第593堀:餅は餅屋
餅は餅屋
Side:ユキ
しかし、学校モノはイベントにほんと事欠かないよな。
まあ、最初はカグラのイベントだったが、すぐに次のイベントがやってきた。
それも、学校の不思議系だ。
定番中の定番である。
日本の学生なら一度は耳にしたことがあるのではないか?
学校の7不思議や学校の怪談
そういう類の話である。
一部の学校では、幸運を呼ぶ不思議話なども存在するが、ほとんどの学校は不思議というより、恐怖を煽る怪談よりだ。
そう、怪談。お化け、ゴースト。
誰か、バスターズ呼んで来いよ。と言いたいが、残念ながらそういうのはこっちの世界ではいない。
いや、聖職者とかがそういう役割なんだろうが、ただの噂話で学院にまで来てお祓いをする酔狂な聖職者がいるわけもないのだ。
「なるほど。で、ラビリスが不登校になったわけね」
セラリアが本日の出来事を聞いて、納得していた。
ラビリスは情報提供のあと、一緒に不思議に関する噂話の精査を聞いていたが、それで怪談、お化けに関することだとわかり、いや薄々察していたのか、家に帰ってからは、俺たちが問題、不思議の謎を解くまでは学院に行かないと言い出した。
「まあ、再起不能になられるよりはマシね。ラビリスはバイデかこっちで仕事やっているって言ってるし、別に悪いことでもないでしょう」
「無理に連れて行く理由もないからな。ましてや、今回の不思議は意図的に初代カミシロが関わっているから、本物の可能性も高い」
「本物って言っても選別のようなものでしょう? 同郷の人に危害を加えるような真似はしないと思うんだけど」
「その可能性も十分にあるが、当人が世を去ってもう500年近くだ。そのトラップ系がちゃんと動いているっていう保証もない」
「性質の悪い。本当に、怪談のごとく振る舞うようになっている可能性もあるわけね」
「そういうこと。ということで、専門家を連れて行こうと思っている」
「専門家ね。ま、あの子はしっかりしているし、ユキが雑に扱うとは思えないから私はとやかくは言わないけど、ちゃんとみんなには許可を取るのよ?」
「もちろん」
「じゃ、そっちは任せるわ。こっちはこっちでまだ忙しいからね」
「おう。そっちも頑張ってくれ」
セラリアは未だ大陸間交流の繋ぎで忙しい。
俺が出てイフ大陸の面々は落ち着いたが大陸間交流自体はまだまだ始まったばかり。
これからどんどんウィードのトップであるセラリア女王陛下は忙しくなる。
そこのフォローをするためにも早急に目の前の問題を排除する必要があるわけだ。
そのための行動。
日本にはこういう諺が存在する。
餅は餅屋
専門家に任せておけという話。
さて、今回の話は怪談系にまつわる話ということで……。
「はい。任せてください。旦那様」
と笑顔で俺の要請にこたえてくれるのは、リテア聖国で聖女を務めていた、聖職者としてはトップクラスの腕前であるルルアだ。
「同じく、この私もサポートさせていただきます」
そして、とある事情から参加してもらったメイドのキルエ。
家のことはサーサリとお留守番メンバーがやってくれるので問題なし。
で、そのとある事情というのは……。
「ん。話ってなに?」
「とと様。お話ってなに?」
そういってやってきたのは、クリーナと秋天だ。
そう、セラリアの言ったあの子、そしてとある事情というのは、クリーナの娘である秋天のことだ。
なんでこんな幼子をというと、秋天には秘密がある。
この子は怪談の中でも最上位と言っていいほどの怪物、鬼であり、その中でも鬼の大親分とまで言われ、京の都を荒廃させたとかで恐れられている、酒呑童子その人なのである。
大袈裟にいったが、まあ実情は妙な力を持つこの子を排斥しようとしたお偉いの権力者争いみたいなもので、酒呑童子も秋天という童子であり、なんというか無理やり悪者に仕立て上げられたようなものだった。
まあ、そんな秋天は色々あって今は俺の養子となり、母は同じ赤い髪のクリーナで仲良くやっている。
無論、他の嫁さんたちも可愛がっているし、娘たちも姉と慕っている。
秋天本人もいい子で、妹たちの面倒はみてくれるので、関係はいたって良好。
ということで、今回の特別人員はこの秋天だ。
その旨をクリーナや秋天に話すと……。
