第591堀:噂話の精査
噂話の精査
Side:ユキ
「……という話です」
俺はカグラの友人だという、ミコスの話を聞いて正直な気持ち……。
教室の片隅によって、ウィードメンバーで話を始める。
「学校の七不思議とかベタな」
「いうなよ、タイキ君」
俺が気持ちを言う前に、横で話を聞いていたタイキ君がそれを言った。
ラビリスから報告を聞いたときは、何か道が開けるかと思ったが、詳しく話を聞けば学院が迷宮になった気がする。
いや、この場合はお化け屋敷か。
「というか、怪談ってのがこっちでもあるんだな」
「そういえば、なぜかロガリ大陸では聞きませんよね」
俺とタイキ君がそんな感じで首を傾げていると、横にいたデリーユが説明を始める。
「そりゃそうじゃろう。そもそも、ロガリの方では、お化けはゴーストやゾンビなどのアンデッドでモンスター扱いじゃからな」
「「ああ」」
「今回の図書館での話し声や道がずっと続くという話も、トラップではよくあるタイプじゃからな」
納得の説明。
ロガリ大陸じゃ、デリーユの言う通りただの魔物の案件だな。
しかも、人が住む場所で起こるんだ。
早急な対応がとられるから、不思議になりえない。
しかし、この新大陸は魔物が存在しない。
だから、お化け=魔物って図式が成り立たず、怖い話や不思議な話になるわけだ。
まあ、地方に行けば迷信とか信じられている変な事柄はロガリ大陸でもありそうだが……。
「あのー、なにか問題でもあったのでしょうか?」
そんな感じで話をしている俺たちに、不安そうな顔で声をかけてくるのは、カグラやカンナ、そして今回の貴重な情報提供者である、ミコスだった。
「いや、大丈夫。何も問題はないよ」
とりあえず笑顔で返す。
正直な話、さっさとこの学院を出たいが、そういうわけにもいかんだろう。
「とりあえず、ラビリスの話から察するに、図書館の怪談、不思議はカグラ殿やカンナ殿の祖先である初代様ってのが関係しているってことだよな?」
「ええ。石碑の裏に書かれていた、図書館へ行けって指示でこの話に行きついたから、無関係ってことはないでしょう? まあ、無関係って可能性もあるとは思うけど……」
「この状況で無関係だって思うのはちょっとな……」
楽観的過ぎる。
どう考えても、カミシロの人除け系の幻術なりそういうものの影響だろう。
素直に取りにいって取れるものではないと思う。
「準備はしておいた方がいいな。迂闊に行くのは危険だ。みんなも先走って動かないように」
俺がそういうと全員が頷く。
「まあ、図書館をしっかり調べる前でよかった。あとはミコスさん。その学院の不思議って他になにがあるか知っていますか?」
「へ? 他ですか?」
「ええ。この状況から、他の不思議も把握しておくべきと思います。ミコスさんも聞いたと思いますけど、カミシロ家にしか伝わっていない文字で場所の指定がしてあり、その場所で妙な噂話が存在するのですから……」
「あ、なるほど。同じように不思議がある場所では、創始者であるカミシロ様の痕跡が見つかるかもしれないってことですね」
ポンッと手を叩いて納得するミコス。
しかしだ。こういう噂好きの奴はクラスに一人ぐらいはいるもんだが、いろいろな意味でフラグ臭がする。
「その通り。だから、ミコスさん。協力してもらえませんか?」
「まっかせてください。ユキ様。そして、私のことはミコスと呼び捨てにしてください。所詮は男爵の娘ですから」
そういって、ミコスは膝をついて俺たち全員に礼を取る。
ああ、そういえば男爵程度の貴族だと、俺たちの気分一つで首が飛ぶような立場だよな。
「所詮男爵とは思わないが、堅苦しいのは勘弁だから、ミコスって呼ばせてもらうぞ」
「はい。よろしくお願いします。ユキ様」
「あと、様はいらないぞ」
「他国の王配であるユキ様を呼び捨てにするわけにも……」
「先生でいいだろう。それなら教師と生徒でフォローもしやすい。みんなもそう思うよな?」
俺がそういうと、周りの皆は頷いて同意する。
