第581堀:学生な理由
学生な理由
Side:カグラ・カミシロ
私は今、久々の解放感、達成感を味わっていた。
なにせ、ウィードの公表が行われ、政府内部の反発者の統制に成功したからだ。
当初は色々と問題を抱えていたが、ユキから教えられたイフ大陸の存在、交易による有益性などで、畳みかけることによって、一気に勝負がついた。
叡智の集の暗躍によって好戦派の連中は求心力を失っていたところに、今回のウィード公表が止めとなった。
普通であれば、バイデを占領されたことへの非難がでるものなのだが、別の大陸との交易が可能になり、莫大な利益になりうると先に証明したので、そのことで文句をいうほどの馬鹿がいなかったのだ。
残っている問題としては、利益配分で些かもめているが、ウィードの公表はあっさり受け入れられ、私の仕事も一段落というわけだ。
今回の功績で、私の対ウィード外交官という立場は確固たるものとなり、姫様どころか、陛下にお褒めの言葉を頂き、先のバイデでの防衛戦の活躍もあり勲章を賜ることになった。
そう、私に勲章を渡せるほどハイデン内部がようやく落ち着きを見せたということ。
これで、私はようやく実家に戻って休暇でも取れるのかと思ったのだけれど、ユキからまた突拍子もない提案を出されて、再び姫様や陛下と謁見していた。
「で、私はともかく、叔父様との謁見希望とはどういうことでしょうか?」
そうキツイ視線と声音を向けてくるのは、姫様だ。
ウィードの事で厄介なことでも起こったのかと警戒しているのだろう。
まあ、ソーグ陛下に私が直接謁見を頼むなんてことは今までなかったのだから、余程だと思われたのだろう。
だが、その厳しい態度の姫様に対して、ソーグ陛下は気さくに口を開く。
「キャリー、そうそうキツイ顔をするな。カグラも委縮してしまうだろう」
「しかし……。ウィードとの外交の件は私が一任されて……」
「そこはわかっている。だが、カグラがこうして私の前に来たということは、ユキ殿か、セラリア女王陛下から何か依頼があったということだろう?」
「はっ。その通りであります」
私は返事をしてから、手紙を取り出し、側仕えの人に預かった手紙を渡す。
手紙に問題がないかを確認して、まずは姫様に渡そうとしているところを、陛下が横から歩いてきて手紙をひったくった。
「叔父様!?」
「ユキ殿たちの実力があればこんな小細工をする必要もないだろう。指輪もしているし、どうにもならんよ」
「……叔父様、礼法というのがなぜあるのか……」
「別に個人的な謁見だからな。そこまでかしこまる必要もないだろう。そういうところは兄上に似ているよな」
「叔父様が自由過ぎると思うのです……」
「自分で叡智の集の連中を拷問した姫が何かいってるぞ? 聞いたかカグラ?」
「ぬぐぐぐ……」
うわー。
あの真面目モードの姫様が口で負けているってなかなか凄い。
というか、姫様もこういう表情ができるんだ。
今までは本当に、色々我慢してたのか……。
そう思うと、私が今まで姫様のことを気遣ってやれなかったのがちょっと悔しくもある。
私が、アージュ殿下やスタシア殿下の代わりにはなるとは思えないけど、あの気持ちを抱えたまま道化を演じ、国の為に日々刃を研いでいたと思うと……。
「……で、叔父様。手紙には何と?」
と、いけない。
姫様のフォローは私が今後頑張ればいいんだ。
今は、手紙のこと。
陛下がどう反応するのか……。
「ふむ。いや、なるほど。これは面白いな」
「面白い?」
姫様が首を傾げて聞き直す。
陛下はあの手紙の内容をそう受け取った。
ほっ。正直助かった。
下手をすると怒るかもと思ったからだ。
何せ内容が……。
「手紙の内容を簡潔に説明すると、ハイデンの魔術学院の見学がしたいそうだ。ウィードの方々だけでなくフィンダールの方々、それにイフ大陸の方々も含めて」
そう。私が通っている? いた? 魔術学院をなぜか見学したいという連絡だった。
「はぁ!? 見せてください!!」
「落ち着け。破くなよ。ほら」
「子供ですか!?」
姫様はそう言いながら受け取った手紙に目を通す。
「……なるほど。見学は建前ですか。実質魔術学院の生徒たちを証人として、和解がなったと各国に喧伝するのが目的ですか」
