第589堀:学院を知ろう
学院を知ろう
Side:ラビリス
爽やかな朝。
割れる群衆。
清々しいわ。
私は心の底からそう思った。
昨日のポープリとの試合? 演武? いぢめ? で、私たちをお子様と侮る者はいなくなった。
まあ、私たちはバイデで暴れていたから、上位生からはそこまでじゃなかったのだけれど、下位生はそのことを知らないから、ただお客さんという認識になっていたの。
そして、ここは未開の新大陸。
私たちがウィードから来たと名乗っても、知らないから、単純に余程の辺鄙な国から出てきたのだと、侮蔑されていたの。
主に男から、女のくせに生意気だと。
男尊女卑が酷いと、こうまでなるのねと逆に感心したくらいだ。
女性の生徒たちはお互いに肩身が狭いねと、言って色々気を使ってくれて、この学院での生活に問題はさほどないだろうが、いちいちイライラさせられる理由もないので、ポープリが実力を証明しているついでに、私たちも証明しただけ。
そうでもしないと、まあ今日は血の雨が降っていたと思うから。
私のおっぱいを凝視していた変態とかいたから、そいつらが今日にも襲ってきそうだったのよね。
無駄に血を流すとユキに怒られるから、こういう手段をとったまで。
「いやいや、恐れられてどうするんだよ」
「あら? ユキ」
「あ、お兄ちゃん」
「兄様なのです」
教室でのんびりしていると、なぜか授業前にユキがやってきた。
「さっき、担当の教員から、3人に教えるなど恐れ多いです。って泣きながら懇願されたってカグラとカンナが泣きついてきてな。校門で別れたあとを追ってきたんだが、なんかグワーッと人が避けていて驚いたわ。いや、当然か」
「ええ。そのためにやったんだから」
私たちはユキのモノなの。
そしてユキは私たちのモノなの。
それに手を出すとどうなるかを知らしめただけ。
というか、カグラもアレだけど、カンナも駄目ね。
もっと毅然とできないのかしら?
「いやいや、あんな魔術の撃ちあいを見て、平然とできるやつがいればそれは大物だろう」
「じゃ、ユキは平然としているから大物ね。流石、私たちのユキ」
「お兄ちゃんはすごーい」
「兄様はすごいのです」
「はいはい。そこはいいから。これから3人はどうしたいかをまず聞こう」
3人でユキを褒めたたえるが、ユキにそんなことが通用するわけもなく話を進める。
「どうって、普通に授業を受けるつもりだったわよ」
「お兄ちゃんから授業内容を覚えてっていわれたもん」
「よその魔術のお勉強はとても気になるのです」
ただ煩わしいのを黙らせただけ。
別にやることに変わりはない。
「なるほど。3人は別に授業を受けてもいいわけだ。しかし、先生が委縮してしまったと……」
「情けない話ね」
「まあ、こっちの意図を伝えておくか。それで安心するだろう」
ユキは仕方ないと言いつつ立ち上がる。
話をしに行くのだろう。
なら……。
「ん? どこか行くのか?」
「ユキが話を終えて向こうが納得するまでは、私たちがここにいると邪魔でしょう? だから、その間にこの学院の探検でもしてこようかと思ったのよ。まだ、詳しく調べてないんでしょう? 図書館とか学院の隅々までは」
「あー、まあな。まだ信頼関係構築中だからな。案外いいかもな、ラビリスたちも一緒に来てくれ。さっきの話をして、ついでにラビリスたちの学院探検にも許可を貰おう」
「わかったわ」
「やったー」
「探検なのです」
アスリンとフィーリアだって、授業を聞くお仕事だけとか辛いからね。
こういうのがあってもいいでしょう。
最近はシェーラとキャサリンを手伝って、バイデの書類仕事までやっているからね。
エリスやラッツ、ミリーは将来の補佐官とか会計とかできるわねと言って喜んでいたけど、こんな小さい時から無理にやる必要もないでしょう。
ユキが言うように、のんびり子供らしいことをするべきだと思うのよね。
で、話し合いの結果。
あれは演技ということになったと聞いた、私たちがいる下位生のクラスの先生はほっと胸をなでおろし、承諾。
今日中には生徒たちに話を通しておくので、明日から参加する様お願いされた。
先生曰く、何かあって怒らせたら私では止める術がないので、生徒たちの為にも受け入れるわけにはいかなかったといっていた。
……うーん。ちょっと脅かしすぎたと反省。
ちょっかい出してきた人以外に危害を加えるような真似はしないんだけど、昨日のアレを見ればそう見えないか。
それとも子供に見えるから情緒不安定とか思われたのかしら?
