第592堀:物騒な噂話
物騒な噂話
Side:ミコス・ジャーナ
学院6不思議
このハイデン魔術学院には出所不明にもかかわらず昔から語り継がれる噂が6つ存在している。
これは私、ミコス・ジャーナの単独情報収集により判明した。
私は常日頃より、情報部に在籍し学院を盛り上げるために噂を集めたがまさか、この学院の創立者ソウタ・カミシロ様につながるとは思いもしなかった。
この情報開示は学院やカミシロ家はもちろん、王家からも承諾を取ってあるれっきとした事実である。
さて、本題である学院の6つの不思議であるが、なぜその6つが選ばれたかを説明しよう。
学院に在籍したことがある人たちは分かると思うが、この学院の歴史の古さから山ほどの噂話や不思議な話が存在している。
私が調べただけでも100はくだらない。
そこからどう6つまで選別したかというと、学院長やカミシロ家などの協力を得て、まったく情報がなく、創立当初から存在している噂話を集めたからだ。
私だけで選別したといえば、読者は信じられないだろう。
だが、この6つは学院やカミシロ家の記録と照合して選別されたものであり、精度はかなり高いと言っていいだろう。
つまり、この6つの噂話は掛け値なしの、不思議な話であるということだ。
私はこの噂話の真実を明らかにするためにこれから調査にのりだす。
そう書いて私はペンを下す。
「うん。今日は執筆が進むね」
いつもは悩むんだけどね。
悩みに悩みぬいて、誇張しすぎた記事を書くこともしばしば。
まあ、嘘は言っていないから問題ないんだけど。
いつものように大物貴族相手の記事を書いて言い訳することもないし、身の危険を感じることもないから本当に気楽だよね。
「というか、情報を集めて売って金をとらないと学費なんて出せないしね」
悲しいかな。
貴族とは言え木っ端の男爵。
騎士という名ばかりの貴族よりは年金がでるからマシだろうと思う人もいるが、実のところ、爵位もちは貴族の付き合いというのが発生し、お金が飛びまくるのよね。
むしろ、騎士の方が楽かもしれないというぐらい出費が激しい。
領地があってもお金持ちというわけでもない。
少しでもお金があれば領地の発展に使うので、余分なものはほとんどない。
地方の木っ端貴族なんてそんなものだ。
だから学院で色々な貴族の情報を集めて、それを利用してお金にする。
この情報部を選んだのはある意味必然だった。
「ま、今回は学院長のお墨付きどころか、カグラのカミシロ家に王家の御墨付きで、さらにはあのウィードともお近づきになったんだし、これは無報酬でもやらないとね」
そう、今回は相手が大物。
しかも、バイデ防衛戦で私たちの命を救ってくれたウィード相手だ。
そのぐらいの礼儀は弁えているつもり。
あの戦い、正直後がなかった。
カグラが召喚したユキ様たちがいなければ今頃死体を野にさらしていたと思う。
流石に最初はいきなりウィードが制圧しましたって宣言されて意味不明だったけど、あっという間に外のフィンダール軍を片付けたし、助かったと思った。
まあ、自分たちも拘束されるとは思ってなかったけど。
とはいえ、拘束されている間の生活も別に悪くなかったし、今考えれば余計な混乱を防ぐためだというのはわかる。
一部のバカ共がラビリスちゃんや精霊の巫女様であるシェーラちゃんに喧嘩を売ってフィンダール兵と一緒にぶっ飛ばされていたのは仲がいいのか悪いのかよくわからなくて笑えた。
ということで、ウィードのおかげでバイデ防衛戦を潜り抜けた上位生たちは、カグラの王宮での目覚ましい活躍により、政府内部が粛清でがたがたになったため、その穴埋めという感じで、上位生たちの就職先は決まったのだから、万々歳で怪我の功名という奴よね。
そんな幸せをもたらしたウィードに恨み言をいう一部の上位生の連中は、他の上位生のみんなにボコにされる。
そりゃそうよね。下手すれば就職がパーになりかねないんだから。
なので、学院内のウィードの評判は概ね好評で、今回の訪問では失礼のないように内部の引き締めを私たち上位生が率先してやっているぐらいだ。自分の進退に関わるからね。
中位生、下位生たちが多少心配だったんだけど、ジーマンのアホは完膚なきまでにボコにされたし、他の生徒たちは初日の演武やジーマンの道化っぷりをみて、力の差を確認したようで大人しくなった。
一番懸念していた、ラビリスちゃんたちを怒らせるというのが解消されてなにより。
しかし、謎がある。
今回、学院の不思議を調べるのは御三家の遺言みたいなものだから別にいいんだけど、なぜ、ウィードの方々やフィンダールの方々がわざわざ学院に来ているのかを私は知らない。
恐らくは政治的な理由なんだろうけど……、カグラに聞いてみようかな?
