第579堀:日々誰かが頑張っている
日々誰かが頑張っている
Side:ユキ
清々しい朝である。
空は晴れ、小鳥が鳴き、世は全て事もなし。
正に平穏、平和であるが、やはり水面下ではその平和を守る活動が日夜続いている。
「ねぇ、エリス、ラッツ。冒険者ギルドの仕事依頼の種類で冒険者ギルド自体を二つに分けようって意見があるのよ。どう思う?」
「あー、そういえばそんな話があったわね」
「ミリーが現場復帰して話が進行し始めたんですかね。でも、元々冒険者ギルドで細かい仕事を請け負っていたのは、冒険者たちの印象改善を目的に請け負ったんじゃ?」
「そんな話だったわね。でも、それなら冒険者ギルドを分けなくても、こっち、庁舎、政府の方に任せてもらえればこっちで処理できるわよ? というか、なんで仕事依頼の種類で二種類に分けようなんて話が出てきたの?」
「それが、外から来る冒険者がウィードで冒険者らしくない仕事、一般仕事を受ける所謂、小遣い稼ぎって侮蔑があるのよね。最悪、一般仕事を受ける人を脅しているのよ」
「印象改善のつもりが印象改悪になってるのね」
「だから、二つに分けようって話ですか。でも、本末転倒じゃないですか? というか、エリスが言うように、政府で一般仕事を集めて処理してしまった方が冒険者ギルドとしても助かるんじゃないですか? もう一個部署を作る感じですよね? 二つに分けるにしてもどうするんですか?」
こんな感じで、朝の自宅でお仕事の話をしているのは、ミリーたちだけではない。
「えーっと、こっちの書類はと。リエル、特務案件の書類出てないよ」
「え? ちょっとまって、どの案件? 休んでいる間に、結構仕事があったみたいで案件が多いんだ」
「……リエル、私がお願いした作物泥棒のやつ。リエルの部下が捕まえようとして、畑が荒れて被害が増大した」
「うん。それだよ。始末書と被害額の報告書がないんだ」
「うぇっ!? そんなことがあったの!? あの子かー。頑張るのはいいんだけどな」
「……リエルに似ている」
「うん。一直線って感じの子だよね。ポーニもリエルに似ているって苦笑いしてた」
「苦笑いってなんだよー!?」
「……わかってるくせに。と、それはいいとして早く書類探そう。まだまだ溜まってる」
トーリ、リエル、カヤも産休の間も実は自宅で書類仕事処理はしていたので、ここ二ヶ月ばかり空けて書類仕事が溜まっているのだ。
「今日はこれからウィードの重役会議か。予定では大陸間交流の話よね」
「はい。先日のイフ大陸会談が成功しましたし、本格的に大陸間交流の予定を推し進める話ですね。アルシュテール様からもさっそく会議の申し込みがありました」
「私もお父様やお兄様から会議の申し込みがありましたので、ロガリ会談をするための話し合いをする提案が出されると思います」
「私の方も同じね。父からイフ大陸会談が成功したのなら、ロガリで集まって会議をする必要があるといっているわね。って、勝手にやりなさいよ。というわけにはいかないわよね」
「……そうですね。ウィードを通さないとできる内容ではないですから。といいつつ、アルシュテール様は帰りには、ケーキとか買い物を沢山していくんですよね」
「……こっちも同じです。お兄様はともかく、お父様は最近、ロシュール陛下とわいわいやるのが本命のようです」
セラリア、ルルア、シェーラはため息をつきつつ、今後の大陸を左右する会議に向けての話し合いの真っ最中。
「えっと、今日は何するんだっけ? 学校?」
「学校に行って午前中は勉強するのです。随分休んでいたから遅れていないか心配なのです」
「そのあとは、バイデの方に顔を出してほしいってキャサリンからお願いが来てるわね。行く?」
「行くよー。お仕事でしょう?」
「そうなのです。確か武具発注に関することで、話を聞きたいって言ってたのです」
「バイデの報告書も受け取らないといけないといけないから、私もついていくわ」
シェーラが大陸間交流で忙しい今、バイデの繋ぎはラビリスを筆頭に、アスリン、フィーリアがやっている。
召喚で呼び出された時、派手に暴れたおかげか、今現在、バイデにおいて、この3人に逆らおうとするものはいない。
ラビリスはウィードのダンジョンマスターという偽の身分があって、ウィードでもそれなりの地位ではあるが、基本的にセラリア、エルジュから譲渡されたものという建前があり、セラリアからの命令で動くというスタンスのため、その指示で一旦ウィードの業務を減らして新大陸との調整で動いている。