「うむ。今のハイデンの問題は、どこでフィンダールとの会談の席を設けるのかというところだ。お互い色々あったから、お互いの首都での会談は厳しいという話になっているからな」
「そこで、ウィードが仲立ちしつつ、各国の人々が集まっている魔術学院で会談したほうがいいのではないかという手紙ですね」
「そうだ」
なるほど。
そういう意図があったのか。
ただ単に、面白半分で見学したいといったわけではないのはわかっていたけど、こういう話になるのか。
「だから、ユキ様はカグラをと言ったのですね」
「え?」
「本来であれば、カグラの父である、ソウ・カミシロ公爵がカグラからウィードとの外交は引き継ぐべき内容だからな。学生に外交官など普通は勤めさせるものなどおらんよ」
「えっと……」
私が2人の話についていけないのを察して、姫様が説明をしてくれる。
「キャサリン殿でもよかったはずです。バイデを治めているキャサリン殿がそのまま外交官となった方が、都合がよかったはずですからね。そこはわかるわね、カグラ?」
「あ、はい」
「つまり、カグラが学生であるということにユキ様は目をつけたのです。いや価値を認めたということでしょう。ウィードとしても自分たちの存在を知らしめる相手はハイデンだけでなく、こちらの国々に知ってほしいことですから、我がハイデン魔術学院を利用しようとしたのでしょう」
あ、分かってきた。
私が学生だから、自然と学院話が出てくる。
そして、ユキたちはその学院に興味を持つという図式が出来上がるのだ。
魔術学院が各国のエリートを集めて教育しているっていうのは最初の方で話したし、そこに目をつけたのだろう。
だから、私はウィードの外交官になったのだ。
利用されてショックという思いはない。
正直、私がちゃんとした理由で選ばれていたとわかって重荷が下りた感じだ。
だって、こんな小娘に外交官の仕事がビシッとできるわけないじゃない。
だけど、外交官としての仕事が本命ではなく、魔術学院への足掛かりがユキの目的なら私はその責務をちゃんと果たしたということだ。
「しかし、それだけではないな。イフ大陸の方々も招くと書いてあるから、我が国、この大陸を見定めるという目的もあるだろう」
「そうですね。これを利用しろという意図もあるでしょう。これはなかなか大仕事ですね」
「ああ。この話、受けるぞ。未だにウィードの事は認めても、実力は認めないという連中は多い。そういう連中の勘違いを正すのにも利用できる。だからこその魔術学院だな」
「……学院が木っ端みじんになりそうですが」
私がそう呟く。
確かに、魔術の訓練などあるけど、私の招雷ですら全力で撃てないのに、ユキたちの全力に演習場が持つわけがない。
というか、校舎どころかそこら一帯が吹き飛ぶわね。
「そこまですごいのか?」
「叔父様。ユキ様たちの実力は本当に常識を超えているのです。まあ、そういう意味でも魔術学院で披露してもらうというのは、今後バカなことを考える連中を抑えるのには効果的だと思いますわ」
私もその意見には賛成です。
ユキたちの実力を見れば、下手なことはしないだろう。
「じゃあ、この魔術技術交流という名目は本当にしてもらうか。立場は見学ではなく、臨時教員はどうだ? そうなれば我が国の魔術の向上も望めるかもしれん」
「そうですね。私は賛成ですが……」
「ですが?」
「学院は私や陛下の一存で動かせるわけではないですからね」
「ああ、そうだった」
そういって、私に視線が集まる。
「え? 一体、なぜ私を?」
「ユキ様がなぜカグラを重用したのか本当の意味でよく分かりました」
「ああ。便利だな。カグラ。確か学院じゃ成績はトップクラスだろう?」
「は、はあ。一応首席ではありますが……」
「カグラは学院長や教員の覚えもめでたく、カミシロ公爵に至っては学院創設者の一人」
それはそうです。
学校という制度を考えたのは、我が初代様なのですから。
「さらに、今回の功績もある。カグラを通して学院に要請すれば、簡単に通るだろうな。こんなに名誉なことはないからな。現役学生が各国の会談を成功させるなんてのは」
「……え? それって」
嫌な予感がする。
いや、もうわかった。
だけど、聞きたくない。
「カグラ。あなたが友人で本当によかったわ」
いやー!?
そんな笑っているけど、笑っていない笑顔を向けないでください!?