「でも、下手に首を突っ込んで、掻き切られたら終わりだし……」
今のところウィードが関わることは大事だからね。
運よく、私がカグラの友人ってことで不思議の謎解明に付き合わせてもらっているけど、これ以上は藪蛇かな?
「なにが、掻き切られるって?」
「うひゃ!?」
いきなり後ろから声を掛けられて驚く私。
慌てて振り返るとそこにはカグラが立っていた。
「いや、なんで部屋にいるのよ」
「何度もノックしたけど、返事がなかったから入ったのよ」
「あ、そうなんだ。ミコスちゃん、気が付かなかった」
「でしょうね。相変わらず執筆してると周りに無頓着なんだから」
彼女はカミシロ公爵家次女ということで、私みたいな木っ端貴族とは違い、財力も才能も天と地ほど開きがあったのだが、カミシロ家特有の黒髪からか、どうも友人がいなかったらしく、私が取材で話しかけたら妙に喜んでくれて、それ以来仲のいいお付き合いをさせてもらっている。
もちろん学友としてね。
彼女は貴族の位を笠に着ることはなく接してくれたし、こうやって大物と知り合うための足掛かりになってくれたのだから、いろいろな意味で良き友人よね。
「執筆中の私に会いに来たってことは、何か用事?」
「そうよ。まあ、私が心配になっただけなんだけどね」
「心配? ミコスちゃんが? この程度のことで倒れたりしないから大丈夫だよ」
そして、優しいのだ。
私にとっては得難い友人だ。
「いえ。別にミコスのことは心配してないわ。問題は今日話した不思議の方」
「あ、そう」
どうやら、今回の騒動でカグラの他者を気遣う余裕はなくなってきているようね。
まあ、仕方ないか。カグラの肩書だって霞む相手ばかりだから、私だったら緊張して一言もしゃべれないだろうし。
「ま、ミコスちゃんのことを心配してくれない、非情なカグラのことはいいとして、ちょっと聞きたかったんだけど、なんで不思議の謎の究明にすぐに乗り出さなかったのかな?」
そう、今日は私や学院長、カンナ様の話をまとめてどれが昔からある不思議かを判断しただけだった。
別に時間のかかる作業じゃない。
実際、小一時間ぐらいで終わった話だ。
てっきりその場ですぐに謎の解明に移ると思ったんだけど、一旦ユキ先生は準備があるとか言って謎の解明は明日に持ち越されたのだ。
「……ミコス。貴女本気で言ってる?」
「はい? どういうこと?」
私が首を傾げて聞き返すとカグラはため息をついて、ゆっくり説明し始める。
「はぁ。いい、ミコス? この不思議は私のご先祖様。つまりこのハイデンを興した御三家が関わっているのは、さっきの話から分かっているわよね?」
「そりゃもちろん。そして、その情報を使って記事を書いていいって許可までもらえたからね。今回の記事は人気が出ること間違いないしね」
ハイデン魔術学院に御三家の遺産眠る!! とか誰だって気になるわよ。
「で、その御三家の皆さまが残したものが素直に見つかると思っているの?」
「そりゃー、そう簡単には見つからないだろうから、みんなで探すんでしょう?」
「……なにもトラップがないとか思ってる?」
あ、なるほど。
ユキ先生がすぐに探索に乗り出さなかったのはそのためか。
「ユキが生徒の失踪系の噂話を聞いていたのも、その点を調べるためでもあったのよ」
「……つまり、人死にが出るほどのトラップがあるかもしれないってこと?」
「そうよ。6つの噂の内、演習場の銅像が夜な夜な動き出すこと以外は、関連した失踪がいくつか見つかっているのは、知っているでしょう?」
「でも、それはあくまで噂で裏が取れなかったよね? よね?」
流石に私も冷や汗をかく。
そんな物騒なトラップが学院に存在していたとか。しかも1つじゃなく5つも。
「今、学院長とお姉様が学院の名簿を漁って噂の真偽を確かめるために調査しているわ」
「学院の名簿って、今までどれだけの生徒がいたと……」
「もちろん、全員の名前から探すわけじゃないわ。問題があった生徒は別に記録されているの。死亡や失踪は特に別に分けてね」
「なるほど。でも、さっき言わなかったのは?」
「政治的な理由よ。お姉様が言った淫行で子供ができたとか、公にはできないから失踪扱いとかしているケースも多々あるのよ。そんなのを調べるのに私たち生徒やウィードの方がたに任せるわけにはいかないでしょう」
尤もな話ね。
というか、下手に首を突っ込むと本当に首を切られそうな話じゃない。
「で、私はミコスが勝手に調査を始めないように止めてこいって、ユキに言われてきたの」
「ユキ先生が?」
「そうよ。ミコスみたいなタイプは先に動いて結果を出したがるだろうから、ちゃんと止めておけってね」
