第590堀:不思議な噂
不思議な噂
Side:アスリン
私たちはカグラお姉ちゃんの案内で、学院を作った人が残したという石碑の裏側に、メッセージを見つけた。
『この文字が読める人たちへ。図書館へ。続きはそこで話そう』
という、日本語で。
これは間違いなく、日本人に宛てたものだとわかる。
「カグラ。これは知っていた?」
「いえ。私は知らなかったわ。何せ作り直しは100年に1回だし、わざわざ裏側を見ようって気持ちは湧かなかったから」
「それもそうよね。とりあえず、アスリン、フィーリアもそろそろここを出ましょう。綺麗にしている園庭をずっと踏み荒らしているのはよくないわ」
「「はーい」」
私とフィーリアちゃんはそういわれて石碑から離れる。
調べるっていわれてつい入っちゃった。
今度は気をつけないと。
こういう所にはトラップの危険性もあるってお兄ちゃん言ってたからね。
「とりあえず、裏側の撮影はしたし、これをユキに送って。今すぐ話し合いたいけど、今は授業中だから無理よね。……となると、書いてある図書室へ行ってみましょう。案内頼めるかしら?」
「ええ。でも、ちょっと待ってお父様に連絡とってみるから」
そうだった。
カグラお姉ちゃんのお父さんの方が何か知っているかもしれないよね。
「でも、なんかワクワクするね」
「ワクワクするのです。なんかこう兄様が言っていた。学院の謎を解くと、学校の怪談とか起こりそうなのです」
「そうだよね。こう、妙な封印とかがあって、学校がお化け屋敷になる話」
フィーリアちゃんとそんなことを話していると、ラビリスちゃんが固まっているのに気が付いた。
「あ、ごめんね。ラビリスちゃん。怖いの嫌いだったよね」
「あ、ごめんなさいなのです」
ラビリスちゃんはお化けとかとても苦手なの。
私としてはリッチさんとか骸骨さんとかの魔物と何が違うのかよくわからないんだけど。
ああ、血まみれのお化けさんとかは、治療しないとって思うけど。
「だ、だだ、大丈夫よ」
ダメだこりゃ。
ルナお姉ちゃんが悪戯で本物のお化けとか呼んだりしたからなー。
余計に怖くなっちゃたんだと思う。
でも、ラビリスちゃんの意外な一面が見られて私は嬉しい。
いつも、お姉ちゃんって感じで私たちを守ってくれるけど、こうやって怖がるところもあるんだーって。
そんなときは、私やフィーリアちゃんが守ってあげるんだ。
「無理に探検することないよ。お兄ちゃんの所に戻って詳しく話した方がいいかもしれないし」
「そうなのです。一度あって話した方がいいに決まっているのです」
そういって、2人でラビリスちゃんの手を握ると、ようやく震えが止まったラビリスちゃんはこちらを見て、そのまま胸に飛び込んできた。
「2人とも、ありがとう」
「大丈夫だよ。怖い思いなんてさせないからね」
「お化けは兄様たちに任せて、あとで安全に学院探検するのです」
怖がるラビリスちゃんを無理に連れて探検するような必要はないもんね。
バイデの方に戻って書類お仕事をやってもいいんだから。
「えっと、お父様の方も何も知らないみたい……って、3人ともどうしたの?」
「そうね。私はこの2人と一緒で幸せって実感したの」
「私たちは仲良しなんだー」
「そうなのです。とっても仲良しなのです」
「あ、うん。それは見てればわかるけど……。まあ、いいか、とりあえず、図書館に行く?」
「「「それはダメ」」」
「はい? さっきは行ってみようっていってなかったっけ?」
カグラお姉ちゃんは不思議そうに聞き返すと、行くと言っていたラビリスちゃんは少し気まずそうに視線をそらして……。
「あ、えーと……」
「お化けが出るかもしれないからダメなの」
「そうなのです。フィーリアはお化けが怖いのです」
「お化け?」
カグラお姉ちゃんはなおの事、不思議そうに首を傾げます。
「お化けって、幽霊? 死んだ人がーとか?」
「そうなのです。この学院にはそういう噂はないのです?」
フィーリアちゃんがそう聞き返すと、カグラお姉ちゃんは考えこみます。