ま、いいわ。
とりあえず、本日の学院探索の許可はもらえたのだし。
条件付きだけど。
「えーっと、3人とも今日はよろしくね」
そういって私たちに挨拶をしているのはカグラだ。
「よろしくおねがいします」
「お願いしますなのです」
「よろしくね」
流石にちびっこ3人だけで学院を動き回ると、どう考えても待ったがかかるので、カグラが案内役として付くことになった。
下手な先生よりも私たちのことを知っていて、何よりウィードの外交官をやっているのだから最適だろうということで来たのだ。
「じゃ、カグラ。問題はないと思うけど、3人を頼む」
「あ、うん。任せて」
「3人も何かあればカグラを頼るといい。この学院の創始者はカグラのご先祖様だからな。そういった意味でも役にたつ」
「あのねー。創始者の末裔だからって何やってもいいわけじゃないのよ?」
「それはこの3人だってわかってるさ。適度にフォローしてやってくれ。じゃ、俺は授業の方に戻る。タイキ君だけだと、カンナや先生たちの質問攻めはさばききれないからな」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
「がんばるのです。兄様」
「行ってらっしゃい」
私たちがそういって見送ったのはいいんだけど、カグラはなかなかユキが去っていった廊下から目を離さない。
……ふーん。ヴィリアが言ってたけど、なんか匂うわね。
でも、あまりカグラはユキとは仕事以外で接点がないはずなんだけど。
仕事ではどちらかというと無茶を押し付けている感じだから、元々スティーブたちのような信頼関係があれば別なんだけど、嫌われているというか苦手な部類のはずなのよね。
カグラは根が真面目だから、ユキや私たちを呼んでしまった当初は平謝りだったし。
……ま、ちょうどいいし、さりげなく話を振ってみましょうか。
「じゃ、カグラ。これからどうするの? カグラがどこかに案内してくれるのかしら?」
「あ、いえ。特にはラビリス殿の……」
「あ、殿はいらないわよ。ユキを呼び捨てにしているのに、私を殿呼びはおかしいでしょう? 公の場ならともかく、今はいいわよ」
「……わかったわ。ラビリス」
何か意を決してという感じで、私の名前を呼んでいるから、中身は小心者よね。
アスリンやフィーリアとは普通に話しているのに、私はそんなに何か威圧感とかあるかしら?
「で、ラビリスたちの行きたい所でいいわよ。あ、でも授業中の部屋とかはダメだからね」
「それはそうね。うーん。ならどこに行くとか言う前に、この学院の始まりとかを詳しく教えてくれないかしら?」
「始まり? 歴史ってこと?」
「ええ。ユキがさっき言ったようにカグラのご先祖様がこの学院を作ったんでしょう?」
「そうだけど……」
「その話を聞いてからの方が、見学も面白味が出ると思うのよ」
「そんなものかな?」
なるほど。
観光事業とかが発展していないのね。
まあ、それもそうか。案内をして遊べる場所や風光明媚な場所、イベントの告知をしているのは私たちがいるロガリ大陸でもウィードと5大国ぐらいだ。
5大国もウィードの観光事業でお金を集めるという意味をようやく理解して、力を入れ始めたぐらいだから、新大陸にそういう意識が無くても仕方ないわよね。
「話ねー。そうは言っても特に珍しい話じゃないけどいい?」
「構わないわ」
「ききたいー」
「聞きたいのです」
「3人が聞きたいって言うならいいか。じゃ、あっちのベンチに座って話しましょう」
そういうことで、中庭にあるベンチに座って、カグラからハイデン魔術学院の歴史を聞くことになった。
ハイデン魔術学院
今となっては各国に存在する魔術学院だが、その走りとなったのがこのハイデン魔術学院。
「簡単に言うと、この魔術学院ができたから、他の国も真似するようになったの。
学院の創立目的は、才能ある生徒を一か所に集めて指導、教育することによって、効率的な人材の育成や魔術の研究を進めることだったと言われているわ。
まあ、それは表向きの話で、ラビリスたちは知っているけど、創始者である初代様は日本の出身。
教育がもたらす意味を知っていたとは思うけど、おそらくは故郷を思っての行動だと思っているわ。
それの証拠に『よく学び、よく遊べ』がこの学院に伝わる初代様からのお言葉だから。
きっと、純粋に子供たちのことを思ってここを作ったのだと思うわ。
無論、他の御三家であるハイデン王家、精霊の巫女様も関わっているわ。主導はもちろんカミシロ家だけどね。
ということで、今まで一子相伝とされていた魔術を広く教え、研究し、それを国力に取り込むという画期的な方法が生まれたわけ。
それ以前には貴族の学校というのはあったけど、この魔術学院を始まりとして、騎士学校などや、平民たち用の学校というのも設けられたわ。