まあ、バイデにおける女王名代というわけだ。
俺は基本的に色々飛び回るからバイデに常駐できないからな。
「……まあ、予想通りですね」
「予想通りとはなんですの?」
「ジェシカ?」
「いえ、私も建前上はジルバからの外交官ですから。命令書が来たのですよ。ウィードと仲良くしろ、あわよくばユキを篭絡しろと」
「……なんというか、まあ予想通りですわね。まあ、ローデイからの指示もあまり変わりはありませんが」
「……こっちも同じようなもの。でも、私が篭絡されているから無理。というか、アグウストの為に働いてやるものか」
イフ大陸の外交官組は予想通りの命令書に苦笑いを浮かべている。
尚、予算はそれなりについているから向こう側は本気なのだろう。
しかし外交官組は予算を貰って、一体何をしろと? という感じなのだろう。
わかりやすいのは賄賂とかではあるが、それには予算が足りない。
ウィードを掌握しようとしたら、半数以上の部署を抑えつつ、セラリアという女王も押さえないといけないという無理難題だ。
予算を使って技術流出を狙ってもいいだろうが、なかなかそっちも厳しい、知識、設備、材料すべてそろってこそ技術というのは生み出されて運用できるからな。
ということで、本気で何をしろと? と聞き返したいレベルだ。
まあ、ご機嫌を取っておけというのが、イフ大陸の方の思惑だろうな。
「旦那様。今日はどのようなご予定で?」
キルエがいつの間にか空になったお茶のお代わりを入れてくれる。
流石メイドの鑑。
「あー、今日は、ベータンの方に行って、エナーリアの外交官受け入れだな。エージルがようやくこっちに来るらしい」
会談が終わったらすぐ来るのかと思えば、一旦ベータンに残って、王様やらとエナーリア内部で会議をしていたらしい。
エージルは一応、王家寄りでエナーリア教寄りではないからな。
そこら辺の問題でもあったんだろう。
「旦那様は少し休んだと思ったらすぐにお仕事ですか。大変ですねー」
サーサリはそんなことを言いながら、てきぱきと他の皆にお茶のお代わりを入れていく。
こっちも流石メイドさんといったところだろう。
「まあ、エージルを迎えて軽いウィード案内だからな。そこまでキツイ話じゃない」
俺がそう答えていると、本日の護衛メンバーであるヴィリアが口を開く。
「えーっと、お兄様。そのエージルさんというのは、前に魔術学府でしたっけ? そこで学友だった方でしたか?」
「おー、そういえば。ヴィリアやドレッサ、ヒイロはあったことなかったね」
「そういえばそうじゃったな。まあ、実はエージルとは、ジルバとエナーリアが争っていた時からの知り合いじゃから、案外ジェシカと同じぐらい付き合いは長いかもしれんな」
そうそう、リーアとデリーユの言うように、エージルとは結構付き合いも長い。
「魔剣使いの人よね。聞き覚えがあるわ」
「ねえ。ドレお姉その人強い?」
「さあ、でも会談で見かけた時は、何というかポープリさんまでとは言わないけど、童女よね」
「おー、何か親近感。ペタンコなかまー」
いやー、ヒイロとは、と思ったが案外ヒイロの言う通り似ているかもしれない。
エージルもまあまあの歳のはずだから、永遠のロリという奴か。
この世界は不思議がいっぱいだ。
「でも残念。ヒイロは今日、スタお姉とお約束がある」
「ヒイロ。何度も言いますけど、殿下に失礼のないように」
「まあまあ、ヒイロもそこらへんはわきまわえているわよ。と、そろそろ時間じゃない?」
そういって時計を見ると出勤時間になっている。
朝の軽い雑談会議もここまでで、あとは皆それぞれ動くことになる。
俺たちも予定通りにエージルを迎えに、ベータンへ向かう。
「お待ちしておりましたぞ。ユキ様」
「お疲れ様。ホースト。ベータンの方は大変だったな」
「いえいえ。歴史に残る偉業を手伝ったのですから、私にとっては誉ですな」
「ま、無理はするなよ」
「は、心得ております。では、こちらに」
ホーストに案内されて、エージルを迎えに行く。
で、領主館の客室に到着すると……。
「はー、そういうことで。学長や神聖女様とご一緒とは光栄です」
「うん。新しい魔術技術や他の技術などの吸収をということで話は決まっていたからね」
「エージル殿と一緒に私たちが行くことによってウィードの安全性を確認するという側面もあるのですよ」