「下手にかしこまられて、情報を逃す方が痛い。だから、気楽にやってくれ」
「うーん」
ミコスはちょっと困った感じで、辺りを見回す。
するとその視線を受けたカグラが口を開く。
「心配はいらないわよ。ユキって私も呼び捨てにしていいって言われているし、発言をひっくり返すほど度量の狭い人じゃないわ」
「……カグラがそういうなら。じゃ、ユキ先生。よろしくお願いします」
こんな感じで、ミコスを学院探検メンバーに引きずり込むことに成功し、他の話を聞くことになった。
「で、ユキ先生。具体的には一体どんな噂話、不思議な話をすればいんですか?」
そう聞いてくるミコスに答えたのは、俺ではなくカグラだった。
「知っている話を全部言えばいいじゃない」
「いやいや、カグラ、一体どれだけ噂話があると思っているのよ。この学院創立500年以上だよ? 噂話なんて山ほどあるんだから」
「そうなの? 私は聞いたことないけど?」
「そりゃ、カグラは勉強一筋だったからね。噂が耳に入っても聞き流すでしょう?」
「まあ、そうね。で、ユキ。ミコスが言ったようにどんな噂話がいいの?」
「とりあえずは、基本的に昔からある噂話だな。新しくできた噂話は関係している可能性が低いだろう」
「承知しました。昔からある噂話ですね」
そういってミコスは持っていたノートを広げて調べ始める。
しかし、この学院というか、ハイデンは普通に紙が普及している。
羊皮紙ではなく植物から作られている紙だ。
これも初代カミシロの偉大な功績の一つらしい。
本当に身一つでよくやったと感心する。
こうやって、ミコスや生徒が簡単にノートを使って授業を書き留めて勉学に使っているんだから本望だろうなー。
いや、本人は勉強のつらさを知っているだろうから、とりあえず金稼ぎが目的だったのかもしれない。
そんなことを考えている間に、ミコスは別のノートを取り出して、調べているノートからめぼしい噂を書き出し終わっていた。
「大体こんなところですね」
そういって差し出されたノートをみんなで覗き込む。
が、やはりまだ数が多い。
大体40近く残っている。
まあ、500年の歴史があればそのぐらいはあるか?
「えーと、学院長。そしてカグラのお姉さんであるカンナ様。お2人なら、この噂話のどれが昔からあると判断できると思うんですが……」
なるほど、ここには卒業生である学院長やカンナがいる。
2人に見てもらってさらに絞り込んでもらおうということか。
「えーっと、この女子寮の303号室で自殺した女生徒の幽霊がって話だけど……」
「ふぇっ!? ちょ、ちょっと待ってください!? 私の部屋ですよ!?」
どうやら、カグラにピンポイントな噂話というか怪談話があって、妙にかわいい声を上げている。
「なにかご存知ですか? こう床に、夜な夜な自殺した女生徒の血の跡が浮かんできて、それをたどるとって話なんですが……」
「きゃー!? なんで私に言わないのよ!?」
「いや、言ったけど。その時は右から左だったじゃん。そんなのありえないって」
ガクガク揺さぶられなが答えるミコス。
「こら、カグラ。やめなさい。ミコス。この噂だけど……学院長?」
「うむ。書類で確認したことがある。この303号室で……」
ごくりとみんなが固唾をのんで次の言葉をまつ。
いや、違うものの指摘だから、違うってことなんだろうけど、噂話の真意は聞いておきたいよな。
「……色々問題があるので、名前を言うのは差し控えさせてもらいますが、この部屋で淫行に及んだ学生たちがいましてな」
「それが、それなりに立場の高い人たちでね。しかもハイデンではない他国同士。当時はかなり面倒な話だったそうよ。確か20年ほど前の話でしたか?」
「大体それぐらいですな。しかし、よくご存じで。カンナ殿はカグラ君とは数年しか違わないはずですが……」
「私の時にいた留学生が関係者だったそうです」
「なるほど……」
皆がその話を聞いてうわちゃーって顔になる。
カンナと一緒に勉強ができる留学生で関係者ってことは、その淫行でできた子供だろう?
