返った。彼女には申し訳なかったな』
『当然だ』
水龍と同意見。
誰だって驚くわ。
女性ならなおさらだろう。
「で、少々心配事があるのですが、外との時間は……」
『ああ、そこは心配いりません。逆浦島太郎って感じですから、6分の1ぐらいの時間の進み具合ですよ』
つまりこの中では1分過ごして10秒ということか。
この前の探索で10分行方不明というのは、この中で1時間歩き回っていたわけね。
どおりで、タイゾウさんが見せてくれた監視記録が妙だったわけだ。ループに加え時間が圧縮されていたんだから。
『ということで時間の心配はいらないのですが、その前に』
「その前に?」
『うちの子孫。なんとかできないでしょうか』
そういって視線を向けるのは、未だにうつむいたままのカグラ。
死んだ目で自己紹介をしてからあのままである。
『お前がいらんドアを作ったからだろうが。普通、屋内から外に開けるドアは押すと思うわ』
『いや、見ての通り俺の部屋だしな。こっちから見れば室内から外だから外開きであってるんだよ』
『阿呆。客観的にみて、外壁についている扉が内開きと思うか』
『あー、水は相変わらずうるさいな。今は子孫の事だよ。俺に説教しても仕方ないだろうが。というか、水の方が知ってるだろ。彼女、なんとかしろよ』
『ぬぅ。私とて、付き合いが長いというわけではないのだ。儀式で呼び出されることはあっても、会話を始めたのはつい最近だ』
『役に立たねーな。長生きしている意味はどこにあるんだか』
『相も変わらず口が悪いな。クソガキが』
『『ああ!?』』
ダメだこいつら。
なんか喧嘩腰になっている。
とりあえず、こういう時は家族が慰めるのが大事だよな。
「カンナ。カグラをたのめるか? 見ての通り、カグラを気にしているから」
「はい。わかりました。お任せください」
そう返事をしたカンナは迷いなくカグラの所へ歩みよって。
「あ、カンナ先生?」
「……お姉様?」
腕を振り上げて……。
バチーン!?
カグラの頬にいいビンタを振りぬいた。
そのいい音に、喧嘩をしていた阿呆2人も静まりかえる。
「……い、いたい。な、なんですかいきな……」
叩かれた頬を押さえて文句を言おうとするカグラだが。
バチンッ!!
再び反対側の頬へビンタが飛び、こちらもいい音がでた。
これが伝説の往復ビンタという奴である。
一発ビンタは見ることはあるが、往復ビンタは漫画とかゲームでしか知らないので、なんか貴重なものを見た気がした。
と、どうでもいい。
なんでいきなりビンタに走った?
これは俺が出て止めるべきか?
「カグラ!! あなたは自分の一挙手一投足に自覚を持ちなさい。初代様が気にされているのです!! 確かに、意気込んだ割にはドアを開けられないという恥ずかしい醜態をさらしたでしょう」
「ぐふっ!?」
あれ? なんかカンナが止めさしてね?
「ですが、カグラ1人の為に、話が進まないなど言語道断!! カミシロ公爵家の血筋のものとしてそちらを恥じなさい!!」
「うっ」
「周りが気をよくしてくれるのであれば、進んで道化を演じなさい!! 姫様はそれをずっとやってきました!! それをカグラは笑うのですか!!」
「……いえ」
「ならば、今やるべきことはわかりますね?」
「はい」
カグラはそういって、ようやく目に精気が戻り立ち上がる。
「初代様。ご心配かけて申し訳ありませんでした。私はこの通り元に戻りましたので、お話を御進めください」
カグラが両頬を真っ赤にしてそういう。
『あ、はい』
『う、うむ』
ソウタさんと水龍はドン引きな様子ではあるが、迂闊に口は出せないとわかったのか、素直にうなずく。
……うん。元はといえば、この2人がカグラを立ち直らせるために、相談して喧嘩になりかけたのが原因だから何も言えんわな。
『え、えーと、何のはなしでしたでしょうか?』
『な、なんだったかな?』
カグラの後ろに控えている、カンナの威圧に押されて、2人は頭が真っ白になっているらしい。
「この怪談、不思議は意図して作ったのかという話ですよ」
『ああ、そうそう。意図して作ったものというのは言いましたね?』
「はい。あとはなぜ日本人と接触したかったのかというところですね」
『それは、まあ、あれですよ。故郷を思い出したというべきですか、少し当時寂しくなりましてね。戻れるとは思わなかったし、今更、この国を捨てるわけにもいかなかった。だから、せめてという感じですね』
なるほど。
ソウタさんにとって、この怪談は純粋にいつか日本人と出会えるかもしれないと願いを掛けて作ったものか。
『まあ、家の子孫たちや水と出会っているということは、カミシロに残しておいた遺書みたいなものは読まれたのでしょう?』
「ええ」
『でしたら、順序が逆でしたね。私としては、こちらからカミシロ家へ行くように言おうかと思っていたのです。この証拠と一緒に』
そういって取り出してきたのは少年ジャソプだ。
『こちらに呼ばれたとき、今週のを読む前に、先週の分を読み直していたんですよ。これ以上に証拠となるものはないでしょう』
「そうですね」
ソウタさんの言う通り、これ以上、日本人であるという証拠もなかなかないだろう。
漫画、それは日本が世界に誇る文化。至高のエンターテインメント。
そして、漫画の神様という現人神まで生まれたジャンルである。
『いやー。お恥ずかしながら、漫画が好きでして、よく読んでいたのですよ』
「私もそうですよ。楽しいですよね」
『そうですか!! いやー、異世界に来てまで漫画好きな日本人の方と出会えてうれしいですよ。うちは神社でお固くてですね。漫画はけしからんって感じで』
『よく、父に叱られてな、私の社でこっそり読んでおったのだ』
「厳しい家庭ってのはやはりあるものですね」
『ええ。うちは人一倍って感じでしたね』
『ソウタがだらしなかったのが一番の原因だと思うがな』
あははは、と3人そろって声をあげる。
うちの嫁さんたちは仕方がないなーって感じの表情だが、スタシア殿下やカグラ、カンナは首を傾げている。
『と、皆さま、申し訳ない。少し話し込んでしまったようです。特にフィンダールのお姫様。ご無礼をお許しください』
「い、いえ。故郷の話に花を咲かせるというのは、当然だと思います」
『しかし、フィンダールのお姫様ということは、ボーウィットの家系でしょうか?』
ボーウィット? 誰?