「うぐっ」
実際、記事をある程度執筆したら、雰囲気だけでもいいので噂の場所を回ろうと思っていたので、突き刺さる言葉だ。
「その様子だと、行く気満々だったみたいね」
「まあ、そりゃそうよ。これで頑張れば覚えめでたく、就職にさらに有利にとか、金一封とかあるかもしれないでしょう? ミコスちゃんじゃなくても先走ったと思うわ」
「で、さっきの話を聞いても、いく気はある?」
「いや、大人しくしてる」
流石に命の危険があると言われていく気はない。
「でもさ、噂の場所って普段から生徒が使っている場所がほとんどでしょう? そんなこと起こってたらすぐわかるんじゃない? というか大惨事じゃない?」
人死にがでるならだけど。
「私は詳しくわからないけど、そういう噂って、気が付いた人だけが巻き込まれるってユキが言ってたわ。ほら、魔術だって指向性があるじゃない」
「ああ、狙いを定めているってことね」
「無差別でホイホイ人を失踪させていたらとうの昔に解決しているわよ。たぶんだけど、御三家の試練みたいな感じじゃないかって、お姉様とか学院長も言ってる。試練を突破できそうな人だけにわかるような魔術トラップかな?」
「……話は分かったけど。どのみち物騒な事には変わりないのね。興味を持っていけば逆に巻き込まれやすいってことね」
「そういうこと。間違っても1人で動くなって言われてる。そうなると探すのすら苦労するからって」
どこで失踪したかもわからないんじゃ助けようもないわね。
正直助かった。話を聞いて執筆が快調なのが今日はちょっと怖かった。
もう少しでもカグラが来るのが遅れれば、私は部屋を飛び出して不思議を調べに行っていたと思うから。
「じゃ、今日の仕事は終わりか。ねえ、カグラは暇なの? ミコスちゃんと久々にお話しない? 最近、忙しくてお話とかしてなかったよね」
「んー。何かあればすぐに呼び出されるんだけど、それでいいならいいわ」
「それでも問題なし。で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ほらユキ先生のこと」
「はぁ。結局聞き込みじゃない」
「違うって、なんかミコスちゃん的にはカグラが怪しいなーって気がするんだけど?」
「あ、怪しいってなによ!? 何も怪しくはないわよ!!」
……うわ。
どうしよう、からかいネタで聞いたつもりが図星だよ。
しかも、相手はユキ先生。ウィードの王配だよ?
流石に分が悪くない?
いや、公爵の娘ではあるから、いけるのかな?
でもさ、パワーバランスは圧倒的にハイデンが負けているから、無理に押し込めないんじゃない?
と、今はこんな危険なネタをほじくり返すよりも別の穏便な話に持っていく方がミコスちゃんの為でもある。
「そ、そうだよね。何も怪しくないよね。でさ、本当に聞きたいことはそのユキ先生のウィードのことでね。行ったんでしょう? そのウィードに」
「どのみちネタが欲しいだけじゃない」
「あははは……。ミコスちゃんを助けると思って」
「まあいいわ。私だけいい思いってのも悪いから。ミコスには食べてもらおうと思ったのよ」
そういって、カグラが持っていた袋の中から、妙な箱を取り出した……って、まって!?
「すとーっぷ!! カグラ。今のなに!? 明らかに入らない大きさの箱がその袋から出てきたよね!?」
「あ、うん。アイテムバックだから」
「何それ」
「えーっと、物が沢山入る魔道具かな。ま、そこはいいとして、これがミコスに食べてもらおうと思ったケーキね」
「なんだこれー!?」
そして、私はケーキを食べて決意した。
私が半永久的にケーキを得るためにも、カグラの応援をしようと。
そう、決して欲望の為ではない。
友人の幸せが第一であり、そのお礼がケーキであるだけ。
ミコスちゃんの為にもカグラがんばれ!!
ちゃんと手を増して、ミコスが勝手に動かないように釘を刺しておくユキ。
これで、次の日になって行方不明というのはない。
そして、ユキも万全の準備を整える。
皆も、肝試しに行くときはたくさん仲間を引き連れて、何かあってもすぐに外部と連絡を取れるようにしておくようにね。
お兄さんとのお約束だ。
そして、それを記録して見せて。
ホラー系は見るのは好きなんだ。実際いくのはいやだけど。
こういう人って多いんじゃないかな?
あと、本題。
本日2017年9月28日
モンスター文庫のコミック化公開サイトオープン!!
モンスターコミックス
http://webaction.jp/Mcomics/
必勝ダンジョンの方は10月頃公開だそうです。
お楽しみに。