「だめ。それは認められない。ユキ。秋天は道具じゃない。そんなことをいうユキは嫌い」
クリーナは案の定というか、秋天を抱き寄せて、俺に怒っている。
まあ、子供を危険な場所に連れて行くって話だからな。
いくら必要とはいえ、好き好んで子供を危険地帯に送る親はそうそういないだろう。
勿論俺だっていやだ。
だが、今回はこの噂話を作り上げたのが、日本の神職ときたもんだ。
それが仕掛けたとなると、安全が保障されて、俺たちだけで何とかなると楽観はできない。
その気持ちがわかる他の嫁さんも困ったような表情をして、クリーナに何かを言うことはなかった。
「話は聞いていたと思う。秋天の力が必要なんだ」
「……それは理解できる。でも、それは秋天が危険にさらされる可能性が高い。そんなのは認められない。この子は大事な私の子供」
秋天は酒呑童子であり日本の術式に詳しい。
その知識を生かして、安全に調査できたらと思ったのだ。
下手すると、何も知らない俺たちは全滅って可能性も否定できないから。
日本の術式は物理的に殺しに来るようなものはごく少数だ。
無限鳥居などのように、人の心を折りに来るものが多い。
そして何が起点かもわからないことが多々ある。
今回の不思議調査では効率よく進めるためにも、俺たちの安全確保のためにも秋天の力が必要不可欠なのだ。
だから、俺は真摯にクリーナに頼み込むしかない。
ちゃんとキルエもついてきて付きっきりで秋天を守ってくれて、実働はルルアがやると言うことを説明する。
しかし、やはりというか、どんなに安全だと言われても、危険地帯とわかっていてそこに子供を送り出すのは親としてはためらわれ、クリーナは渋い顔をしている。
出会った頃は無表情のクール系だったのに、最近はよく笑ったり、こういう顔もするようになったと、ちょっと不謹慎だがそう思った。
さて、そんなことを考えていても事態は進展しない。
何かクリーナを説得する方法はないかと、悩んでいると……。
「かか様。大丈夫だよ」
不意に秋天がそういった。
「秋天?」
「かか様は、とと様が私を危険にさらすと思ってる?」
「……それは思ってない」
「うん。私もそう思う。とと様、とーってもやさしーもん。かか様も知ってると思う」
「ん。知ってる。ユキは優しい」
「だから大丈夫だよ。とと様が手伝ってっていうなら私は手伝っていいよ。とと様の役に立ちたい」
「……秋天」
秋天の決意にどう反応していいものかと、悩んでいるクリーナに話を聞いていたサマンサが話しかける。
「そんなに心配でしたら、クリーナさんもついていけばいいですわ」
「……サマンサ。でも、外交官の仕事が」
「そっちは私が適当にやっておきますわ。それとも、なにか重要な案件でもありましたか?」
「……ない。あのクソ共には適当に塩でも撒いておけばいい」
酷い言い草ではあるが、ちゃんと外交官として必要最低限のことはやっている。
物品の輸出とか、手紙のやり取りとか、まあ、アグウストの為ではなく、ウィードの為なのだから、どっちの外交官だよという話だが、まだ正式な交流が始まったわけでもないし、クリーナ以外の適役もいないから仕方ないという判断だろうな、アグウストの上層部は。
「……クソ共って、まあ下の方はともかく、お姫様からは謝罪の手紙が来たのでしょう?」
「ん。来た。だけど、許すとは言ってない。というか一度礼儀作法を学びに戻って来いとか言う始末。ありえない」
「いえ、いまやクリーナさんはアグウストのお姫様ですからね?」
「それはあっちが勝手にやったこと。そんなくだらないことをしなくてもユキとの関係は良好。秋天もいる。みんなもいる。離れるなんて嫌。というか、ここぞとばかりにくだらないことをするにきまっている」
それは否定できない。
アグウストの下の方はどうやらウィードに随分嫌悪があるらしく、ノーブルやヒフィーからアグウストが落ち着くのは時間がかかるだろうから、下手に行かない方がいいと助言を貰っている。
「まあ、アグウストの内情は今はいいでしょう。今話すべきは秋天の事。本人は行きたがっているのだし、それを止めるのはどうかと思いますわ」
「……ぬぐぐ」