「うーん、聞いたことはないわね。でも、ロガリ大陸には魔物がいるのは知っているし、いても不思議じゃないんじゃない?」
「魔物とお化けは別物だよー?」
「そうなの?」
「どちらかというと変な話の部類なのです。どこどこで特定の行動をすると何かが起こるみたいな話なのです」
「変な話ね。……そういうのならあるわね」
「図書館の噂?」
「それも含めて色々あるわ。まあ、今大事なのは図書館の噂ね。ラビリスたちは変な噂がある場所に迂闊に近づくのはどうかって話よね?」
「そうなのです」
「そうだよ」
「ええ。そういうのは気が付いた人物だけが迷惑を被る系が多いわ」
「なるほどね。なら、ユキの授業が終わるまで待機しておいた方がいいわね。図書館の噂は巻き込まれると厄介極まりない気がするから」
カグラお姉ちゃんは私たちの訴えを受け入れてくれたので、今から図書館に行くようなことはしなくなったけど、その図書館の噂が気になった。
「ねえ、カグラお姉ちゃん。図書館の噂って?」
「えーっと、確か、気が付いたら同じ場所をぐるぐる回っているって話かな?」
「同じ場所をです?」
「どういうこと?」
「あー、3人とも図書館は見たことないわよね。結構蔵書があって、本棚が壁のようにズラーっとならんでいるから、慣れてない人は迷うのよ。まあ、迷うと言っても、案内板があるし、叫べば館内の職員が気付くから簡単に脱出できるはずよ。というか、まっすぐ歩けばすぐに壁に行き当たるし、壁沿いに歩けばぐるっと一周して戻ってこられるのよ。なのに、なぜか一周しても出口に出られないって話があるの」
確かに不思議な話だね。
「ま、誰も信じていないけどね。だって、一周すれば出口に着くのに一周できないとかないでしょう?」
「そうね」
ラビリスちゃんが頷いたように、私もあんまり信じられないかな?
「物好きがその噂を調べたって話を聞いたことがあるけど、何十周もしてて図書館の職員に邪魔だと追い返されたらしいわ」
それは当然だね。
図書館は静かに利用しないと。
「あとは……、図書館でなにかまた別の噂があった気がしたんだけど……、何だったかしら?」
そんな感じでカグラお姉ちゃんが思い出そうとしていると、不意に別の方向から声を掛けられる。
「図書館で一人勉学に勤しんでいると、変な声が聞こえるって話だね」
「ああ、そう。それ」
ポンと手を叩いて、同意するカグラお姉ちゃん。
「って、誰!?」
「誰とは失礼だね。一緒にバイデで戦った仲じゃないか」
「ミコス?」
「そう!! バイデ防衛戦では魔術部隊への伝令役として右に左に大活躍した、ジャーナ男爵家の長女!! ミコスちゃんです!!」
そう名乗ったミコスっていうお姉ちゃんは、金髪の髪の毛を短めのツインテールにしていて、美人というよりも元気でかわいい感じの人に見えた。
身長はカグラお姉ちゃんと同じぐらいで、スタイルは普通でおっぱいはそれなりかな?
いや、体は細いから、たぶんおっぱいは大きいんだろうけど、ルルアお姉ちゃんとか、サマンサお姉ちゃんとか、ジェシカお姉ちゃんにはおよばないよねー。
お兄ちゃんのお嫁さんの中では、せいぜい、あの大きさなら中間だね。
そんなことを考えていると、カグラお姉ちゃんが感極まった感じで、ミコスさんに飛びついた。
「ミコス!! よかった!!」
「おわわっ!? いやいや、カグラ、それはミコスのセリフだよ。まったくバイデ防衛戦以降まったく連絡が付かなかったし、学院に戻ってきたと思えば外交官で忙しそうだし、こう、戦友たちに声をかけてくれても良かったんじゃない?」
「あ、ごめん。忙しくてね」
「うん。それはわかってる。あのバイデでハイデン、フィンダール両軍をあっと言う間に押さえたこちらのウィードの方々が相手だからね。そこまで不満を言う奴らはいないよ。バイデの時みたいに吹き飛ばされたくないからね」
あれは仕方なかったんだよ。
不満を言う人が多かったんだから、別に粗略に扱ったわけでもないから、ただの我儘。
だから、私たちがでて大人しくしようねーって言っただけだよ?