ポープリとヒフィーがエージルと仲良くおしゃべりしていた。
「よ。エージル」
「あ。ユキじゃないか。と、失礼しました。ユキ様、本日からウィードでお世話になります」
「うん。まあ、他人もいないからそこまでかしこまらなくていいぞ」
「え? でも、ポープリ学長や、ヒフィー様が……」
そういって、2人に視線を向ける。
「私たちは元々ユキ殿の身内みたいなものでね」
「はい。気軽に話して大丈夫ですよ。そのことで咎めたりはしませんから」
「えーっと、どういうこと?」
「簡単だ。エージルと同じく、この2人もウィードに招待したことがあるんだよ。というか、既に何度も行き来している」
「ええ!? いったいいつごろから!?」
「エージル殿がエナーリアに戻った時ぐらいかな?」
「ああ、魔剣事件の時ぐらいって、かなり前じゃん!? つまり、仕組んでたの!?」
「仕組んでたというより、根回しはどこだってやるだろう。成功させるために動くのは当然だ」
「あー、まあ、そうだけど。報告書にどう書けば……」
「別にそっちを混乱させようってわけじゃないから、別に正直に書かなくてもいいだろう。ウィードとランサー、ヒフィーは関係良好のようだと」
「……なるほど。そっちの方が波風立たないか。今更、ランサー魔術学院とヒフィー神聖国の抜け駆けを報告しても足の引っ張り合いにしかならないからね」
「下手したら内戦だな。イフ大陸を危険にさらしたという奴もいるだろうな。いや、この場合内戦っていうのかね」
「OK。わかった。ユキの言う通り関係良好で報告する。これ以上私としても面倒は嫌だからね」
エージルはこういうところはすぐに割り切っているので助かる。
「まあ、ウィードでの生活も慣れているし、困ったことがあれば2人に聞けばいいだろう。ああ、アマンダとエオイドもきてるけど、2人とはあまり仲良くなかったよな?」
「竜騎士夫婦とはそこまで会話をしたことが無いね。ということで、なるべく迷惑を掛けないようにしますが、お2人ともよろしくお願いします」
「存分に頼ってくれて構わないよ」
「はい。エージル殿の知識が凄いのは伺っておりますし、協力して技術研究も頑張りましょう」
「ああ、なるほど。そういう意味でもお2人と合わせたんだね?」
「そういうこと。エージルは基本的に魔力技術部門だろう。こっちで成果が上がれば、外交官としての仕事をこなしているともとれるからな」
俺がそういうと、エージルは俺の手を握り、輝いた目で口を開く。
「ありがとう!! 外交官とか面倒だなーと思ってたけど、夢の研究環境を整えてくれていたんだね!!」
「そっちの性格は知ってるからな」
「いやー、ありがたい。本当にありがたい。もしかして、私を外交官に押してくれたのも?」
「そこは関与してないな。まあ、正直二択みたいなものだろ? プリズム将軍か、エージル将軍って感じで」
「まあね。というかプリズムはセラリア女王陛下と剣で打ち合っていたから、実質一択だったけどね」
そんな感じで、エージルの迎えは和やかに進み……。
「そういえば、エージルはいいとして、2人は実家開けてよかったのか?」
「ん? こっちだってララがいるからね。ま、羽を伸ばす感じだよ」
「私の方もタイゾウさんがよくしてくれますから。久々に休みという感じで、のんびりするといいと」
なるほど、どっちも休暇みたいな感じか。
何かあればすぐに戻れるしな。
「じゃ、3人とも時間はあるってことで、今からウィード観光に案内でもしようかと思うがいいか?」
「「「問題なし」」」
そんな感じで、その日はウィードをのんびりと観光しては、美味しい物を食べ、ショッピングなどをして過ごした。
その中で一つだけ誤算。
「……女性の買い物に付き合うのはやっぱりつらい」
何もしてないのに、いや何もしてないからこそ、ここまで疲労するのだろうか?
誰もが生きるために働いている。
そんな普通の当たり前の風景。
いや、長期休んで現場復帰はかなり忙しいけどな。
というか日本だと長期休暇とるとか、よほどの理由じゃないと、同僚とか上司の視線いたいよな。
この休むのは悪みたいなのは、日本はダメだと思うんだ。
つまり、有給普通に使いたいです。
さて、そこはいいとして、9月になりました。
なんと九州は福岡に住んでおりますが、1日から秋を感じる風や雲をみて、驚いております。
福岡はここ数年、夏>秋>冬ではなく、夏>冬という感覚だったモノで。
皆様はどうお過ごしでしょうか?