「よく話したものですな」
「いえ、それが、その淫行事件をきっかけに、交流が始まって、お互いにいい利益がでて良い縁だったという話になったそうです」
「ほう。それはよかった。学院としては生徒を管理できなかったとして随分文句を言われたという記録が残っていましたからな」
「恐らくは、文句を言ったあとで仲良くなりましたとは言えなかったのでしょう。学院での淫行を認める発言にもなりかねませんし」
「当然ですな」
「で、その留学生も303号室で過ごして、良い相手を見つけて国に帰ったあとに無事式を挙げたと連絡がきましたわ」
まあ、本人たちが幸せならいいか。
いや、お家も繁栄したようだし、至れり尽くせりか。
そんなことを思っていると、話を聞いたミコスが会話に割って入る。
「すみません。カンナ様。じゃあ、303号室で恋人と会うと結ばれるっていう噂は……」
「ああ。たぶん私が在学中にできた噂話ね。その子が嬉しそうに話してたから。まあ、学院は認めるわけにはいかないし、ただの噂話になったんでしょうね」
「ということはある意味真実ってことですか?」
「そうかもね」
「お姉様。ですが、その床に血というのは、説明がつかないのでは?」
「なに言っているのよ。初めては普通血が出るものよ?」
「あ、そっちの血ですか」
「カグラ、あれじゃない? 恐怖に煽られて大袈裟に見えたとか表現したとか」
「なるほど」
普通に話しているけど、俺たち男は微妙な顔をしないといけないからな。
学院長も困った顔をしているし、俺やタイキ君、そしてジョージンも顔を見合わせて苦笑いしている。
「コホン。その話はそれぐらいにして他の噂話の精査に移ってもいいだろうか?」
「あ、これは失礼いたしました」
学院長の一言により噂話の確認が再開される。
「この噂は……」
「確か……」
まあ、俺たちはこの学院に来たばかりなので、噂話を聞いているだけだったのだが、こういうのは先ほどの話もそうだが聞いているだけでも面白いのでそれほど苦にはならなかった。
さっきの話のように色々政治的なことや、外聞的なことで事実がただの噂話になったという話がそれなりにあるのも面白い。
例えば、先ほどのラブロマンスとは違い、学院の研究成果を盗みに入った他国の密偵を始末した場所が幽霊のたまり場という噂になっていたり、俺たちが探しているモノとは違うが、別の意味でガチでやばめの場所も存在したりしていた。
無論、他言無用だ。
特にミコスは学院長やカンナにきつく言われていたので可哀想ではあるが、機密事項に近いことを知ったんだからしかたない。
迂闊にしゃべることがないことを祈る。
流石に、在学中にミコスが死体になって出てきたら、文字通り殺人事件で名探偵にならないといけなくなる。
「残ったのは、結局6つか」
「ミコス、何でそんなに悲しそうなのよ?」
「カグラにはわかんないかなー。今まで時間を掛けて調べてきたもののほとんどがガセだよ? まあ、中にはカンナ様が話したラブロマンスとか、学院長が言った始末場所とかあったけどさ、この徒労感わからないでしょうねー。わかってはいたけど」
良いネタだと思った噂話がただのガセネタというのは堪えるものがあるだろう。
このノートに書き留められた噂は真偽が判断付かない、所謂本物の可能性もあったのだが、背景が判ればただの事件だ。
本物の不思議ではないのだ。
しかも、ある程度裏が取れたネタは口外禁止ときたものだ。
情報部であるミコスにとって嫌な結果だろう。
「ミコス。そこまで落ち込むな。ミコスのおかげで俺たちは助かったし、情報収集能力は見事なものだよ」
「そうかな?」
「そうそう。マイナスに考えても仕方ない。プラスに考えるべきだ。あと残った6つがある意味本物かもしれない可能性があるんだから」
「あ、そっか。この6つが本物ならいい成果だよね。よし、ミコスちゃんがんばるぞー!!」
なるほど。
自分をちゃんで呼ぶタイプか。
でもさっきの挨拶は弁えていたし、きっとアレだな。ストレスのはけ口みたいな感じなんだろうな。
他人の人生に口を出す気はないが、カグラといい、ミコスといい、無駄に偉くなっても苦労が増えるだけだと心底思ったね。
今の現状もある意味不本意だし。
なんだよ、6つの不思議って。
7不思議の鉄板ネタですか?
7つ目を知ると死ぬとかいうやつ?
それとも6つの不思議を調べたら7つ目の不思議が出てくるとかいう奴か?
俺はそんな不安を抱きながら、ノートに残る6つの不思議を見つめるのであった。
昔からある噂話
一つ、演習場にある銅像は夜な夜な動き出す
二つ、図書館には秘密の部屋がある
三つ、夕方に見知らぬ教室が現れる
四つ、2階の東女子トイレは使うべからず
五つ、質問をしてくる鏡
六つ、夜の寮棟の地下には幽霊がでる
この6つだ。
とりあえず嫌な予感しかしないので、助っ人を呼ぶことにしよう。
裏が取れないものが本物!!という話。
ある意味、定番の花子さんとか、そういうのじゃなく、地方特有の怪談が残っているってことはそれ相応のことがあったってことだから、案外本物だったのかもしれないね。
まあ、何度も経験することはないんだろうけど、人生一度か二度ぐらいは不思議な経験ってあるだろう?
一応自分は、火の玉みたことはあるし、学校で変な人が向かいの教室歩いているのは見たことがある。