「まあ、フォローはする。だが、学院、ウィード、イフ大陸の繋ぎは全てカグラの双肩にかかっている。予算は回す。キャリー、ちゃんと助けてやれ。流石に仕事が多すぎる」
「ええ。わかっています。2人で頑張りましょう。まずは、今回の提案を承諾する旨の手紙を叔父様、お願いいたします。それと学院の方への手紙も」
「わかった。早速取り掛かる」
私が絶望している中でも、時は勝手に進んでいく。
「カグラは、カミシロ公爵殿に今回の事を話して協力を取り付けに行ってください」
「手紙はあとで届けるとソウに言ってくれ」
「は、はい!!」
結局私はその場の勢いに押されて、ユキたちを学院に迎えるための準備を始めることになる。
気が付けば、夜になっていた。
幸い、ウィードは電気で明るく、お店もまだ開いている時間だ。
「せ、せめて、少しでも癒しを……」
体が求めていた。
度重なる身の丈に合わぬ激務に、ケーキを……。
ということで、ウィードへの報告と親書を渡した私はふらふらしながらも、美味しいケーキが存在する喫茶店へと足を進めていたのだ。
晩御飯? ケーキを食べればいいじゃない。
そんな気持ちだった。
というか、昼前に謁見して、それから働き通し、何も食べてない。
「……ふふふ。ウィードに来た当初が懐かしいわ」
ユキに今のうちに楽しめといわれて、素直に楽しめたあの時が、懐かしい、羨ましい。
「……い。おーい!! 聞こえてる!? カグラ!!」
「ひゃっ!?」
いきなりそんな大声が耳に飛び込んできて、驚いて飛び上がる。
その声のした方向を見ると、アマンダとエオイドが立っていた。
「アマンダ。カグラが驚いてるって。ごめんね」
「仕方ないでしょ。なんか変な薄ら笑い浮かべてふらふら歩いているんだから。こっちが声かけても気が付かないし」
「あ、ごめん。エオイドも気にしないで」
どうやら不審人物と化していた私を心配して、2人は声をかけてくれていたらしい。
「で、こんなところを歩いてどうしたの?」
「ちょっと、仕事で疲れたからケーキでもってね。ユキが言うには甘い物は疲れにはいいとかいってたから」
「あー、なるほど。大変だね。外交官様も」
「やめてよ。私は普通の学生なんだから」
「あはは。よし、なら私も付き合うよ」
「え? それってアマンダがケーキ食べたいだけ……がふっ!?」
「エオイドが奢りたいって? いや、仕方ないわね。ちゃんと自分のお小遣いからだすのよ。貯蓄に手出したら殺すわよ」
なんていつものやり取りを見ていて、ほっこりとした。
うん。友人というのは大事だ。
なんか、私の平和がここにある気がする。
「さ、遠慮しないで高いケーキでも頼みましょう」
「え? いや流石にそれはいいわよ。自分の分は自分で出すわ。私は外交官ってことで給料はいいから。今後のことでお金溜めてるんでしょう?」
実際に2人に集るほど意地汚くないし、お金にも困っていない。
平穏な時をくれる2人に奢りたいぐらいだ。
だが、この夫婦はしっかりしているようでそういうのは受け取ってくれない。
そう思っていると、エオイドが笑いながら口を開く。
「いいんですよ。ちゃんと貯蓄とは分けていますから」
「いや、でも……」
「あーもう、エオイドそれやめ!! カグラはまじめすぎだから話すしかないって」
私がさらに断ろうとすると、アマンダが叫ぶ。
「話す? 一体何?」
「えっとね。実は……」
「アマンダ……」
「エオイド。他人のお金で奢りとか恥ずかしいわ。ちゃんといわないと」
「他人のお金?」
私がそういうと、エオイドは仕方がないなーと肩をすくめて、アマンダが話を始める。
「実はね。今日はカグラを探しに来たんだ。ユキさんにお願いされて。仕事で疲れているだろうから、なんか良いごはんでも食べさせてやってくれって。お金まで預かってね」
「え?」
「ユキさんもカグラさんに色々負担をかけているのが心配みたいです。だけど、ユキさんがご飯に誘っても、顔を合わせて疲れさせるのもなんだしっていって……」
「カグラの友人である私たちに頼んだわけ」
そういうことか。
タイミングよく出会うわけだ。
「あ、でもこれ秘密だから。言わないでね。カグラが悪いんだからね。素直に奢られてればいいのに」
「わかったわ。じゃ、お言葉に甘えて……これとこれとこれと……」
「うえっ!? そんなに頼むの!?」
「「え? これぐらい普通よ」」
私とアマンダでそう答える。
さあ、ユキの好意を無駄にしないためにも楽しませてもらいましょうか。
ユキ。ありがとう。
ということでカグラを出汁に学園に乗り込むことになりました。
学生って色々な意味でいいんですよ?
学割とか、みんなしてもらった記憶ありますよね?