まあ、平民たち用のは、思ったよりもうまくいかなかったから、今ではハイデン王都にあるぐらいね。
田舎だと、人材がいないし、何より授業を受けるべき子供は立派な働き手だからね。
それでも、ハイデン王都の一般学校は人気ね。
そこで勉強すれば、多少は就職しやすいし、ある程度人脈も広げられるから……って話が脱線したわね。
とまあ、こんな感じで、ハイデン魔術学院のおかげでハイデンは魔術大国だと言われて、今に至るの。
……まあ、話せるのはこんなところかな」
「ありがとう。はい。紅茶よ。ダージリンだけどいいかしら?」
「ありがとう。好きなお茶だわ」
喋り終えたカグラに私はアイテムボックスから紅茶の入った水筒を出して渡す。
ユキから聞いていたのよね。
いや、正確には指示を受けて色々フォローをしていたアマンダとエオイドからだけど。
ユキが直接聞くとストレスにしかならないから。
こうやって飴と鞭を使いつつ、ウィードの外交官をやってもらっているのだ。
下手に交渉術に長けた相手だと制御しづらいから、ある意味カグラが最適なのよね。
そこら辺は注意してくれってユキからも言われている。
そんなことを考えていると、アスリンとフィーリアがカグラの話の感想を言い合っている。
「やっぱり。お兄ちゃんの故郷の人は優しいんだねー」
「兄様は悪い人もたくさんいるって言ってたのですが、そうは思えないのです」
「あはは……。どうかなー」
2人の話にカグラは困ったような笑い声をあげて相槌を打つ。
こういうところはアスリンとフィーリアにはまだまだ難しいところよね。
まあ、実際会って人の内面を感じ取る力はこの2人はかなり凄いから、そこまで心配はしていないんだけど。
農耕神が来た時も誰よりも早く敵意がないことに気が付いた。
ああ、そういう意味でもユキは私たちの学院探索を許可したのかもしれないわね。
私たちによからぬことを企んでいる連中がいれば、平日の学校をぶらぶらしている私たちにまず何かアクションがあるだろうから。
となると、やはり学院をぶらぶらする必要があるわね。
そういう視線を集めるとなると……。
「ねえ。さっきの話だとカグラのご先祖様は随分評価されているのよね?」
「そりゃもちろん。王家の血筋でない者が公爵位を得て、今もここにいるんだから、それだけ信任、いや信頼できる友だったのよ」
「じゃ、それなら、何か記念の石碑とかないのかしら?」
「ああ、それなら学院の入り口にあるわ。この学院を作った時に初代様たちが集まって、学院に送る言葉を刻んだ石碑。でも、それって見てない?」
「多分見ているとは思うけど、そんな話は聞いていなかったから、また見ると違って見えると思うわ。まずはそこに行きましょう」
ということで、さっそく校門へ足を延ばしてみると、確かに学院に入って正面に2メートルほどの石碑が置かれている。
長い年月ここに置かれていたとは思えないぐらい綺麗だ。
「私が入学した年に凄い嵐の時があってね。それで倒れて割れちゃったの。それで作り直したって。確かこれで5回目だったかな?」
……ただの新品でした。
というか、100年に一度はぶっ壊れているのね。これ。
「まあ、初代様の言いつけで、石碑に書き込んでいる内容が消える前に代えてくれってことからなんだけど」
あ、壊れたわけじゃなく、指示による作り直しなのね。
ということで、石碑の内容を見てみる。
『よく学び、よく遊び、ここでの生活が未来を切り開く糧になることを願う』
うん。
普通の石碑ね……。
内容もさっき聞いた話に少し後ろが長いだけ。
私はまあこんなものかと思っていると、いつの間にか、アスリンとフィーリアは石碑の後ろに回り込んでいる。
一応石碑が置いてある場所は小さくともはしっかりと剪定されて整えられている場所なのでそこに踏み込むのはちょっと不味い。
私がユキに怒られるので、2人に声を掛けようとしたのだが……。
「あ、後ろに何か書いてあるよ」
「本当なのです。作者の名前とかなのです?」
「いや、ちがうよ。これ、ひらがなに漢字だ」
「日本語なのです!?」
えっ!?
どういうこと?
私とカグラは顔を見合わせて、石碑の裏に回ると確かに、こう文字が彫り込んであった。
『この文字が読める人たちへ。図書館へ。続きはそこで話そう』
思ったよりも面白いことになりそうね。
正直に言おう。
自分は卒業した小中高大どれも校歌おぼえてない。
僅かに少し記憶が残る限りで、学校創立の記念碑に書かれている言葉とか覚えてもいねえ。
というか意識したこともない。
大体の人が自分と同じではないかと思う。
何度か言っていることだが、興味のないことは覚えられないよな。すぐに消えていく。
そして、学院の不思議へと物語は移る。
さあ、学院、学校の不思議といえば……、察しのいい人でなくとも、日本人ならわかるんじゃないかな?