聞いたことのない名前だが、スタシア殿下は知っていたのか、驚きの表情になっている。
「は、はい。その通りです。いえ、詳しく言えば、私、スタシアはボーウィット様の次女からの血筋ですが」
『あー、あの子からの。しかし、長男が健在だったはず……』
「いえ、それから色々ありまして、100年後に長男、長女の血筋が途絶えてしまって遠縁と言っていい次女様の血筋である私たちが王位に就くことになりまして……」
『なるほど。まあ、人の世ですし。あることですね。しかし、500年も経った今でも、こうやって私の子孫とボーウィットの子孫が手を取り合っているというのは、嬉しい限りです』
そう笑顔でいうソウタさんだが、それを聞いた、スタシア殿下、カグラ、カンナは顔をそらす。
そりゃな、つい最近まで戦争していましたとか言えねーよな。
笑顔で、ハイデンとフィンダールの仲が良かった話をしている相手に。
まあ、ここで変に怒らせて、悪霊になるというパターンは勘弁だし、今は話をそらしておこう。
「まあ、つもる話はまた後日にとおもいますが、この空間って一度限りとかそういうのですか?」
『ああ、そうですね。そっちの心配がありましたね。気が回らず申し訳ない。この部屋ですが、蓄積してきた魔力を使って霊力と合わせているので、この学院から人がいなくならない限りはなくなりはしませんよ。人がいなくなれば、この空間を維持している私が空腹状態という感じになって、暴れる、人を取り込む可能性もありますが、まあそうなる前にさっさと消えようとは思っていました』
「なるほど。案外、日本の怪談も同じかもしれませんね」
『そうかもしれません。で、この部屋の話ですが、また同じ道を通るのは面倒でしょうから。こちらをどうぞ』
そういって手渡されるのは、小さなお守り。安全祈願と書かれている。
『これを持って、図書館一階の同じ場所に来てください。そうすればこのドアが出現しますから』
「なるほど。人に見られる心配とかは?」
『ないとは言いませんが、一階のドアがある場所は何も変わっていなければ、倉庫になっているはずです』
そういえば確認したときに、一階の倉庫らしい搬出入口があったな。
まあ、書店ってわけでもないだろうし、もともと出入りは少ないか。
「では、申し訳ないのですが、外に人を待たせているので一旦戻って、改めてお話を聞くということは可能でしょうか?」
『ええ。かまいません。というか、よろこんで。ユキさんもこちらに来られて色々困っているでしょう。そういう人の為に用意した場所ですからね。私からもまだまだ聞きたいことがありますし』
そんな感じで、初っ端のカグラとカンナが修羅場だっただけで、あとは終始穏やかに話が進んで終わった。
「えーと、時間とかは?」
『気にしなくて結構ですよ』
「そうですか。一日後ぐらいにはまたお伺いします」
『ええ。お待ちしております』
そういって、俺たちはドアから出て行くと……。
「ケホッ。埃が凄い」
「……ううー」
「秋天様。お口にハンカチを……」
埃まみれの、倉庫だった。
この掃除が一番憂鬱だなー。
思ったより気安い仲であったソウタと水龍。
そして、カグラは落ち込み、カンナは怒れる。
家庭の事情は色々割り込みずらいよね。
あと、前日言っていた「雪だるま式 小説家になろうで小説を書く方法」できましたので興味があればどうぞ。
完全に個人的なものなので、絶対というわけではありません。私がどうやればかけるかなーと思って作ってみました。
「雪だるま式 小説家になろうで小説を書く方法」https://ncode.syosetu.com/n1333ei/