「これがサクラたちとかでしたら、まだまだ分別のつかないということで心配ですが、秋天はその点、妹たちの面倒はみているいいお姉さんですわ。クリーナさんは秋天のことを信じられませんの?」
「かか様。お願い」
「……わかった」
サマンサと秋天の説得により、ついにクリーナ陥落。
「よかったですわね。秋天」
「サマンサかか様のおかげ」
「ですが、ちゃんとユキ様たちの言うことを聞くのですよ。私も秋天のことが心配ですから」
「ん。とと様、かか様に心配かけない」
「クリーナさんも、いつまでもうなだれていないで、手早くアグウスト外交官の仕事を教えてくださいな。秋天についていかないなら教えてくれなくてもいいですが」
「すぐ教える」
こんな感じで、クリーナもサマンサに仕事を任せて、学院に来ることが決定したのだが、その前にもう1人、学院に連れて行きたい人がいたので、そっちの説得へ向かう。
「……というわけで、ついてきてくれないか?」
『ほう。ソウタが何か学院に仕掛けをな』
そう返事をするのは、水龍。文字通り水でできた東洋龍で、カミシロ家に祀られている水之辰命。
そう俺はカミシロ公爵の館に来ている。
人というかはわからんが、この人物以上にあの学院を作った当人を知る者はいないだろう。
秋天と水龍のタッグで組めば問題なく進めると思うのだ。
「しかし、水之辰命様はこの屋敷から離れられるのですか?」
そういうのは、当代のカミシロ公爵。
ここ最近は王宮で例の問題での処理活動で忙しくしている。
カグラや姫様は俺たちが学院へ行くための手伝いなどになっているが、未だ王宮内は後釜問題などでがたがたなのは変わりなく、公爵も日々多忙なようだ。
幸いなのは、ゲートの利用で使い慣れた我が家と王宮を簡単に行き来ができ、領内の仕置きもできるので感謝されている。
ま、おかげで水龍を連れていくのにも簡単に許可が下りたわけだ。
「多分ですが、依り代でもあれば」
「依り代と言いますと、御神体ですか? 流石に持ち出しは……」
『ソウ。違うぞ、依り代と御神体は似て非なるモノ。依り代は一時的に使役するもので、どちらかというか式神、使い魔の類だな。しかし、一応私はこれでも神の端くれ。学院の調査をしなければならないことを考えると、依り代はかなりのモノがいるぞ? 紙を使った程度ではせいぜい、話ができるぐらいだ』
「まあ、そっちは考えてある。ほれ」
そういって俺は依り代になるだろうと思ったものを取り出す。
「こ、これは!?」
『ほう』
それを見た二人は驚きの声をあげる。
「見てわかると思うが、東洋龍の像かな?」
模型とかプラモとか言ってもわからんだろうからな。
「ええ。こんな見事な細工初めて見ました。まるで、水之辰命様をそのまま見て作った様な……」
いや、文字通り写真にとって、ナールジアさんに頼んで作ってもらったから。
合金繊維をつかってリアルな龍の動きを再現!!
中にパイプ、管を通してあって、その中に水龍の水でも入れれば依り代としての代わりになる優れもの!!
『しかも、これは神鉄か。申し分ないな。さっそく使ってみるとするか』
ということで、水龍の一部をパイプの中に入れて蓋をすると、すぐに合金プラモデル水龍は動き出して、空を飛ぶ。
『うむ。しっかり作り込まれているな。中の管が血管のように張り巡らせてあり、体を動かすのにもそこまで力はいらん。神鉄でできているおかげもあり魔力の効率もいい。元の体とそこまで違いもない。素晴らしいものだな。問題を強いてあげるのであれば姿が小さいというところか』
そういう合金水龍のサイズはせいぜい、おもちゃの連結列車2両分ぐらいだ。
せいぜい30センチあるかないか。
「そこは我慢してもらわないと困る」
『お忍びであるのは心得ているから心配するな。ソウタの残したものというのが気になるから、協力は惜しまん』
「私もついていきたかった……」
がっくりとうなだれるカミシロ公爵をなだめて、俺は明日の学院不思議の為の準備を着々と整えるのであった。
餅は餅屋。
専門家がいるんだからそっちに任せるべきでしょう!!
ということで、秋天、水龍参戦。
これで、本物の怪異があっても大丈夫だね。
そして、クリーナとカグラ久々の顔合わせ。
こっちもこっちで修羅場になる可能性はある。
さあ、どうなるのやら。