「こら、ミコス。その言い方はないでしょう。あの時の私たちは……」
「捕虜も同然だった。それは理解してる。というか、ミコスは笑ってみてたしね。アスリンちゃん、かっこよかったよ!! バイデの試合も、昨日の試合も」
そういってミコスさんはこっちを見て褒める。
「えへへ」
褒められて悪い気はしないよね。
「無論、ラビリスちゃんとフィーリアちゃんもね」
「そう。ありがとう」
「ありがとうなのです」
「で、ミコスだったっけ? さっきの噂を知っているの?」
ラビリスちゃんがそう聞くと、ミコスさんは持っていたカバンから紙を取り出してこっちに見せてきた。
「えーっと、なになに……」
「がくいんじょうほうし? とくしゅう、学院七不思議なのです?」
へー、この学院って情報誌があるんだ。
お兄ちゃんに教えないと。
「そう!! このミコスは学院の情報公開活動部にいてね。その関係でバイデで伝令もやってたんだけど、って話がそれたね。こんな感じで、今回の学院情報紙のネタで調べていたんだ」
「調べてたって、授業はどうしたのよ……」
「カグラ。上位生は授業免除だよ。バイデでの実戦戦果があるからね。カグラだけじゃないんだよ、褒賞がでたのは。あの戦闘に参加した上位生は全て卒業試験パスで、就職が決まっているからね」
「そうなの?」
「カグラが王宮でバカ共を炙り出してくれたおかげかな。そのせいで、上はもちろん下まで色々空きがでたのは知っているでしょ?」
「ああ、その穴埋め」
「そうそう。かくいう私も、魔術隊の諜報部入り決定!!」
「おめでとう」
「ありがとう。と、また話がそれた。ということで、残った学院生活だけど、今来ているユキ様の講義を聞いて箔をつけようとしている連中もいれば、私みたいに別の事をやって思い出を作っている連中もいるって感じかな」
「なるほど。それでこの時間にうろついていたのね」
「うろついていたのではなく、調査だよ。で、なんでカグラやウィードの皆さんはこんなところで学院の不思議について話していたのかな?」
「あ、えーと……」
ミコスさんがそう聞くと、カグラお姉ちゃんはどう答えたものかとこちらに視線を送る。
「別に他愛のない話よ。私たちが昨日盛大に演武したせいで、本日の下位生の授業を受けられなくなったの。それで、空いた時間にカグラに学園の案内を頼んだの。説明も色々してもらいながらね」
そっか、流石にカグラお姉ちゃんの祖先の言葉を見つけたとか言えないよね。
ラビリスちゃんが答えてくれてよかった。
私だと素直に石碑の話してたかもしれない。
「なるほど。それで、学院の案内をしてて、図書館の話になったわけね。ま、図書館の面白味がある話なんてそんなものよね」
「なるほど。ミコスが噂に詳しいのはよくわかったわ。とりあえず、さっきの変な声が聞こえるって噂を詳しく聞かせてくれないかしら?」
「え? ラビリスちゃ……と、様が……」
「私用の話だし、ちゃんでかまわないわ。ちょっと気になるのよ。その噂が」
「わかったよ。まあ、大した話じゃないよ。図書館で一人勉強に勤しんでいると、本当に何か声が聞こえるって話」
「全然さっきと変わらないわよ。ミコス」
「カグラからそういわれてもね。噂だしね。ああ、でも声を聞いたって子とは会って話を直接聞いたよ」
「は? いたの? 噂じゃないの?」
「いや、噂になるんだから、誰かが体験してないと噂にならないでしょう? でも、その直接声を聞いたって子も、何を言っているのかわからなかったらしくてさ。おそらく、見えないところで誰か他の生徒が本でも探してたんじゃないかってのが私の結論かな」
ふーん。
やっぱり、噂ってそんなものなのかな?
「あ、でも、面白い続きがあってね。ほら、もう一つの噂で同じ場所をぐるぐると回るってのがあるんだけど、その声を聞いた子なんだけど、その直後に欲しい本があって取りに行ったら、同じ場所をぐるぐる回る噂を体験したらしいよ。それで、このミコスちゃんはこう考えたわけ。声を聞いた人が同じ場所をぐるぐる回る羽目になるんじゃないかってね」
「……どういう理屈よ」
「まあ、勘?」
「はぁ。ごめんね、3人とも変な話につき合わせて」
「あ、カグラ。どこが変な話よ。ミコス、泣くよ?」
「あー、はいはい」
そんな仲のいいやり取りを見ていたんだけど、ラビリスちゃんが不意にカグラお姉ちゃんに近寄って……。
「カグラ。その何言っているのかも分からない変な声って、日本語の可能性はないかしら?」
「え? まさか……」
「ん? ニホンゴ? なにそれ?」
「とりあえず、授業も終わるころだし、ユキの所へ行ってもう一度話をしましょう。ミコス、貴女も一緒にね」
そういうことで、私たちはミコスさんを連れてお兄ちゃんの所へ戻るのでした。
ほぼ100%何かが起こりそうな場所で単独潜入とか死亡フラグですよね。
でも、怪談物の主人公たちはそこに向かう不思議。
帰れよ!!
と、思った人は何人もいるのではないでしょうか?
で、次回から対策会議が始まります。
これを知ったユキとタイキ君はどう思うのでしょうか!!
そしてここでまたお約束の学校での定番、情報集めキャラ。
その名も「ミコス・ジャーナ」
名前の由来は「ミコス=マスコミを逆読みマ抜き」「ジャーナ=ジャーナリスト」から。
酷いとかいうな。結構可愛い名前な気がするんだ。




